第7話 謹慎の理由
「望月先輩一体どういうことか説明してくださいよ。部長が謹慎中ってどういうことですか?」
少しの沈黙の後――それは先ほどの自信のある声とは違い震えている……そんな声だ
「説明するも何も今の言ったとおりよ。ボドゲ部部長の下川有栖は暴力事件を起こし謹慎になった。これ以上のことはない」
望月先輩は投げやりにこの話題を避けようとしていた。
「望月先輩そんなんじゃ納得できないですよ。なんでそんな事件を起こした人がボドゲ部の部長なんですか!」
勢いよく問いかける藍川さん。
部長になるような人が暴力沙汰なんて何かあるとしか思えない。
「望月先輩今後のボドゲ部として何も知らない謹慎期間中の部長をいきなり向かい入れるなんて無理な話ですよ。お願いですから何があったのか説明して下さい」
すると、少し間を空けて喋り始める。
「……有栖が謹慎になったのは私のせいなんだ」
その衝撃的な一言に俺含め藍川さんの動きが止まる。
……部長が謹慎になったのは望月先輩のせい?
「一体どういう――」
「有栖は庇ってくれたのよ。私と彼の妹を」
所々途切れながら話す。
辛い話なのはわかる――が、話してもらわなければいけないのだ。
この事実を知らなければいけない。
***
「有栖、ボドゲ部合併になりそうだってさっき生徒会が」
有栖は欠伸をしながら、軽く答える。
「そうだな。でも、昇華。一人一年の子がボドゲ部に入りたいっていう噂があるとかないとか」
「曖昧すぎない!?それに部員は四人以上いないとダメなんだよ?」
「……うーん、確かにそうだな。積極的に勧誘しないとね」
「兄貴、帰ったの?」
不意に声にした方に振り返ると、金髪のザ・ギャルみたいな格好の女の子がいた。
なんなのよこの子。
有栖の妹?
「紹介するよ、僕の妹、凛だ。見た目はこんなんだけど本当はいい子だから仲良くしてあげてよ」
「あー、うんよろしくね凛ちゃん」
「よろしくね〜、てか、兄貴の彼女?結構可愛いね」
「あ、ありがとね凛ちゃん」
歩きながら凛の顔を覗き込む。
「凛、今日も平和に過ごしたか?」
「わかってるって」
「何その質問」
「凛はあと一回指導を受けたら留年なんだよ」
腰を抜かしかける。
「留年?」
「こう見えて私昔は結構ヤンチャしてたんだよ〜」
「コラ、自慢げに語るんじゃない。お前はちゃんと進学するだろ」
なんなんだろ、この会話。
普通に喋ってるけどすごい内容だ。
「じゃあ、私もう帰るね」
私は少し気まずくなり小走りで帰ることにした。
有栖にあんな妹がいたなんて――でも、根はいい子そうだったからちょっとずつ仲良くなるのよ。
でも、今日は無理だ。
その道の角に曲がる瞬間。
「うわっ」
いたた。ぶつかったの?
「あの、ごめんなさ――」
「おいおい、どうしてくれんだよ。怪我だじゃないか」
「そこは前から」
「言い訳すんのか?仕方ねぇな、このツケはお前の体で払ってもらうしかないようだなあ」
男は酒臭い息を吐きながら近づいてきた。
男は一歩また一歩と近づいてくる。
やだ、怖い。
……誰か助けて。
有栖助け――。
逃げようとしたところを後ろからハンカチで抑えられる。
まずい、息ができない。
誰か、誰――か。
「どりゃあ」
途切れ掛けた意識、声が聞こえる。
やった……誰か助けに来てくれたんだ。
「大丈夫?お姉さん」
この声……まさか。
「凛……ちゃん?」
「なんだよお前――」
「下がってお姉さん。ここは私がやる」
一度、凛が助けに来てホッとした。
が、先程の有栖との会話を思い出す。
もし、問題事を起こしたら凛ちゃんが留年する?
たとえ、私が擁護しても凛ちゃんと関係ない人のこと信じてくれるわけがない。
それに、凛ちゃんはヤンチャ信じてくれるのも一苦労だろう。
だ、駄目だ、起きないと。
「凛ちゃん。駄目だよ逃げて!!」
「わかってるよお姉さん。でも、大丈夫」
すると。
凛の蹴りが男の腹にめり込む。
空気を吐き出すような声を上げ、男の体が折れ曲がった。
その瞬間を逃さない。
凛の拳が一直線に振り抜かれ、男の頬骨に叩き込まれる。
「……ッ。舐めるなぁああ」
完全に怒り状態の男は徐に殴りかかろうとする。
しかし、それをヒョイと躱し、男の懐に入ると顎に一発。
男はみるみるうちに動かなくなる。
「ふう、大丈夫?お姉さん」
「ちょ、ちょっとその人!」
「大丈夫気絶してるだけ」
「凛!!」
その声が夜道に響いた。
振り向くと、そこには息を切らした有栖が立っていた。
安心感がある。
「うん、私は大丈――」
「お前ら何してんだ!!」
鳴り響く怒号。
辺りに緊張が走る。
「この声は――」
中年で小太りの男性が立っていた。
「下川!!また、お前か次やったら留年って言ったよな?」
この人が誰かは流れで不思議にわかった。
この場に一番いては駄目な人間。
「……先生。私――」
「あの!!これ僕がやったんですよ。」
有栖は男に馬乗りになっていた。
すでに気絶している男の顔に拳を振り下ろしている。
まるで、本当に自分がやったかのように。
手には血を付着していた。
「先生?だかなんだか知りませんけどそんなに突っかかるなら僕がぶっ飛ばしますよ」
「……ッ。警察だ。警察を呼ぶんだ。」
その後、何度も事情聴取をされた。
私はこう答えるしかなかった――妹の凛ちゃんがナンパされてそれを見て怒り狂った有栖が男をボコボコにした……と。
***
話し終えた望月さんは妙に先程よりもすっきりした表情だった。
「……なんていい人なの有栖さん――ズビビビ」
藍川さんがハンカチを片手にボロ泣きしている。
「優しい人ですね」
思っていた話よりもずっといい話だった。
妹のためにそこまで……有栖先輩を今の自分に重ねる。
望月先輩は「フンッ」と鼻を鳴し、泣いている藍川さんを優しく撫でる。
「あの、有栖先輩の家に行きませんか?」
「え?」
「望月先輩はその時以来有栖先輩に会いましたか?」
「いや、会ってないけど……」
「じゃあ、会いに行きましょうよ部長にボドゲ部に入って一度も部長に会ってないっておかしいでしょう?」
望月先輩はあまり乗り気ではなさそうだ。
だが、藍川さんはというと。
「賛成!賛成!早く会いに行きましょうよ」
「悪いけど二人だけで行ってきてくれない?」
望月先輩は俯きながらいう。
その俯いた表情からただならぬ雰囲気を感じ理由を聞くのをやめる。
「……わかりました。じゃあ、藍川さん有栖先輩の家に行こう」




