第16話 期末テストに向けて
合宿まであと一ヶ月。
だが、その前に高校の大きなイベントの一つである期末テストがある。
クラスには勉強ムードが漂っていた。
そんなにも皆んなが必死になって勉強しているのにも理由がある。
――それは、テストの結果には順位が出るからだ。
それも、学年全体で大々的に張り出されるのだ。
流石、進学校とでも言おう。
順位の低いものは皆んなの前で公開処刑されるし、高かったらそれはそれで注目を浴びる。
俺のようなコミュ力が壊滅した陰キャはテストで低い点数で張り出されてしまうと。
「え、あいつ陰キャで勉強できないとか終わってんじゃんw」
とかいう、陽キャの虐めの的にされるに違いない。
もう対策しているわけだが。
生徒会メンバーは毎回一桁順位を独占している。
その中でも俺は、五位以内は確実に取れる自信があった。
「おい、琥太郎なに勉強してんだよ。勉強なんてその場の勘だろ?」
「それは慶賀だけだろ?俺は親の血の定めに誓っていい点を取らなきゃいけないんだよ」
「お前、血の定めって――」
「もう、言わなくていいぞー」
多分、予想だけど慶賀は学年でも順位は下の方だろう。
「じゃあさ、今日部活オフだし。カラオケで勉強しに行かね?」
「勉強しないでしょ……それ」
俺はカラオケという言葉に過剰反応する。
カラオケって友達と行ったことないんだよなぁ。
せいぜい泰葉の合いの手くらいしかやったことないし。
すると、藍川さんがこっちに向かって歩いてくる。
「ねぇ、今日さクラスの皆んなでカラオケ行くんだけど二人も行かない?」
「行く行くー」
慶賀がノリノリに答える。
だが、勉強をしたい俺とは相容れない提案だった。
それに……クラスでは空気の俺がカラオケで歌えるわけないじゃん。
「俺はパスで」
藍川さんは「でしょうね」みたいな納得の顔をする。
「じゃあ、私もめんどいからパスー」
「は?」
藍川さんの言う事が理解できなかった。
「藍川さん主催者だよね?」
「え?私は主催者じゃないよ。ただ、真由美からあの二人も誘えばーみたいな感じで言われたから誘っただけだよ?」
「な、何で藍川さんは行かないの?」
藍川さんは辟易した顔で。
「さっき言ったよね?面倒くさいからって――」
「いや、完全に行く流れだったじゃん」
「もう、うるさいな。そんな小さい事気にしてるとモテないよ?行かないっていったら行かないの!どうせ行かない琥太郎くんには関係ないでしょ!」
急にキレ始めた。
やっぱ女心はわからないなぁ。
まあ、俺はどうせ家で勉強するだけだし、別に関係ないけど。
「琥太郎くんはなんか用事あんの?」
「家で勉強」
「お、丁度よかったぁ。琥太郎くん頭良い?」
次の答え次第によってかなり面倒くさくなりそうだ。
俺は暫く、逡巡して。
「まあ、周りよりは――」
自分に嘘をつくことが出来なかった……だって頭良いんだもん。
藍川さんが「じゃあさ」と話を切り出してくる。
この選択が俺にとって面倒な選択になることは考えずとも理解できた。
「近くのカフェで勉強教えてよ!」
「無理です」
「はや!もうちょい悩んでよ」
「絶対に無理。カフェなんかで勉強できるわけないでしょ」
だが、藍川さんは折れない。
不敵に笑みを漏らす藍川さんはまだ何か秘策があるらしい。
俺は屈しないぞ。
しかし、藍川さんの一言によって一瞬で折れることとなる。
「私に負けるのが怖いんだぁ」
「……ッ。何を!」
「フン、琥太郎くんが教えてくれたら、私は琥太郎くんを負かすことができるのになぁ」
「じゃあ、教えないほうが良いじゃん」
「ちょ、ちょっと待ってって」
藍川さんは帰ろうとする俺の服を引っ張って静止しようとする。
もう、何なんだこの人は。
しょうがない、本当はカフェで勉強するなど。
俺の定義に反することだが――。
「わかったよ。じゃあ少しだけね」
「やったぁああああ。これで私も学年一に――」
「なれるわけ」
***
カフェに着くと、窓際の二人席。
夕方の光がテーブルのノートに落ちていた。
うーん、何というかこれって――デートみたいだな。
俺は藍川さんが俯き顔をじっくりと凝視する。
――顔は可愛い方なんだよな。
でも、性格が可愛くない。
「なに、見てるの?」
「いや、別に」
「別になことないでしょ。どーせ、女子で二人きりしかもカフェってこれってデートじゃんって思ってるだろうけど。勘違いしないでよね」
「お、思ってないよ!?」
憎たらしいが、的を得た質問をする藍川さん。
俺は勉強道具を取り出す。
「じゃあ、やろうか」
数時間後。
流石に、帰って良いかな?
この数時間藍川による質問責めで帰る隙が一度もなかった。
絶え間なく続くこの問題。
……いつ終わるんだろう。
俺は固まった体をほぐすように伸びをする。
カフェの奥の席から、ページをめくる音が聞こえた。
不意に横を見た。
そこには――いたのだ。
眼鏡を掛けたぽっちゃり女子。
天城雫が勉強しているのを――俺の視線に気付くように藍川さんも天城さんの方に顔を向ける。
「あ!雫ちゃんじゃん。皆んなとカラオケ行ってなかったんだ」
天城さんは不機嫌そうにこちらに振り向くと。
ペコリと軽くお辞儀をする。
「私には勉強があるので――そっちこそ今日はデートですか?」
「デート!?別にそんなんじゃないし!」
微かに耳が赤くなる藍川さん。
「まあ、俺が勉強を教えてるって感じかな」
焦る藍川さんに補足を加える。
すると、天城さんは軽蔑したような目で嘲笑する。
「貴方が100位以内?冗談は顔だけにしてください」
そんな言わなくても良くない!?
流石に傷つくんだけど。
「自惚れがすぎますよ。西條琥太郎。自分が頭が良いと勘違いしている。お馬鹿さん、貴方のような人はごまんと見て来ましたから」
「それ、私にも飛び火しない?」
藍川さんが唖然している。
ここまで言われて何もしないなんて――漢が廃るってもんだろ。
それに藍川さんは俺に頼ったことは間違いじゃないって証明させたい。
「ならば、勝負しませんか?」
「ほう」
「お互いに罰ゲーム掛けた期末テストでの順位での勝負ですよ」
暫く、思案した後。
「わかりました。その勝負受けて立ちましょう。それで?罰ゲームというのは何でも良いんですよね」
「ええ、何でも構いませんよ」
天城さんは少し考えるような素振り見せ。
「10位以内じゃなかったら――ええ、そうですね。貴方が負けたら、ボドゲ部を辞めるってことで」
「はぁ?」
藍川さんが驚愕した表情で立ち上がるが、俺は動揺しない。
「良いですよ――天城さんの罰ゲームは考えておきますね」
天城さんは再び嘲笑する。
まるで俺に勝ち目がないかのように。
「ええ、楽しみですね。貴方のような"半端もの"が私に負けて打ち砕かれる顔を――では、私はこの辺で失礼」
天城さんはそそくさとカフェから出て行ってしまった。
俺は藍川さんにガシガシ肩を揺さぶられる。
勿論、藍川さんの心配はわかる。
だが、この勝負。
負ける気がしないのは俺だけだろうか。
テストの日が楽しみで仕方がない。
「駄目だ、完全にスイッチに入ってやがる」
***
「えぇ!!負けたらボドゲ部を辞めるだって!?」
望月先輩は目が点になる。
それに続いて藍川さんが俺の方に指をさして言う。
「そうなんです。この大うつけものが生徒会の雫ちゃんに勝負を挑んだんです」
「……ク。合宿目前だっていうのに。西條くん、君は今日から部活に来なくて良い家に帰って勉強しなさい」
「いや、部活には行きます。しっかり部活と勉強の時間は確保できているので大丈夫です」
「けど、相手は生徒会だよ?生半可な覚悟で挑むと負けは確定する」
有栖先輩も腕も組みながら必死に考えてくれている。
誰もが俺が負けると仮定している中――。
「大丈夫です!こーたくんは昔から成績優秀でしたから!」
真白さんただ一人は俺が勝つと予想している。
流石、俺の小さい頃を知っている人だ。
「……しかしなぁ」
「大丈夫です。俺は絶対に負けません!」
真白さん以外の人物は全員頭を抱えて悩ませている。
俺はさらに安心できる一言を添える。
「俺の母親は東大卒ですよ?」
「雀の涙ほどの希望を感じた」
望月先輩が片目で見ながら言う。
「でしょう?まあ、教えてもらうつもりもありませんけどね」
有栖先輩は「ふぅ」という一回溜め息をついて。
「わかったよ。テストに関しては琥太郎くんに任せる。だけど――絶対に負けるんじゃないぞ!」
俺は大き頷いて。
俺はトランプを出す。
「一回、原点回帰してババ抜きやりません?」
すると、藍川さんは「はぁ」と溜め息一つ。
「琥太郎くん」
藍川さんは上に立てていた親指を下に向けて見せる。




