じじいとアッシェという男
アッシェは元々裕福な商家の家に生まれた
彼の人生が狂い始めたのは彼が四つの時の事だった
親が貴族に金を貸した
ただそれだけの事だったがそれがいけなかった
貴族の名はゴヴァ・カーダ男爵
既にブラックリストに乗っていて金貸しなら門前払いにする様な男である
困窮する彼を哀れんだアッシェの父が同情から金を貸してしまったのだ
返す気も無い金の無心を続けた挙げ句に返済を求められたら無礼だと言い出してその場でアッシェの父を殺害してしまったのだ
当然役所には訴えたが謎の力が働き訴えは退けられた
それどころか慰謝料だと言って家の財産を根こそぎ奪っていった
心労で若くして母親が他界してしまい天涯孤独の身になったのはアッシェが六歳の時である
失意の中でアッシェは不思議な夢を見た
『アッシェ、可哀想な子…可能なら奪われた全てを取り返してあげたい…でも、その代わりにアッシェに一つだけ特別な力を授けましょう』
そう言うと母の様な美しい、悲しい瞳をした女性は幼いアッシェの頭を撫でる
『あなたは二つの事を選ぶ時に必ず正解にたどり着ける様になりました、悩んだ時は難しく考えず心のままにお進みなさい…ああ、アッシェ、愛しています、愛おしい私の可愛い子…』
そう言うと美しい女性は光の中に消えていった
以来アッシェは二択で間違えた事は一度もない
それが母神の加護であると知ったのは暫くしてからの事である
アッシェが八歳の時に再び転機が訪れる
アッシェの噂を聞き付けた貴族が支援を申し出たのだ
貴族の名はボン・マイティ
会うなり涙ながらに同じ貴族として申し訳無いと謝罪してきた変わり者のお人好しだった
彼の支援を受けて八歳から学園に入学して、なんと成績優秀者しか入れないという高等学園も卒業している
アッシェは所謂インテリマフィアなのだ
しかし、その事がゴヴァの耳に入る事となり目を付けられたマイティは無実の罪を着せられて没落したらしい
マイティの手紙から娘が居ると知っていたのでアッシェは必死で娘を探した
マヌケなお人好しにまだ何も返せていない
彼と彼の家族を守りたい、助けたい
それだけを思って奔走した
しかし間に合わなかった
娘…レテという娘とその弟のラトは保護出来たが彼女の両親は既に帰らぬ人となっていた
再び失意の中に叩き落とされたアッシェだったが絶望し生きる気力を失っていた姉とは対照的に幼い弟の目は未だ生きていた
アッシェはこの姉弟を自分の居る世界に置くべきか、日の当たる場所に返すか悩んだ
悩んで悩んで悩み抜いた結果、気が付けば彼は母神教の神殿で祈りを捧げていた
裏社会に住む俺が母神を祈りを捧げるとはとアッシェは自らを冷ややかに笑ったが、脳裏にあの時の母神の声が脳裏を過る
悩んだら心のままに…
悩んでる自分がバカバカしくなったアッシェは誓った
あの姉弟は必ず日の当たる場所に返してやると
以来アッシェは似た様な境遇の悪い連中を集めて組織を立ち上げた
子供や子連れは狙わない
という信条を持って活動する内に規模が大きくなっていき、気がつけば信条を理解しない輩も目だつようになっていた
最近組織に入ったチンピラ二人が人拐いの仕事を受けたらしい
ヤバいヤマだと直感が警告音を鳴らす
拠点の一つの倉庫を好き勝手に使ってると聞いたアッシェはバカを解らせるべく倉庫に向かう
そこには泡を吹き縛られたチンピラ二人転がっていた
何が起きたのかと辺りを見回していると子供が倉庫に入ってくる
何故ガキがこんなところに?
それにしても何という気配だ?
歴戦の兵士の様なオーラを纏うガキの気配にアッシェは気圧される
カマを掛けてみるか
「ワリィな、ここがお前の秘密基地なの知らなくてよ」




