第四十話
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夢を見た。
……というか、見ている。
さんざんクルルに搾り取られたのに妙に元気なナニを優しく撫でるクラリスの夢。
触れ合う身体。それだけで甘美な感覚に包まれる。
(夢の中で感覚を共有する……成功して何よりです)
(……えと、つまり?)
(はじめてしたときのこと、覚えてますか? わたくしの使った薬……)
おぼろげな意識の中でうっすらと浮かぶ、クラリスとの一夜。
(……あれ、ほんとに効果あるんだ)
(媚薬だけではありませんよ)
(……ううん)
何か、大事なことを言っていた気がする。
(いいのです……忘れているのなら、それで。旅が終わって帰ってきてくださった時にはきっと、おわかりになると思いますし。旅の重荷にはなりたくありませんから)
(クラリス……?)
(なにをしてくださってもかまいません。すべて、受け止めます。夢の中のことですから……どうぞ)
抱き寄せられる。
形の良い胸に埋められて、甘えたい気持ちが――……
ナニが太ももに挟まれ、熱い潤いに導かれて――……
◆
「……んん」
参った。
起き上がって隣を見る。
裸のクルルが気持ちよさそうに寝ている。
そして俺。
今日も元気。真夜中に頑張って夢の中でも大ハッスルしたのに今日もすごく元気。
勇者の懐刀は健在です。朝から下ネタかよ。
いやでもしょうがないねん。
夢をはっきり覚えている。
水差しの冷えた水を飲んで深呼吸して、顔を両手で覆った。
『王家の媚薬……です。確実に……出来てしまう、薬』
あの夜クラリスは確かにそう言った。
確実に出来てしまうってのは、一発のことではなく。
それが的中してしまう、という意味では?
しかも、だ。
『王家との繋がりを経験した殿方は、魂が縛られる。そういう薬を使いましたし、そういう夜を……過ごしたはずですから』
翌朝言ってたこれって……つまり、夢に繋がっているのでは?
すげえ。モテてる。俺めっちゃモテてる。
というか肉食系多し。クラリスもコハナちゃんも猫科だからか?
適当なことを考えているなあ。
まあ……体力使うけど気持ちいいからいいや。
その程度に考えておこう。
……って、待てよ?
クルルを起こさないように気をつけながら布団を捲る。
内股が……その、なんだ。汚れている、というか、汚した、というか。
この調子でやってたら普通に二つの家族が誕生してしまうのでは?
そのあたりクルルとクラリスはどう考えているんだろうか。
クラリスは旅が終わるまでの猶予期間をくれたけど。特に一夫一婦制みたいな決まりもないみたいだから、そんなに悲観的にもならない。
どっちかといえば意味だよな。
王家に連なるやんごとなき立場のクラリスがその気ってことの意味だ。
永久就職、玉の輿……なのでそれはさておこう。深く考えるタイミングでもない。それこそ魔王を倒してからにすればいい。
むしろ気になるのはクルルだ、
こいつはどう思っているんだろう。
「タカユキ……」
寝言で呼んで身体を寄せてきた。
……まあ、いいか。
◆
「それで、なんの用ですか」
組合にみんなで顔を出したら、待ち構えていたね。
仏頂面のリコと温泉を覗いていた眼帯男が二人でさ。
「提案を持ちかけにきた……そっちの男は?」
「私のパパです」
首肯した眼帯男が口を開こうとして、俺を見てあんぐりと口を開けた。
「ああっ、てめえ! 俺たちのコハナちゃんと昨夜しけ込みやがったな!」
「……パパ、今なんと?」
「お、おほん! なんでもねえ!」
「そうですよね。ママに密告するネタが増えたのかと思いました」
「ちげえから!」
それよりも、と乱暴にテーブルを叩いた眼帯男が俺を睨んだ。
「ジャックだ。ここいらの海洋を取り仕切っている。そちらさんは?」
「勇者タカユキだ。魔法使いのクルルをはじめ、いずれ劣らぬ強い仲間たちと魔王を倒す旅をしている」
「……ってことは?」
眼帯男のジャックがもじゃもじゃ頭を片手で撫でつけた。
「海を越えたいのか」
「昨日、危険に見合う提案をもってこいって言っておきました」
「さすがは俺のリコだ」
その手で椅子に座るリコを撫でようとする。
嫌がる顔で尻尾を振ってはたき落とすリコ、つれない。
「で? 勇者はどんな提案を?」
立って腕組みするジャックよりも、椅子に座って背もたれを倒してテーブルに足をついているリコの態度がやばい。
「あんたたちが困らされてる魔物ぜんぶ倒してやるわ!」
態度の悪さという見え見えの挑発に真っ先に乗ったのがクルルだった。
「ちょ、あ、ちょ、クルル、ばか!」
「なによ! 人の話を聞く態度じゃないでしょ、その子! なんかむかつく!」
「わざとだよわざと! いいから落ち着けって」
「でも!」
「ルカルー……首かんでて」
わかった、と答えるなり「え、ちょ」と狼狽するクルルの首筋をルカルーが噛んだ。はむ、と。
「ちょ、ちょ、タカユキ、歯が! 歯が刺さってるんだけど!」
「生物的本能の恐怖によって黙ってなさい」
「ひどいよ、あんまりだよ! いやあああ!」
「はむはむ」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ俺たちの声を、力強くテーブルに踵をぶつけて黙らせるリコ。
よく見ればしなやかな筋肉をもつジャックの威風堂々たる風格を、若さと振る舞いから溢れる威圧感で上回るリコにみんな視線を向けた。
「で?」
冷たい視線は俺に向いていた。
ジャックは意味ありげに笑って俺を睨む。
「全部はさすがに言い過ぎたが……とにかく整理すると、だ。こっちは島に渡る船が欲しい。そっちは邪魔な魔物を退治したい……そうだな?」
首肯すらしない。ただ視線が鋭いだけ。その方が効果的だということをリコは知っているのだろう。
けれど焦らずに続ける。
「なら、まず信頼を得るために、あんたたちの交易に最も邪魔な魔物を退治しよう。そっちは見届けるために最低限必要な人と船を貸してくれ」
「寝言は寝てほざけ。私たちに被害が出るかもしれない提案だ」
「まあ聞けって。討伐するために船を出しているんだろう? なら、その人員をまるまる俺たちに切り替えてくれりゃあいいって話だ」
「…………」
リコがジャックを見た。
ジャックはアゴに生えた髭を指で撫でつけながら俺をじっと睨む。
「坊主、お前が強いって保証は? 倒せる保証はどこにある?」
「王城を魔物から取り返したのも、エルサレンを救ったのも俺たちだ」
それで証拠になるだろ? と伝えたつもりだった。
これが俺たちなりのカードだ。
手札の効果は――……果たして、どうか。
リコが舌打ちしてから呟く。
「騎士から噂は聞いてます。でも、海の上で戦えますか」
「倒せなかったら?」
二人の問い掛けに後ろをふり返った。
よくわかってないからとりあえずルカルーにしがみついて寝ているペロリは除外。
クルルの首筋が妙においしいのかはむはむ噛んで恍惚の顔をしているルカルーも除外。
涙目になってぶるぶる震えながら青ざめているクルルに尋ねる。
「海を割る魔法は?」
「……(ふるふる)」
「じゃあ海の中にいる魔物を貫く魔法は?」
「っ(こくこく)」
言葉もないクルルの訴えに咳払い。
「ルカルー、お預け」
「……もっとかんでたい」
「だめ。そのままでいたらクルルがおもらしする」
「……残念」
ルカルーが首を解放するなりクルルがぺたんと尻餅をついた。
泣きべそをかきながら俺の膝をぽかぽか殴ってくる。「ひどい、ばか、さいてー」
「ええーと。つまり、いける。倒せる。倒せなかったら魔王の島には行けない……それだけだ。だろ?」
とても信じられないんですけど、と半目のリコに対してジャックは懐からコインを出した。
「落ちたら抜け」
なに? と聞くよりも早くトスされたコインが落ちる。
あわてて屈み「え、あ、やあああ!」クルルのパンツを掴んで脱がす。
顔をジャックに向けると、腰にある鞘に手を伸ばしていた。
かつん、と音が鳴った時にはもう、俺の首筋に細剣が突きつけられていた。
瞬速。
けれど、ジャックは勝ち誇るのではなく俺へと気さくに笑った。
「いいだろう」
俺が出した大剣もまた、ジャックの心臓に突きつけられていたからだ。
「取引成立だ。リコ、人員の手配を」
「了解、キャプテン」
ともすれば舐めた口を利いていたリコがすぐに立ち上がり、今までとはまるで違う口調で答えるリコを見て……気づく。
リコだけじゃない。
ジャックもまた……くせ者の予感がする。
リコを窓口に一歩引いて、そうと気づかせずに目を光らせ……油断を誘う。
必要な場で最終判断をするのはジャックで、けれど油断している連中は侮り、負ける。
そんなところか。
なかなかのシリアス度。
これは路線変更ありか?
「タカユキ、お、おしっこいきたいのに腰が抜けちゃったよう」
「じゅる。ウサギの首筋……もっと噛みたい」
「ぐうううう、すぴいいいい」
ないな。それはない。
俺たちに限ってそれはない。
「タカユキいいい!」
「わかったから! トイレに連れて行ってあげるから! じゃあ頼むぞ!」
おう、明日陽が上る頃にきなと笑うジャックに挨拶して、俺たちは早々に立ち去るのだった。
クルルがおもらしをしない。ただそれだけのために。
つづく。




