第98話 変わった者たち
昼過ぎの冒険者ギルド。相も変わらず冒険者たちが集まっており、依頼を探したり休息所で休んだりしている。
休息所にはバアルたちゴスペル、エファリアの姿もあり、隅にある丸い机を囲むように座っていた。
「バアルさん、この後はどうされます? また、ヴァリンの近くに出没するモンスターの討伐を行いますか?」
リーテは隣に座るバアルを見て、この後の予定について尋ねる。
バアルたちは午前中、ポーションなど依頼中に使うアイテムの補充をするための買い物をしていたため、今日はまだ冒険者の活動を行っていないのだ。
「そうだな。ヴァリンの東側にある平原にモンスターが多く出現するらしいから、そこへ行ってみるか」
提案を聞いたリーテは軽く頷く。
「ランハーナさんとエファリアさんは、他にやりたいこととかはありますか?」
「別に無いわ。バアル様が討伐に行くって言うのなら、それに賛成♪」
「私もどうしても受けたい依頼があるわけじゃないから、モンスター討伐でもいいわ」
ランハーナとエファリアの意見を聞き、リーテは揉めたりすることなく予定が決まって良かったと小さく笑みを浮かべるのだった。
「んじゃあ、早速東の平原に行きますかね」
全員が賛成したのを確認したバアルはモンスター討伐に向かうために立ち上がり、リーテたちもそれに続いて立ち上がる。
目的地の平原はヴァリンからそれほど遠くないため、今から向かってモンスターを討伐してきても日が沈む前に戻ることが可能だった。
バアルたちは冒険者ギルドの出入口に向かうために歩き出す。そんな時、出入口の扉が開き、カイルとファリスが入って来た。
カイルとファリスを見たバアルたちは足を止めて二人に注目する。
ギルド内にいた他の冒険者たちもカイルとファリスに気付くと、何かに感心したような反応を見せた。
冒険者たちが注目する中、カイルとファリスは受付に向かい、眼鏡を掛けた水色の髪の受付嬢の前まで移動する。そして、カイルは自分が持っている大きめの袋をカウンターの上に置いた。
「リッチの討伐依頼を済ませてきました。確認をお願いします」
カイルは依頼完了の報告をすると同時にカウンターの上の袋を開け、中からは金色のサークレットを付けたスケルトンの頭部を取り出す。
取り出されたのは魔法攻撃を得意とするアンデッド族モンスター、リッチの頭部だった。
「た、確かに討伐対象であるリッチですね。お疲れ様でした」
受付嬢は驚きの表情を浮かべながら近くで待機している職員を呼び、リッチの頭部を受付の奥へ運ばせる。
頭部が運ばれると受付嬢はカウンターの裏から報酬である金貨と銀貨を取り出し、カイルとファリスの前に出した。
ファリスは硬貨を数え、額に間違いが無いのを確認すると受け取って腰のポーチに仕舞う。
「今回も早いお戻りでしたね。リッチが出現した場所は遠く、馬でも一日は掛かる場所なのに……」
「カイルのおかげよ。コイツがいるから、こうして早く依頼を片付けて帰ってくることができるのよ」
ファリスはまるで自分のことのように誇らしげに語り、笑いながらカイルの肩をポンポンと叩く。
カイルはファリスが自分を必要以上に高く評価するため、照れ隠しをしているのか苦笑いを浮かべていた。
「他に何か急ぎの依頼とかはないの?」
「いえ、今のところ、そう言った依頼は入っていません」
「そう。……じゃあ、もし難しい依頼とかがあったら、あたしらに言ってね」
「あ、ハイ。その時はよろしくお願いいたします」
受付嬢が軽く頭を下げると、カイルとファリスは背を向けてギルドの奥へ移動する。
周囲の冒険者たちはカイルとファリスが短い時間でリッチを討伐し、帰って来たことに驚いており、目を丸くしながら二人を見つめていた。
「その様子だと、今日も問題無く依頼を片付けられたみたいだな?」
声を掛けられたカイルとファリスは足を止め、声が聞こえた方を向く。そこには先程まで二人を見ていがバアルたちの姿があった。
「バアル、君たちもこれから依頼かい?」
「いや、ヴァリンの東にある平原にモンスターの討伐へ行くところだ」
「そう。……あの平原にはたまにオーガの群れが出現するらしいから、気を付けてね?」
「忠告、ありがと」
高レベルの自分たちがオーガ如きに負けることは無いが、自分たちを心配して言っていることを理解していたバアルはニッと笑いながら礼を言う。
「それにしても、大したものよねぇ。アンタたち、今日までAランクでも難度の高い依頼を幾つも完遂してきたんでしょう?」
ランハーナが笑いながらカイルとファリスに声を掛けると、ファリスもランハーナを見ながら笑みを返した。
「カイルが竜帝の霊鎧を使えるようになってから、まさにとんとん拍子よ。依頼主のいるところへ短時間で移動できるし、あたしが倒せないモンスターは簡単に倒してくれるんだもの。本当に大助かりよ」
カイルのおかげで実績を上げることができていると、ファリスは気分を良くしながら語った。
マンティコアとネフィリアの件から既に五日が経過しており、カイルとファリスは今日まで高難度の依頼を幾つも熟してきた。
モンスターを討伐する依頼では、竜帝の霊鎧を装備したカイルが敵に接近して戦い、弓矢を扱うファリスが後方でカイルを援護する形で戦った。
ただ、カイルは竜帝の霊鎧を装備したことで二百年前に出現した魔王以上の力を得ているため、ファリスの援護が無くても難なくモンスターを倒すことができる。
一見ファリスの援護は必要ないと思われるが、戦いの基礎をよく分かっていないカイルだけでは効率よく戦えないため、ファリスの援護や助言が必要だった。
何よりも、カイルは今日まで自分を支え、共に戦ってくれたファリスを不要な存在とは思っていない。
モンスター討伐だけでなく、移動する際もカイルは活躍していた。
竜帝の霊鎧は装備した者のステータスを上げるだけでなく、背中から光の竜翼を出現させ、飛翔の技術を使えるようにすることができる。これはEKTの世界でも存在している能力だ。
飛翔を使い、空を飛んで移動すれば馬よりも速く移動することができるため、短時間で依頼がある場所へ向かうことも、依頼を終えて帰ることもできる。
カイルとファリスはこの五日間の間、ヴァリンの近くだけでなく、遠くからの依頼も数件受けていた。
本来なら全てを終えるまで二日はかかる依頼も、飛翔を使えば移動時間を短縮できるため、半日で終わらせて帰ることができた。
「ファリス、褒めすぎだよ。僕は霊鎧を使って強くなっただけなんだ。君のように自分自身の力で戦ってるわけじゃないよ」
マジックアイテムを使って強くなっただけなのに、強者として扱われることに複雑な気持ちになるカイルは必要以上に褒めるファリスを止める。
「謙遜しなくていいわよ。例えアイテムを使ってるとしても、アンタが凶暴なモンスターを倒せるくらい強いのは事実なんだから。今回の依頼でもアンタはリッチを簡単に倒したんだしね」
ファリスは笑みを浮かべたままカイルの背中を若干強めに叩く。
叩かれたカイルは背中に走る痛みと軽い衝撃に思わず目を見開いた。
リッチはレベルが27から30の間で魔法攻撃を得意としているモンスターだ。EKTでは下級モンスターとして扱われているが、異世界では熟練の聖職者や冒険者でなければ倒せない存在なため、中級モンスターと見られ、恐れられていた。
今回の依頼で、カイルは竜帝の霊鎧を装備してリッチと戦い、苦戦することなくリッチを倒すことに成功した。リッチの魔法も高い防御力を持つ竜帝の霊鎧の前では意味も無く、カイルは一方的にリッチを攻撃して勝利したのだ。
「リッチはマンティコアと同じでAランク以上の冒険者が大勢で挑む相手。それをたった一人で倒したんだから、もっと胸を張りなさい?」
「……う、うん」
例えマジックアイテムに頼ってるとしても、強い力を持ち、戦っているのだから堂々としてもいいかもしれない。カイルはファリスを見ながらそう感じた。
因みにマンティコア討伐の依頼はカイルがマンティコアを倒したことで依頼そのものが無くなっている。ただ、何人かの冒険者には既に討伐の話が伝わっていたため、ウォルレスはマンティコアは別の場所へ移動したので討伐する必要が無くなったと冒険者たちに説明して納得させた。
真実を伝えなかったのは、カイルが竜帝の霊鎧という強力なアイテムを持っていることをできる限り広めないようにするためだ。
「前と比べて、大分冒険者らしくなったじゃないか」
バアルはカイルが冒険者として成長したと感じ、小さく笑いながら声を掛ける。
竜帝の霊鎧を手に入れる前のカイルは気弱で自分を低く評価していた。その時と比べると今のカイルは強い力を手に入れて自信も付けたため、心身ともに強くなったと言えるだろう。
「アンタもそう思うでしょう? この調子で実績を上げ続ければすぐにSランクに昇格できるわ。……そして、いつか最高の冒険者にもなれる」
ファリスは軽く俯くと、自身の右手をゆっくりと握る。それはまるで、叶えられなかった夢を今度こそ叶えてやると、改めて決意するかのようだった。
バアルたちがファリスに注目していると、再び冒険者ギルドの入口が開いて数人の冒険者がギルドに入ってくる。
扉が開く音を聞いたバアルたちが一斉に入口の方を向くと、クレシアたちプレッジが視界に入った。
「クレシア……」
「……ッ」
カイルはクレシアを見て名前を呟き、ファリスは不機嫌そうな顔でクレシアたちを見つめる。
「……プレッジは今日も“強制依頼”で外に出てたのか?」
バアルは視線だけを動かし、カイルとファリスを見ながら声を掛ける。
声を掛けられたファリスは不機嫌そうな顔のままバアルを見ると、再び視線をクレシアたちに戻す。
「処分の期間中は毎日依頼を受けることになってるからね。まぁ、ネフィリアのやったことを考えれば当然のことよ」
一切同情する様子を見せないファリスを見たバアルは、ファリスと同じように視線をクレシアたちに向けて彼女たちを見つめた。
五日前、ネフィリアはマンティコアにカイルとファリスを襲わせようとした件で冒険者の資格を剥奪されそうになった。
クレシアはネフィリアに処分が下されそうになった時、ネフィリアが二人を狙ったのはリーダーである自分の管理が甘かったことにも原因があると発言し、プレッジのメンバ―全員が処分を受けると申し出る。
エバンスとグオンもクレシアの提案に納得し、メンバー全員で処分を受けることを進言した。結果、ネフィリアの冒険者の資格剥奪は取り下げられ、代わりにプレッジには強制依頼処分が下されたのだ。
強制依頼処分とは、冒険者ギルドの規律を破った冒険者に下される処分の一つで、ギルド側が処分の対象となった冒険者に強制的に依頼を受けさせるというものだ。
当然だが、冒険者側には拒否権は無く、どのような内容だろうと必ず引き受けなくてはならない。ただ、処分を受ける冒険者が死亡しないよう、依頼は冒険者のランクや実力に合った内容になっている。
更に強制依頼は規律を破った冒険者への罰であるため、受けさせた依頼の報酬が冒険者に出されることはない。報酬は冒険者ギルドに回され、そこから教会や孤児院などに資金として寄付される。
今回、プレッジにはカイルとファリスを危険に晒したことから、一ヶ月の強制依頼処分が下された。一日に一度、必ず強制依頼が出され、クレシアたちはその依頼を無償で受けなくてはならない。
通常、強制依頼で得られる報酬は寄付されるのだが、プレッジの場合、強制依頼の報酬は被害者であるカイルとファリスに全て回されることになっている。つまり、クレシアたちはカイルとファリスのために依頼を受けているようなものだった。
「まぁ、未遂で終わったとはいえ、わざとあたしたちを死なせようとしたんだから、あのくらいの罰は受けてもらわないとね」
「ふぁ、ファリス……」
嘗てのチームメイトに対して冷たい言葉を言い放つファリスにカイルは表情を曇らせる。
ファリスはカイルの顔を見ると、呆れたような顔で軽く溜め息をついた。
「……『そこまで言わなくても』って言いたいの? アンタは甘いのよ。悪いことをした奴には厳しく接するのは当たり前のことよ」
「で、でも……」
「それにあの一件は公表されずに隠されることになったのよ? ネフィリアのやったことを住民たちに知られない点を考えれば、十分甘い処分だと思うわ」
遠くにいるクレシアたちを見つめながら、ファリスは情けのある結果だと語る。
ファリスの言うとおり、ネフィリアがカイルとファリスを死なせようとしたこと、そしてプレッジが処分を受けることは他の冒険者やヴァリンの住民たちには公表されずに今も隠されている。そのため、周囲の者たちはプレッジが強制的に依頼を受けさせられていることを知らない。
公表されていないのは、ギルドマスターであるウォルレスがネフィリアの一件を包み隠すことにしたからだ。
冒険者がモンスターに他の冒険者を襲わせようとしたという事実が広まれば、たちまちヴァリンの冒険者ギルド、そして冒険者たちの信用は失われる。それを避けるため、ウォルレスはネフィリアの一件を公表しないことにしたのだ。
しかも処分を受けるのがヴァリンでも上位の実力を持つプレッジのメンバーであるため、絶対に知られるわけにはいかない。
プレッジに処分が下される時、カイルとファリスも呼び出されて処分の内容を聞かされていた。強制依頼処分、ネフィリアの件を公表しないと言う内容を聞かされた時、カイルは納得し、ファリスも若干不服にしたが最終的には納得した。
クレシアもカイルとファリスの受けた仕打ちを考えれば当然だと考えて納得し、プレッジの処分が正式に決定した。
「今回の処分、クレシアたち三人はともかく、ネフィリアはかなり腹を立ててるだろうな。自分が殺そうとした存在のためにただ働きをすることになったんだから」
「確かに、ネフィリアの性格を考えると相当屈辱的なことかもしれないわね……」
バアルとエファリアはプレッジを見つめながら、ネフィリアの心境を想像する。
処分を聞かされた時、ネフィリアはきっと納得できずにウォルレスに文句を言ったはず、二人はプレッジを見つめながらそう思った。
クレシアたちは真っすぐ受付は向かい、受付嬢と何かを話している。状況から依頼を終え、その報告をしているのだとバアルたちは予想した。
話が済むと受付嬢はクレシアや彼女の後ろにいるエバンスたちに頭を下げた。
クレシアたちは依頼の報酬などは受け取らず、受付を後にする。報酬を受け取らなかったことから、クレシアたちは強制依頼を済ませて戻ってきたようだ。
報告を終えたクレシアたちは休息を取るために休息所の方へ歩いて行く。そんな時、少し離れた所で自分たちを見ているカイルとファリス、そしてバアルたちが目に入った。
「……カイル、ファリス」
幼馴染たちの顔を見たクレシアは呟き、エバンスとグオンもカイルたちに気付いて僅かに複雑な顔をする。
ネフィリアだけは見たくない顔が視界に入ったため、表情を険しくしてカイルとファリスを睨んだ。
処分が下された日から五日間、クレシアは一度もカイルとファリスに会っていない。二人に迷惑を掛けたことで合わせる顔が無いと思ったのか、クレシアは二人との接触を避けていたのだ。
クレシアたちはカイルたちに話しかけたりせず、彼らの横を通過しようとする。
カイルは声を掛けないクレシアたちを見て僅かに暗い表情を浮かべた。
「今日も頑張ってるみたいね?」
ファリスに声を掛けられたクレシアはファリスの真横で足を止める。
クレシアの後ろをついて来ていたエバンスたちもクレシアにつられて立ち止まった。
「……私たちはお前とカイルに迷惑を掛けた。その償いのために全力で依頼を受けるのは当然のことだ」
「あっそ……まぁ、あまり無茶しないことね。償いとは言え、あたしたちが関わっている処分でアンタたちがボロボロになるのも、気持ちのいいものじゃないから……」
「ああ、肝に銘じておく」
前を向きながら語るファリスを見て、クレシアは目を閉じながら返事をする。この時の二人はカイルが追放された直後と比べ、若干距離が縮まったように見えた。
実はプレッジに処分が下された日、カイルとファリスはウォルレスからクレシアがカイルを追放した本当の理由を教えられていたのだ。
クレシアが今のカイルではプレッジにいても命を落とす可能性が高いと考えたこと。カイルが強くなるための時間を与えるために追放したこと。そして、自分では力の弱いカイルを守りながら共に活動する自信が無かったことなど、ウォルレスはいい機会だと考え、カイルとファリスに全てを話した。
追放の真実を知ったカイルは驚くが、予想していたとおり理由があって追放したのだと知って気持ちが少しだけ楽になった。
クレシアが自分を死なせないためにチームを抜けさせたと知り、カイルはクレシアが昔と変わらず優しい少女で良かったと心の底から感じていた。
一方でファリスも真実を聞かされ、クレシアを誤解していたことを知ってクレシアに対する印象を改めた。
ただ、カイルを守るためだとしても、クレシアが一方的にカイルを追放し、幼い頃の約束を破ったことには変わりない。そのため、ファリスは今でもクレシアを許すことができず、距離を取り続けていた。
気まずい空気が漂わせ続けているファリスとクレシアをカイルは無言で見つめ、もう昔のようには戻れないのだろうかと小さな寂しさを感じていた。
「まあ、どっかの腹黒魔導士には多少無茶はしてもらわないといけないわね。何しろ今回の処分の原因なんだから」
「はあぁ?」
ネフィリアは自分に視線を向けながら挑発的な言葉を口にするファリスを睨みつける。
「何よ、私が真面目にやってないとでも言いたいの? 私だってね、自分の過ちを反省してるのよ。だからこうして文句を言わずに依頼を熟してるんじゃない」
「どうだかね。アンタのことだから、心の中じゃ『どうして私がこんな奴らのためにただ働きしなくちゃいけないのよ』とか思ってるんじゃないの?」
鼻を鳴らしながら言い返すファリスを見て、ネフィリアは目元をピクリと動かす。
ネフィリアはファリスの予想どおり、強制依頼の報酬が毛嫌いするカイルとファリスに譲渡されることに不満を抱いている。だが、文句を言えば自身の立場を悪くするため、処分を言い渡された時も渋々納得し、クレシアたちと一緒に依頼を受け続けていた。
「はぁっ! 勝手な思い込みで人を悪く言うんじゃないわよ、ポンコツレンジャー!」
図星を突かれた内心驚いていたネフィリアだったが、ファリスたちに本心を悟られていないため、挑発的な言葉をぶつけて気を逸らそうとする。
「大体アンタ、自分が被害者だからって調子に乗ってるんじゃないの? 被害者だから何を言っても許されると思ったら大間違いなの――」
「やめろ、ネフィリア」
溜まった鬱憤を晴らそうとするネフィリアを後ろにいたエバンスが止めた。
「くだらない理由でカイルとファリスを死なせようとしたお前に被害者であるファリスに言い返す資格なんてない。少しは自分の立場を理解しろ」
「くうぅぅぅっ……」
ネフィリアは鋭い目で睨んでくるエバンスを見ると、不満そうな声を出しながら黙り込む。普段のネフィリアなら強気で言い返すのだが、この時のネフィリアは素直にエバンスに従った。
マンティコアの一件でカイルとファリスを死なせようとしたネフィリアはクレシアたちからの信頼を失ってしまった。
しかし、魔導士としての実力や長い付き合いであることから、クレシアたちはネフィリアがおかしなことをしないよう見張ると同時に償いの機会を与えることにしたのだ。
チャンスを与えられたネフィリアは再びプレッジの仲間として認めてもらうため、全力で活動することを決意する。だが信用を失っていることには変わりないため、今では肩身の狭い思いをしており、クレシアだけでなく、エバンスやグオンにも頭が上がらなくなっている。
「悪かったな、ファリス。あの時の件でコイツも少しは大人しくなったんだが、それでもたまに今みたいに態度を取ることがあるんだ」
「アンタたちも苦労してるみたいね」
謝罪するエバンスを見て、チームメイトたちも手を焼いているのだと知ったファリスは少しだけ同情するのだった。
バアルたちもエバンスたちのやり取りを見て、ネフィリアは仲間すらも困らせる面倒な女なのだと改めて理解する。
ネフィリアが静かになると、クレシアは軽く息を吐きながらファリスの方を向く。
「私たちはそろそろ行く。これ以上此処にいたら、ネフィリアがまた騒ぐかもしれないからな」
「そう……」
別にクレシアと話をしたいわけでもないファリスは引き留めるような発言はせず、そのままクレシアたちを行かせることにした。
カイルはもう少し話したいのか、若干寂しそうな顔でクレシアたちを見ていた。
挨拶を終えたクレシアはエバンスたちを連れて休息所へ向かおうとする。そんな時、ギルドの奥からウォルレスが早足でバアルたちの方へ歩いて来た。
「お前たち、ギルドに来ていたのか。……ちょっと話がある。執務室へ来てくれ」
「話って、何かあったんですか?」
カイルが小首を傾げながら尋ねると、ウォルレスは周囲を簡単に見回した後に再びバアルたちの方を向き、真剣な表情を浮かべる。
「……詳しいことは後で話す。とにかく来てくれ。全員だ」
ゴスペルやエファリア、カイル、ファリスの三人だけでなく、プレッジも呼ばれたことにカイルは少し驚いたような顔をする。
指名されたのはマンティコアの一件に関わっていた者たちだったため、それに関係のある話をするのかと予想していた。
ウォルレスは振り返り、冒険者ギルドの奥に向かって歩き出す。
一同はどんな話なのか気になっていたが、とりあえず言われたとおりウォルレスと共に執務室へ向かうことにした。
――――――
執務室に移動したバアルたちは部屋の中央に立ち、執務用の机の前で自分たちの方を向いているウォルレスを見つめた。
ウォルレスは腕を組みながら目を閉じて軽く俯いており、その様子を見たバアルたちは深刻な内容なのかと予想する。
「それで、話とは何なんですか?」
バアルが改めて呼び出した理由を尋ねると、ウォルレスは顔を上げながらゆっくりと目を開け、真剣な目でバアルたちを見る。
「先程、ヴァリンの南東にある林の中に奇妙な建造物があるという情報が入った」
「奇妙な建造物?」
ウォルレスの言葉にクレシアは反応し、僅かに目を細くしながら聞き返す。
エファリア、カイルにファリス、そしてプレッジのメンバーたちもウォルレスの話を聞いて真剣な表情を浮かべている。その中で、バアルたちゴスペルだけは表情を変えずにウォルレスを見つめていた。
「話によれば、その林に材木を集めに訪れていたヴァリンの住人が、先日まで何も無かった広場にその建造物があったのを発見したそうだ」
「何も無かった? それってどういうことですか?」
エファリアが詳しい説明を求めると、ウォルレスは難しい顔をしながら首を横に振る。
「儂もよく分からなん。ただ、木一本生えてないごく普通の広場に気付かない内に建っていたそうだ。まるで隠されていた物が突然現れたかのようだと、発見した者は言っていたそうだ」
「突然、現れた?」
ウォルレスの言葉を聞いたエファリアは目を軽く見開きながら呟く。
最初は何も無かった場所に突然未知の建物が現れた。エファリアは過去にそれと似たいような話を聞いたことがある。
現在はファブール魔王国の中央都市となっているトリュポスの近くにある森の中に突如ダンジョンが出現した。そのダンジョンは最初は何も無かった場所に突然現れ、調査した直後に消滅している。
エファリアは嘗て自分が調査したダンジョンと同じように突然出現した奇妙な建造物の話を聞き、その建造物も二百年前の魔王が遺した物なのではと予想した。
「ギルドマスター、その建物って見た目はどんなのでしたか?」
もう少し詳しく情報を知りたいエファリアはウォルレスに建造物の外観を尋ねる。
周りのカイルたちもエファリアの質問を聞き、どんな外観なのか興味が湧き、ウォルレスに視線を向けた。
「見た目か? ……発見した者の話ではそれなりに大きな物だったそうだ。平らで大きな四角形の上に一回り小さい四角形が乗ったような見た目で、白一色だそうだ」
「四角の上に四角が乗ったぁ? その情報って確かなんですか?」
いい加減な情報なのではと感じたエバンスは呆れたような顔をしながら尋ねる。
クレシアたちも想像し難い建物の話を聞かされ、間違いないのかと疑っていた。
「儂も話を聞いた時に本当なのか確認したのだが、間違いなくさっき話した見た目だそうだ」
目撃者から得た情報だから間違いないだろうと話すウォルレスを見て、クレシアたちは複雑そうな表情を浮かべた。
「……もしかして、あたしたちを呼び出した理由って、その奇妙な建物が関係してるんですか?」
ファリスはウォルレスを見つめながら執務室へ来させた理由を確かめる。
周りにいるバアルたちもファリスの言葉を聞くと一斉にウォルレスに注目した。
状況からその建造物が関わっていることはバアルたちも何となく察していたが、ハッキリさせるためにも直接ウォルレスの口から話を聞こうと思っていた。
バアルたちが見つめる中、ウォルレスに静かに深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。そして、バアルたちを見ながら口を開いた。
「お前たちは既に察していると思うが、言わせてもらう。……お前たちにその奇妙な建造物の調査を依頼したい」
予想していた言葉がウォルレスの口から出たことで、バアルたちは一斉に反応する。




