第二十話
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街道を進んでいたら、お約束に強いられているのかなんなのか。
「おおっとお姉ちゃん二人とお兄さん、ここから先へは進ませないぜ」
盗賊が現われた。
なんなの? ねえなんなの? どれだけ王国は荒廃しているの?
そういうアピールか何かなの?
「倒してもいい?」
はふはふはふはふ、と息をするルカルーを「せいせいせい!」と片手で制する盗賊。
「いいのか? 俺の魔法は凄いぞ! 一度発動したらすべてが終わるほど凄いぞ!」
「タカユキ。敵が魔法使いならここは私の出番かも」
ここぞとばかりに前に出てくるんだが呪いはいいのか。
「おっと……やる気のところ悪いが、俺の魔法は! 相手の魔法が発動するよりも早く! 効果が出る!」
「早く呪文が唱えられるっていうこと?」
「ふ……ウサギ女。侮られては困る。それどころの騒ぎではない!」
回りくどい説明を聞かされて、クルルの足が猛烈に地面を削り始めた時だった。
「シューくん! 待って! その魔法を放ったらあなたは死んでしまうわ!」
目がきらきら輝いている女盗賊が現われた。
男の足下に抱きついて、必死に止めているんだけど、その。
「いや、お前の中に宿った新たな命を養うために、まず俺が命をかける!」
「だめよ! こんな荒廃した世界で私と子供の二人だけで生きていけというの!?」
……うん、その。うん。なんだ。
「そういうの、二人きりの時にやってもらえます?」
声を掛けるんだが二人は抱き合って「お前のためなら、俺は!」「シューくん!」とか言い合い始めたので……申し訳ないんだが。
勇者タカユキ一行は逃げ出した。
◆
坂道の頂点から道の先に視線を移す。
「あれがエルサレンよ」
何事もなかった顔でクルルが指差した先には、これまで見たどの村よりも大きな街があった。
いつか見た幻と変わらず、煉瓦造りの建物たちはどれも荒れていた。
穴があいていたり壁の一部や尖塔が崩れていたり。
「なあクルル。お前の呪いを承知の上で聞くが……敵がいるかどうかがわかったりするような魔法はないのか?」
「勇者。いくら魔法使いとはいえ、そんな便利な魔法があるわけない」
「そうだよな……」
ルカルーと一緒に俯こうとした時だった。
「あるよ」
何気ない顔をしたクルルがさらっと言う。
「「まじで」」
声を揃える俺とルカルーに「筆頭魔法使いを舐めないで欲しいよ」とクルルが呟く。
そういえばついつい忘れがちだけど、クルルは王国でも凄い魔法使いなんだもんな。
「ただ、敵に魔法使いがいたらばれちゃうし、より厳密に調べようとすればするほど、その……」
下腹部を見下ろすクルル。言いたいことはなんとなくわかった。
「ざっくりとでいい。それだと反動はどれくらいだ?」
「範囲よりも制度が鍵だから……そうね。耳かき五分くらい?」
なにその耳かき単位。
あれかな。呪い=耳かきで解決させる方向性にもっていきたいほど、耳かき気に入っちゃったかな?
嬉しいけど!
「じゃあ……それで頼む」
ここは迷わずクルルにお願いすることにした。
「了解。えっと……」
こめかみに両手を当てて、指先をウサミミの背に滑らせる。
何度も根元から先端へ撫でながら「探知、範囲設定は街全体。となると……」呟いて、深呼吸。「よし」
三歩街へ近づいてから、クルルが右手を街へと突きだした。
素肌から複雑怪奇な紋様が浮かび上がる。
腕から青白い光が放たれた時だった。
「レトリィヘ・リイジョン」
クルルの詠唱に応えるように手のひらから青白い光が放たれた。
それは街へと伸びていくと、およそ中心地らしいところで爆発する。
そうはいっても何かを壊すような威力のあるものではなかった。
球状の爆発は街全体を覆うと収縮し、光の筋とかしてクルルの手のひらへと戻ってくる。
「ざっと一万人くらいいるよ」
振り返り、しれっとしたどや顔で言うので俺はおでこにチョップした。
「ばかなの? ねえ、ばかなの? 魔法使いがいたらばれるとか、そういうレベルじゃないでしょ! 魔法使ったの丸見えじゃん! 丸見えどころかすごい映像インパクトでしたけど!」
「いたい、いたい! ど、どんな効果があるかは魔法使いにしかわからないもんー!」
おでこを両手でガードしながら逃げるクルルにため息を吐いてから呟く。
「しょうがねえな。行くか」
「急ぐぞ」
「おう!」
ルカルーに頷いて走りだす。
およそ十分くらいの後に辿り着くと、街の入り口に設置された大きな扉は閉まっていた。
「ねえタカユキ、思ったんだけど」
「なんだよ」
「もし敵が守りを固めていたり専守防衛されたら、下手に手を出せないから私たち何も出来ないのでは?」
難しい顔で「むうう」とか言うクルルのこめかみを中指でぐりぐりした。
「気づかれたとしたらお前の魔法のせいだろうが!」
「いたいいたい何するの!?」
やれやれ。息を吐いて考える。
「俺がアサシン教団の出なら潜入出来るのだが……」
「あさしん? なにそれ」
涙目で睨んでくるクルルに肩を竦める。思いついたから言っただけで、実は俺にもよくわからん。少し頭痛がするくらいだ。
「ルカルーが行くか?」
軽くジャンプしながら構えるルカルーに頼もうとして……やめた。
「何が起きるかわからない以上、ここは三人で入りたい。そうだな……」
周囲を見渡す。
街を巨大な外壁が覆っていた。水路が壁沿いに作られているため、橋のある通路に入り口が限定されている。
街の内部は荒廃していたが外壁は大して壊れちゃいない。登れそうな気配もまるでなしだ。
だが、よく見れば水路の水は外壁の向こう側に続いている。
「水路から侵入できないか、周りを歩いてみよう」
「タカユキの大剣で扉斬れたりしないかな」
「物理的手段すぎるだろ」
クルルの疑問にツッコミを入れつつ、もう一度巨大な扉を見てみる。
鉄製の扉はいかにも分厚そうだ。ところどころサビちゃいるが、だからといって柔らかそうでもない。
それに、
「扉を破壊するならクルルの魔法でもいけるだろうし、敵だってそれくらい考えるだろ。ざっくり一万人も中にいるってんだろ? ルカルーが魔物にされたことを思い出してみれば魔物の巣窟だと考えた方がいい」
「つまり? どういうことなの?」
……お前さ。あれかな。勉強は出来るけどアホの子とか、そういうことなのかな。
まあいいけども。
「待ち構えるか罠を仕掛けるなら扉のそばだし、そんなところから正面切っていったら物量で負けちゃうでしょ」
「そっか」
……本当にわかっているのかな。
微妙に不安だ。そもそも会話に入ってこないルカルーあたり、全然気にしてなさそうだし。
俺がしっかりせねば。
「どこかから侵入して、改めて中の様子を探る。ルカルーを魔物にしたヤツを探し出し、何をしたのか吐かせる。これでいくぞ」
「「わかった」」
三人で大きな街の外壁に沿って歩いていたら、井戸と立て看板を発見した。
俺には読めない文字を眺めると、クルルが言うんだ。
「この井戸、街へ通じてます! だって。いこっか」
「がう!」
なんの疑いもなくぴょーんと井戸に飛び込む二人に「ちょ」声を掛けるが、時すでに遅し。
そうね。街へ入らなきゃ始まらないもんね。
なんかもう、これみよがしの罠過ぎて逆に不安。
一体何が待っているのやら。
「タカユキー、まだぁー?」
「はいはい」
いちいち突っ込んでられないな。
井戸にかかった縄梯子に手をかけて、俺は勇気を出して降りていくのだった。
つづく。




