第二十七話
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酒を全力で楽しむ嫁……もといクルルに付き合うのがルカルーで、その膝に座って案外行儀よく食器を手にご飯を食べるのがペロリだった。
彼女たちはたまに俺を見て、何か言いたげな顔をして……ため息を吐く。
「「「はあ」」」
息ぴったりか。ため息ぴったりって。そんなに憂鬱っすか。
そう言いたいし普段なら突っ込むところなんだが、無理だった。
「んー出ないっすわ……はい、次」
そう言ってご婦人に脱ぎたてパンツを返していたので。
待って。お願い待って。説明させてくれ。
「なかなか巡り会えませんね」
俺のテーブルにはクラリス様と領主がいらっしゃる。
クルルが旅の報告を随時していたんだけど、それを受けてクラリス様が手配してくれたのだ。
俺にはパンツが必要。
だから街の有志にパンツを渡してもってはどうだろう? と。
俺の能力である、脱ぎたての(匂いつき)パンツをかぶって武器を出す力の本質を探ってみてはどうか、と。
認めたくはないものだな。自分の勇者としての資質というものを。パンツって。
いやいや、そうじゃないだろ?
えーそのなんだ。
つまりはパンツを街の有志にもらって確かめてはどうかと言われたんだ。
男性の方には心の底から遠慮してもらって(理由は言わなくてもわかるだろ?)、女性に、ということになったのだが……まあ、街を救った実績と、あとは何よりクラリス様の鶴の一声あって、不思議な不思議な催しが行われている。
脱ぎたてパンツを渡して貰い、かぶる。
そして武器が出るのか試してから、返す。
女子の匂いに頭がくらくらして、いい加減立ち上がれないくらいガチでガチガチな状態です。
けれど出てくる武器は振るわない。
たまに魔法や癒やしの奇蹟が使える素養があったり、格闘技の素養があるお姉さんやご婦人(控えめにいってもンー! マダム! って感じ)のパンツからハサミや小刀が出る程度。
今のところクルルとルカルーのパンツだけが特別って感じだ。
あと……これは本当に今更だが。
ケモミミと尻尾が生えているのがデフォなんだな。
この世界の人間は。
ぱっと見、クラリス様と同じ猫っぽいのしかいない。
毛並みも虎柄、縞柄でいかにも雑種感。
なのでどのドロワーズにも尻尾穴がついている。
その穴に鼻を通すようにかぶっているんだけど……地味に疲れる。
最後の一人を追えた頃にはね。
ちょっともう、嬉しい体験なのに疲れたよね。
「旅の役に立つパンツはありませんでしたが、ありがとうございました」
「なるほど……皆の者、いいだろうか」
俺の言葉を引き受けて、クラリス様がこの催しに参加してくれた女子達に挨拶してくれる。
皆の行為は役に立ち、と話してくれたおかげで女子の空気はそれほど悪くはない。問題は酒宴に顔を出している男達の空気な。
微妙にも程がある状態で、領主さんが「なかなか羨ましいですな」と冗談を飛ばしたりしてフォローしてくれなかったら相当やばかった。
挨拶も終えてひと息ついたら、今度はクラリス様がパンツを脱いで渡してくれようとして、お付きの騎士さんが「皇女様、それはなりません」とあわてて止めたりもしたんだが……ともあれ。
股間の高ぶりが鎮まったのでクルル達のテーブルに戻ろうとしたら「勇者よ、大義であった」クラリス様に手を握られる。それだけじゃない。握られた手のひらに何かが落ちてきた。
お付きの騎士さんの咳払いにすぐ、俺の手を握らせて離す。
「後ほど」
「……はあ」
なんだろうと思いながらもポケットにしまい、一度頭を下げてからテーブルを離れる。
仲間達のテーブルについて思わず頭を抱えた。
「遅いよ」「生き返らせてくれたわけだし一応は礼を言おうと思ったが、その気も失せた」「ぐうう……ぐうう」
不機嫌さを隠そうともしないしかめ面のクルルの前には山ほどの空いた酒瓶。
高く重ねられた料理皿を前に、居眠りこいているペロリを抱きかかえてクルルの酒に付き合うルカルー。
起きている二人の顔は真っ赤だ。どんだけ呑んだんだか。テーブルが埋まる程か。そうか。
「すまんすまん」
軽い気持ちで椅子に腰掛けたのが問題のはじまりだった。
「だいたいタカユキってさぁ」
◆
酔っ払いの女子の相手はもう二度としたくない。
話は終わらないし、繰り返すし、絡んできたと思ったら駄目出しで、それはやがて自分に矛先が向いて、可愛い本音をこぼしたりして、甘えてきて、泣いて。抱きついてきて。
まあ全部クルルの話なんだが。
じゃあルカルーはどうかっていうと、静かに呑む。
たまに俺を見てため息を吐く。理由を聞くと不機嫌な顔で「別に」。
だったら放っておくと、聞こえるように「まったく」とかいう。
お酒を注いだりして機嫌をとるとやっと「ルカルーの耳は。だいたいブラッシングさせてくれとかいうのが男の甲斐性なのに、そんなにルカルーは魅力ないか」とか言う。
ぷくぅと頬を膨らませて、不満をこぼして……豊かな尻尾の毛をなでてはため息。
「どうせ……どうせ……愛玩動物には敵わないよ」
もうね。一人一人がめんどくさい。
可愛いし「わかったあとでやるから」って言わずにはいられないし、ルカルーをたてたらクルルが「結局タカユキにとって私はなに?」とか言い出すし。
お前は大事な仲間だよ、家族というか、と必死にフォローを入れると「家族かぞくって! 便利な言葉だよ!」とお怒りに。
作戦は酔いつぶす一択に。わかってくれ……喋れば喋るほど気まずい状態になるからしょうがないんだ……。
◆
酔いつぶれたりして眠る女子三人を三往復して宿に運んで、俺って勇者だっけ? と自問自答しながらベッドに腰掛ける。
「ふー……んんぅ……」
酒臭い状態のまま熟睡しているクルルは起きる気配なし。
起こしてどうこう……なんて空気は皆無だ。
「タカユキぃ」
甘えるような声で呼ばれたのでいこうと思ったら、
「服がくさい」
ひどい寝言に一瞬で心が折られる。
ちゃんと洗ってるし、と愚痴りつつ、ポケットの中身を取り出した。
クラリス様が渡してくれたのは紙だ。
綺麗な文字でしたためられているのだが……よく読めない。
ううん?
参ったな……むう。
「おい女神。なあ、おい?」
天井に向けて呼びかけたら、稲光と共に後光を背負った女神が現われた。
「んもぉーなぁにぃ? 女神いま、心の怪盗団になって七月に挑んでる最中なんだけど」
「仕事して」
じゃなくて。いやそれはそうなんだけども。
「これなんて書いてあるの? 読めないんだけど」
「そりゃあタカユキ、この世界の文字勉強してないもんね。えーっと」
両手に黒い何かを握ってぽちぽち操作しながら、女神はちらっと横目で俺の紙を見た。
「月の見える窓を開けて待つ。クラリス……皇女から逢い引きの誘いだね」
「え」
「ひゅー! 勇者もてるぅー! じゃ、予告状だすからまたね」
一瞬で消えたなぁ、おい!
くそ……もっと大事にしてくれてもいいのでは? お前がこの世界に呼んだんだろ……もう。
それにしても、なんだろう?
クラリス様が……俺を真夜中にこっそり呼び出すなんて。
「思わず前屈みに……いやいや。さすがに。ないない。皇女からそんな」
笑いながらも勇者の懐刀が元気になるのを止められない。
よし……いくか!
つづく。




