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盤上の翼  作者: なぎさ
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第10話 大掃除


「なあ、慶賀。最近なんか調子良さそうじゃん。なんかいいことでもあったの?」


「気づくか琥太郎。それがな、昨日の大会でずっと勝てなかった相手にやっと勝つことができたんだよ」


 慶賀がそんなにもルンルンと歩いているのは初めて見た。

 よほど嬉しかったんだろうな。

 高校の登校は最近慶賀と一緒に行くようになった。


「てか、琥太郎。四組の釜石真白って聞いたことあるか?」


「……ああ、知ってるよ。何も学年一の美女とか噂されてたな」


 俺はその名前を知っている。

 何故なら、俺はその子の――幼馴染だからだ。

 小四か五年生の頃に少し遊んだくらいだ。

 多分、向こうは覚えていないと思うけど。


「俺、昨日の部活の帰りにな、たまたま会ったんだよ釜石さんに!」


「へえ」


「可愛すぎて失神するところだったぜ。お前も見に行こうぜ見て損はねえからよ」


「俺はやめておくよ」


「ふぅん、勿体ねぇな」


 慶賀はじっと俺の方を見つめる。


「何だ?」


「お前さ、前変な奴に襲われた時あっただろ?」


「うん、それがどうしたの?」


「いいや、急に思い出したから言うんだけどさお前のその古傷?どうしたのかなって」


 そういえば、慶賀には説明してなかったな。

 この傷のこと。


「まあ、簡単に言うと事故みたいな?」


「そうか、悪かったな」


「いやいいんだ。別にこの怪我に覚えがあるわけでもないし」


「どう言うことだよそれ……でも、カッケェよ漢ってのはな古傷がかっこいいみたいなところあるからな」


 慶賀の意味のわからない持論は無視してこの傷のことを思い出す。

 確か、あの釜石真白に出会った時からこの傷はあったはず……じゃあ、一体いつから。

 そういや、この傷のことを泰葉に聞いたことがあった。

 だが、その答えは何か隠すようにうやむやにされた記憶がある。

 何で何だろう。

 不意にそんなことを考えていると、道端でお腹を押さえて蹲っている女の子が目に入った。

 俺達と同じ制服。

 俺と慶賀は顔を見合わせる。


「大丈夫ですか?」


「……すみません。お腹が痛くて」


 ……あ。

 その声と、腰まで伸びた白い髪のショートには見覚えがあった。


「大丈夫ですか。救急車呼びます――って、釜石さん!?」


「……あ、あなたは昨日の――」


「立てますか?」


 慶賀が優しく呟くと。

 釜石さんは少し表情が和らいで。


「ええ、手を貸してもらってもいいですか?」


 慶賀は釜石さんの手を掴んで立つのを手伝う。

 しかし、困ったな。

 ここら辺に病院はないぞ。


「もう、大丈夫です一時的なものでした。本当に有難うございま――」


 俺と釜石さんの目が合う。


「……フフ」


 釜石さんは、一瞬だけ意味ありげに微笑んだ。


「本当に有難うございました!」


「いいですよ本当に」


 慶賀が鼻を伸ばすと、釜石さんは深々とお辞儀をする。


「大丈夫かな?」


 釜石さんは俺の方へ向かって呟く。


「七年ぶりだね。こーたくん」


 ***

 

 学校に着くと、藍川さんが俺に近づいてくる。


「ねえ、琥太郎くん。部長の復帰って明日だよね?」


「そうだね」


「琥太郎くんさあ、わかってるよね?」


 藍川さんの言いたいことは何となくわかる。

 多分、ぬいぐるみの件だろう。

 俺は鞄から有栖先輩激似のぬいぐるみを出す。


「おー、琥太郎くんにしては準備がいいじゃない」


 琥太郎くんにしてはってなんだ。

 俺はいつも準備がいい方だ。

 前回は目の前の最大の難敵が居たせいでオールで作ることになったが……今回はそんなことをさせない。

 藍川さんの無茶振りにもしっかりと対応していく。


「てか、藍川さん。最初は俺のこと西條くんって呼んでたよね?何で琥太郎くんになったの?」


「琥太郎くんさあ、いちいち細かいこと気にするね。別にどうだっていいでしょそんなこと――まあ、敢えて言うなら私と琥太郎くんとの切磋琢磨するライバル関係からの敬意かな」


「俺と藍川さんってライバルなの?随分と実力差が――痛たたた」


 藍川さんは俺のほっぺをぐにゃりとつねる。


「余計なこと言わない。私と琥太郎くんは竜騰虎闘の激闘を繰り広げるライバルなんだよ!!」


 絶対そんなことはないが俺は心に留めておく。

 それにしても明日部長が復帰か……どうなることやら。


 ***


「望月先輩。こんにちは」


「お、西條くんか。丁度いいところに来た」


 俺はこの台詞だけで何か嫌な予感がしてならない。

 てか、何だこの部室埃っぽいな。


「明日、有栖の復帰でしょ?だから少しでも部室を綺麗にしておこうと思っているんだ」


 そういうことか……でも、そんなに汚かったか?

 ……いや、きったな。

 なんか前見た時よりも倍汚くなってるんだけど!?

 辺りにはボドゲやお菓子などが転がっている。


「いや〜、全く誰なのよ。こんな荒らしたのは」


 冷や汗をかきながら言う藍川さん。

 ……絶対、あんたでしょ。


「私も手伝いますよ」


 藍川さんは近くにあるボドゲやらを拾い始める。

 俺も雑巾で汚くなった床を拭き始める。

 この部室の汚さは、俺の綺麗好きな本能を刺激してくる。


 〜数時間後〜


「ふう、これで大体終わったんじゃない?」


 確かに大きなゴミやお菓子の散らかりは見られることは無くなったが――まだだ。


「藍川さん達は先に帰っていいですよ」


「西條くん、まだやるのかい?」


「ええ、あと少しだけですけどね」


「わかった。それじゃあ。また明日」


「はい、お疲れ様でした」


 すると、藍川さんが呆然と立ち尽くしていた。


「私も少しやりますよ」


「……そ、そうか?わかったじゃあ、二人ともまた明日」


 俺と藍川さんは望月先輩に見送りをして、作業を再開する。

 何故、藍川さんは残ったのだろう。


「藍川さん。俺に気にせず。帰っていいからね」


「うん、大丈夫、大丈夫。私は琥太郎くんが帰ったら帰るよ」


 こいつまさか。

 俺とどっちが長く綺麗に掃除できるか"勝負してる"!?

 流石にそんなことはないよね?

 正直、もう部室内はピカピカなんだけど、藍川さんに負けるっていうのは何か癪だ。

 早く帰らないかな。

 俺はピカピカの床を雑巾で拭き続ける。

 藍川さんは以前ボドゲの整理をしている。

 数時間もすることじゃないよね?

 俺もだけどさ。


「琥太郎くん、もう、帰っていいんじゃない?」


「藍川さんこそ。もう、夜も暗いし帰ったほうがいいんじゃない?」


 気づけば窓の外はすっかり暗くなっていた。


 チャイムが鳴る。

 このチャイムは学校から出なくてはいけない時間。

 結局、ここまで残ってしまった。

 あー、もう藍川さん帰らないかな。

 すると。


 ガチャ。


 ドアが開ける音。


「お前達いつまでいるんだ。早く帰りなさい!」


 一応、ボドゲ部顧問の須田先生が見回りに来たらしい。

 ……しょうがないな。

 今回は――。


「「引き分けね」」


 俺達の長い掃除勝負は、こうして強制終了した。

 

 

 

 

 


 


 



 

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