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盤上の翼  作者: なぎさ
11/45

第11話 部長復帰パーティーボドゲ部


「うわ、凄い綺麗じゃん」


 望月先輩が部室の綺麗さに驚愕していた。

 そりゃ、そうでしょうよ。

 昨日、藍川さんと意味のない張り合いをしていたんだから。

 昨日を思い返すと凄く後悔している。

 早く帰れば良かったと。


「ぬいぐるみも完璧だね。バッチシだよ西條くん」


「はい、有栖先輩はいつ来るんですか?」


「もう少しで来ると思うが――お!」


 ガチャ。


 ドアを開く音。

 やっと来たか?

 しかし、現実は俺を裏切るのが早く眼鏡をかけた太っている女の子――。

 天城雫が凛とした表情で立っている。


「えっと――何のご用で?」


「何度来たのかわかってますよね?もう一週間経ってますよ――見る限り、部長はいなさそうですね」


「ちょっと待ってください。もうすぐ部長が来るんですよ」


「関係ありません。ボドゲ部は合併とな――」


「ちょっと待ったぁあ」


 ……そこには息を切らした部長――下川有栖の姿があった。

 天城は「はぁ」とため息をついて言う。


「わかりましたよ。ボドゲ部の合併は無しってことにしましょう」


 やっと納得してくれたのか天城雫は黒髪の頭を掻いている。

「でもですね、今後もボドゲ部には部内調査を行って参りますので用心ください。特にあなた!」


 不意に俺が指される。


「はい?」


「いつもクラスで静かで大人しい貴方ですよ。どうせボドゲ部のメンバーの頭数を足りさせただけの部員でしょうが、今後もいるといいですね」


「ちょっとそんな言い方――」


 望月先輩が眉を顰める。


「いいんですよ望月先輩。ここで怒っても仕方ないですから、今の所は部活を辞めるつもりはないので安心してください」


「今の所っていうところが気になるなぁ」


 有栖先輩が肩を落としていう。


「では、私はこれで」


 天城さんはその巨大な身体をドスドスと震わせながら、部室から出る。


「うーん、生徒会。少々、面倒臭いな」


「そうですね、でも。折角部長が帰ってきたことです。――ボドゲ部の活動を再開しましょうか」


 ***


「まず、何からやりましょうか?無難に四人でできるやつがいいですかね?」


「いいや、西條くんにはまず部長と一対一で戦ってもらおう」


「どうしてですか?」


「言ってなかったと思うが、ウチのボドゲ部部長はこんな見た目だが、相当強いぞ」


 望月先輩はガサゴソと鞄から取り出したのは――。


「マンカラですか……完全に運要素無しですね」


 自分の陣地のポケットにある石を反時計回りに1個ずつ配り、先に手元の石をすべて無くした方が勝つ……シンプルですが結構頭を使うゲームを持ってきたな。

 あれ?

 このゲームもやった覚えがないのにルールがわかる。

 俺はいい加減気にしないことにしたが、俺はこのゲームが超がつくほど苦手だった気がする。


「お、流石琥太郎くん。これは完全に運要素無しのゲーム……これで二人戦ってもらうよ」


「……わかりました。じゃあやりましょうか」


  俺と有栖先輩は机を挟んで向かい合う。

 望月先輩がマンカラの石を整えた。


「ルールは知ってるんだよね?」


「ええ、一応」


 そう答えながらも、妙な違和感が胸に残る。

 やった覚えがないのに、手順だけは妙にはっきりしている。

 ……まあいいか。


「じゃあ先攻は――部長で」


 望月先輩の合図と共に、有栖先輩が一つのポケットの石を掴む。


 カラ、カラ、カラ。


 石が一定のリズムで落とされていく。

 随分と迷いがないな。


「西條くんの番だよ」


「はい」


 俺は盤面を見つめる。


 ……ふむ。

 マンカラは単純だが、先を読むゲームだ。

 石の数と配置によっては、連続で手番を得ることもできる。

 俺は右側のポケットの石を取る。


 カラ、カラ、カラ。


「ほう」


 望月先輩が小さく声を漏らした。


「なかなかいい手じゃないか」


「そうなんですか?」


「今の配置、次で部長がミスすると一気に取れる」


 へぇ。

 そんな感じだったのか。

 有栖先輩は盤面を見て、少しだけ眉を動かした。


「やるね、西條くん」


 そう言いながら石を取る。


 カラ、カラ、カラ。


 ……なるほど。

 俺は盤面を見て理解する。


 この人、かなり先まで読んでる。

 ただ石を配ってるんじゃない。

 配置を調整している。

 俺も次の手を考える。


 このままだと――。


 いや。

 ここだな。

 俺は中央寄りのポケットを選ぶ。

 石を配る。


 カラ、カラ、カラ。


「おお?」


 今度は藍川さんが声を上げた。


「琥太郎くんやるじゃん」


 確かに盤面は少し俺が有利だ。

 有栖先輩の石が徐々に減ってきている。


 しかし。


 有栖先輩は焦った様子もなく石を手に取った。


「そろそろ本気出そうかな」


 カラ、カラ、カラ。


 ……あれ?

 一瞬で盤面の流れが変わる。


「え?」


 藍川さんが声を漏らす。

 有栖先輩は連続で手番を得た。


 カラ。


 カラ、カラ。


 さらにもう一回。

 ……まずい。

 石の流れが完全に向こうに行った。

 俺は慌てて盤面を見る。

 まだ大丈夫だ。

 まだ逆転できる。

 俺は一番左のポケットを取る。


 カラ、カラ、カラ。


 ……よし。


 ここで少し取り返した。


「ほう」


 望月先輩が腕を組む。


「これはいい勝負だな」


 盤面にはもうほとんど石が残っていない。

 あと数手。

 俺は盤面をじっと見る。

 この配置なら――。

 勝てる。

 俺は石を取った。


 カラ、カラ、カラ。


 ……よし。

 残り一手。

 有栖先輩は盤面を見て、小さく笑った。


「惜しかったね」


「え?」


 カラ。


 石が最後のポケットに落ちる。

 その瞬間。

 有栖先輩側に大量の石が流れ込んだ。


「あっ」


 気づいた時にはもう遅い。

 盤面の石はすべて配り終わり――。


 結果。


 有栖先輩の石が、ほんの数個だけ多かった。

 数秒の沈黙。


 そして。


「……部長の勝ち」


 望月先輩が宣言する。


「惜しいなぁ琥太郎くん」


 藍川さんが盤面を覗き込む。


「マジであと少しだったじゃん……プププ、琥太郎くんが負けてるのを見るなんて清々しい気持ちだよ」


 藍川さんは口を押さえながら笑い堪えている。

 俺は思わずため息を吐いた。

 ……はぁ、"負ける"のなんて何年振りか――。


「完全に勝てると思ったんですけどね」


 有栖先輩はくすっと笑う。


「いい線いってたよ。普通一年でここまで戦える人、あんまりいない」


 そう言いながら、盤面の石を集め始めた。


「でもね」


 有栖先輩は石を指で転がす。


「マンカラは最後の一手が一番怖いゲームなんだ」


 くう、めちゃくちゃ悔しいな。


「チェスなら勝てたんですけどね」


 藍川さんが嘲笑して言う。


 「それは負け惜しみってもんだよ琥太郎くん」


 このモヤモヤは解消しなければいけない。

 勿論、藍川さんで。


「それじゃあ、みんなでカタンやりましょ?」


「お、そうだね。皆んなでやろうか」


  カタンのボードが机の上に広げられる。


 六角形のタイル。

 資源カード。

 そして二つのサイコロ。


「順番どうする?」


 望月先輩がサイコロを軽く振りながら言う。


「普通にサイコロで決めましょう」


「じゃあ私からー」


 藍川さんが振る。


 コロコロ。


「9!」


「私も」


 有栖先輩が振る。


 コロ。


「10」


「お、部長トップ」


「じゃあ次俺ですね」


 俺はサイコロを手に取る。


 コロ。


「……2」


「ぷっ」


 藍川さんが吹き出す。


「最低値じゃん」


「いや、まだ始まったばかりだから」


 順番は


1 有栖先輩

2 藍川

3 望月先輩

4 俺


 ……まあいい。

 カタンは順番が全てじゃない。


「じゃあ始めよっか」


 ***


 ゲーム開始。


 最初の資源配置が終わる。

 俺は小麦と木のラインを確保した。

 悪くない配置だ。


「じゃあ部長から」


 コロ。


「8」


 石が配られる。


 コロ。


「6」


 また資源が動く。


「琥太郎くんの番だよ」


「よし」


 俺はサイコロを振る。


 コロ。


「……3」


 誰も資源を取らない。


 沈黙。


「ドンマイ」


 藍川さんが肩を叩いてくる。


「いや、まだ始まったばかりだから」


 ……そ、そうだよな。


***


 数ターン後。


 コロ。


「10」


 藍川さんが資源を大量に取る。


「よしよし!」


 コロ。


「9」


 望月先輩も資源を取る。


「いい流れだ」


 そして俺。


「頼む」


 コロ。


「……2」


 また沈黙。


「また?」


「いやいや偶然だから」


***


 さらに数ターン。


「都市化!」


 藍川さんがカードを置く。


「うそ!?」


 もう都市!?


「へへー」


「私も開拓地」


 望月先輩も着々と点を伸ばす。


 そして俺。


「……」


 俺の前には


木1

羊1


 だけ。


「琥太郎くん」


 藍川さんがニヤニヤしている。


「まだ何も作ってなくない?」


「……今からだ」


 俺はサイコロを振る。


 コロ。


「2」


 静寂。


 完全な静寂。


 そして。


「ぶふっ」


 藍川さんがついに吹き出した。


「ちょっと待って無理無理無理」


「何がですか」


「さっきから全部外してるじゃん!」


「いや、確率的には――」


「琥太郎くん」


 望月先輩が肩に手を置く。


コロ。


「6」


「お、資源来たじゃん」


「やっとか」


俺は木と小麦を手に入れる。


……よし。


流れが来た。


コロ。


「2」


コロ。


「3」


コロ。


「2」


「……」


望月先輩が盤面を見る。


「君の配置」


「2と3しかない」


「……」


「……え?」


 盤面を見る。


 本当だ。


 他の人


6

8

9

10


 俺


2

3


「……」


「それ事故じゃん」


 藍川さんが爆笑している。

 ……今日の神はとことん俺の敵らしい。


***


 その後も。


 コロ。


「8」


 資源大量。


 コロ。


「6」


 また資源。


 そして俺。


 コロ。


「3」


「また!」


「うそでしょ!」


「なんだこの出目」


***


 30分後。


 勝利点


有栖 9

藍川 8

望月 7

俺  2


 俺はまだ開拓地一つ。


「……」


「琥太郎くん」


 藍川さんが震えている。


「今どんな気持ち?」


「黙ってください」


 藍川さんにだけは煽られたくなかったのに―。

 この人に煽られると無性に俺の悔しいという勝負本能を掻き出させる。


「ドンマイ」


 有栖先輩も苦笑している。


「今日は運が悪いね」


「……チェスなら勝てるんですけど」


「出た負け惜しみ」


 そして。


 コロ。


「8」


「はい勝ち」


 有栖先輩がカードを置く。


「10点。私の勝ち」


 ゲーム終了。


 沈黙。


 そして。


「琥太郎くん最下位!」


 藍川さんが机を叩いて笑う。


「マンカラ負けてカタン最下位とか今日どうしたの!?」


 ……くそ。

 今日は本当にツイてない。


「今日は運が悪いね」


有栖先輩は笑った。


「でもね」


「カタンは運のゲームだけど」


「配置は実力なんだよ?」


俺は盤面を見た。


2

3


……。


「うん」


藍川さんが肩を叩く。


「それは普通にミス」

 

 

 

 

 

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