第20話 合宿当日
遂に合宿当日。
俺達は川崎駅に集合した。
俺と泰葉が来る頃にはもうボドゲ部全員が揃っていた。
「ちょっと!琥太郎くん遅くない?」
藍川さんは自分の腕時計を指しながら呟く。
「すみません。泰葉が合宿の持ち物で結構渋っちゃってて……」
「お兄ちゃんが何も準備しないからでしょ!」
う、痛い所を突くね。
正直服だけでいいんだけど泰葉がみんなが楽しめるようにと色々なボドゲを詰め込んできたのだ。
ボドゲは向こうにもあるらしいけど、泰葉がこれでもかと詰めてきた……俺の荷物が大量になってしまっていた。
有栖先輩がパンッと手を叩く。
「まあまあ、みんな集まったことだし、そろそろ行こう」
俺達は各々電車に乗り込む。
正直電車では眠りたいなぁ。
でも、どうせ寝させてくれないんだろうな。
隣に座る泰葉がウキウキで腕をバタつかせてるし。
「それでは電車の間ワードウルフでもしましょう」
「お!さんせーい」
「泰葉ちゃんナイスアイデア」
「いいね。楽しくなりそう」
ほらね。
わかってたけど……わかってはいたけど。
この人達が電車で眠るなんて選択肢ないよなぁ。
「それじゃあ、琥太郎くん。簡単なルール説明と準備お願い」
皆んなが俺の方を一斉に見る。
俺は呆れつつ携帯でワードウルフの準備をする。
「ワードウルフというのは簡単に言うと俺達の中で一人だけ違うお題の人を探し当てるゲームです。例えばもし、俺が人狼でお題がボドゲだとしたら皆んなはボドゲについて話す……しかし、人狼である俺は勿論違うお題で――」
「そこで話を上手く合わせて市民を騙すことが人狼側の勝利条件ね。市民側は明らかにお題に沿ってない人を探して指摘するのが市民側の勝利条件ね」
藍川さんは鼻を高くしてそう付け加える。
「まあ、そんな感じですね」
俺はワードウルフの準備をし終える。
「どうぞ、順番にお題を見てください」
藍川さんから順にお題を見ていく。
各々の「お〜」や「うわ〜」みたいな声を出している。
有栖先輩や望月先輩に至っては耳を赤くしている。
一体、どんなお題なんだよ。
そして、泰葉の次が俺だ。
えぇ〜。
泰葉が凄いニヤニヤしてる。
なんか、凄い変なお題な気がする。
「はい、お兄ちゃんどうぞ」
うん?
俺は戦々恐々とスマホを覗き込む。
そこには……ファーストキッス!?
な、なんだよこのお題!
俺は顔に出ないように心の中で叫ぶ。
「私はないね」
最初に口を開いたのは藍川さんだった。
藍川さんの言うことは"お題"に確かに沿っているし、人狼が最初に発言するとは考えづらいから藍川さんは違うのか。
「私はお兄ちゃんとは小さい頃ありますけどね」
藍川さんが俺の方をギロリと睨む。
なんで爆弾発言を投下するんだ。
小六のとき、泰葉が怖い夢を見るとか言って俺の部屋で寝たことがある。
朝にはなぜか俺の頬にキスしながら抱きついていた。
完全な事故だよね?
「ち、違うからね!?あれは事故っていうか泰葉が悪いっていうか――」
みんなの視線がより一層強くなる。
あぁ、もう発言しづら!
だが、これによって泰葉のお題は同じということがわかった。
残るは――。
「そうですね、私はありますね」
「え……」
真白さんのまさかの発言。
一同が驚愕していると、更に爆弾を投下してくる。
「初めてはこーたくんです!」
「は?」
真白さんは微かに頬を赤くし恥ずかしそうにリピートする。
「小学四年生の時。私はこーたくんと泰葉ちゃんに救われました。迷子になっていた私を……二人が優しく助けてくれたんです。その時から私は今でもこーたくんに――」
「ちょ、ちょっと待って……真白さん結構怪しいよね」
明らかに真白さんとのお題が違うし、真白さんとキスなどしたこともない。
真白さんは「冗談です」と天使のような微笑みでいう。
「私もしたことはありませんよー」
「いや、めっちゃ、怪しいでしょ!これは議論するまでなく――」
あぁ、これは……。
初めて俺の置かれている立場に気がついた。
みんなは俺を蔑んだ目で見ている。
そうか、みんな俺を信じていないんだな。
もうそろ泣くかも。
「まあ、真白さんは一先ず置いていて……先輩方!」
藍川さんが鋭い視線で先輩二人の釘を指す。
二人は呼ばれると明らかに動揺したようにビクつく。
怪しいっていうか……もう、二人の様子で答えが出てるんじゃないか?
二人は依然顔を赤く染めている。
そして決心がついたように小さく呟く。
「したこと……ある。有栖と……」
「したこと……ある。昇華と……」
「「でしょうね」」
珍しくボドゲ部全員でのツッコミが被った。
二人は恥ずかしさで顔を隠している。
「ふーむ、まあ、二人もお題に沿ってはいるね、残るは」
俺達は真白さんの方に一気に視線を寄せる。
だが、真白さんは「違います!」とひたすらに否定する。
なんというか、必死に否定している真白さんも非常に可愛らしい。
だが、この盤面をひっくり返すには頭のいい真白さんも不可能だったようで――。
「あー、ばれちゃいましたかぁ」
「あの、最初の下りがなかったらもっと難しくなってたかもね――というか、真白さんのお題ってなんだったの?」
俺が興味本位で聞くと……真白さんは微かに俯いて。
「それ聞くの?」
「聞きたいなぁ。一体なんだったの?」
「私も気になるかも……」
続々と藍川さんも気になり始めていた時。
真白さんは赤面して……俺の腕を掴み抱き寄せて本当に小さな声で呟く。
「……初恋の相手」
俺はその呟きに驚愕する。
そして、畳み掛けるように――。
「これは私とこーたくんの"秘密"だよ?」
この場の雰囲気をどうするんだよ。
藍川さんはゴミを見るような目で俺を見るし、泰葉はキラキラした目で見ている。
先輩二人に至ってはうんうんみたいな微笑ましい表情で見ている。
俺はこの電車に乗る二時間、ノンストップで藍川さんに蔑んだ目で見続けられた。




