第19話 泰葉と服選び
「流石、私のお兄ちゃんは天才だ!」
「まあ、勉強したからね」
色々と満足いく結果は出せたものの。
天城さんとの勝負は色々結果的に言えば俺の圧勝だったが……まあ、俺の友達になってくれたからいいかぁ。
あれ?
てか待てよ。
俺が友達になるのを望んだのに天城さんはボドゲ部を辞めることを望んだ。
割りに合わなくないか?
かと、言って他に望むことなんてないんだけどね。
天城さんはいつも俺やボドゲ部に対して剣呑な雰囲気を出している。
なんでだろうなぁ。
最近は挨拶くらいは笑顔でできるようになったけど。
「まあ、これからだよな」
俺がそう呟くと。
泰葉は「あ!」と思い出したように目を輝かせる。
「そう言えば、もうすぐ合宿ですよね?」
俺は机にあるカレンダーを見る。
そこには合宿とバツで記された日があと、一週間とちょっとで来ることがわかった。
「そうだねぇ、そろそろ準備しないとね」
「今日、合宿の服を買いに行こう!」
「え〜、今日か?まだよくない?」
「よくない!今日行こう」
うーん、面倒くさいなぁ。
けど、先延ばしするのも何か良くない気がする。
俺は少し逡巡すると。
「わかったよ。今日行こうか」
「流石!ついでに藍川さんとか真白姉と呼んどく?」
「ぜっっっったい駄目!」
***
家の近くの古服屋
合宿といえども、私服だ。
いくら、いつも寝巻きの俺でも合宿ぐらいカッコいい服ぐらい着ていきたいだろう。
俺と泰葉は順に服を見ていく。
「お!これとかいいんじゃないか?」
見つけたのは、dragoonと 英語で書かれている服。
龍って書いてあるし、中々カッコいいな。
……が、泰葉は俺を憐憫の眼差しで見てくる。
「あぁ、なんて可哀想なお兄ちゃん。その壊滅的な服のセンス。一緒に買いに行ったのが私で良かったね」
「そんな言わなくてもいいだろ!ほら、ここ見てよ。ドラゴンって書いてあるんだよ?カッコよくない?」
「カッコよくない!全然ダサい!あぁ、もう。こんなことなら私一人で決めるよ」
泰葉は不服そうに口を尖らせている。
そんな!?
……俺って服センスないのかぁ。
俺はどんどん俺の服を選んでいく泰葉に着いていく。
「泰葉の分の服は準備できてるのか?」
「うん、しっかりできてるよ。ちゃんと水着も持ったし」
……水着。
そうか、皆んな水着を着るのか。
皆んな、一体どんな水着着てくるんだろう。
藍川さんや真白さんの水着――。
ブンブンと頭を振る。
俺は嘆息を漏らすと。
「西條……さん?」
可愛らしい声が俺達の背後に響く。
この声は――。
声がする方に振り返ると、天城さんが手を振っている。
「西條さんは何しにここに?」
「合宿の服を買いに来たんです」
すると、天城さんは泰葉の方をギロリッと睨みつけ。
「そちらの方は……西條さんの彼女ですか?」
「いえ、俺の妹の泰葉です」
天城さんは「ほう」と腑に落ちたような返事をする。
「そうでしたか……勘違いしてすみませんでした」
「いいえ、全然大丈夫ですよ。よく泰葉と似てないって言われるので……えーと、それで天城さんはどうしてここに?」
「ほぼ、西條さんと同じような理由ですね。生徒会の皆んなで旅行に行くんですよ」
「どこかに旅行へ?」
「そうですね。静岡の方へ三泊四日ですね」
うん?
俺は眉を顰める。
ボドゲ部の合宿先も静岡だったよな?
俺は微かに嫌な予感を感じ取ると、天城さんもそれに気づいたのか固唾を飲み込む。
「えっと……それっていつ頃に行くんですか?」
「……えー、あと一週間とちょっとくらいですかね?」
俺は泰葉の方へ一瞥すると。
泰葉は満面の笑みで呟く。
「ボドゲ部の日程と全く一緒ですね!」
***
「ふむふむ、状況はなんとなく理解できました。まさか、生徒会の旅行がボドゲ部と被ってしまうとは……」
「そうですね……中々ないですよ。こんなこと」
夏休みに同じ日に同じ場所で偶然生徒会と被ってしまった……一体、そんなことがあるのか?
「因みに生徒会って全員で何人いるんでしたっけ?」
天城さんら侮蔑したような目でこちらを睨む。
「西條さんは生徒会の人数すら把握してないんですか?」
うぅ。
痛いところを……。
普段から、しっかりと話を聞いてればこんなことにもならなかったんだろうなぁ。
天城さんは露骨に「はぁ」と嘆息を漏らすと。
「いいですか?生徒会は四人です。会長、副会長、書記、会計。ちなみに私は会計ですね。これぐらいしっかりと把握しておいてください!」
俺は悄然とした表情で頷く。
それにしても天城さんを含めた四人か。
それに対してボドゲ部は泰葉を含めた六人。
……いやーな予感がするぞ。
「ふーむ、これは何か怪しいですねぇ。何か……必然的に起こったように思えます。考えすぎでしょうか?」
確かに、場所や日にちが被っているなんて……あるのか?
仮に故意的に被せたとしてどちらが"それ"をしたんだ?
「……まあ、気のせいじゃないですか?」
そんな返事をする俺だが。
正直、結構怪しいと思っている。
俺はボドゲ部の先輩二人に限ってそんなことはないと思うけど……うん、大丈夫だよな。
俺は先輩二人の顔を思い浮かべる。
二人はほぼ夫婦だし、去年も二人で行ったときた。
心配ないよな。
「そうですね。仮にボドゲ部と遭遇したとしても無視すればいい話ですもんね」
「ひどぉ、せめて挨拶ぐらいはさせてくださいよ」
クスクスと微笑む天城さん。
「やっぱり、笑ってた方が可愛いですよ天城さんは」
「は?今なんて……?」
「えっと、笑ってた方が可愛いと……ごめんなさい!気に障ったのなら謝ります」
可愛いというのが彼女のタブーだったのだとしたのなら、俺はかなり非道なことを言ってしまったのでは……しかし、そんなことはなくて。
「いいや、違うんです。可愛いですか?私が?」
「へ?えーと、そうですね。天城さんは笑顔になった時とても素敵ですよ」
「可愛い……私が可愛いってう、うるしゃいです!」
ほんのり頬が赤く染まる。
「うるしゃい!?結構噛みましたね」
「で、でも、痩せてた方が西條さんもいいですよね」
「俺はそのままの天城さんでも充分に魅力的に感じますよ。……うーん、でも、そうですねぇ。天城さんは顔が美人さんなので痩せたら凄そうですね」
天城さんは完璧に顔を隠しながら背を向ける。
「あ、天城さん。もう行くんですか?では、俺もここで」
背を向けてはいるが、一応深くお辞儀をして泰葉と一緒に……って、泰葉はどこにいったんだ?
辺りを見渡してみる――服の影に隠れているた泰葉がちょこんと顔を覗かせながらこちらも見て何か書いている。
俺は嘆息して、泰葉の方へ向かう――。
「西條さん!!」
勢いよく呼ばれ少しビクッとしてしまう。
「な、なんですか?」
「西條さんのば、びゃーか!」
そう言い捨てて、天城さんはドスドスと走り去ってしまった。
びゃーか?
あ!バーカって言いたかったのかぁ。
そうか、そうか、バーカ……って、凄い悲しい罵倒。
依然、何か紙に書き込んでいる泰葉。
小さく呟く。
「お兄ちゃんの彼女候補の合格基準には……残念ですが不合格ですね」
なんか小さい声で凄い失礼なこと言ってない!?
合宿まで残り一週間。
生徒会かぁ。
何事も起こらなければいいけどな。




