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第三十六話

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 枯れたよ。枯れた。

 十四才の体力舐めてた。

 そして晴れてお許しが出た女子の素直なえっちに対する欲求も舐めてた。

 可愛いからさ。求められたら応えちゃうし、応えていたら果てがない。

 朝になって力尽きるように二人で寝て……起きた時にはクルルは外出してた。

 おおかた駐屯所に行ったんだろう。

 夢うつつにそんな風なことを言われた気がする。キスつきで。

 甘い時間を過ごす俺たちのいる港町なら海を隔てた先に魔王がいて戦争中っていうんだから、世の中わからんなあ。

 服だけ着て宿の外に出た。


「ばーかばーか! ばかっていうほうがばかなんだー!」

「んだとー!」


 ペロリが近所の坊主とケンカをしていたので、


「お前自ら馬鹿だと主張しているからな……じゃなくて。ルカルーは?」


 そう尋ねると、ペロリが路地の先にある立派な教会の屋根を指差した。

 どうやってのぼったのか、屋根の縁に腰掛けてルカルーは潮風を浴びている。

 気持ちよさそうだなー。フックショットでもなけりゃ俺にはたどり着けそうもないが。

 勇者の墓に行く予定だからな。声を掛けに行くか……それとも。


「ちっとかわいいからって、なまいきいいやがってー」

「え、ペロリかわいいの?」

「う、うっせえ」


 ……微笑ましいことをお子さんがやっているのに、連れ回すのもあれか。

 よし。決めた。


「おーい!」


 教会へと進んで、ルカルーに呼びかける。

 俺に気づいて飛び降りると、彼女はなんでもないことのように着地した。

 すとん、と。脅威的な身体能力。俺こいつに勝ったのか……がんばったな。


「なんだ?」

「ペロリの様子見ててやってくれないか? 俺はクルルと墓参りしてくるよ」

「既に祠じゃない件」

「まー女神が適当だからな。それで、頼めるか?」

「……子供の面倒を見るのは、嫌いじゃない」

「そっか」


 じゃあ頼んだ、とお願いして別れる。

 煉瓦の敷き詰められた道を進んで、海がすぐそばに見える道に出た。

 巨大な帆船がずらりと並んでいる。

 周辺や船の上には屈強な男達(今更だが、みんなケモミミと尻尾つきだ)がいて、汗を流していた。

 道に並べられた木箱には水揚げされた魚がいて、青魚だらけかと思いきやオレンジや赤の皮をした魚もちらほらと。身の丈ほどありそうなとんでもなくでかい魚も見かける。

 他の木箱を覗けば酒瓶が敷き詰められていたりして、それを運ぶ男達の声のまあ荒っぽいこと。

 ここには活気しかねえな。良い意味で、悲惨さとは無縁の場所だ。

 なんとなく良い気分で駐屯所に足を踏み入れようとした時だった。


「――……ういうことですか」

「ん?」


 クルルの声がする。

 それもちょっと、緊迫した声だった。

 こういう時、聞き耳を立てちゃうのはなんでなんでしょうかね。


「だから、組合が首を縦に振らないんです。船は出せません」


 騎士の弱り切った声に思わず顔を覗かせた。


「どういうことだ」

「タカユキ? それが――」


 ウサミミをしょんぼり垂らしながらクルルが説明してくれたこと。

 曰く。


「魔王の島に行くには熟練の船乗りの力が必要なんだけど、ここの人たちが何度お願いしても船乗り組合が許してくれないの。危ないからって。街の経済を支えている大事な仲間の命をかけられないって」


 なるほど。


「頼めば済むと思っていたのに、これじゃ予定が狂っちゃうよ」

「まあでも組合とやらの言い分はわかるなあ」


 ちょ、勇者の自覚ある? と怒り心頭のクルルの頭を撫でて、


「なあ、騎士さん。熟練の船乗りってのが戻ってくるのは……二日後であってたか?」

「はあ……そうですが」

「ならクルル、二日は待とうぜ。直接話してみて、だめなら別の手を考えよう」


 それで済むと伝えるだけだった。


「で、でも! 魔王を倒すんだよ? 倒さないとひどいことになるんだよ? なのに手を貸してくれないって、あんまりだよ! 組合の人に文句いわなきゃ!」

「よそう、クルル。向こうは道理で来てんだから、こっちも道理で返さないと」

「魔王を倒すのが道理じゃない!」

「俺たちはな。でも彼らは違う。組合にとっては、船乗りと街が大事なんだ」

「でも、その街だって! 襲われたら!」

「わかってる。その上で、それでも船は出せないって向こうも言ってんだ。だから、こっちも船を出したくなる理由を用意しねえと」

「……そんな。こっちが正しいのに」

「向こうもおんなじ考えなの。だから話す土台はそこじゃねえよ。頼んでるのはこっち、ならこっちが先に折れなきゃ」


 くやしそうに俯くクルルの頭をもう一度撫でる。


「騎士さんもごめんな。付き合いとかいろいろあるだろうに」

「い、いいえ! 察していただけて、助かります」


 また来るよ、と言ってクルルを連れ出した。

 俺の服の裾を摘まんでとぼとぼとついてくる。


「……くやしい」

「わかってる」

「……たおさなきゃ、どうにかなっちゃうのに」

「わかってるよ」

「……まるでこっちが、わがままいってるみたいにさ」


 実際、組合にとってはわがままなんだ。

 でも、俺たちにとっては存在意義になってきた魔王退治……それは譲れないわがままだ。


「なんとかして通し方を考えよう」

「……ん」

「気分転換に散歩するぞ」

「……うん」


 なかなか機嫌直らないな。

 そういうところは……十四才らしいところなのかもしれない。

 やれやれ。一肌脱いでみますか。


「海よ、割れろ-! みたいな魔法ないの?」

「ばか、しね、あったら使うわ、たこ」

「ペロリのノリうつってないか? 中傷の中身が子供すぎですよ!」

「……そんな魔法、あっても使ったらどうにかなっちゃう呪いがありますし」


 まあなあ。


「そしたら俺が頑張って相手しますよ」

「昨夜は途中からもう出ないとかいってたくせに」

「せ、精力つけて立ち向かうぞ?」

「そのわりには、最初はいっぱい出るよね」

「……おう」


 どうした。急にどうしたその切り返し。

 思わず前屈みだぞ、どうした。


「でもすればするほどキスがおざなりになるのはいや」

「お、おう」


 ここぞとばかりに不満爆発ターン来ちゃいました?

 来ちゃったとしたら、もうちょっと待って。せめて宿に戻ってから爆発させてくれた方がありがたいかなあ。

 道ばたに立ってたおばちゃんが「まあ」って顔して俺を見ましたよ。

 思うに、爆発の方向性がさ。夜っていうのはさ。


「最初いっきに入れてくるのもいや。いたい。もっとゆっくりなじませて欲しい」

「お、おす」


 ちょ、ま。

 ちょ、まっ。


「テンションあがるとおしりに指いれてこようとするのもいや。そっちは違うと思うの」


 ほおおおう!


「あとなんで首に噛み付いてくるの? 意味わかんない」


 やめてえええ!


「そういう時に限ってさ。なんか……いいとこばっかりついてくるし」


 もうやめてええええ!


「あとさいきん、あそこたくさんなめすぎなのは……ちょっと、いいかも」


 俺のライフはゼロよおおお!


「……ありがと。さっきは、よかった」


 言葉のチョイス! さっきは駐屯所で間に入ってくれてよかった、って言ってくれたなら!

 それならよかったのに!


「ねえ、あの子……まだ子供よね」「まあ人によっては早いっていうし、別に罪にはならないけれど」「それにしても、ねえ」「こんな真っ昼間っから?」「うらやましいわあ」「えっ」「えっ」


 ああもうざわざわしてるよ! 耳を立てたおばさまがたが!


「い、いくぞ!」

「ん」


 手を引いてものたのた歩くので、抱きかかえて逃げました。

 当然、そんな逃げ方だから……余計ざわざわされましたとさ。とほほ。




 つづく。

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