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第4話 再出発

 レイドの意識が戻った時、最初に見たのは宿屋の天井。相変わらず、木目が人の顔に見える。体を起こすと、サイドテーブルの上に小銭が入った布巾着。そして横には、見知らぬ少女が一人。いや、正確に言うと、つい先ほど出会ったばかりの少女だ。


「あ、起きた」


「わざわざ宿まで送ってくれたのか?」


「当たり前でしょ。君、あのままじゃ死んでたよ。明日生きられるか分からない人もいるのに、軽率すぎだよ。家族がいるんだったら置いて逝くことになるしさぁ」


「死んで……はっ、あの樹海の遺体は?」


「わたしが街の人たちに言っておいたから、ちゃんと弔ってくれると思うよ。今は珍しく晴れてるし早めに行動してくれるんじゃないかな。それよりさぁ、わたしに言うこと、あるよね?」


「あ、ああ。助けてくれてありがとうな。……俺、レイド=ロストマンだ。恩人の名前を教えてくれないか?」


「うん、よろしい。わたしはユウリ。ユウリ=メージスだよ」


 ユウリは緑色のふわりとした髪を揺らした。おそらく何らかの方法で人工的に巻いた髪は、幾つものピンで可愛らしく装飾されている。そのやんちゃさを助長するように、ニコリと笑った口から八重歯が覗いている。


「ユウリか。いい名前だな。ユウリはどうして樹海に?」


「うーん、わたしも酒場で依頼を受けて行ったんだよね。男の人が一人だと心もとないからもう一人行かせようってなってさ。だからそこの報酬、山分けね」


 ユウリはレイドの横に置いてあったずっしり重量を感じる布袋を指さした。山分けになって致し方ないかと、レイドは稼ぎの半分が流れることに肩を落とす。しかし、眼前のユウリと街の人が守られたのならプライスレスだ。


「にしし……なーんちゃってね。報酬は全部あげる。わたし、普段は路上で歌ってお金稼いでるから。それに、わたしが樹海に行ってたいうのも、レイドの後を追いかけたんじゃなくて、たまたまだよ。タイミングずれてたら二人ともやばかったかもね」


 無垢なように思えるが、案外いたずら好きなのかもしれない。最後の一言に至るまで、ケラケラと笑って面白かったと言わんばかりに楽しそうに話している。

 おおよそ死体を目にした人間の感情とは思えなかったが、生まれ育った環境次第では、見慣れてしまっている可能性もある。それとも気を遣っているのだろうか。


「ホントはね、幽霊の噂を聞いて行ってみたんだ」


「ああ、そういえば幽霊がどうとか言ってたな。あれはなんなんだ?」


「幽霊は幽霊だよ。死んだ人の魂が恨みによってこの世に縛り付けられた存在……って言えばいいのかな。あの幽霊、敵を攻撃することに何か執着してたね。恨みってのは執着だからねぇ。ねぇ、レイドって霊狩り?」


「たまがり? 何言ってんだ?」


 聞いたことのない語が飛び出した。しかし、実際に幽霊と対峙したレイドは、ユウリの言がスピリチュアル的な譫言だと断じるなど不可能だ。


「うーん、何も知らない人に説明するのって難しいんだけど、幽霊は向こうからこっちに働きかけることはできるんだよね。でも、こっちから向こうに干渉することは基本出来ないんだ。で、そこでこれ」


 ユウリは持っていた杖の先端部分を指さし、続いてレイドの剣の宝石を指さした。ユウリの杖にも、レイドの剣の宝石と全く同じ色合いの緑色の宝玉が輝いている。


「これ、結晶龍核っていうんだけど、これがあれば幽霊に干渉できるようになるんだ。その剣どこで手に入れたの? 結晶龍核って霊狩り以外使わない印象あるから、てっきりレイドも霊狩りなんじゃないかなって」


 レイドの剣はどうやら幽霊を斬ることに特化したものであったようだ。ここに来て初めて、剣の謎の一つが解明した。レイドの心の靄が、ほんのわずかではあるが取れる。


「これは俺がガキの頃に親父がくれたものだ。俺、親父の行方を追って旅しててな。現状、この剣以外に手がかりがないんだ」


「ちょっとよく見せてくれる?」


 このままユウリが剣の謎を解明してしまうのではないかという微かな希望に賭け、剣を見せた。鞘から僅かに引き抜くと、謎の紋章が露わになる。

 その紋章を見た瞬間、これまで口角がずっと上がっていたユウリの表情が変わった。これまでにないほど真剣な面持ちで一言。


「同じだ……」


「同じ? 何がだ?」


「あっ……」


 ユウリは慌てた様子で笑顔を取り繕った。無理をして笑っているようにも見え、本来の感情とは言えない。

 その様子を見たレイドは、これ以上踏み込んでいくのは倫理に反するような気がして、口を噤んだ。しかし、ユウリはおもむろに服をずらし、片方の肩を露出させた。


「お、おい、いきなりどうしたんだよ」


 ユウリの肩をまじまじと見つめるなど、変態行為そのものだが、レイドはユウリの肩にある『それ』が目に入ると、たちまち釘付けになった。

 ユウリの肩には、禍々しい赤黒い紋が焼印のように張り付いていた。見るも痛々しいそれは刺青や火傷の跡などではないだろう。


「これね、呪いの紋なんだ」


 しかし、二本の角が生え、口から何かを吐き出すその絵柄は、レイドの剣に刻まれた紋章と同じだ。


「呪い……だと? まぁ、確かにその紋章は俺の剣のとまったく同じだな」


「でしょ。わたしね、この呪いを解くために旅をしてるの」


「……そうか」


 ユウリはもっと疑問を突っ込まれると思ったのか、意外そうな顔をした。


 ユウリもまた、この紋に関する手がかりが得られずに彷徨っていたのは間違いない。レイドと違ってそう簡単に人に見せられる場所ではない。レイドに見せたのも、同じだと言いたかったからというだけではないだろう。


 同じ紋章に関する情報の欠片でも手に入るのなら、という微かな期待があったのだろう。レイドがユウリの立場でも、きっと同じ選択をしたはずだ。レイドは、その期待に応えてみることに決めた。


「深くは聞かない。でも、この機会は逃がせないよな」


 レイドはユウリに微笑みかけた。特に深い理由はない。レイドの顔を見たユウリは、作り物だった笑みが剥がれ落ち、素の笑顔に戻った。


「わたしたちの旅の目的、どこかで繋がってる気がするんだ。レイドのは剣の模様、わたしのは呪いの紋。全然違うのに、同じ紋章なの、偶然じゃない。だからさ、レイド、一緒に行こうよ」


 窓から差し込む陽光は、ユウリを明るく照らしている。次いで、ユウリは冗談めかして言う。


「それに、なんか君一人で行かせたらすぐ死にそうだし! わたしの目が黒いうちは、死んだら許さないよ」


「そりゃお互い様だろ。さっきだって首絞められてたのに俺を逃がそうとしてたしな」


「にしし……よろしくね」


 ユウリの白い歯が見える。この笑顔は間違いなく素直な表情だ。しかし、レイドにはまだユウリの本質が掴み切れていなかった。陽光に照らされるユウリの背後の影が、段々と伸びてきている。

 だがそれゆえ、真剣な表情の時に彼女の口から語られる言葉に信憑性が生まれる。ここでユウリと別れても、再び停滞するだけだ。それに比べたならば、共に行く方が遥かに良い選択だ。


「で、まずはどこ行くんだ? 解呪といえば教会だが……本当にソレ、解けるのか?」


「次に行こうと思ってるのは宗教都市グリマーベリーだよ。ドリザルトで一番大きな教会があるからさ。その辺の教会よりは可能性あるかなって」


「グリマーベリー……。聖槌教会か」


 ユウリと話している間にすっかり体調が戻ったレイドは起き上がり、腰に剣を提げた。この剣は父に貰ったものだ。これ以外の武器は、もういらない。


「もう大丈夫なの?」


「ああ。行こう」


 レイドは自分の旅路が、運命の歯車が、今ようやく動き出すのを実感していた。この先に待ち受ける真実が一体何なのか。この街の霧が晴れたように、その謎が晴れる日は、来るのだろうか。

 宿から出て、街の出口へ向かって歩いて行く。充てのなかった孤独な旅路が、今確かに意味を持った。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

現在第一章を鋭意執筆中です。

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