表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/3

軍人、学園に行く。

昔、あるところに大きな国がありました。


国を治める偉大な帝は言いました。


「我こそは優れた才ありと思うものよ集まれ。」


帝の呼びかけに大勢の人々が集まりました。


集まった人に帝はさまざまな試練を与えました。


帝が与えた試練を乗り越えたのは。八人。


それぞれが異なる分野の一番のものたちでした。


帝は八人に王の称号を与えました。


八人は人々に【八王】と呼ばれ、たくさんの活躍をします。


国で一番力の強い【武王】


国で一番人を癒せる 【癒王】


国で一番発明をした 【賢王】


――誰もが八王に憧れた。




この国で1番有名な絵本。みんな一度は読んで八王に憧れる。俺だってもちろん憧れたし、今でもそれを抱えて生きている。子どもの頃は八王になったらなにをしようかと夢を見た。


だけど誰もが経験するように、夢を目指して挫折する時がある。誰にでも起こることが、俺にも起きたんだ。




「……コ」


「……ココ」


懐かしい記憶だ。昔の記憶に浸っていると名前を呼ばれていることに気づく。


何かとても大事なことを忘れている気がする。


「ココ、貴様もう一度新兵から叩き直してやろう

かっ!」


声に釣られ視線を上げると、禿げ頭に刀傷を入れたおっちゃんが顔を真っ赤にしながら俺の名前を呼んでいる。とても怖い。


「禄さん、少し落ち着いてください……ココちゃん?あんまりおふざけばっかりしてちゃダメですよ?」


還暦を迎えたとは思えない体格から繰り出される拳を喰らったら低い身長がさらに小さくなりそうだ。それに陽さんに逆らったらそれより恐ろしい目に遭うことは知っている。


「まあいい、もう一度いうぞ?十咲ココ!」


何でそんなに名前を呼ぶんだろう。


「はいっ!」


自分に話しかけられていてよくわからないときは大体大きな声で返事をすれば乗り切れる。これは生きてきて確信している数少ないライフハックの一つだ。


「ばっかもーん!」


どうやら違ったようで、禄は拳を振り上げ俺の頭に迷いなく振り下ろした。ライフハックが一つ減ったし、身長も多分減った。


「貴様一ヶ月前からこの式典が決まっておって、なぜ全く準備ができておらんのだー!」


暴れ出す禄を周りの大人たちが必死になって抑える。

殴られる前に助けて欲しかったが仕方ない。今の痛みと言葉でピンときた。そういえば今日は任命式だ。




俺が八王になる。




挫折したのは俺じゃない夢が挫折しやがったんだ。初代八王の時代から千年、長い時を経て受け継がれた現代の八王は今ではちょっと偉い公務員だ。


夢を夢中で追いかけてた俺はそれに気がつくのが遅すぎた。気づいたときにはもう戻れないところまできてしまっていた。


「ちょっと、やりすぎですよ!ほら、ココちゃんがお間抜けになってるじゃない!」


夢について思いを馳せていたら何だかとんでもない悪口を言われた気がする。全然気にしていないけど、どうせ元からぼーっとした顔だし。


「はあ、いいだろう。帝様からのおことばを【武王】代理として伝える、【十咲ココ 其方を武王と任ずる】。」


「【癒王】が見届けます。」


禄が近づき着ていた羽織を俺にかける。そして好々爺のように笑いながら頭を乱暴に撫でる。


「ココ、今日からお前は八王だ。励めよ。」


「"歴代最年長"の武王から、"歴代最年少"の武王へ。なんだか運命感じちゃうわね!」


周りにいる関係者の人たちから祝福の拍手が起き、雰囲気と相まってなんだか泣きそうになるけど精一杯笑いながら応える。


「はい。」


軍でのさまざまな記憶が甦る。楽なことばかりではなかったが武王に任命された今となっては全ていい思い出だ。


「そういえば、ココにもう一つ伝えることがあるぞ!」


何だろう、今なら何でもききたい気分だ。


「日本軍元帥として貴君へ辞令だ、明日より学園にて3年間さるお方の身辺警護を命ずる。」


したり顔の禄、はめられた。目に浮かんでいた涙も引っ込み代わりに殺意がひょこっと顔を出す。必ずこのジジイを人生からも引退させないといけない。


「まあ、いい機会じゃねえか。任務と訓練漬けの日々でろくに学校に行ってねえだろ。」


「そうですよ、ここちゃん。貴方が大人と話しているところはよく見かけるけれど、同年代と話してるところ見たことないわよ?」


何でそんなことを知っているんだろうか。ここちゃんのプライベートはなくなっちゃったんでしょうか。

さっきまで感じていた殺意も引っ込み、今は少しでも早くここから逃げ出したい気分だ。


「拝命いたしました。小官は直ちに任務を遂行します。」


心と顔を無にしながらも体に染みついた癖で返礼し、早足に退出しようとする。


「お、忘れてた。」


振り向きざまに飛んできた何かを顔面で受け取る。

禄が常に腰に差していた刀だ。国で最も強いとされる武王の証。


「今日からお前のだ。」


陽さんはハンカチで目元を押さえていた。禄はよく見えないが、刀の下緒が少し濡れている。




不思議な気分だ。


普段見ていたはずの街が歩く時間と目的地によってこんなにも変わるなんて。身動きも取れず自動ドアにはりつけにされトンネルの灰色の景色を眺めながら強く思う。こんなことなら早く起きて歩いて向かえばよかった。


「あ、あさごはんでるかとおもった。」


停車した電車から降りて、息を吐く。これに毎日乗っている人たちはみな軍人の素質があるのじゃないかとさえ思う。


「学園生活やっていけるのかな、、、」


手元の軍から届いていた書類には学園に向かう日時と警護対象の情報しか記載されていなかった。

やっぱり一発ぶん殴ってから出てけばよかったと本気で後悔しながら。調べた情報を見返す。




国立帝ノ学園


普通科、異能科、技術科、教員など総計約一万人の生徒を擁する国内最大のマンモス校であり。その広さと施設の多さから学園都市とも呼ばれている。また厳格な入学審査により選ばれるエリート校でもあり、卒業後は将来が約束されているため倍率はとても高い。


入学審査。受けた記憶がないけどこれでも武王だし免除されたのか……?


入学の際に試験を受け、その結果によりクラス分けがされる。一般的な学校のクラス替えはなく、定期試験の結果と本人同士による合意のもと行われる決闘でのみクラス替えが行われる。

決闘は特殊な技術により命の保証がされており、頻繁ではないが年に数回は起こる。


いや、決闘が年に数回起こる学園って何だよ?!目立つに決まってるから絶対に関わらないようにしよう。エリート校の意外な風習にドン引きしつつもう一つの書類を確認していないことを思い出す。




文市 凛音


写真が一枚入っている。腰元まで伸びる黒い髪、顔には上半分を隠す狐のお面。隙間から覗く瞳は紅く、口元は微笑んでいる。


警護対象の顔がわからないけど?!何でこんな写真なんだ……?不思議に思いつつ紙を捲ると一枚のメッセージカードが挟まっていた。


ココちゃんさんへ

陽さんとのお話でよく聞いてます。

写真は禄さんと相談して撮りました。

遊び心があって素敵でしょう?

会えるのを心よりお待ちしております。

凛音より


p.s.私たちの部屋は隣らしいですよ?



綺麗な字で書かれた手紙だった。隅っこに可愛い絵まで描かれている。最後にとんでもない爆弾もついてきているけど。


なぜかちゃんづけでよばれていて、はっきり認知されている。しかも、警護対象がノリノリで送ってきている事実、部屋が隣同士になっていること。受け入れ難い現実を前に声にならない叫びがでる。パンクしそうな脳で冷静に考える。


これは同年代の異性と話せるか心配した二人が善意からやってくれたんだ、凛音さんもおそらく俺が緊張しないために優しさから手紙を書いてくれた、そうに決まってる。いや、ジジイは揶揄ってるだけだな許さない。


悶々としながら歩き続けると、周りに同じ制服を着た人たちがチラホラ見えてくる。気がつくと受付にまで辿りついていた。


「本日はどのような御用でしょうか!」


学園が受付として採用した人材だ。可憐な営業スマイルに荒んだ心が癒される。


「しょう……」


まずい、まずい、まずい。今回は極秘の警護だから軍の関係者とバレていいわけがない。最初から最大のピンチを迎える。


「小生は入学を希望するものですが。」


完璧なリカバリーだ。代わりに何か大事なものを失ってしまった気がするが任務遂行が最優先。できるだけ考えないようにする。


「身分証の提示をお願いいたします。」


腕につけたデバイスを心なしかすこし笑顔が引きつった受付嬢へ提示する。表示された情報を見て、さらに笑顔が引きつる。


どうしたのだろう。軍に用意された身分証だからエラーが起きることはないはず、それともさっきの発言の気持ち悪さがいま効いてきたのだろうか。それとも両方だろうか。


「すみません。制服を着用されてるので、もう入学試験を終えているのだと勘違いしてしまいました。」


ぜんぜん免除とかなかった。


配属の辞令を出されてから今日まで試験なんて受けた記憶がない。この人の笑顔が引きつった理由もわかってしまった。お姉さんの目に映るのは、入学試験を受けてないのに制服を着て朝から登校してきた変人だ。


あのジジイだけはほんとに許さない。

羞恥と怒りから顔を赤くした俺は一瞬で顔を青くする。




あれ、これ。任務失敗では???


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ