軍人、示す
数瞬の間で驚愕から立ち直り、上げた刀を袈裟懸けに振るう。それを降り下ろされる前に刃の根元で受け逸らす。今度は隙を晒すこともなく、流れるように切り上げがくるが冷静に半身になり躱わす。それは予測されていたようで水平に薙ぎ払いがくるのを後ろへ跳躍して避けようとするが、空中に浮いた体に鋭い蹴りが飛んでくる。真横に吹っ飛ばされながら俺は受け身を取りながら着地する。
強い。最初は予期せぬ事態に隙を晒していたが直ぐに認識を修正し、刀とワーウルフの身体能力を活かした戦闘方法。軍も学園の卒業生を多く採用してるわけだ。
「どうやらただのボンボンではないようだな、だがこの程度では機会を得ることはできんぞ?」
「ははっ、確かにそうだな。あんた、俺の心配をしてくれるなんて優しいんだな。」
軽口を叩きながら、納刀しゆっくりと先ほどの彼女のような姿勢をとる。
「なっ?!貴様は本当にどうしようもないやつなんだな……!」
俺の居合の構えに気づき、彼女も構える。ここから先は会話などいらないだろう。あとは武威を示すのみ、武王という全ての武の頂。
同じタイミングで駆け出した俺達。先ほどと変わらず距離を詰め、だが明らかに鋭さを増した居合を放とうとする彼女に対して、その場で正眼まで刀を振り抜き"オーラ"の刃を飛ばす。
瞬時に軌道を読まれ回避されるが、この一瞬で十分。さらに加速し回避の瞬間に合わせて突きを放つ。
彼女は抜刀し逸らそうとするが、予測していた俺は鎬を合わせ勢いのまま押し込む。このままだと力負けすると察したのか彼女は後方へ飛び逃げようとする。
後方へ飛んだところに刃を振り下ろしオーラを飛ばす。彼女は空中で避けることができず刀で受けるしかない。それを読んでいた俺は加速して着地に合わせた突きを放つ。空中でオーラの刃を防いだ彼女の防御は間に合わないし、地面にちょうど足をつけたタイミングでこの刺突を回避することもできない。
切先を彼女の喉元に突きつける。
「ごめん、悪かった。本当にあんたの尻尾がふさふさで魅力的だったんだ……。」
勝負がついたと思った俺は謝罪し刀を収める。勝負がついたはずだが目の前の彼女は顔を伏せ何も言わない。なんだ?まだ謝罪が足りないのか……?!
「本当に出来心だったんだ!ちょっとつらい出来事が続いて、正常な判断ができてなかったんだ!あと本当に人を狂わせるくらいモフモフなんだよ!?」
こんなに情けない武王がかつていただろうか、もう焦りすぎて自分でも何を言っているかわからない。
「……ない。」
「ん?ごめん、よく聞こえなかった。もう一度頼む。」
何か呟いているが、聞き取れず少し耳を傾ける。
「認めなーーーい!!!」
「うげぇ!?」
大声で叫ばれ耳がキーンとする。
「うぅ、私は認めないぞー!こんな変態コスプレ野郎に負けるなんて……!」
耳も痛いが心も痛い。ダムが決壊したかのように喚き出す、先ほどまでの勇ましい彼女はどこにいってしまったんだろう。涙目でワーウルフを象徴する耳と尻尾をパタパタとする駄々っ子に成り代わっていた。
「認めないー!ちょっと油断しただけなんだ!うぅー、うわーん!」
認めない?!ど、どうしよう。なんとか泣き止んで話をしてもらうしかない!決意した俺はゆっくりと近づき笑いかける。
「よーし、よしよしよし。いい子だ!大丈夫だぞー!」
軍にいたころ"軍用犬"と遊んでいた頃の記憶を思い出し実践する。頭と耳をワシャワシャと撫でながら褒める。いやー、本当に触り心地いいなー。あれなんかこれデジャ……。
「さ、触るな、この変態!」
顔を真っ赤にして泣き止んだ彼女は今日一番のキレで俺の顎にアッパーを叩き込む。俺は吹っ飛びながら空を見る。少し日が昇った空は眩しく綺麗だった。
しばらく地面に寝転び空を見上げて黄昏ていると、頭上に影がさす。見上げると、少し目の赤くなった近藤一花が立っている。
「おい、変態。」
変態が固定されてやがる。無視したいが自業自得すぎるので不服だが返事をする。
「なんだよモフモフ。」
「貴様……!次にその呼び方をしたら痴漢で貴様を外に突き出す。近藤一花だ、好きに呼べ。」
「わかったよ、一花。十咲ココだ、好きに呼んでくれ。」
一瞬恐ろしい顔で睨まれたがどうやら本当に立ち直ったらしく、機嫌が治ったことに安堵する。
「入学希望者ということは私の一個下だよな。なら、そうだなココちゃんとでも呼ぼうか?」
「そ、それだけはやめてくれー!」
その呼び方に体が反応し一瞬で跳ね起きる。焦った俺が面白いのか笑っている姿を見て気づく、ちくしょう揶揄われた。
「ははっ、実力はともかく中身は見た目通り年相応だな。ふむ、魅力的なのだろう?今ならサービスで触らせてやってもいいぞ。」
「え、いいのか?じゃ遠慮なく。」
許可が降りたのでモフろうとすると手を叩かれる。理不尽だ。
「じょ、冗談だ!さっきの発言を撤回する。貴様、中身も少しおかしいぞ!」
「そんなこと言われても……。」
軍にいた頃はみんな許してくれたんだけどな。やっぱりジジイと陽さんのいう通り自分は同年代とのコミュニケーションが上手くないんだろうか。考えていると誰も利用しないはずの訓練場に人がやってくる。
「おーい、お前ら!」
「金剛先生!」
こちらに手を振りながら近づいてくる金剛と呼ばれた大柄の男。どんどん近づいてくるが本当に大きい。165センチは絶対にある俺の1.5倍くらいある。
「間に合わなかったか……。近藤、状況を説明しろ。」
「はっ!」
金剛の命令に従い、一花が経緯を説明する。やり取りから察するに、この人が顧問だろう。確かに、こんな人がペコペコしてたら俺も疑ってしまうかもしれない。
「わかった、報告ご苦労。まずは一花。済まなかったな、勘違いさせるような行動をとってしまった。」
「ココくん、君にもこちらの不手際で迷惑をかけた。許してほしい。」
素直に非を認め、その大きな体を丁寧に折り謝罪する姿はとても清々しい。ジジイが頼りにするわけだ。実力も見掛け倒しではないのだろう、顔を上げ鋭い眼差しをこちらに向ける。あれ?
「だが、こちらに過失があったとはいえ女性の身体にいきなり触るのは許されることではない。ココくん、しっかりと反省しなさい。」
「はい……。一花、改めて謝罪する。ごめん。」
「とはいえ、一花。お前はいつも考えるより先に行動に移ってしまうことが多いように思う。決断が早いのは美徳だが時に思慮の伴わないそれはいつか危険を招く。反省しなさい。」
「はい。二人ともすみませんでした。」
ぐうの音も出ない。エリートを教える教師もエリートなんだな。反省しながらアホなことを考えているのがバレたのか俺の方を向く。
「さて、時間も迫っているし説教はここまでだ。実技は今の一花との戦闘で十分だろう、ココくん学科試験を受けてきなさい。一花、案内を頼む。」
完全に忘れていた。どうしよう、勉強とか軍でろくにしたことがない。今からでも決闘の内容を試験合格に変えてもらうしかない。悲しい決意を固めていると前を歩く一花が振り向く。
「怒られてしまったな。だが色々あったとはいえ優秀な後輩ができて素直に嬉しいぞ。」
まさか俺が学科試験で落ちるとは思っていないのか、笑顔で語りかけてくる。流石に俺でもわかるこの雰囲気で言えるわけがない。
やるしかないんだ、武王として。




