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第三十八話

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 ぱあっと大騒ぎする予定の居酒屋はお通夜ムードでした。


「勝手に組合に行って無理難題を突きつけられたとか」

「ごめんて」

「ルカルーは海の魔物たおせる?」


 半目のクルルの問い掛けにルカルーは肩を竦める。


「犬かきしかできないから無理だ」


 犬かきて。可愛すぎか。


「だって。勝手に組合に行って無理難題を突きつけられたタカユキ」

「だからごめんて」


 お嬢さまがご不満です。


「その海賊娘に文句いってやろうかな。魔法の一つでもぶっ放してやろうかな」


 ニワトリの足の唐揚げをぶんぶん振りながらの不穏な発言。


「やめとけ、ケンカになるだけだから」

「事実、無理難題を突きつけられて戻ってきたんだもんね」

「だからごめんて! もういいから、この流れ」

「もうしばらく弄りたい」

「やめてくだちい」


 はいはい、と言ってやっとクルルは矛をおさめてくれた。

 こういう話題になると我関せずの立場を取るのがルカルー。(ペロリはハナから除外)


「ルカルー……たまにはフォローしてくれてもいいんだぞ」

「今の群れの頭は城を奪還した勇者。だから口を挟む必要を感じない」

「ボスがこき下ろされてるんだから助けてよ」

「むしろ食い殺して頭になる勢い」

「まさかの下克上発言!」


 ふん、と鼻息をだしてニワトリの唐揚げを貪るルカルーさん。

 そういえばクルルの耳かきをした時に自分もーみたいな話をされたけど、忘れてましたね。それいえば最近クルルが「服があるんだからいいじゃない」と言って俺にトランクスをくれない事も悩み。

 問題だらけか、うちのパーティーは。


「ぺ、ペロリは加勢して……って幼女にフォローをお願いする俺アウト?」


 クルルとルカルーがそれぞれに「当たり前」だと頷く。

 ツーアウトっす。

 マイペースに魚と貝とタコの切り身が入った黄色い米を貪るペロリを見て……ふと気づいた。


「……そういやお前、杖はどこやったの?」

「えるされん? で、ばくはつをあびたときになくなった」

「ちょ。大事な杖と違うんか」

「ペロリよくわかんないぞ」


 問題だらけだな、うちのパーティーは。


「勇者、明日にでも装備の買い物するか?」

「お、ルカルーからの提案とは珍しい。どうした」

「櫛が欲しい。石鹸も。風を浴びていたらべとついて気持ち悪い。エルサレンで服を手に入れたきり、荷物はないに等しかったから困っている」

「あ、わかる! それにさそれにさ、お風呂入りたいよねー」


 心底うんざりした顔のルカルーにクルルが割って入った。

 けれどそれはペロリでさえ「はいりたいぞ」と言うくらい、女性陣たっての希望でした。


「宿にはないのか?」

「焼け石に水を浴びせるサウナはあるんだけど……でも湯を浴びたいの。わかる?」


 迫真顔で聞かれてもなあ。


「お待たせいたしました。北海タコの唐揚げです。あと泡酒のおかわりでーす」

「やた!」


 おっぱい強調ウェイトレスの中でもとびきり可愛い黒髪さんが運んできた料理と酒を受け取ると、思い出したようにクルルが尋ねる。


「ねえお姉さん。ここらへんに温泉とかありませんか?」

「温泉、ですか? それなら……ないことはないんですが」

「おお」「どこだ」「温泉か!?」


 言葉を濁すウェイトレスさんに食い気味の女子三人。


「混浴で、時間帯を気をつけないと街の荒くれ者ばかりが浸かるところくらいしか」

「それだ! 何時に行けばいいの?」

「んー」


 周囲をきょろきょろ見渡してから、クルルのウサミミにこしょこしょと囁く。


「……で……です」

「なるほど……わかった」


 俺にはまるでわからないんですけども。

 どうぞ楽しんでってください、と笑顔で一礼すると、ウェイトレスさんは俺たちのテーブルから離れていった。

 悩ましくふりふり振られるお尻をそこかしこの男が追いかけている。

 採用基準、容姿! といわんばかりに可愛い子ばっかりだからしょうがないんや。


「タカユキ、いま場所教えてもらったから、後で入って来なよ」

「お前達は?」

「まあまあいいからいいから」


 ……怪しい。


 ◆


 さんざん呑むのがいつもの癖なのに、酔いつぶれない範囲で留めたクルルは怪しいなんてもんじゃない。

 まあ、でもどうせ女子だけで入るとか、なんかそんな程度の隠し事だろう。

 宿に帰る途中で教えてもらった温泉へ行く。

 酒を呑み終えた屈強なおっさんたちに囲まれながら、肩身の狭いながらに湯を楽しんだ。

 みんな水着姿なんだよな。俺も入り口でお風呂セットと一緒に水着を買ったよ。呪いのせいで履けなかったからタオルで隠したけど、マジで余計な出費な。

 岩風呂なんだけど、獅子の彫り物の口からずっと湯が出てくんの。

 端っこの浴槽にはじいちゃん連中がたまっていて、一人が何かを呟いていた。あと湯気がやばかった。そっと指で触れたらマジで熱湯。どんだけ熱い湯につかりたいねん。

 まあそれにしても……見事に男だらけだな。

 混浴とは。

 さっさと入り口で買った石鹸と手ぬぐいで身体を洗って出ちまった。

 脱衣所はさすがに男女で分かれていたけど、女子の方は人が入っている気配ゼロ。

 誰も求めている気配もないし、なんか寂しいなあ。

 とはいえあったまった。

 ほくほく顔で、途中に立ち寄った串焼き屋で櫛を一本と泡酒を買って魂のリフレッシュ。

 そんで宿に戻る。


「……はい、はい」


 部屋から聞こえてきた相づちに扉を開くと、ベッドに腰掛けたクルルの視線の先……壁に映像が浮かび上がっていた。


「あ、タカユキ! クラリス様が城の魔法使いに命じて連絡くれたの。何か話ある?」


 便利だな、魔法。そういやクルルだけが魔法使いってわけじゃないんだから、こういうこともあるよな。なるほど。


「クラリス、そっちはどうだ?」


 クルルの隣に腰掛けて、映像に話しかける。

 映し出されているのは王城、玉座に座るクラリスとその妹、それにじいさん連中だ。


『勇者よ。こちらはつつがなく。そちらはどうか』


 あ、よそ行きモードだ。

 じいさん連中がいるせいかな。まあ、それならそれでいい。


「私掠免許状をもらった海賊から、海を渡るための策を持ってこいと言われた」

『ほう……さてはリコか? それともリコの父君か?』


 真っ先にそう言ってくるあたり、クラリスの処理能力はもちろんリコの存在力も凄い。


「リコだ。正直手詰まりでな。何か手はないか?」

『私掠免許状について初手の段階で内容を詰めて提案してきた難物だ。彼らを御するには理がなければならぬ』


 なる、ほど。そうか……勘違いしていた。

 私掠免許状はクラリスが決めたんだと思っていたけど、どうやら事情が少し違うみたいだ。

 リコたちがどういう制度にするのか、その内容を用意してクラリスに話を通したのだろう。

 だとしたら……ちょっと困ったな。皇女相手に取引し、認めさせた手腕が本物なら一筋縄ではいかないぞ。


『魔王出現による国力低下の中で外圧に抗い、必要とあらば戦い、王国に富と財産をもたらす貴重な人材であり、彼らもまたその自負がある。それゆえ……魔物に対し、忸怩たる思いがあるだろう』

「え」

『そなたは勇者だ。そしてそなたの隣にいるは我が王国最強の魔法使い。倒せぬ魔物はいないと、妾は信じておる……なら、彼らにも信じさせればよい』

『姉さま、時間が』


 じいさん連中ではなく、妹のカナティアちゃんが口を開いた。


『あ……』


 一瞬だけ名残惜しそうに切なげな表情で俺を見つめるけれど、周囲に人がいるのだろう。

 すぐに「国の顔たる皇女」の仮面めいた表情をクラリスは取り戻す。


『ではクルルよ、他の報告は伝令にて。失礼する』


 言うだけ言って映像は切れた。


「……結局、どういうこと?」


 クルルよ。

 お前はたまにすごいアホの子になるな。

 まあいいんだけども。可愛いぞ!


「難しく考えることはなかった。彼らが無事に航海するための担保はある」

「……つまり?」

「俺たち自身だ」


 要は魔物がでようが問題ないとわからせればいい。

 そのためには実績が必要だ。この街の連中が全員信じるくらいの実績が。

 だからこそ、やるべきことはハッキリした。

 リコが言っていた魔物……とりわけやばいヤツをぶっ倒してみせればいい。

 まあ、そのための手段とかは色々と考えなきゃいけないが……やれやれ。


「結局、勇者の仕事は魔物退治か」

「そういうものなんじゃないの?」

「……そういうものだな」


 納得した俺に「変なの」と笑うクルルになんて返そうか考えた時だった。

 扉をノックしてルカルーが入ってきた。ペロリも一緒だ。


「おい、そろそろ」

「あ、ごめん! いまいく」


 荷物をまとめて部屋を出て行こうとするクルル。


「何処へ行くんだ?」

「ちょっと、女子だけでやぼよう」

「……ほう」


 案の定だな。

 おおかた風呂に行くに違いない。


「タカユキは先に寝てて」


 じゃあねえ、と手を振って立ち去るクルルたちを見て――考える。


『コマンド 寝る

      夜の街に繰り出す

      覗きに行く

      せがれいじり』


 さあ、どうする?


 


 つづく。

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