第二十一話
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捕まりましたよね。
ごく普通に縄ばしごをたどって井戸の底へ降りていったら、クルルとルカルーが魔物に乗っかられて身動きが取れなくなっていてさ。
魔物に肩、叩かれたよね。
もう「はい」って言うしか出来なかったよね。
「ぐす、ぐすん……タカユキぃ」
「泣きべそかくんじゃないの」
めそめそしているクルルを叱咤する。
俺たちは今、エルサレンの街の中央に位置する大きな教会に連行されていた。
周囲にいるのは魔物たち。
といっても不定形とか幽霊とかそういうんじゃない。
人型サイズの狼人間とかウサギ人間だらけだ。
クルルやルカルーと明らかに違うのは、顔面が完全に獣。
身体中から毛が生えているという点だ。
そんな奴らに囲まれて、俺とクルルとルカルーは縄でぐるぐる巻きにされていた。
めそめそ泣いているクルルは魔法を使って窮地を脱するべきだと思うし。
「お、おい。ルカルー? ずっと静かだけどどうした?」
「これは現実じゃないこれは現実じゃないこれは現実じゃない」
「ちょ、やめて。怖い。やだやめて、同じ言葉繰り返さないでやだ怖い。え、えっ、怖い。深呼吸して」
「すうううう……はあああああ……清々しいからこれは現実じゃない」
あ、だめだ。なんとか身じろぎしてふり返ったら、ルカルーは目をぐるぐる回しながら笑っている。滝のような汗を流しながらだ。
ルカルーは混乱している!
こいつだめな子だ! ストレスに耐性がないのかな? まあ、今時それくらいが普通かもね!
なんつって! たは!
「全然笑えないっていうかどうすんの!」
いや……いやいやいや、待てよ? 大剣を出せばいいのでは?
そう思いついた時だった。
「おまえたちが、まおーさまのいっていた、ゆーしゃか!」
教会中に響き渡るようなロリ声だった。
思わずはっと声が聞こえた方を見る。視界に口から泡を出すクルルや、かくんと首を倒して気絶するルカルーが見えたが、めげない。
めげたら全滅間違いなしである。
そう自分に必死に言い聞かせて見た先には、恐らくクルルが魔法で見せてくれた美少女――
「わざわざしににくるとは、すいきょーなやつだ!」
――を、五歳くらい若返らせたようなロリだった。
ペドと言ってもいいかもしれない。
「ん? ん? ……ん? あれ?」
改めて見る。
銀髪だ。
白い透け感のある衣装を着ているせいで、寸胴ぽっこりお腹が丸見えである。
頭頂部にぴょこんと生えた耳は垂れていた。
お尻から生えている尻尾は長細い。猫か何かのように見える。
その手には、クルルが見せてくれた映像でルカルーに光を浴びせた杖が握られている。
綺麗な美少女……ではなく、訂正するならばどう足掻いても可愛いロリだった。
「え、若返った? え、やだ待って、どういう理屈? そもそも俺的守備範囲はクルルと一発やったことによってそこでギリで、本来アンダー十八なんだけど、え、お願い待って。ロリ過ぎて逆にこれはこれでありかもっていうくらい可愛すぎて困っている」
父性の目覚めかな?
「な、なにをいっている」
「いや、あの、え、まって。処理できないお願い待って」
後ろに回された手を必死に伸ばしてクルルらしき手を掴んだ。
精一杯揺らしてみるんだが「しぬう……しんでしまうう」とうなされるだけ。
ああもう、ほんと肝心な時にだめな子だな!
「おっけ、わかった。俺が整理するしかないから深呼吸させて」
「いやだ。われわれのてによって、おまえはころされるのだ!」
「そういうのいいから待って……ねっ!? すううう、はああああ」
聞き流すなとほっぺたを膨らませて地団駄を踏むロリに尋ねる。
「きみ、ねえ、きみさあ。俺のそばで気絶している狼娘わかる? 覚えているかな-?」
「こどもあつかいするな! おぼえている! われわれがまものにしてやったぞ!」
「うんっ、うんっ、やっぱりそうか。そうなのね。君がやったわけ。うん、わかった」
必死に頷いて、恐る恐る次の質問をした。
「きみと魔王は、どんなご関係かなー?」
「なんでこどもにいうみたいにいうんだ!」
説明が必要かな?
「まったくもう! ぷんぷんだ!」
……なんだか、だんだん優しい気持ちになってきたな。
「まおーさまは、ぼくにちからをくれた! このつえだ! このつえをつかったら、みんながいうことをきいてくれるんだ!」
頭の弱いロリかな?
「だからいうことをきくんだ! ぼくはかしこいからな!」
間違いない。頭の弱いロリだな。
一人称がぼくっていうところに闇を感じるけどな。
透けているから、子供に不似合いな大人パンツが見える。
凹凸はない。いや、訂正する。凹んでいる。
だからはっきりわかる。こいつは女だ。
これ以上の追求は……しないでもらいたい。俺の手が後ろに回る気がする。
っていうか既に回っているのだった。
「まおーさまがおまえたちをころせといっていた。わかったか」
ぺたぺた足音を立てて、大きな杖のせいでバランスが悪く「わわっ」とか「おっとととっとっと」とか言って何度も転びそうになり、そのたびに周りを囲む魔物たちがざわつく。
俺のすぐそばにきた時には、魔物たちと一緒にほっとしちゃったよ。
やったー、とか笑顔で呟くあたり、こいつは根が素直なロリに違いない。
「さあ、いくぞ!」
杖を振りかぶる。
当然よろけるが、そんなざまで振り下ろしてもせいぜいこつんくらいだろう。
「えいっ」
ぶおおおん! という物凄い轟音が聞こえて、俺はまばたきした。
◆
次に気づくとそこは街の外にある井戸のそばだった。
はっとして周囲を見ると、棺が二つ並んでいた。
……うん?
「……え? え? まさかとは思うけど、え?」
棺を開けると、中で青白くなって横たわっていたのはクルルとルカルーだった。
「ちょ、やだ。え。待って。死んだら棺っていかにもなお約束かよ! とか浮かんでくるけどマジで意味わかんない。え?」
周囲を見渡しても誰もいない。魔物もいないのはせめてもの救いかな。
「あれあれ。もしかして。え? 全滅しちゃった……的な感じ?」
ごろごろごろ……と空で稲光が聞こえた。
「はい、えー……」
こほんとお空で咳払いするのは女神でした。
「勇者よ、死んでしまうとは情けない! ……なんちゃって! なんちゃってー! あは! 一度言ってみたかったんだよね!」
えへー! と全力で笑う女神を半目でじーっと睨んでいたらまた咳払いされた。
「やだやめて、そんな怖い目で睨まないで。おい黙るなよ、なあ、なあタカユキ……わかった! 喋るね? ええ。そうね。えー……なに? え?」
虚空を見つめる。誰かと話しているかのようにしきりに相づちを打つ感じ……なんだろう。俺が好きな何かに似ている。そんな気がする。
「えー……仲間を? 生き返らせる? には……ん? なんて書いてあるの? カンペ読めない、ちょっとさーもうさー大きく書いてっていつもいってるじゃーん」
「おいこら。カンペっておい。ちょ、真面目にやってくれ!」
「あーうんうん。なるほどね。えーっと。あのロリに、杖を使わせろ……と。えー……」
眉間と目元の皺が。皺がやばい。
「ちょ、女子が人前でしちゃいけない顔になってるから。な? な? もう諦めたから、ちゃんと読んでから喋ってくれ。仮にも女神だろ?」
「あーうん。うん。わかった! えーっと」
こほん、と咳払いして真顔になっても遅いからな、マジで。
「あのロリは、世界でも数少ない蘇生魔法を使える、聖なる、ロリである」
「ほう」
「仲間にせよ!」
「……ほう」
いや……棺二つ抱えてどうしろと?
「突撃するのだ! 勇者よ! あと腐ったら蘇生できないから急いでねん……ねん、ねんねんねん」
「いいからセルフフェードアウトとか! っていうか大事なことを去り際に言うのやめろ!」
「またなー……――」
びかーん! という稲光と共に女神は消えた。
やれやれ……結局、ガチでアクションしないとどうにもならない感じか!
なんでかな!
一人と三人、大して差が無いように感じるのは!
「……いや」
嘘だ。
冗談を考えてもツッコミどころかなんの反応もないのは寂しい。
返事がないただのしかばねを二人分抱え続けるのはごめんだ。
早く蘇ってもらわなきゃ困る。
「よし……」
深呼吸してから、俺はクルルにパンツを履かせて脱がせた。
それからふと思いついて、ルカルーの棺を見た。
大胆なレオタードチックな服のせいでわからなかったけど。
こいつもパンツを履いているはずでは?
今なら脱がし放題なのでは?
手に入れれば戦力が増すのでは?
「……許せ、ルカルー」
お前達を救うためなんだ。
自分にそう言い聞かせながらも、わくわくする気持ちをおさえきれない。
棺の中で眠るルカルーの服に俺は意を決して手を伸ばした――……。
つづく。




