第24話 Ito した夜
「うーん、端的に言えばそうかな。それよりさ――」
「いや、先行けないから!」
俺はこの剣呑な雰囲気からなんとか朗らかな話題にするため、この話題をすぐに遮ろうとするが――。
作戦は藍川さんによって失敗したようだ。
この話題は俺にとってあまり触れられたくないのだけれど……仕方がないここはみんなに手短に話して気を逸らそう。
「そうですね……平たく言うと、俺は小学三年生ぐらいの時から記憶がありません。つまり、真白さんと出会う前からですね。まぁ、ここからはいつも通りって感じです。……ただ、それだけですよ」
俺は知っている全部の情報を滔々と語る。
望月先輩は気難しそうに頭を掻く。
「じゃあ、その傷は――」
「……覚えてないですね」
「泰葉ちゃんは西條くんの記憶喪失について何か知らないか?」
ここで話の矛先が泰葉へと向かう。
泰葉は一瞬だけ渋面を浮かべたが、そのもう一瞬でいつもと同じよう可愛らしい表情で微笑む。
「ごめんなさい、そのことについて私にもわかりかねますね。……そんな話題よりもみんなが集まっていることですし、何か遊びましょうよ」
俺にはわかった……今の泰葉の嘘に。
表情からなんとなく分かるというのも理由の一つではあるが、一番の理由は俺の記憶喪失について泰葉が話題に触れる時の違和感。
頑なに触れようとしない"その"話題に実を言うと俺も昔から疑問に思っていた。
勿論、俺に辛い過去を思い出させたくないと言う泰葉の気遣いもあると思うのだが――。
どうやら、それだけではない気がする……。
それにしても今の泰葉は下手な言い訳だったな。
こう言う時の泰葉は必ずと言っていいほど、心では大パニック状態なのでその事を考えると、少し笑えてくる。
「こーたくんはなんでそんなに冷静でいられているの?」
これはびっくり泰葉の丸わかりの嘘ガン無視できたか。
中々、真白さんも鬼畜だなぁ。
泰葉がプクーと頬を膨らませいる。
それも、ここで可愛いと言うのは愚問だな。
「冷静じゃないですよ。勿論、忘れた記憶は気になりはしますけど。……正直、もうどうでもいいかなって。俺には暖かい家族がいるし、ボドゲ部を通して新しい友達を得ました……これ以上俺は何も求めません。何も失いたくないので」
近くにいた泰葉の手を取り優しく抱きしめる。
俺にはこうやって抱きしめられる家族がいる。
一緒に笑い合える友達がいる。
一体、これ以上何を求めろと言うのだ?
俺は"このまま"でいい。
いや……このままじゃないといけないんだ。
そうしないと俺の全てが壊れてしまいそうで、それでいて全ても手放してしまいそうで――。
有栖先輩が「ごほん」と咳払いを一つ。
「過去の詮索もここまでにしよう。琥太郎くんの件についてももう、触れないようにしよう」
「助かります。じゃあ――」
「この剣呑な雰囲気をぶち壊すようなゲームをしましょうじゃないですか」
「「……」」
泰葉が元気よく語りかけるが。
みんなまだ俺について逡巡としているのか泰葉の呼び掛けに応じる事ができない。
泰葉はシュンとした表情になるが……ここはお兄ちゃんに任せとけ。
俺は一つのカードを出す。
「さ、こんな空気ですけどitoやりましょ」
「……それもそうだね。やろ、やろ」
藍川さんが身を乗り出す。
それも皮切りにどんどん弛緩した雰囲気になっていく。
泰葉は以前シュンとした表情だけど……。
「そ、それじゃあ、一応Itoがわかんない人向けに説明しますと、1〜100の数字カードを隠して持ってテーマに沿った言葉だけで自分の数字の大きさを例え、全員で小さい順に出し合う協力ゲームです」
「おっけー」
「大丈夫だよ。こーたくん」
「あぁ、問題ない」
「説明ありがとう琥太郎くん」
各々の準備が整ったようなので話を進める。
「では、テーマの方なんですけど――」
「勿論、恋愛――」
「普通に好きな学校給食とかでいいですかね?」
「「賛成」」
なんか、途中泰葉が乱入してきた気がするけど。
泰葉が先程より増して悲壮感漂う表情になっているが。
まぁ、いいか。
俺は各々にカードを配っていく。
そして、配り終える頃にはみんなが熟考していた。
俺は自分で配ったカードを見ると。
――39。
うん、これ難しすぎるな。
39とか中途半端すぎて何に例えていいのやら。
高くないし、でも、低すぎてもないって言う。
俺は暫くの間逡巡としていると。
すると、真白さんが明るい声で呟く。
「私は焼きそば?……かな」
「お、焼きそばかぁ、高そうだね」
真白さんが右端に焼きそばを置く。
次は「そうだなぁ」と頭を掻く有栖先輩が不安げにカードを置く。
「僕は……うーん、シチューだね」
そうすると、真ん中の方にシチューを置く。
藍川さんは何かを閃いたようにいう。
「じゃあ、私はししゃもね」
「うん、下の方そうだね」
俺は微かに焦っていた。
いや……訂正しよう結構ガチで焦っている。
何故なら、全然39の給食メニューが思い浮かばないんだもん……誰か助けて。
***
「琥太郎くんが最後だね」
藍川さんが暇そうに口笛を吹いている。
遂に俺一人になってしまった。
みんなのはと順に言うと、真白さんが焼きそば、泰葉がラーメン、有栖先輩がシチュー、望月先輩がレーズンパン、藍川さんがししゃもだ。
……ッ。
しょうがない、ダメ元で行くしかない。
「ぎ、牛乳?……だと、思います。はい」
「牛乳か……世間一般では苦手な人が多いので下の方だと思うね」
望月先輩がそう分析する。
「うーん、それならレーズンとししゃもの間くらいじゃない?」
「そうですね有栖先輩。……俺もそう思いますよ」
俺と有栖先輩が頷きあう。
さぁて、結果発表の時間だ。
俺は大きい順からカードをめくっていく。
真白さん。
――89。
うん、予想通り高い。
泰葉。
――81。
おー、こっちも順調だ。
有栖先輩。
――63。
少し、かけ離れてしまったが全然問題ないだろう。
次が1番大事だ。
望月先輩が39よりも上回ってなければいけない。
俺は真白さんと泰葉の正解に身が引き締まる。
望月先輩。
――35。
それを聞いた瞬間、俺は暗澹たる気持ちでカードを見つめる。
あー、終わったな。
……なんだろうな。
こういうの、外すと妙に“輪の外”にいる気がする。
俺
――39。
藍川さん。
――16。
なんとも重苦しい雰囲気。
そこで有栖先輩からのフォローが入る。
「……なんというか、うん、しょうがないよ。次、がんばろう」
俺は無心でカードを混ぜていく。
「えーと、次。テーマ何にします?」
「「うーん」」
「じゃあ、ここは泰葉が考えたお題でいいですかね?」
俺は全員の承諾を得ると、先程まで元気がなかった泰葉をフォローしていく。
すると、泰葉は満面の笑みで頷き。
「デート中、言われたら、キュンとする一言」
「「知ってた」」
なんとなーく、恋愛系の質問が来るとは思ったけど。
ここまでガッツリ来るとはな。
まぁ、でもやるしかないな。
俺は順にカードを配っていく、そして、俺のカードの番号は。
――95!?
しかし、先程の微妙な奴と打って変わって考えやすい。
が、お題がお題だ。
言われたらキュンとくる一言か、95となると絶対キュンとくる一言を言わなければいけない。
……ここは1番わかりやすい俺からいうのが筋だ。
「……あ、愛してるぜ、ハニー」
恥ずかしながら呟く俺。
「「気持ち悪」」
一斉に罵倒される俺。
確かに緊張しすぎて声が裏返ったけどさ、そこまで言わなくてもよくない!?
「これ絶対1番低いでしょ!」
「流石にこーたくん。ちょっとそれ蛙化かも」
藍川さんと真白さんが勢いよく言う。
流石に悲しいんだけど!?
てか、蛙化って好きな人が思う奴なんじゃないか?
俺は必死に弁明をする。
「違うから!俺にとっては超キュンとする言葉だから」
「まあまあ、確かに言葉の単語は高そうではあるよね」
有栖先輩が場を宥めてくれる。
俺はカードを1番右端に置く。
「それでは、今度は私が……好きだよ」
真白さんは俺の方に向かって呟く。
まるで、俺に向かって好きと言っていような――。
可愛い……いや、違う。
今のは、反則だろ。
一瞬、本気で勘違いしそうになった。
「絶対、高いでしょ!」
「藍川さん……でもさ、愛してるの方が単語的には俺の方が高くない?」
「いーや、真白ちゃんの方が高いね。女の私でもキュンとしちゃったもん」
「それは、真白さんだからでしょ!」
俺はそうツッコむと、みんなはまた悩みこんでしまう。
まずいなこれ。
真白さんの威力が高すぎて確定で1番上である俺が出れていない。
うぅ、仕方がない。
こうなってしまった以上、最終手段だ!
「すみません。もう一回いいですか?」
「……あぁ、いいよ」
望月先輩が首を傾げながら承諾する。
よし、いくぞ。
あー、でもやっぱり恥ずかしい。
俺は泰葉の方に向かって優しい声で呟く。
「あ、愛してるぞ泰葉」
俺はすかさずニコッと泰葉にアプローチしていく。
「「気持ち悪」」
またもや罵声される俺。
泣いていいかな?
だが、俺の目的はそうじゃない。
……"味方"を増やす事だ。
「ちょっと、さっきとほぼ同じじゃん!それにちょっと言い方キモいし」
あ、みんなが引いてる。
だが、ただ一人を除いて――。
「うん、私も愛してるよ。お兄ちゃん!!」
泰葉が甘えるように抱きついてくる。
「それじゃあ、勿論、俺のカードは――」
「1番低いよね?」
「は?」
俺は耳を疑う。
「1番低いって事を私に知らせるために変えたんでしょ?」
「いや、ち、ちが」
泰葉は俺のカードを1番低い左端に置いてしまった。
え?……嘘でしょ?
***
「それじゃあ、結果発表と行きますか」
有栖先輩がそう呟くと順にカードをめくろうとする。
あぁ、終わったなぁ。
結局、95なのにも関わらず1番低い所に置かれてしまった。
もう何言っても挽回できる余地がない。
「ちょっと、待ってください」
真白さんが少し声を強めて言う。
「うん?真白さん。どうかしたの?」
「こーたくんのことで少し疑問があるんです。……こーたくんのカードって本当はもっと上じゃないですか?」
「うーん、確かに実は僕も薄々そうだとは思ったけれど」
お、これは大逆転チャンスかもしれない。
「そう、私、不覚にも先程のこーたくんの言葉にキュンと来てしまって――」
「……」
沈黙が流れる。
「私も、もっと上だと思いますよ」
泰葉が俺の腕に抱きつきながら呟く。
お前が1番下にしようって言ったんだけどね。
「よくよく考えてみたら、さっきのお兄ちゃんの恥ずかしそうに言ってる姿……可愛すぎて写真撮りたいくらいキュンとしました!」
泰葉は俺のカードを1番位が大きい右端に置いた。
……泰葉、ありがとうな。
俺は優しく抱きしめる。
「イチャイチャすな」
藍川さんが鋭い眼光で俺達を見る。
「みんなこれで異論はないね?」
有栖先輩はみんなが頷くのを確認すると。
右端からカードをめくっていく。
俺。
――95。
よし!ここまで辿り着くのに時間がかかったな。
「まさかの95?もっといいキュンとする言葉あったでしょ!」
「し、仕方ないじゃん。俺の中でのキュンとする言葉がそれしかなかったんだからさ」
有栖先輩はどんどんめくっていく。
真白さん。
――88。
藍川さん。
――78。
泰葉。
――63。
有栖先輩。
――49。
望月先輩。
――36。
……全てあっている。
俺はみんなを静かに見渡す。
「「やったぁあああ」」
こうして、ボドゲ部第一夜が終幕する。
第一夜ではあるが、Itoをすることによりみんなとの絆がかなり深まったのであった。
……俺だけ引かれてたけどね。
まあ、それでもいいか。
こういう夜も、悪くない。




