第二十五話
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街の人たちに声を掛けては、どこそこに魔物がいるだの、やれ街道に占拠した盗賊団がいて物資が届きそうにないだの聞かされる。
別に彼らは俺にお金をくれるわけではない。
しかし助ける。
俺は勇者だし、魔物と盗賊達からお金を巻き上げなくてはならない。
……勇者とは。
荒くれ者の間違いなのでは?
そう思っていた頃が俺にもありました。
「ぐへへへへへ。エルサレンの連中が魔物になっていたから火事場泥棒がやりやすかったぜえ」
「お、おれ! 若い人妻の下着かたっぱしから盗んできちまった!」
「ぼく……子供の肌着を」
「えっ」「えっ」
こいつらは国の治安のためにも成敗せねばなるまい。
「一つ! 不埒な盗賊三昧!」
「な、なんだ!? どこから声が聞こえる!?」
「二つ! 不埒な下着泥棒!」
「あ、あそこだ! あの木の上だ!」
「三つ! すべての女性下着は俺のもの! とうっ」
以下省略。
金目のものもしっかり盗んでましたね。
金品ばかり。財宝はないけど、金貨はやまほど持っていた。
ぶっ飛ばした盗賊たちは懲りただろうから戻ってくるまい。
それにしても下着の山はひどい。
試しに手に取ってみたが、どれもまあ……白いドロワーズみたいなのばかり。
何か武器が出ないか試してはみたが、どれも匂いがとんでしまったのか、それとも匂いが混じりすぎたせいかなんにも起きなかった。
ちっ、外れか。って、違う違う。人様の下着に文句つけるんじゃありません。
足の短い骨太の馬もいるし、台に連中が盗んだものをのせて街へ戻る。
腰を撫でてなだめてから綱を引いたら、案外素直に言うことを聞いてくれた。
よほど人になれているのか、気むずかしいところがない。
これだけ金品があれば教会の支払いもいけるだろう。
そう思っていた頃が私にもありました(そのに)。
「勇者様、盗賊団からあらゆるものを取り返してくれたみたいで何よりです。さあ、みなにお返し下さい」
駐屯所から出てきた甲冑騎士の言葉に「ちょまっ」と言うよりも早く、
「おお! 俺の金だ!」「私の下着が!」「ぱんつー」
みんなが喝采をあげて荷台から洗いざらい持って行っちまった。
金もかさばるから台に入れていたのが悪かった。
「みんなの金もあるぞ! 一人ずつ申告しろ! 騎士様から、誰がどのくらい盗まれたか書いた紙はもらっている」
最初に金を手にしたやつが、紙を手に配り始めてしまった。
みんな涙を流して「よかった、これで生活が」とか「娘の結婚費用が出せる」とか言い始めて……その、うん。
「……なあ、聞きたいんだが」
「なんでしょう、勇者様」
「これ、ただ働き系?」
「嫌なら歓喜する彼らから今すぐ金を巻き上げてください。捕まえて処罰しますから」
わーお。わーお!
「魔物討伐してきてください」
「地味すぎて疲れるし稼ぎも悪いから、一番安い蘇生費用の半分もたまってないんだが」
「では諦めてください」
「……お前、俺に何か恨みでもあるの?」
「決して」
涼しい顔で言われたから思わず黙り込む。
「……ざまあみろ」
「ん? んっ、ん? おまえいま、ざまあみろっていった?」
「いえそのようなことは決して」
……そうだよな。まさか、騎士がそんなこと言うわけ。
「ざまあみろ」
「言ったよね? 完璧にいま言ったよね?」
「いいえ、べつに。我ら騎士団のアイドルことクルルさまを奪いやがって死ね畜生が、挨拶にいったらギシアンを聞かされた俺の痛みを思い知れ、などとは口が裂けても言えません」
…………。
そっか……なるほど。
「あの……助けてくれないと、クルルが生き返らないんだけど」
「他の男に奪われたびっちなんてもうどうでもいい。俺を裏切った女なんて、もうどうでもいい」
「こじらせたドルヲタかよ! ……うっ、あたまが」
「あたまなんてだいじょうぶじゃなければいいのに」
「いや聞けよ。大丈夫かどうか聞いて!」
「ちっ……」
「……いや、その」
あー。こういう時の対処法なんて、記憶の無い俺にわかろうはずもなし。
「騎士なら国の法にのっとって、皇女さまが任せた俺に従ってくれてもいいのでは?」
「はいはい法律法律」
「どうでもよくならないで!? お前の仕事だからね!?」
「金持ちの命令でも聞いてくればいいんじゃないっすかー。それでお金もらえばいいんじゃないっすかー」
「雑だからな! 覚えてろよ、お前!」
しっし、と手で追い払われる。
……勇者とは。
◆
「それで、わたくしどものお屋敷へ?」
街を救ったときに挨拶に来てくれた領主さんを訪ねました。
なにせ、その。ね?
庭がすごいんだ。
荒れ放題だったはずなのに、一夜明けると庭木が見事に手入れされている。噴水から水も出ている。その頂点には領主の銅像まである。
もうね。いかにも私腹肥やしキャラである。
「恥ずかしながら、領主さん。あんたが一番金持ちに見える」
「恥ずかしながら、わたくしが街で一番の金持ちでございます」
なんかこの世界、わかりやすいんだけどそれでいいのか。
女神がああだからしょうがないのかな。そっか……。
「なので街を助けたお礼としてお金くだちい」
「勇者様。失礼ながら――労働とは何か、ご存じかな?」
「……うん?」
あの騎士といい領主様といい、なに。なんなの。
新手のいじめか何かなの? 思わず固まるよ!
「身体を使い、頭を使って働くことです」
「です、よねえ……知ってるよ? 勇者だもん。そりゃあ知っておりますとも」
「ですよね? ははは! 勇者様も人が悪い!」
「ははは! って待って? え、笑うとこあった? え?」
「……さて、勇者様」
え。え。なんで立ち上がるの?
なんでカーテンを閉めるの?
「実は折り入って……相談があるんですよ」
そばにきて、肩に手を置かれましたけど!?
ここここここ、これは危険が危ないのでは!?
「取り返した下着の柄を教えていただきたい」
「あっー! ……あ?」
「ですから、勇者様が取り返した盗賊団たちの物資の中に下着があったでしょう」
「……ありましたけど?」
「そ、その中に……人妻好きで有名な盗賊団が、おりまして、な」
何を言っているんだ、こいつは。
「わ、私とはなんの関係もないのです! ないのですが――……妻と仲の悪い女性がおりましてな」
「それと俺になんの関係が」
「教会に個人的に口を利いてさしあげますから、今すぐ話を聞きなさい」
「はいっ」
素直に頷く俺は金の奴隷です。
「どんな下着を履いているのか、それは女性のステータスらしいのですが……その女性は金銀財宝がついた立派な下着を身につけているらしくてね」
「……ほう」
「だから対抗意識を燃やした妻が言うんですよ。金銀で出来た下着を作りたい、とね」
「それは、また……脱がしにくそうな」
「そうなのです……ではなく」
おほん、と咳払いをして、領主はゆったりした皮の椅子に腰掛けた。
「確かに金は好きですし贅沢も好きです。親の財産、商才、そして地道な努力の積み重ねで築いた資産の確認が出来るのでね」
うわあ。才能、血筋、努力とか。やめて。つらい。勝てない感がつらい。
「魔王に襲われて国が荒れ、大打撃を受けた街の状況から……噴水の銅像をはじめとする資産を売却し、復興に力を注ぎたいのですよ」
くっ、いい領主じゃねえか。さすがはペロリを許す男。
「ですが……お恥ずかしい話、甘やかしてきたせいで、妻が言うことをきかんのです。ですから、説得していただきたい」
「……それはつまり、あれですか? さきほどの質問はむしろフェイクで、奥さまには豪華な下着などなかったと言えばいい、と?」
「話が早くて助かります」
深呼吸した後、領主は声を潜めて尋ねてきた。
「ちなみに実際、どのような下着がありましたか?」
「んー……んんー。いかにも普通の女性が履くであろう、野暮ったいパンツしかありませんでしたよ」
マジで。
「今のような調子でお願いいたします」
「かしこま!」
かくして、俺は欲深に違いない金額を提示した神父を領主に説得してもらうため、いかにもお嬢さま育ちの品のいい美人さんに「あなたの友達、みんな普通パンツでしたよ」と笑顔で伝えたのでした。
つづく!




