第8話 下川家
俺と藍川さんは一回家に帰りそれからまた下川家に向かおうということになった。
何故か藍川さんがついてきてる。
まさか、また俺の家に上がり込もうってんじゃないだろうな。
「ねえ、藍川さん。おかしいと思わない?」
「なにが?」
アイスを舐めながら答える藍川さん。
てか、それ俺の金で買ったやつ。
明日の夕食の食材を少し買っておこうと思ってスーパーに寄ったら普通に藍川さんもついてきてどさくさに紛れてアイス入れられてたやつ。
「……だからさ、望月先輩だよ。変だと思わない?いざ有栖先輩の家に行こうって言い出したら急に逃げ出すように二人で行ってきてとかいうし」
「本当に用事があったんじゃない?」
「いや、だとしてもおかしいでしょ。流石に、謹慎期間にメールで有栖先輩とはやりとりをしているでしょうし。会っていないっていうのもなんか引っかかるんだよね」
「考えすぎだって」
ギャハハと笑い出す藍川さん。
この人なんも考えてないんだな。
「あの角を曲がったら有栖先輩の家だよ」
角を曲がった先に見えたのは何の特徴もない普通の一軒家。
電気は……ついてるな。
2階の窓に電気が灯っていた。
よし、行くぞ。
俺達は有栖先輩の玄関の目の前で心の準備をしていた。
「あのね、藍川さん。最初から謹慎のことを聞いちゃ駄目だよ。まずは俺達がボドゲ部だってことを伝えてどうにかして有栖先輩の家に入るんだ」
藍川さんは少し怪訝な顔をする。
「琥太郎くんさあ、そんなん言われなくてもちゃんとわかってるから」
本当か?
不安なんだけど。
俺は家の前にあるチャイムを一回鳴らす。
……ピンポンー。……ピンポンー。
「……」
「……」
ガチャ
ドアが開く。
出てきたのは高身長で優しそうな顔をした男だった。
「あれ?どちら様ですか?」
この場の雰囲気に似合わないほど明るい声が響く。
「えっと、下川有栖先輩ですか?」
「先輩?ってことは……」
「はい、俺達はボドゲ部で部長の家がここと望月先輩にお聞きしたので……」
"ボドゲ部" この単語を聞いた途端明らかに先輩が動揺している。
やはり"何か"あるな。
「……そう、君達が新しい一年生か」
「はい、えっと俺が西條琥太郎でこっちが藍川陽葵さん」
有栖先輩は眩しい程の笑顔で答える。
「そうか、ありがとね。わざわざここまで来てくれて入って入って汚い家だけど今お茶入れるね」
想像した通り優しそうな人だ。
俺と藍川さんは有栖先輩の部屋である2階に案内された。
「はい、どうぞ。家の安いのしか無いけどごめんね」
有栖先輩はお茶と和菓子を皿に入れて持ってきてくれた。
「ありがとうございます!」
「今日来てくれたっていうのは――」
「先輩、来週から学校来れるんですよね?」
「その事だよね。うん、その通りだよ」
「一応、一年のボドゲ部員として顔を出しておこうと思いまして」
藍川さんは一見真剣そうに話を聞きながら和菓子をボリボリ食べている。
本当に俺はその姿に呆れながら、話を続ける。
「来週、ボドゲ部の部内調査が入るんですよ。それで先輩が来週いないとボドゲ部が合併になってしまうんですよ」
有栖先輩は申し訳なさそうに俯く。
そして、暫くの沈黙の後――。
「悪いけど、ボドゲ部に戻るつもりはないよ。昇華から聞いているだろ?僕は暴力沙汰で謹慎していたんだ。そんな奴がノコノコとボドゲ部に戻れないよ」
「知っていますよ、妹さんの為に庇ったんでしょう?」
有栖先輩は驚愕した顔で俺を見る。
……もしかして。
「何で言っちゃうんだよ昇華。絶対に一年生には言わないでって言ったのに――」
やっぱりそうか、有栖先輩から口止めされていたのか。
でも、その割には何の迷いもなく望月先輩はしゃべってくれていたけどな。
てか、絶対に言ったほうがいいと思うけどな。
何で、隠してるんだろう。
俺だったら誇りを持って学校の門で仁王立ちするけどな。
「あいつヤバ!」って言われても構わない。
……いや、やっぱ無理か。
そんなことを頭に巡らせていると。
有栖先輩は観念したように呟く。
「僕はね、本当は戻りたくないんだよ。ボドゲ部の部長にね――」
「「え?」」
俺と藍川さんは動きが止まる。




