第二十六話
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奥さんに「不潔です」とビンタされたのが解せないよね。
その後、領主さんがなだめて「君が一番だ。ね?」と言うと頬を染めているのを見て、世の理不尽さを噛みしめたよね。
あの騎士の気持ちが理解できてしまったのだぜ。
まあいい。領主さんが冒険の支度金をくれたからな。これで稼いだ分と合わせてぎりぎり10万Gだ。
……うん?
10万G? これで足りるの?
「というわけで神父。私に免じて少し値を下げてはもらえまいか。かねてより教会の蘇生費用は高すぎると思っていたのだ」
おっと、そうだった。
領主さんに神父への口添えをお願いしたんだった。
いいぞ! もっと言ってやれ! 欲深神父に天罰を!
「ですが領主様。かねてより労働とは何かを説いているあなたに対して、これは神に摂理を説くようで恐縮ではありますが……蘇生とは誰にでも出来る奇跡ではありません」
「ぬ」
お、お? なに、なんだよ。妙な雲行きだぞ?
「それに失敗出来ない、行えば必ず成功させる必要がある……難しい奇跡の術です。相応の対価を求めなくては」
「……う、ぬう」
ちょ、ま、まてよ!
「だからって一人、そいつの年収分ってのはおかしいだろ! 命に価値をつけるなんて――……それがぁ~っ、お前らのぅ~~っ、やり方くゎッ!?」
全力で顔芸を披露して勢いでもっていこうとしたんだけど、
「それが我々のやり方です」
マジレスでした。無理でした。にこりともせずに言われちゃいました。
う、ううん……。
「では私が立て替えましょう」
「領主さんんんんん!」
「と、いうわけにもいきませんな。お金は街の復興のために使わねばなりませんので」
「領主さんんんんん!?」
どうしてくれるの! 俺あなたの奥さんにパンツの話をされてビンタされたのに!
いや……待て。落ち着け。
パンツの話してビンタ食らってお金出してもらうとか、俺はなに? なんなの?
それが勇者のやり方なの?
「さて、どうしたものか」
「稼いでもらいましょう、魔物を倒してもらって。それがひいては街のためになりますし」
「……まあ、それはそうなんだが」
「まあぶっちゃけ三人もの年収をあと二、三日で稼ぐなんて無理でしょうけど」
おい神父! お前人の命をなんだと思ってんだ!
ここは一つ説教を――と思った時だった。
扉が開く音にふり返ると、
「クラリス・ドゥ・カリオストロ第一皇女、到着ーっ!」
甲冑姿の騎士たちが一糸乱れぬ歩調で大勢ずらずら入ってきて、教会の通路に列を作った。
金属と服の擦れ合う音、そして足音さえもが揃って列は左右に割れる。
割れた道に赤いカーペットがころころと転がってきた。
金色の繊細な刺繍がなされたカーペットは俺たちのそばで転がりきって、赤い道へと変わる。
どうリアクション取ればいいのかもわからずてんぱっていたら、領主さんがあわてて跪いた。神父は俺を見ていた時の半笑いから厳格な顔を取り戻し(っておい)、居住まいを正す。
とりあえず領主さんを真似て膝をついた。そういやクルルに玉座の間に連れてってもらった時も、こんなノリだったっけか。
いや、そこじゃないだろ。
早すぎないか? もう来ちゃったの? あの騎士、ちゃんと仕事してくれたの? してくれたから来てくれたんだろうけども。
硬質の足音を響かせて、金の髪とミミ、尻尾を揺らして、腰に手を当てた皇女さま。
キャットウォーク……なんでそんな単語が浮かんでくるのか。
最初に見た姫騎士っぽい感じじゃなく、ドレス姿のせいかもしれない。
コルネットがちょこんと彼女の頭にくっついている。
「わた……妾は勇者の求めに応じ、ここまで来た。勇者よ、面をあげよ」
「…………。……? あっ、勇者って俺か。あ、すみません。はい、面をあげまする」
やばい、慣れないよこの空気。
思わずアイデンティティー忘れたよ。
あれだよね。
クラリス様だけ、真面目だよね。
城を出てからの旅路といえばもうゆるゆるのだるんだるんだったから、流れ変わったな感についていけない。
「して、何用か」
「失礼ながら、クラリス様。なんの用事かお聞きになってない?」
この程度のことなのに噛まずに言えてほっとしている俺です。
「しらん。わた」
騎士の誰かが咳払いをした途端「はわわ」と慌てる皇女さま。
……うん?
「わ、妾は聞いてはおらん。騎士が些事だというのでな」
「些事なのに来てくれたんです?」
「だって呼ばれたから」
ううん! ううううん! と騎士の何人かが咳払いをする。
一瞬だけ泣きそうに「はわわわわ!」慌てた顔で口元に手を当てるクラリス様。
……うううん?
「も、もとい! 妾たちに遣わされた女神の使徒たる勇者に、礼儀を失することがあってはならん。それゆえクルルをそばにおいた……のだが」
あれ? と小声で呟いてから、周囲をきょろきょろ見渡すと「クルルは?」小首を傾げる。
待って。
あれ?
待って。
クラリス様、なんかゆるくなってない?
あれかな、城の外だから?
それとも城にいたじいさんがいないせいなの?
後ろにずらりと勢揃いして黙して語らずの騎士連中の圧力兼咳払いにびくっと身体を振わせると、クラリス様は俺の前にかがみ込んだ。
足は半開き、その上前屈み。
胸元もパンツも防御力の低すぎるドレスのせいで丸見えなのですが。
ロイヤルな魅力あふれる、カーペット同様に丁寧かつ繊細な刺繍の下着に包まれた胸も、鎖骨も息を呑むほどに白く、綺麗だ。病的な白さじゃなくて、人として健康な範囲で許された最上の白さ。
パンツもブラと同じ刺繍。宝石と真珠がいたるところにちりばめられているだけでなく、透けてうっすらと素肌が見えるのに染み一つなく――紛れもなく、女神とタメを張るパンツだった。
「勇者さま……勇者さま」
そんなロイヤルぱんつ&おっぱいのクラリス様が小声で話しかけてくる。
彼女から初めて聞く気やすくラフな語り口に、思わず視線をあげた。
クルルは可愛い。ルカルーも、ペロリも。
だけど――……クラリス様は、根本的に彼女たちと違う何かがあった。
それは長いのに揃った睫毛の艶っぽさとか、間近だからこそわかる肌つやの整い方の次元が俺を含めた一般人とも違うところとか。
女神とタメを張る引力が彼女の美貌には存在した。
「な、なんでしょうか」
なので気やすく接してくれている彼女にかちこちになる俺です。
「クルルはいずこに? 勇者さまに何か粗相をしましたか?」
厳しく冷たいファーストインパクトを、諸手を挙げて全力で塗り替えてしまいたくなるような憂い顔。
もうね、抱き締めたい。
「いえ。それがその、恥ずかしながら死んでしまいまして。生き返らせるための助力をクラリス様にお願いした次第――」
「しんで……え……うっ、ぐす(ぶわわっ)」
「あ、ああああ! いや! なんとかなります! なりますから!」
泣くなよ! 抱き締めたくなるだろ!
「ほんとですか?」
「もちろんデス!」
どっちやねん。いや、このままだともちろん死って感じなんですよ。
わかりにくかったね。デスと死をかけてみたんだけどね。どこかの悪魔で執事な漫画の死神かよ、うっ! 頭が……。
クラリスさま笑顔で「よかったあ」って言っているもんね。
俺は混乱している。
そんな俺の前で、柔らかくて肌触りのよさそうなドレス越しに胸に手を当てるクラリス様。
たゆ……
「皇女様」
「す、すまん。妾は勇者に直接話があったゆえ――……領主」
騎士の厳しい声に立ち上がったクラリス様はもう、初めて会った時と何ら変わらない何かをまとっていた。
何かって……いや、これ外面だな。
多分、彼女の素は今の素直な方だと思われる。
「はっ」
「急ですまないが、宿の手配を頼む」
「承りましてございます」
俺なんかに目礼してくれてから、クラリス様は騎士達を引き連れて立ち去っていった。
改めて深呼吸したら、香木と柑橘や果物類の複雑に入り混じった印象的な香りが。
……いい。
クラリス様の匂いだと思われる。
実にいい。
「それで? お金どうするんです?」
「あ」
神父の声に我に返ったよね。
やべ。あんまりロイヤル威力が凄かったからつい見栄張っちゃった。
ううん。うううううん!
「ちなみに、お金はいくらたまったんですか?」
「10万Gだけど」
「クルル様とルカルー様の二人か、ペロリちゃん一人を生き返らせることが出来ますね」
「……え? えっ、えっ? なんて?」
「だから、二人生き返らせるか、一人だけ生き返らせることが出来ますよ、と」
待てよ。ペロリを生き返らせることが出来る、だと?
「あっ」
そっか。ペロリ蘇生の魔法使えるんじゃん。
だとしたらこの神父に頼むことなんて一つしかないぞ!
「ペロリ一択で!」
「このロリコン」
「ちょ、やめろ! そういうの角が立つんだぞ!」
言い合う俺と神父だが、ともあれ。
騎士の駐屯所に戻り、棺を三つ運び(これが地味に重たくてすげえしんどい)ペロリを生き返らせてもらうことに成功するのであった。
事の成り行きを確かめに戻ってきてくれた領主さん(と神父)の前でペロリにクルルとルカルーを生き返らせてもらった(さんざんどや顔したった)。
散々な目にあったが元通りの状態になってひと息はいた俺は生き返った三人から「死んでいる間に服を奪うとか最低」という濡れ衣を着せられる羽目になり、領主さんに助けてもらった。
やっとひと息ついた時、領主さんから「ときに勇者様」と声を掛けられる。
「なんですか、改まって」
「クラリス様が物資を手配していらっしゃってくださいましたゆえ、ささやかながら町を挙げて酒宴の席を設けることにしました」
「あ、それいい。街の人に元気出してもらえますね。クラリス様が?」
領主さんが手配してくれた服を着て、ひと息ついたクルルが混ざってくる。
「ええ。お優しい方ですからね。どうぞ、勇者様もいらっしゃってください」
ふふふ……領主さん、いいぞ。いいじゃないか!
その誘い、断る理由なし!
「……あれ? タカユキ、鼻の下のびてない?」
「ない。全然ないから。だからクルルさん、頼むからその……浮気癖のある亭主を見る嫁の目やめて」
つらい。
つづく。




