第三十七話
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熟しまくりの南国の果実を売っていたので買って、二人でぱくつきながら勇者の墓へ。
飯はまだかのうとしか言わないおじいちゃん勇者から兜を受け取り、ハルブへ戻る。
こういう時こそふざけた盗賊とか気の抜けた魔物がでてきてくれりゃあいいのに、一切なし。
だから……まあ。逆に言えばクルルと二人きりの時間を楽しめたともいえる。
内訳はぶつくさ文句を言うクルルを必死になだめすかす俺、という図。
まあ怒るくらい元気が出たなら何よりだな。
街の入り口に着いた頃には「今日はもう呑む! 呑んでやる!」と意気込んでたからよし。
「ちょいと寄り道するから、先に戻っててくれ」
「そう? ついてかなくて大丈夫?」
「おう。うまい居酒屋でも探しといてくれ」
「わかった!」
笑顔で頷くクルルを見送ってから、夕暮れ時のハルブを歩く。
これまで訪れたどの街よりも活気がある。
子供はかけずり回って騒ぎ、道を歩く大人の顔も明るい。
だから気になったんだ。
騎士の駐屯所に立ち寄って聞いた建物へ向かう。
ハルブ船乗り組合。
その事務所とも言うべき小屋の戸を叩いた。
返事はない。時間も時間だから誰もいないのかもしれない。
そばにある港も市場も閑散としている。
活気のある街だけに、時間を外したのが丸わかりでつらい。
当てが外れたかと思っていた時だ。
「何かご用ですか」
クルルとさして年の変わらない少女が俺に声を掛けてきた。
港から歩いてきた彼女はセーラー服姿で、縞模様のケモミミと尻尾を生やしている。
クラリスと同じ形だ。猫、だろうか。くすんだブラウンの髪、気の強そうな猫目。八重歯が目立つが、利発そうな美少女だった。
「えっと……組合の人に話を聞きたいんだけど」
「あなたは?」
「タカユキだ。一応、勇者なんだけど」
「……そう、あなたが」
目を細めた彼女から妙な冷気を感じる。
ね、値踏みされてます?
「いいです。話をしましょう、どうぞ中へ」
「え」
編み上げブーツでかつかつ足音を立てて扉に歩み寄り、しれっと開ける。
けど、どう見ても彼女はクルルと大差ない年頃の子だ。
「きみは一体……?」
「組合長の娘のリコです。パパの代わりに話を聞くくらい、いつもやってるんで」
「パパ……」
随分甘えた呼び方ですね。
「何か?」
そ、そんな怖い目で睨まないでよ。
「い、いえ、なんでもないっす」
入るの? 入らないの?
そう詰問するような強い視線を浴びて、俺は恐る恐る中へ入ることにした。
◆
「――……というわけなんだが」
ランタンの光を浴びながら説明を終えた俺は、向かい側に座る彼女を恐る恐る見た。
肩口までの髪を指先でくるくる弄り、耳をぴんと立てて……けれどつまらなそうな顔で相づちを打つばかり。
正直難物そうだぞ、リコちゃん。
「船を出してもらえたりは……しないか?」
「駐屯所から騎士のライナスさんが来て話を聞きました。その時にパパとあたしは同じ見解をもってお断りさせていただきました」
おっと。組合長のパパと同じ立場感アピールか。
これは思った以上に面倒そうだぞ。
「ですが勇者自らが足を運びに来たのなら、きちんと説明しましょう。見解をすり合わせておいた方が、話も進むと思うので」
……お?
「テーブルを見てください」
「ふむ」
言われて視線を落とす。陽が落ちていく中、ランタンの火に照らされたテーブルの上には地図が広げられていた。
街を中心にした地図には色が塗られていて、海にはいくつかの駒がおかれている。
その駒が……な。
片手がかぎ爪の男の胸像であったり、大きなイカであったりする。
それがまあ、海の上に所狭しと並んでいた。
「この駒って……その」
「お察しの通り、海洋は複雑かつ危険な状況にあります」
「……おう」
「特に問題なのが魔物の出没です。魔王が島国に現われてからというもの増えるばかりで」
リコちゃんは腹立たしげに上半身を屈め、テーブル上の海賊の駒を指で弾いた。
「海賊行為も行えないほどです」
っておい。
「待って。え。待って。海賊行為?」
「何か問題でも?」
「……え。待って。リコちゃん海賊?」
「そうですけど」
……うううん。
「この街って、漁業とか交易が盛んな街?」
「そうですよ」
「……で、リコちゃんは組合長の娘」
「なにその確認めんどくさ。まあそうですけど」
包み隠さないな!
「その娘が、海賊?」
「はい」
「……じゃあなに? つまりこの街って、海賊だらけ?」
「私掠免許状を持っている船はそうですね」
「し、りゃく、めん……え?」
「私掠免許状です。海上で見かけた船を攻撃・拿捕してもいい、という国からの免許状です」
……そんなんあるの?
「そこからですか……まあ、じゃあ説明しますけど」
腰を上げて前のめりにテーブルを叩くリコちゃん。
セーラーの胸元が開いていて、ちっぱいとお腹が丸見えです。
でも見ていたらマジで怒られそう。冗談通じなさそうだから仲良くなるまでやめておこう。
「見てください。王国の地図にもなっているので」
「はあ」
リコちゃんが示す王国は、右真ん中と下真ん中から中心に向かって突きだした形の大陸だった。
「もっと大きな地図が壁にあります。あれ、見えます?」
立ち上がって背中を示すリコちゃん。
王国から東と南に線が続いているが、端は描かれていない。
北に島国があり、西にも島のある線が描かれている。
「魔王が出るまでは色々と国交があったんですけどね。それも場所によっては酷く悪化しちゃったんです。海も荒れ放題。特に王国は魔王の攻撃の的になっているから、好戦的な余所の国から狙われてもいて」
「……ほう」
「交易船が攻撃されるようになったんです。なら、もうやり返すしかないですよね。それで今の第一皇女ことクラリス様のお触れで作られたんです。それが私掠免許状」
え、やだこわい。殴られたら殴り返せの精神こわい。
っていうか……そんな物騒なの?
「もっとも船をつぶして海に落ちたら助けるのが船乗りのルールなので、この街は色んな国の人がいます」
「へえ……意外」
「奪うのは船とか資源だけ。決着がついたら命は取らないってことです。でもまあ、そんなあたしたちですら恐れるのが海の魔物たち」
再び前のめりになったせいでちっぱいが丸見えに。
けどそんなことに気づかないリコちゃんがイカの駒を叩いた。
「大イカ、クジラ、シャチ。海の生物でも危険なのが魔王によって魔物にされたせいで、北の島国は魔窟。討伐に向かっては死人を出しての繰り返しで、ちょっと膠着状態なんです」
「……それで、もう死人は出せない、と?」
「察しがよくて助かります」
椅子に座ると、背もたれに身体を預けて足をテーブルにのせる。
そして椅子を後方に少し傾けて、ゆらりゆらり。
「一体一体でも手を焼いているのに、そいつらがいる海を渡れ、なんて。正直難題ですよ。全員死ぬ道です。許可なんて出せません」
「……なるほど」
わかった、と立ち上がる。リコちゃんを見たらレースのパンツがちらりしていた。
いかん、そうじゃない。ここは決める場面だ。
「対策を考えてきます!」
「勇者なら、魔物をどうにかしてくれる道を提案してくれることを望みます」
クールぅ!
親指をぐっと立てて立ち去ろうとした時でした。
「ああ、それと」
「え」
「つまらない提案もってきたら、あたしを変な目で見たことみんなにばらします。うちの街の連中はみんな、気が荒いから……気をつけてくださいね?」
「くっ」
なんて末恐ろしい子! 服装とかパンツの油断はわざとか!
これが海賊のやり方か!
「おぼえてろよ!」
まんま負け犬の遠吠えをして、俺はその場を立ち去るのだった。
つづく。




