第14話 新入部員
茹るような暑さが通学中の俺を襲う。
ポタポタ額から落ちる俺の汗。
まだ、6月下旬ってのになんていう暑さだ。
ミーン、ミーンと蝉の可愛げのない声が鳴り響く。
「暑いな、俺夏嫌いなんだよなぁ。柔道場とかもう、ほぼサウナよサウナ!」
タオルで顔を隠しながら、文句を垂れる慶賀。
「同感。俺も夏嫌いだなぁ、虫多くて」
「琥太郎、虫嫌いなのか?」
「愚問な質問だろ。好きな奴なんているか」
「……琥太郎。こっちみてみろよ」
隣の慶賀のほうへ振り向くと、片手に何か持っていた。
何か黒い物体が――。
「うわぁあああ」
突然、慶賀から黒い物体を顔の前に指し出す。
「どうだ、カブトムシ。カッケェだろ」
「うわ、鼻ついたって!!」
「カブトムシも無理なのかよ。琥太郎は"漢"じゃねぇなあ」
俺は必死にタオルで拭く。
……うう、トラウマになりそう。
「今さっき、虫無理って言ったよね。わざと出してきただろ」
「そうかぁ?かっこいいけどな……」
「全然、かっこよくない!」
百歩譲って、カブトムシの外形はかっこいいとしよう。
全くかっこよくないけど。
でも、セミも然りどうしても虫の裏側が気持ち悪すぎて好きになる気になれない。
……俺は夏が嫌いだ。
***
教室内はクーラーがガンガンに効いていて心地が良い。
「なぁ、琥太郎。釜石さんボドゲ部入ったって本当かよ?」
「……うん?あぁ、そうだね」
昨日の俺の盛大な勘違いのせいで、真白さんに対して失礼だったかもしれない。
しかし、これから新しいボドゲ部員が増えるのか。
また、賑やかになりそうだ。
慶賀が羨ましそうな目で呟く。
「いいなぁ、真白さん。吹奏楽部って聞いて俺も吹奏楽部に入ろうと思ったのにボドゲ部にも入ったのかよ。柔道部にはいらねぇかな」
「入らないだろ、あと慶賀音楽出来たっけ?」
「出来ねぇよ!だから、わざわざ漢臭っさい柔道部に入ったんだろ」
こいつは熱い漢なのか、女に目がないスケベな奴なのかわからないな。
まあ、根は熱い漢なんだろうけど。
俺は慶賀に忠告するのを忘れる。
「慶賀……真白さんに絶対告るんじゃないぞ!」
「え?」
「今告っても絶対お前が惨めになるだけだからな。真白さんを本気で狙うなら、もうちょい仲良くなってから告れよ!」
「わかってるって、俺みたいなのは付き合えないなんて弁えてるよ。高嶺の花って奴だな」
「心変わりしたのか……」
「心変わりっていうか、まあそうだな。お前が言ってくれたって言うのもあるのかな」
俺は悲しい顔をする慶賀に肩を叩く。
――成長したな。
ヤケクソに告白しないってだけの当たり前のことだけど。
こいつは普通にイケメンだし、ちょっと女好きなところがあるけど熱い漢だからきっと一途なはずだ。
案外すぐに彼女作るのかもな。
「俺達は友達だろ?悩みあるならいつでも聞くよ」
「そうだよなぁ、人生百年時代。いつか俺にも春が来るよな」
大きなため息を吐く慶賀。
「何の話?」
不意に俺達の後ろから声が響く。
振り返った先に――真白さん!?
「ど、どこから聞いてたの?」
真白さんは唇に指を当てて考える仕草をする。
「慶賀くんの人生百年時代のところかな」
よかった、真白さん関係のことは聞かれてないらしい。
「け、慶賀くん?」
「駄目?」
「……ッ。駄目じゃないです!むしろそう呼んでください」
頬が完全に真っ赤な慶賀。
柔らかな笑みを続ける真白さんは一歩また、一歩と慶賀に近づいていく。
「慶賀くん。この前はありがとね」
「は、はいぃ。と、当然のことをしたまでです」
慶賀は過呼吸で完全に時が静止していた。
……恐るべし、釜石真白。
すると、クルッと一回転し俺の方を向く。
「こーたくん!今日から部活行くね」
真白さんは俺の手を優しく包み込む。
女の子特有の甘い匂いが鼻をくすぐった。
暖かいし柔らかい手だ。
俺が完璧な顔立ちの真白さんの顔を見ていると。
――俺の脇腹が何者かによって突かれる。
……藍川さんがジト目で俺の方を見ている。
そして依然俺の脇腹にチョップしている。
何してんだこの人。
「琥太郎くんさぁ、可愛い真白ちゃんがボドゲ部にはいるからって浮かれすぎでしょ。もうちょい、ボドゲ部員としての立ち振る舞いをしてよね」
「いや、浮かれてないから……」
「浮かれてますぅ。さっきも真白ちゃんに手握られて鼻伸ばしてたくせに」
「伸ばして無いから」
真白さんはクスクスこちらを見て笑っている。
「いや、ごめんなさい。でも、お二人が余りにも仲がいいもんで」
「「仲良くないから!!」」
***
放課後。
今日は真白さんが来る日だ。
別に気にしてるわけじゃないけど。
いつ来るんだろうな。
俺はミステリー小説をカバーで隠したラノベを読んでいた。
「随分、ソワソワしているね琥太郎くん」
有栖先輩が向かいの席に座る。
「ソワソワしてるわけじゃないですよ。別に」
「確かに、学年一の美少女が突如ボドゲ部に来るって……すごい話だよなぁ」
有栖先輩はそう言うこと言っちゃ駄目だろ。
そんなことを言うと――ほら。
望月先輩が摂氏0℃以下の凍るような目でこちらを見ている。
「ほ、ほら。人数が増えたらボドゲも楽しいだろうし。ね、琥太郎くん!」
「そうですね」
俺はそっけない返事を返しつつ。
ラノベを読むことに集中する。
そして遂に――。
「今日からボドゲ部に入ることになった釜石真白です。どうぞよろしくお願い致します」
「はい、よろしくね。因みに吹奏楽部で行けない人がある?」
「吹奏楽部はそんなに活動がないので、ボドゲ部にはほぼいけると思います!」
「そう、じゃあ、改めてボドゲ部へようこそ。僕は部長の下川有栖。で、こっちが副部長の望月昇華。で、一年生の藍川陽葵さんと西條琥太郎くんね」
真白さんは俺達の顔をじっくりと見回しながら、穏やかな笑みで深々と頭を下げる。
すると、有栖先輩はここぞとばかりに笑う。
「どうしたんですか?」
「部員も増えてきた事だし、皆んなに言いたいことがあってね」
望月先輩はフッと分かったように腕を組む。
「今年もこの季節が来たか……」
何なんだ?
もうすぐ、夏休み突入するけど。
「今年のボドゲ部は三泊四日で静岡に行きます!!」




