第26話 宣戦布告
「ねぇ、どこ行ってたの?」
藍川さんは朝ごはんであるパンを貪りながら言う。
俺が帰った時には全員が食卓に集合していたのだ。
何故か冷ややかな目で見られつつ椅子に座った。
そこで藍川さんと真白さんに尋問を受けさせられている。
……俺なんか悪いことした?
「ドコモイッタイヨォ」
「絶対行った奴じゃん!」
藍川さんは相変わらずご飯を口いっぱいに頬張る。
……ゆっくり食べたらいいのに。
なんでこう食べ急いじゃうかな。
向かい側の席である藍川さんに冷ややかな目を向ける。
俺は藍川さんに睨まれそうになったので咄嗟に目を逸らす。
不意に横から柔軟剤のいい香りが鼻を通り抜ける。
「私も気になるなぁ〜こーたくんの言ってた場所」
俺の鼓動が早まる。
そんな可愛い声で言われると言いたくなっちゃうな。
てか、言っても良くない?俺にデメリットないじゃん。
……だけど、天城さんとの野望をここでバラすのは無粋というものだな。
「ま、まあ、散歩だよ散歩」
「ふ〜ん」
顔がすぐ真横にある。
真白さんって息もいい匂いなのか。
そうキモい雑念を自分のほっぺを強く握って消していく。
さすが学年一の美少女真白さん……どうにか俯くことで真白さんの強攻撃を耐えることができた。
「そ、それより今日は待ちに待った海ですね」
「そうだねぇみんなの初めてのボドゲ部としての合宿、楽しみだ」
望月先輩が腕を組みながら呟く。
去年はボドゲ部として行ってなかったのか。
二人だけだったしな。
実際のところ夜とかどうしてたんだろう。
「ちゃ〜んと水着持ってきましたからね。着るのがとても楽しみです」
泰葉が水着を取り出してみんなに見せる。
へぇ、泰葉の水着って黒ビキニなんだ。
攻めすぎだろ……誰落とす気なんだ。
泰葉の彼氏は俺を通してからじゃないと認めません!
俺がそう決意を固めると。
有栖先輩がパンッと手を叩く。
「さあ、そろそろ行きますか」
有栖先輩の合図と共に俺たちは一斉に立ち上がる。
藍川さんが元気よくジャンプする。
「それじゃあ、行こう!海に!」
しかし海という選択がこの合宿を大きく茨の道に進ませるのだった。
***
「きたぁあああ。海だぁああ」
元気よくはしゃぐ藍川さん。
藍川さんは茶色い色の露出の多い水着だった。
俺はピーチパラソルの中からまじまじと見つめる。
いや、別に気になってないけどね。
どんなのきてるかなって確認しただけだからね?
すると、藍川さんの横で光眩しい天使がいた。
「うふふ、こーたくんもこっちおいでよお」
真白さんの透き通った白い肌+露出の多い白ビキニ。
これがどういう事が起きるのか……もうお分かりだよね。
イケてるヤンチャ集団が真白さんを中心に溢れ返している。
「ねぇねぇ、俺らとお茶しない?奢るからさぁ」
「……結構です」
キッパリと断る真白さん。
そしていつもの通り畳み掛ける。
「私は貴方のようなだらしない男とは関わりたくないんです。まずその臭い口臭から直してみては?」
あぁ、真白さんもうやめてあげて。
もうやめて!男のライフはゼロよ。
男はよほどショックだったのか呆然と立ち尽くしている。
さすがに可哀想だな。
というか、ナンパって実際成功するのかな。
俺は無駄な事で逡巡していると。
別の方がら幸せオーラを感じ取る。
有栖先輩と望月先輩が鬼ごっこのようなことをして笑い合っている。
あー、なんだ、ただの夫婦でのいちゃつきか。
……泰葉はどこ行ったんだ?
あたりを見渡すもどこにもいない。
藍川さんや真白さん方にもいない。
一体どこへ……。
「……な、なに」
いた……が、そこには泰葉と背の高いイケてる男の姿があった。
あの男どこかで……。
クソ!いや、待て。
よく見ろ何か話している。
この前の泰葉と真白さん勘違い事件のように俺の勝手な勘違いで巻き込んだりしたら大変だ。
ここはこっそり近付いて聞き耳を立てよう。
「へぇ、あの琥太郎くんの妹さんかぁ。天城には聞いてたけどまさかボドゲ部がこんなにも可愛い子揃いなんて……羨ましいな。うちの天城と交換したいくらい」
なに?
俺を知っているだと。
それに天城さんの名前まで……。
もしかしてあの人。
「天城さんって“あの体型で”よく頑張ってるよね正直迷ったんだよねぇ、天城がどうしても生徒会に入りたいっていうから仕方なく入らせたんだけど……やっぱ入れない方がよかったな」
俺の中で何かが途切れる音がした。
それは今の天城さんへの侮辱と……天城さんが目指す生徒会長千宮参賀という男への怒りだ。
思い出したぞ……あの顔。
学校では気持ちいいぐらいに感じが良く成績優秀スポーツ万能で学校全体の顔とまで評される男のはずなのだが裏ではこんな奴だったとは。
奥歯が軋む。気づけば拳に力が入っていた。
俺は怒りに身を任せて飛び出そうとする。
「私は貴方の言っている事が理解できません。生徒会長という立場でありながら、同じ生徒会である天城さんをなんでそんなふうに侮辱するんですか!!」
千宮は泰葉に向かって嘲笑する。
「ハッ、侮辱?されて当たり前の奴だろあいつは……そんな事より泰葉ちゃん。これから俺の家の別荘で遊んでかない?どうせつまんないでしょボドゲ部なんて」
「……」
泰葉が俯いて怯えている。
恐怖で体が震えている。
「さあさあ、行こうよ」
千宮が無理矢理、泰葉の肩を掴もうとする。
「……ちょっとやめて。誰か、助けて!」
「クソ野郎!」
――ダメだ、ここで殴ったら終わる。
でも、それでも。
俺は千宮に向かって飛び膝蹴りを喰らわせる。
生徒会長?そんなの知らないね。
泰葉に手を出す奴には絶対に許さない。
いや、そんな甘ったるいもんじゃない――殺す。
喰らった千宮はよろめいて後ろに倒れ込む。
「……ッ」
「生徒会長なに泰葉に手出してんだ」
「うん?君は――琥太郎くんだっけな。どうしたんだい。そんなに声を荒げてそんな事性に合わないだろうに」
「おい、手を離せって言ってんだよクソ野郎。さっさと泰葉から離れろ」
「はい、離したよ。そんなに怒んないでよ」
泰葉は怯えるように走って俺の後ろに隠れる。
……わかる。
泰葉の気持ちが痛いほど。
その手の震えから、その俺を強く抱きしめる泰葉から、怖かったんだろうな。
泰葉を優しく頭を撫でる。
俺の声により辺りに人が集まってきた。
その中には……みんなもいて。
「ちょっと琥太郎くん!?」
藍川さんの呼びかけで少しだけ冷静になる事ができた。
「藍川さん離れてて」
俺の声の荒げているからか、少し怯えた表情でこちらをみている。
……ごめん藍川さん。
でも、許せない、こいつを――。
俺は座り込んでいる男。
千宮の胸ぐらを掴む。
「さっきの、全部だ。謝れ」
「はぁ、聞いてたのね。めんどくさいなボドゲ部ってさ」
反省する気がない言動に再び怒りが込み上げてくるが、俺は一度冷静になりそしてもう一度千宮を睨みつける。
「怖いなぁ、琥太郎くんってそんな子だったっけ?」
「……」
「まぁ、いいや、それよりさ琥太郎くん生徒会に入らない?」
「は?」
「だからさ琥太郎くんって実際天城さんより頭いいじゃん?それに可愛いお友達たくさんいるじゃん」
千宮は横にいる真白さんと俺の背後でうずくまっている泰葉を一瞥する。
……こいつッ。
考えを改めなければいけない。
こいつは本当に人として人間として終わっている。
「琥太郎くんさ、ゲームしない?」
「なんだと……」
今度は何を言い出すんだ。
「君がボドゲ部ということでちょっとしたゲームだよ。琥太郎……君の1番得意なボドゲで勝負だ。負けたら君が天城さんの代わりに生徒会に入ること勝ったら……うーん、そうだね。なんでもいうことをきくよ」
「そ、そんなゲームなんて――」
「やってやるよ」
「え?」
泰葉が声を震わせながら俺を見る。
あぁ、わかってる。
わかってるさ。
俺は千宮に向かって指を突きつける。
「勝ってお前に泰葉のことや天城さんの失言を地べた舐めさせながら謝らせてやる」
勢いよく宣言すると千宮は嘲笑する。
「いいだろう。決戦は明日の一時ここで集まろうじゃないか」
どんどん俺たちの周りに人が集まってくる。
――決戦は明日。
「これ、どういう……こと」
天城さんが片手にアイスクリームを持ちながら呆然と立ち尽くしている。
千宮はフフッと気持ちが悪い笑いをする。
「それにしても君は妹想いなんだねぇ。私が勝った場合の追加条件に私が泰葉ちゃんの彼女になるというのはどうだい?そんな事想像するとよだれが止まんないなぁ」
初めてかもしれないこんなにも受け付けない人間は。
……こんなにも気持ち悪いと思った人間は。
泰葉が先ほどより増して震えている。
怒りより恐怖が――。
だが、今の俺は怒りが勝っている。
そんな好き放題言われて黙っている俺じゃない。
「……二度と口を聞けないようにしてやるよ」
「どうなってるんだこれ」
そこには有栖先輩と望月先輩が俺たちを見て愕然としている。
「なんでお前がここに……千宮!!」
有栖先輩の悲痛な叫びは血の滲むほど睨んでいた俺の耳には届かなかった。
――絶対に勝つ。




