第22話 部屋決め
「……」
うん、やっぱり気まずいな。
手なんて重ねちゃったもんだから俺と藍川さんとの間にラブコメの匂いをプンプン漂わせていた。
藍川さんのスキンシップは俺への感謝を含んでいたものだと思うけど……藍川さんが妙に俺の顔を見ようとしないのが気になるな。
泰葉はトイレとか行ってどっか行っちゃうし。
この沈黙もぶっちゃけ辛い。
「琥太郎くんってさ、泰葉ちゃんと凄い仲いいよね。喧嘩とかしないの?」
「するよ。この前なんかも泰葉が夜くらい俺が料理するって言ったのに全然聞かなくてさぁ。それでお互い剣呑な雰囲気になっちゃってもう、それからは二日ぐらいは泰葉とは喋らなかったなぁ」
「仲良いじゃん!」
藍川さんは手で口を塞いでクスクス微笑んでいる。
俺にはどうもその笑顔が……いつも見せないその表情がとても愛らしく見えてきて。
俺は自分で頬をつねる。
バカ、何考えてんだ。
藍川さんが俺に気があるわけないだろ。
恋愛ラノベの読み過ぎだ。
ガチャ。
ドアノブを捻る音が聞こえる。
もしや、帰ってきたのか?
俺は立ち上がり玄関へ向かう
「あ、西條くん。起きてたんだ」
「……望月先輩。もう大丈夫なんですか?」
「あぁ、もう。ほら、ピンピンしてるぞ」
望月先輩は体の元気さを表現するかのように飛び跳ねる。
望月先輩は両手に大量の荷物を抱えていた。
「それは?」
「あー、今日の晩ごはんだよ」
「そうですか。それで真白さんと有栖先輩は?」
「……もう少しで来るはずだよ。何せ荷物が多いもんでね」
一番辛そうだった泰葉。
大量の荷物を持った有栖先輩がやってきた。
有栖先輩は俺を見ると、俯きながら声を少し落とした。
「琥太郎くん。起きたのか……その……本当に申し訳ない」
有栖先輩は申し訳なさそうに深々と頭を下げている。
「やめてください有栖先輩。仕方なかったんですよ。結果的に全員無事だし結果オーライじゃないですか?」
俺は最大限に有栖先輩を安心させるように微笑む。
「優しいね。琥太郎くんは……」
苦笑いの有栖先輩。
本当に気にする事はないのだが……有栖先輩にとっては部長としてはやはりこの一件は引きずるのだろうか。
いい具合に望月先輩が励ましてくれるとありがたいのだけど。
有栖先輩と俺が喋り込んでいるうちに。
トイレに行っていたという泰葉が俺の腕にしがみつく。
「聞き忘れてたけど泰葉は体調……大丈夫なのか?」
一番重症そうだった泰葉。
一時は死の危険も感じ取れるほどだったが――。
今ではいつもの調子のようだった。
泰葉が俺に向かって満面の笑みで微笑む。
「そうか……大丈夫なのか。それはよかった」
「え?今、二人会話してなかったよね?」
藍川さんがアイコンタクトで語り合う俺達にツッコむ。
うん?
俺の手を優しく握る。
「泰葉、辞めてくれよ」
俺の右隣には泰葉がいる。
だから、左手を握られた時少し違和感があった。
そして、もう一度手が触れる。
今度は耳元で呟かれる。
「ありがとう」
全身に鳥肌が立つ。
それはどこからともなく聞こえた……真白さんの声だった。
って、え!?
俺のすぐ真横には手を握っている真白さんの姿があった。
「ど、どうしたの真白さん」
「急にこーたくんの温もりを感じたくなって……」
「……」
時折、真白さんの小悪魔的冗談は俺以外の人物を怒らせることがあり、今回の場合は藍川さんの怒らせることになって――。
「痛い!痛いって。ちょ、やめてよ藍川さん。脇腹にチョップするのやめて」
いまだに手を握る真白さんを横目に藍川さんがひたすらにチョップし続けている。
「「平和だねぇ」」
先輩二人が微笑ましい顔で見ている。
「ちょ、助けてください!」
***
俺達は家の大きなリビングで各々休んでいると。
「部屋はどうするだい?」
有栖先輩の祖母が尋ねる。
……部屋。
そう聞いて微かに胸を躍らせる。
「部屋は3部屋しかないねぇ」
「三部屋かぁ。どうする?」
有栖先輩が逡巡していると。
「まあ、冷静に考えれば男子二人とその他で分けられるんでしょうけど。それじゃあ、なんの面白味もないでしょうからここは部屋割りをくじ引きにしませんか」
悪魔的考えをする泰葉だが、先にツッコんだのは俺ではなくて――。
真白さんは可愛く指を突き立てて言う。
「流石に先輩二人は一緒ということにしません?」
「そうだね。流石にね――」
えぇ、そこなのぉ。
くじ引きの方はいいのね。
「それでは早速。ルーレットスタート」
まるで待ってましたと言わんばかりに準備をしていたルーレットをスタートしていく。
結果は――。
藍川さんと真白さん。
俺と泰葉に決まったのだ。
なんか……うん。
無難だな。
これが一番いいんじゃないかってくらい、いい塩梅だ。
「これじゃなんの面白味もない。……お兄ちゃんを藍川さんの所に入れてあげてください」
「何言ってるの?」
泰葉は凄いエグいこと言ってること自分で気づいてるのかな。
それに妙にそれに対して黙りこくっている藍川さんとの真白さん……ちょっとは反論して。
俺は必死に二人に訴えているのだが、全く反応してくれない。
そして、痺れを切らしたのか真白さんがパンッと手を叩く。
「それじゃ、こういうのはどう?……泰葉ちゃんがこっちの部屋に来てこーたくんだけ一人で寝ると言うのは」
「急に悲し!」
俺が悲嘆の声を漏らす。
「確かにそれもいいかもしれませんね」
泰葉が頭を巡らせている。
よくないって――いや?いいのかそれで。
俺は一人で寝て泰葉は藍川さんと真白さんと寝る。
むしろ完璧ではないか?
俺は一人でぐっすり寝れるし、最高じゃないか。
藍川さんや真白さんも文句はないようだ。
しかし、藍川さんや真白さんは見事に二人同時にプクッと頬を膨らませながら呟く。
「夜眠る時に襲うからね!」
「私も襲うよ!」
「なんで襲撃予告されてんの俺!?」




