タイトル未定2026/04/12 02:41
面談が終わり、マスターと大門は歩いていた。
歩きながら大門は、今日一日学校であったことをマスターに話をした。
マスターは大門の話を聞きながら、「大門君が呼び捨てで呼ぶというのは……」
担任の言葉が、胸の奥に響いていた。
やがてマスターの実家であり、昼間マスターが勤めている診療所が見えてきた。
「ボクはこのまま、仕事に戻ります。大門はマンションに帰ってください」
「七海、今日も遅いの?」
「仕事ですから。おまちさんと、待っていてください」
大門は、何か言いたそうに黙り込んだ。
「大門、言いたいことがあるなら言ってください」
「でも、今からお仕事でしょ」
「仕事より、大門が大事です」
「……あのね、大門ね……」
大門が打ち明けた言葉に、マスターは少なからず動揺した。
「そうですか……こんなのは、どうですか?」
マスターの提案に、大門はやっと笑顔を見せた。
「わかった!七海、お仕事頑張ってね!」
「はい」
歩き出そうとした大門は、立ち止まり振り返った。
「流花お姉ちゃんも、一緒でいいでしょ?」
驚いたマスターだったが、黙ったまま笑顔で手を振った。
午後の診療は始まっていた。
白衣を着たマスターは、少し遅れて自分が受け持つ診察室に入って行った。
後から後から、患者がひっきりなしに来て時間はあっという間に過ぎていった。
診療時間が終わり、患者が途絶えた時、マスターが受け持つ診察室に看護師長の紫野緑が来た。
緑は棚がある窓際に立ち、作業をしていた。
マスターは業務をしながら、緑に切り出した。
「今日、大門の面談に行ってきました」
「お疲れ様です」
「大門の担任に、大門がボクのことを呼び捨てで呼んでいるのを、指摘されました」
「確かに大門君先生のこと、呼び捨てで呼んでいますね。で、先生どうするんですか?」
「言われた時はさすがにハッとしたけど、今更お父さんと呼ばれるのも」
「お父さん」と呼ばれたマスターを緑は想像して、思わず吹き出した。
察したマスターも、一緒に笑った。
「他人がどう言おうと、今のままでいいです。それより……」
「それより?」
「大門が、携帯ゲーム機を欲しがっています」
「ゲーム!イマドキの子ね」
「いつかは、そう言う日が来るとは思っていました。でも、実際言われると少し淋しいです」
「そうやって少しずつ、親離れするのね。ゲーム機、買ってあげるの?」
「ルールや約束をしっかり決めてから、買うことにしました」
「それが、いいわね。大門君、納得した?」
「はい。納得しました。大門……」
「大門君が、どうしたの?」
「買う時は、白田さんも一緒にと」
「流花ちゃんね」
作業をしていた緑は、マスターの方を向いた。
「ゲーム機を買いに行く時、流花ちゃんが一緒だと、先生も嬉しいんでしょ」
マスターは照れ隠しをするように聞こえないふりをして、業務に集中をした。




