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盤上の翼  作者: なぎさ
30/45

第30話 責任


 チリリリ、チリリリ。

 

 俺の耳元で大音量のアラーム音が耳を揺らす。


「うるさ!」

 

 アラームのうるささでつい飛び起きてしまった。

 泰葉の方を見ると寝相が悪すぎて寝てるうちに体が反転して、俺のお腹に足が乗っかっていた。

 寝相が悪いのも昔から変わって無いな〜。

 相変わらず可愛い寝顔だなっ。

 恋人だったら絶対抱きしめてた。

 それにしたってまだ六時だってのに……。

 俺は頭の中で昨日の出来事を反芻する。

 あれぇ、思い出さなきゃよかったかな。

 頭の中で後悔するもそれが無意味だということに気づき、再び布団に入る。

 昨日あんなことがあったといいのに朝っぱらから運動なんて……絶対無理!

 が、それと同時に天城さんの野望を思い出してしまう。


「はー、もう仕方ないな」


 体をムクっと、勢いよく起こして運動服に着替える。

 もう、行きたくなっ。

 そういうことを考えているうちに"例"の場所に足を運んでしまっていた。


「さすがにいないでしょ……」


 そんな微かな希望を胸にあたりを見渡すが……。

 いない。

 いないぞ、よし!

 さぁて、早く帰って妹の可愛い寝顔でも見ようかな。


「……西條さん?」


 背後からいつもは可愛らしい声だと思っていたが今では俺の中で悪魔のどす黒い声に変換されてしまう。

 あー、そうだ。

 ここは気づかないふりをして普通に帰って、次会った時に「え?天城さんいなかったよね」で突き通そう。

 無理かな?いや無理だな、うん。

 だが背に腹はかえられない無視しようと再び歩き出そうとした時……。


「西條さん!!」


 今度はもっと野太く怖い悪魔ボイスだった。


「ひぃい、あ、悪魔」


 これには思わず尻餅をついて戦々恐々と天城さんを見るが、何か違和感を覚えた。

 ……あれ?

 こんなに痩せてたっけか?

 昨日見た時はもっと……。


 

「……なんだ気のせいか」


「なんだってなんですか!分からないですけど何か失礼なことを考えてましたよね!?」

 

 天城さんが俺を冷たい視線で俺を上から見下ろす。


「……ま、それはさておき。約束の通りやりますよ」


 やだよー、やりたくないです。

 俺はひたすらに天城さんの目に訴えかける。


「やりますよ!!」


「はい……」


 そして地獄のダイエットが幕を上げたのである。


 ***


「はぁ、はぁ、き、きつい」


 案の定、俺は数十分足らずで壁にもたれかかっていた。

 ……知ってたよ、こうなるってわかってたもん。

 神は俺にボドゲと料理の才能だけ与えて運動能力は小学生同等かそれ以下のレベルって、神酷すぎないか。

 改めて自分の運動音痴さに嘆息をつきながらも俺を待っている天城さんの所までノロノロと走る。


「はやくー、遅いって……」


「はぁ、なんでそんなに走れるんですか」


 しまった、これは愚問だった。

 バスケ選手になんでそんなに上手いんですかと聞いているのと一緒だ。

 天城さんは「え?」と小首を傾げている。


「なんでってそんなの決まってるじゃないですか」


「そ、そうですよね。当たり前のことを、すみません」


「生徒会長になるために毎日走っているからですよ。でも最近はもう一つ理由が増えたんです……」


 天城さんは何故か頬に朱を刺し顔を逸らしながらモジモジと何か言いたげに口を動かしている。

 そして大きく息を吸い俺の目をしっかりと見て呟く。


「き、気になる人ができたんですよ……」


「……え?」


 全く予想だにしなかった理由に思わず呆気に取られる。


「私、今まで"好き"という感情を持ったことがなかったのですが……常に孤高で友達がいなかった私に、あれだけ酷い罵声を浴びせた私に、友達になってと言われた時。す、好きになってしまったんですよ。それでダイエットをして痩せた私を、私だけを見ていてほしいのです」


 天城さんは好きという感情を吐露したからか顔を覆い隠している。

 俺の方をジッと見る。

 どんな魔法かこの瞬間天城さんの瞳から目を逸らすことが出来なかった……。

 そういう事を言われると一瞬、俺のことかと思ってしまう。

 思わず目が合っていた顔を横にずらす。

 真白さんとはまた違った可愛さだ。


「へー、好きな人ってこの高校にいます?」


「そ、そんな恥ずかしいことを……」


「そんな恥ずかしいですか!?高校くらいは教えてくれてもいいじゃないですか」


 頬を赤く染めながら俺の顔を逸らす。

 そして暫くの沈黙の後。


「……はい、この高校で私と同じクラスです」


「え!俺と同じクラスの男子ってことですよね」


 天城さんはコクっと頷く。

 誰だろうか一軍男子か?

 いや、違うか……。

 天城さんあそこらへん嫌いそうだしなぁ。

 俺は一人の友人を思い浮かべる。

 え?

 もしかして、あるのか?

 あいつにも"春"が!!


「ちなみに西條さんのお友達の藤平さんじゃないですよ」


 そんな希望はあっけなく簡単に打ち砕かれた。

 天城さんはふふっと微笑む。

 ……むぅ、あいつに春が来るのはもう少し先のようだ。


「いきなり話変わるんですけど、勝負は大丈夫なんですか。先ほどから気になっているのですが……」


「いきなりですね。……まあ、はい、それに関しては全然大丈夫ですね」


 俺があまりに余裕のある答えだったからか口元に手を当てて苦笑している。

 それよりも……。


「生徒会長のこと、前から知ってたんですか?」


 天城さんは悲しそうに俯く。


「ええ、知ってました。昔から女関係にはだらしなくて、彼女が五人いるとか噂があるくらいですからね」


 どれだけいるんだよ。

 その五人の彼女さんが可哀想と思ってしまう。

 すると少し微笑を浮かべながら「まあ」と続ける。


「私に隠れて影で豚とか悪口を言っているのもわかっていました。それで何人か生徒会やめたくらいですしね……どこまでも憎たらしい人です。それでも彼は私が口を出せないほどに完璧でみんなの、私の憧れの人でした。それだけの力がありましたからね」


「……」


 天城さんの悲しそうな目がより一層この場の雰囲気を重々しくのしかかった。

 ……クソ、だからって、だからってアイツを許せるわけないじゃないか。

 ギリギリと震えるほどの力で拳を握りしめる。

 不意に俺の手を優しく包む。

 そして強く訴えかけるようにそして力強い瞳で……。


「勝ってください。負けを知らないあの人に、約束ですよ……私の初めてのお友達の西條さん」


「はい、必ず勝ってみせます」


 天城さんはニコッと微笑む。

 俺は優しく包んで天城さんに応えるよう強く握りしめて。

 天城さんのこの熱いほどの思い、責任。

 確かに受け取りましたよ天城さん。

 もし負けたら……。

 俺は頬をパチっと叩く。

 しっかりしろ。

 負けたらじゃない、勝つんだ。

 みんなの思いを噛み締めて。

 ……勝つから見ててくださいよ。


 誓いを立てながらその重々しい"責任"を背負ってもう一度呼吸を整えて砂浜を蹴っていく。



 



 

 

 


 

 

 

 


 

 



 

 


 


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