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盤上の翼  作者: なぎさ
33/45

第33話 置いてかれる



「う、ん?」


 夕焼け色に染まる太陽が俺の目を照らしたことで、俺が寝ていたことに気づいた。

 どうやら遊び疲れて寝てしまっていたのか……。

 記憶を辿ってみると、そういやみんなが海で遊ぶのを見ながら砂で城作ったりとかしかしてないな……。

 悲しすぎだろ!

 深くいきすぎると溺れるから浅瀬で水をピチャピチャすることしかできないのだ。


「……」


「……あれ?」


 俺はこの場の不自然さに違和感を覚えた。

 静かすぎる……。

 というか――みんなどこ?

 辺りを見回して見覚えのある顔を探すが、誰もいない。

 てか、人っこ一人いない。

 ……なんで?

 そして俺は考えたくもない真実に辿り着く……。


「……俺、置いてかれた!?」


 ***


 不本意に告げられた衝撃の事実に悄然とする。

 ……俺、なんかやらかしたか?

 泰葉のあの時の顔が、妙に引っかかる。

 すごい、悲しいんだけど。

 どうしようこれで帰ったら「お前の場所ねぇから」とか言われ出したら……。

 そうしたら、そうだな。

 ここから泳いで帰ろ。

 気づけば玄関に立っていた。

 胸の音が、うるさい。


「〜〜〜〜」


 何やら玄関で誰かが喋っている。

 恐る恐るドアを捻る……。

 そこに広がっていたのは俺の想像した剣呑とした雰囲気ではなく、和気あいあいとした雰囲気だった。

 ご飯のいい匂いが鼻をくすぐる。

 藍川さんが真白さんと何やら喋っている様子だ。

 俺に気づいていないのか、真剣な様子で語り合っている。


「……あのぉ、お二人さん?」


 二人の会話を遮るように小さく呟く。

 すると、二人は俺を見るなり「ああ!」と驚愕した。

 俺、幽霊かなんかなの?

 自分の頬を手で触れてしっかりと生きていることを確認すると、今一つ理解が及ばない俺は頭を掻く。

 二人は準備ができたのかニコニコとこっちを向く。


「琥太郎くん」


「……琥太郎」


「は、はい……」


「「おめでとぉおおおおおう」」


 クラッカーがパンパンと俺に向かって鳴らされ、頭の上に紙吹雪が大量につく。


「えっと、これってどういう――」


「パーティーだよ。パーティー、今日で合宿最後でしょ。だから最後くらい盛大にパーっとやるの――」


 藍川さんが勢いよく手を宙に突き出すが、後ろにいた先輩方二人が慌てるようにゴニョゴニョと何か話している。


「あー、ごめん。琥太郎くん。間違えた」


 間違えたとは?

 俺の頭についた紙吹雪を一つ一つ取っていく。

 まあ、パーティーかいいねぇ、合宿最後だし、いい思い出作りたいもんな。


「泰葉ちゃんと優子さんで豪華なご飯を作ってるから楽しみにしててね」


 真白さんが可愛らしくウィンクする。

 ……楽しみだなぁ。


「……そうそう、僕もちょろっとご飯みたけど、凄かったよ。きっと琥太郎くんにも気にいると思うよ」


「……最後みんなで楽しもうよ」


 望月先輩がそう呟くと「お兄ちゃーん」とエンジェルボイスが家中に響く。

 俺が台所へと向かうとエプロン姿の天使がいた。


「お兄ちゃん、おかえり。もうすぐできるから椅子に座っててね……」


「……うん、待ってるよ」


 俺はそう返事をすると、食卓の椅子にポツンと座る。

 なんで俺置いてかれたのだろう――。

 ま、いっか……。

 みんなそんな気にしてなさそうだし、尚且つ楽しそうだし、泰葉たちが楽しい思いをしてくれたなら、それはそれで十分だ。

 俺は適当にスマホで動画を見ながら時間を潰す。

 いつの間にか藍川さんや真白さんに両隣に座られてサンドイッチ状態になったが、気にしないようにスマホをスワイプし続けた。


「ねぇ、琥太郎って家って動物飼ってたことある?」


 隣の席に座る美少女釜石真白が綺麗な白い髪を靡かせながら聞いてくる。

 相変わらず距離が近いのなんの。

 真白さんの甘美な香りがゼロ距離で鼻をつつく。


「昔、猫を飼ってたかな……」


「へぇ〜」


「……」


 え、終わり!?

 さすがにまだなんかあると思ってけど……。


「てかさ、真白ちゃん。琥太郎って呼んでるんだね。今までこーた呼びだったのに――呼び方、変えたんだね」


「……」


 再び剣呑な雰囲気になってしまった。

 なんで!?

 さっきまで和やかな雰囲気だったのに、今のこの数分で地獄絵図みたいになってしまった。

 すると……。


「はーい、お兄ちゃん♡」


 パンっと机の上に出された豪華なご飯がズラリと並ぶ。

 両隣から「わぁ」と嬉しそうな声がした。

 ふぅ、よかった。

 この一瞬で弛緩した雰囲気となる。


「美味しそう……」


 じゅるりと藍川さんのヨダレが垂れかける。

 いくら藍川さんでもこの量はさすがに俺の分までは食べられないと思う、多分。


「すごいなぁ」

 

 そう呟きながら、先輩二人が向かい側の席に座る。

 泰葉はエプロンを外しながらこっちを見ながらむー、と可愛く唸る。

 どうやら俺と隣に座れないのが不満なようだ。

 ……ごめんさい。

 泰葉は向かい側の先輩たちの横にポンっと座る。

 有栖先輩がパンっと手を叩く。


「みんなお疲れ様。色々ハプニングがあっけど、最後まで楽しもう!」


 有栖先輩の合図が食事をスタートさせた。


 ***


 どれくらい経っただろうか。

 みんなは満腹になったのか各々ソファーなどで座っている。

 俺はというと、藍川さんに盗られる――なんてことはなく、普通にお腹いっぱい食べることができた。

 それよりも怪しいのが藍川さん然りみんなが俺をチラチラと一瞥してくるのがとても怖い。

 それに泰葉の姿が見えないのが心配になる。

 心配だ、少し探すか。

 ゆっくり立ち上がろうとした時――。


「琥太郎くん。座ってなよ」


「えっと、なん――」


「座ってなよ」


「……はい」


 藍川さんの圧に負けジッと座り込むしかない俺。

 そのままジッと待つこと数分――。

 不意にタオルのようなもので目を隠される。


「え?ちょ、まっ――」


「琥太郎!お願いだからじっとしててね」


「……はい」


 真白さんの緊迫した声に、俺は困惑した。

 何これ……。

 一体なんの罰ゲーム?

 タオルが目に巻かれてから数分後――。

 何かを隠しているような、妙な気配が漂っている。

 ガサゴソと音はするものの何をしているのか全くわからない状態だった。

 何か、甘い香りがする。

 これはもしかして。

 甘い香りの正体を言おうとした瞬間――。

 勢いよく俺のタオルが取られるが、明かりが消えていて辺りの状況を把握することができない。

 その時パチっと一つライトが一人の人物に集まる。

 黒いサングラをかけた有栖先輩だった。

 そして声高らかに俺の方に微笑みかける。

 有栖先輩は一度、会場を見渡して――。

 


「……今合宿のMVPを発表したいと思います!」


 何してんだあの人……。

 俺は「はぁ」と嘆息を吐くが、周りは「イェーイ」とか「パプパフ」などこの場を盛り上げている。


「「だ〜れ」」


 みんなのボルテージが上がるなか、有栖先輩はフッと笑みを漏らす。


「今回のMVPは熱中症でみんなを颯爽と助け、千宮と生徒会との因縁に終止符を打ってくれた――」


「お兄ちゃんだぁああ!」


 パンッ、パンッ。


 クラッカーが鳴り響く。

 泰葉が俺に向かって飛び付いてくる。

 未だ状況が理解できずポカンと呆然とする。


「どういう――」


 藍川さんが何か甘い香りの食べ物を俺の口に放り込む。

 ……ケーキだ。


「ほら、これみんなで作ったの――どう、かな」


 少し恥ずかしいそうに俯く藍川さん。

 ケーキの上に、チョコで文字が書かれている。


 ――お兄ちゃん、いつもありがとう。


 その文字を見た瞬間、思考が止まった。

 俺のために作ってくれたのか……。

 それなら家に入ってからの疑問点も腑に落ちる。


「ま、まぁ、勿論さ泰葉ちゃんが頑張ってくれたってのもあるんだけど――みんな琥太郎くんの為に頑張って作ったの。い、いつもありがとね」


 赤裸々に語る藍川さん。

 俺はみんなの顔を見渡す。

 みんなニコッと俺に微笑んでくれる。

 ……我慢だ、まだ我慢しろ!


「……本当にありがとうございます。それじゃあ全部貰っちゃいますね!」


「「全部!?」」


「嘘です、でも、全部食べたいくらい。嬉しいです」



 俺は泰葉の頭をポンポンと撫でながら出来る限りみんなに微笑みかける。


「あ、すみません。俺さっきからトイレ行きたかったので行ってきますね」


 逃げ出すようにトイレに駆け込む。

 うぅ、みんな俺のためにそこまで……。

 置いていかれたと思った。

 俺の居場所なんて、最初からなかったんじゃないかって。

 ……でも違った。

 ちゃんと、ここにあった。

 俺のために、こんなことまでしてくれる場所が――。


「……ッ、ありがとう」


 大量の涙が俺の目から溢れる。

 泣いているのがバレないように口元を必死に抑えるが、それでも嗚咽が漏れてしまう。

 ……本当に感謝を伝えきれない。


 ***


 涙を拭き取り心の準備もできた。

 よし、そろそろ出るぞ。

 勢いよくドアを開けると「イタッ」と泰葉の声が目の前で響く。


「お、お兄ちゃん?遅かったね……」


 泰葉が笑顔で出迎えるが、よく見ると額が赤く腫れていることがわかる。

 俺はその様子に笑みを溢さずにはいられなかった。


「……くぅ〜、笑うなぁ!」


 今度は顔が赤くなる泰葉はポカポカと俺を叩き始める。

 その様子に笑みをこぼしたのは俺だけではなく。


「泰葉ちゃん。何してるの〜」


 真白さんが煽るように口元を抑えて笑っている。

 ボドゲ部が再び暖かな雰囲気に包まれる。

 あー、楽しいな。


 ……好きだな、この部活。

 俺は残り涙を一粒落として勢いよくみんなの場所へ向かう。

 

 


 

 

 

 


 

 

 




 


 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


 

 

 

 

 

 


 

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