じじいと手帳と女と涙
演歌じゃのぅ
手帳にはメイを拐った奴とそれに連なる人物の裏の顔が事細かに書かれておった
蛇の道は何とやらとは言うが、この手帳だけで結構な数の男爵家子爵家が家名断絶の憂き目を見るじゃろう
本来なら強請の種じゃろうに惜しみ無くこれを出してくる辺りにアッシェの本気度が伝わってくるのぅ
何か新しい飯の種を与えてやらんとならんのぅ
それよりも問題なのは二人の公爵の名前じゃ
一人はゼン・メイス公爵、一連の騒動の黒幕じゃ
それはもう知っとるからいいのじゃが、問題なのはもう一人、前国王の次男で王位継承権一位のバン・ソード公爵の名前と悪事が列挙されとるという事じゃ
「兄を利用して政変を興し一気にクーデターを起こす…いやはや、笑える状況ではありませんな…」
ハモンが苦々しく呟く
「王位継承権二位の国父、ジョブ・ソード公爵と四位のカタナ様が国王派なのがせめてもの救いでした…」
ハモンは淡々と独り言を続けた
ほれ見てみい、王位継承権放棄せんで良かったじゃろう
「しかし、事がここまで大きいと内々では済ませられませんな…カタナ様、ディナーのメニューが少々変更となりそうですが宜しいでしょうか?」
ハモンがワシに許可を取りに来る
「構いません、最初から私の手には余る話でしたので」
ワシは二つ返事で許可をする
正直黒幕が公爵だった時点で斬ったら終わりという話では無くなっとった
「それはそうとご婦人、失礼ですが貴女は我が友ボン・マイティ男爵のご令嬢のレテさんですよね?」
ハモンが黙って立っていた女に突然語り掛ける
「私はその様な…」
否定する女には明らかに動揺がある
「あの時の私は余りにも無力だった…親友の無実すら晴らせぬ程に…どうか、どうか私の罪を償わせては貰えぬだろうか、レテ嬢!」
ハモンは両ひざをつきレテに頭を下げる
「頭を上げてくださいませ、コッパー様、悪いのは全て露見した不正を父に擦り付けたゴヴァ子爵です…あなたに償うべき罪はありません」
レテはハモンの手を取り涙ながらに訴える
ワシ、置いてけぼりじゃのぅ…
…ん?ゴヴァ?
確か手帳にこれでもかって悪事が書いていった男じゃのぅ
改めて手帳を見てみるとボン・マイティ男爵の不正とそれをボン・マイティに押し付けたとする詳細な証拠がびっちり書かれておる
今回の件とは余り関係無いがどういう事じゃ?
「レテ嬢、手帳は見ましたか?」
ワシはレテに確認を取る
「いいえ、私は今の私の主であるアッシェ様を信用して居ますので」
レテは首を横に振り言う
「ハモンさん、手帳後半の方見ましたか?」
今度はハモンにも確認を取る
「申し訳ありません、クーデターの件を見てしまいそれどころでは…」
そう言うとハモンもやはり首を横に振る
何だかのぅ
「これを見てください」
ワシはそう言うとゴヴァ・カーダ子爵による軍の物資の横流しの詳細や取引相手の名前が列挙されとるページを見せる
「「これは…」
」二人の声がシンクロする
「しかし、今回の件とは無関係なのに何故…」
ハモンの疑問も尤もじゃ
それを聞いたレテは口許を両手で押さえながらボロボロと涙を流し始める
「ああ…アッシェ様…あなたというお方は何処までも私達姉弟の事を…」
アッシェの食わせ物めが、どうやらただの善意でも無さそうじゃのぅ




