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軍人、戦う

時が止まったかのように思えた。

いや、どうせならもうこのまま動かさないで欲しい。

他の場所では人々がノンストップで受付を終えて、学園へ向かっているのに俺はなぜかストップを喰らっている。


もう全てを捨てて逃げ出したかった。お姉さんの哀れみの眼差しがグサグサと心に刺さる。どうしてこんな目にあっているのだろう。全てはあのクソジジイが悪いのに。


「おいまだ入学試験受けてないらしいぞ。」


「もう制服を着てるなんてよっぽど自信があるのね。」


「コスプレして侵入しようとする犯罪者じゃないのか?」


ヒソヒソとした周りの話が聞こえる。

あることを知らなかったんです。自信なんてないんです。どっちかというと犯罪者を取り締まる側なんです。


「落ち着いてください。大丈夫ですよ!今日は最終試験日なので、それに受かったら無事入学できます!」


意気消沈する俺があまりに哀れだったのか、焦ったように伝えてくれる。神は見捨てていなかった。思わず前のめりになり、お姉さんをびっくりさせてしまう。


「いますぐうけます!すぐに!!」


ピコン


お姉さんが操作する手元の機械から通知音が鳴る。確認するととても申し訳なさそうな顔をしている。


「学園執行部の方がこちらに向かわれているそうです。」


執行部……?なんだろう、入学を祝ってくれるイベントの人たちかな。きっとそうだろう。


周りのざわつきが大きくなる。


「執行部が来るなんてよっぽどだぞ?」


「ほんとに侵入者だったのか?!」


「試験で不正を働こうとしたんじゃないか?」


一縷の望みをかけてお姉さんに尋ねる。


「執行部って……。な、なんですか?」


「執行部は、学園で起きた生徒同士のトラブルから犯罪まで取り締まる。学園においての軍や警察です……」


なんてわかりやすい説明なんだと感激して涙が出てくる。入学試験を受けずに学園に入学しようとする怪しい男、そこに向かってくる学園都市での警察や軍にあたる執行部。誰でもわかる、どう考えてもアウトだ。


執行部が来ると聞いてから何もする気がなくなり地面でうなだれていると、影がさす。


「執行部二年 近藤一花だ。報告にあった、入学希望者はどこだ?」


「そこにいる方が、例の入学希望者です。」


どうやら迎えが来たらしい。顔を上げると、フサフサの塊が目に入る。一目でわかるほどふわふわだ、辛いことが続いた俺への神様からのプレゼントだろうか。癒されたくなった俺は目の前のオアシスに飛び込む。


「ひゃ!」


ひゃ?あー、やっぱりフサフサでたまらん。サラサラの毛並みに魅了されて手が止まらない。もうこのまま何もかも忘れて……ん?毛並み……?あ。


「執行部の私に白昼堂々と痴漢とはいい度胸だな?命が惜しくないのか??」


見上げると羞恥と怒りからだろうか、耳まで真っ赤な銀髪に金色の眼をしたワーウルフの女性が立っている。制服のボタン一つ開けず、ネクタイは真っ直ぐでとても真面目そうだ。


さっきまではコスプレをして侵入を試みる変質者だったけど、もうダメだ。女性にセクハラした現行犯の犯罪者になっちまった。


「何か弁明はあるか?」


任務のために、若者の流行を調べてきたおかげか脳に天啓が舞い降りる。手を後頭部に当て、ヘラっと笑いながら言うのが大事なポイント。


「俺、何かやっちゃいましたか?」


学生の間で流行っている人気作品の決め台詞らしい。


「ふんっ!」


掛け声と共に見事な一本背負いをされる。逆さの世界に映る春の暖かな日差しと青い空。最後に見た景色は憎らしいほど綺麗だった。ぐへえ。




「起きろ!」


かなり痛かった。しかし、軍で鍛えられた体があの程度で気絶するわけなく。現実逃避から気絶したふりをしていたがどうやらここまでらしい。


「起きろ、十咲ココ!貴様には不正入学の疑いが持たれている。」


「不正入学……?」


どうしよう本当に身に覚えがない。任務のことすら昨日知ったのに、一体どういうことだろうか。


「執行部の顧問が昨日、『ココ……の入学の件ですね!はいわかっております。』とペコペコしながら電話していたのを私は見かけている。」


嫌な汗がにじむ。軍は帝の学園の卒業生を多数採用している。そして、執行部のような実務経験がある生徒は歓迎される。おそらく顧問は軍関係者なのだろう、学園で顧問を務めるような人物がペコペコしながら話す相手……。


「ご、誤解だ!話を聞いてくれ!!」


「うるさい!痴漢野郎の話など誰が聞くか!!あの厳格な先生がペコペコするなど……。貴様のようなボンボンが一番私は嫌いだ!」


あんのじじい〜!こんなところで親心を出してきやがって。ほんとにたまたまだったのだろう。俺が上手く学園やれるか心配したジジイが自分の部下にあたる人物に孫の世話を頼む。何もおかしなことはない。


それがたまたま俺がセクハラした相手が一部始終を聞き誤解しているだけで。俺とジジイで3:7くらいの過失だな。もちろん俺は3。


この場にいないジジイに責任を押し付けて現実逃避をしていると、怒りが収まらないのか腰に携帯している【魔導機】を抜き出す。


「おいおい、それは洒落にならないって!尻尾を触っただけじゃないか!!」


「だけ?!よーく、わかったぞ貴様がどうしようもない変態ってことが!立て、その腐った根性叩き直してやる!!」


尻尾と獣耳をピンと逆立て、刀型の魔導機を振り上げる。まずい、本当に死んでしまう。武王になって早々、セクハラで死亡なんて洒落にならない。


この状況を乗り切る手は何かないのか?!必死に頭を働かせる。学園、執行部、入学試験……。そうだ!


「決闘だ!近藤一花、お前に決闘を申し込む!!俺がボンクラじゃないってことを証明すればいいんだろ!」


刀を振り上げたまま気の抜けた顔をしばらく晒すと獰猛に笑う。脳筋が多い獣人型の人間だ。苦し紛れに捻り出した案だったが賭けは勝ったらしい。決闘なんて関わらないって決めてたのに……


「面白い……!少しは骨があるじゃないか、本来は在学生のための規則で入学試験すら受けていない貴様に権利はないが……。いいだろう。」


痛いところを突かれた、こいつただの脳筋じゃないな。


「それは知ってる。今回は特別ルールで、クラスの変動ではなく俺の粗相を詫びる機会と入学試験を受ける機会。」


「ほう、痴漢のくせになかなか弁えているじゃないか。わかった、その条件で決闘をしてやる。だが、決闘に勝たなければ貴様は終わりだぞ?」


「わかってるよ、早くやろう。そっちも暇じゃないだろ?」


「ふん、ついてこい。」


そう言い放ち先導する彼女の後ろについて行く。歩くたび腰に揺れる尻尾はフサフサだ。




「ここだ。執行部が普段訓練で使っている訓練場だ、春休みで今は誰も使っていない。」


かなり広い。確かにここなら思う存分戦えるし、これだけ広いのに利用している人間は誰もいない。


「武器はこれを使え。」


投げ渡される魔導機を受け取る。汎用型魔導機【錬鉄】使用者の望む武器を象り、軍でも採用されている優秀な魔導機。しかも最新型だ。国立学園という軍より潤沢な資金を扱える差を見せつけられ少し悲しくなる。


慣れた手つきで一番扱う刀に設定し、軽く振ってみて違和感がないか確かめる。


「使い方は……。面白い、貴様も刀を使うのか?」


「まあね、たまたま同じ刀使い同士だし許してくれない?」


「ははっ、なかなか面白い冗談だったぞ。だがわかっているだろう?男なら覚悟を決めろ。」


近藤一花は半身になりいつでも刀を抜ける姿勢を保ち、視線をこちらに固定する。しかも、刀を上手く半身で隠していて抜刀のタイミングは掴まれにくくしている。


やっぱりただの脳筋じゃない。


ワーウルフの刀使いとの決闘。予想される初撃は居合、安易だと思うだろうか?だが、獣人の高い身体能力と柔軟性から繰り出される変幻自在で高速の一刀と考えるとどうだろう。


「安心しろ、学園での決闘は命の安全は保証されている。死にはしない、死ぬほど痛いかもしれないがな……!」


自分の勝ちを確信している発言。

確かに、俺は入学試験も受けずに制服を着たコスプレ痴漢やろう……だ。


予想通り、抜刀からの居合。


数メートルの間合いを一瞬で駆け、可能な限り低くした姿勢から放たれる太腿を狙った一撃。エリート学園の執行部という立ち位置に甘えず、よく鍛錬しているのがわかる。


俺たちが百パーセント悪い、彼女はただ職務を全うしている。だけど任務のためにも負けられない。せめて、刀を握る彼女のこれからの糧になるよう。


【武王】として全力で相手をしよう。


刀を鞘から振り抜くと共に迫る一撃を上方へ逸らす。

振り上げた刀を下から逸らされた近藤一花は刀を上段に上げながら呆気にとられる。


「なっ……!?」


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