第5話 ヒーロー
鳴り響く怒号。
この声にはなにか安心感がある。
「なんだあ?……ん?」
その男は黒帯をつけた藤平を見るや否や、一歩また一歩と引き下がる。
「なんだ、てめぇら。俺の親友を傷つけたんだ。お前らはそれ以上のことやられても文句はねえよな!」
「……ッ。クソ……」
すると、男は焦るように逃げる。
だが、藤平に逃げ切ることはできない。
男が逃げる瞬間。
藤平は肩に掛けていたバッグを掴むと、逃げる男に向かって全力で投げた。
そのバッグは見事男の頭に直撃した。
すごいな、柔道部。
「まだまだ、こんなもんじゃねえぞ!!」
藤平は男に馬乗りになる。
胸ぐらを掴み、そのまま地面に叩きつけた。
ドッ。ドッ。
鈍い音が夕焼けの空に響く。
「……ク、クソ。またかよ―許してくれ頼む」
男は血だらけな顔で懇願する。
「琥太郎に謝れ。そして、琥太郎達にはもう近づかないと誓え!」
「誓います誓いますお願いします!!本当に許してください」
藤平は俺の方をクルッと振り向く。
「どうする琥太郎?こいつ許すか?」
「ああ、もちろん。許すさ」
俺は男の方へ歩く。
どんなに俺が殴られようと、どれだけ俺が傷つこうと別にどうってことはない。
だが、これだけは絶対ダメだ。
それは俺の家族に手を出すこと。
特に泰葉だ。
「これだけは誓ってくれ。もう、泰葉達には近づかないと」
「ああ、もちろんだ。必ず約束は守る。だから頼む俺を許してください」
俺はゆっくり男に顔を近づける。
そして、おでこに人差し指を突きつける。
「次、何かしたら――俺は藤平を止めない。
……どういう意味かわかるよな?
次やったら殺す」
***
「ありがとな、藤平。お前がちょうど来なかったら結構危なかったよ」
「本当だぜ、琥太郎。俺がいなかったらどうなってたやら。で?なんでどうしてこうなったんだ?」
「まあ、ざっくり説明すると俺の妹が痴漢されたから俺が見境なく殴りに行ったみたいな?」
「お前カッケェよ」
藤平は満面の笑みでグーサイン。
俺はそれに応えるように同じグーサイン。
「で?琥太郎よお、怪我は大丈夫なんか?」
「あ……ああ、頭がぼーっとするけど大丈夫だ」
俺は遥か遠くに聞こえる藤平の声をなんとか聞き取る。
「それ駄目なやつだろ!!」
「……藤平。これから慶賀って呼んでいいか?なんとなく慶賀のほうが呼びやすいからさ」
「今!?別にいいけどさ。お前本当に大丈夫なん?」
「慶賀、本当にありがとう妹を救って――くれ――て」
そこで意識が途切れる。
***
カタッ、カタッ。
なんだろうこの音。
聞き馴染みがあるような――いや、これはチェスの音か?
誰だ?この人。
ぼやける視界の中で一人の俺と同じぐらいの男がいる。
……何か言っている?
それになぜだろう。
この人を見ていると胸が痛くなるのは――一体なぜだろう。
「……いちゃん。おに――いちゃん。お兄ちゃん!」
「……んんぅ?泰葉か?ここは?」
そこには知らない天井があった。
ここって――うわ!?
俺流されるままに二人に抱きつかれる。
一人は泰葉もう一人は……
「もおぉ、急にそんな出来事に巻き込まれるなんて心配するじゃない」
「お兄ちゃんぁぁん。ありがとぉぉぉ」
泣きじゃくる。
二人を宥める。
「泣かないでよ、これぐらい当たり前のことだから多分もうあいつは襲ってこないから安心して」
泰葉はまだ抱きついたまま離れない。
「あなたあれから1日寝てたのよ。多分、その怪我なら数日経てば治ると思うって先生がだけど、無理するんじゃないよ。それと……あの藤平って言う子にもお礼を言いなさいよ。あなたをここまで運んできたんだからね」
「慶賀が……うん、わかったよ。俺の友達なんだ。次会った時にまた礼をするよ」
「じゃあ、私と泰葉はもう行くからしばらくは安静にしておきなさいよ」
俺は笑顔で頷く。
一通のメールの通知オンが届く。
……ん?
藍川さんからだ。
なになに〜。
「琥太郎くんさあ、あなたが来ないと私が負けたまんまなんですけど、早く治して部活にきなさ〜い(怒)」
「勘弁してください(悲)」




