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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第5章  憤慨の竜騎士
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第99話  緊急の要請


 話の流れから、自分たちに突然現れた建造物の調査を依頼することはバアルたちも感じ取っていた。そのため、奇妙な建造物を調べてほしいと言われても、誰一人驚きの反応は見せない。


「一切情報の無い未知の建造物だ。今後のためにもどのような物なのか調べる必要がある」

「……ただ、調べるにしても実力や経験の無い新人などに依頼することはできない。だから、上位の冒険者である俺たちに調査を頼みたい、と言うことですか」

「そのとおりだ」


 察しの良いバアルを見ながらウォルレスは軽く頷く。

 昨日突然現れたことから、ただの建造物でないのは間違いない。少なくとも何かしらの仕掛けが施されているため、その建造物がヴァリンやその周辺にある村や町で暮らす人々に害をもたらす可能性もゼロではないとウォルレスは予想していた。

 未知で危険度のある場所を調べ、情報を集めるには経験豊富な冒険者に依頼する必要がある。ウォルレスは正確に、そして確実に情報を得るためにAランク冒険者であるバアルたちに調査を頼むことにしたのだ。


「現時点では何とも言えんが、その奇妙な建造物が危険な物である可能性は十分ある。どんな場所で、誰が建造したのか、どうして突然現れたのかを明確にするためにも、お前たちに協力してもらいたいのだ」

「……ギルドマスター、ちょっといいですか?」


 説明をしているウォルレスにエファリアが手を上げながら声を掛けた。その表情は真剣で、何か重要なことを伝えようとしているように見える。


「どうした、エファリア?」

「その奇妙な建物なんですが……私、造った存在に心当たりがあります」

「何?」


 エファリアの言葉にウォルレスは反応する。

 誰が建造したのか知りたがっている状況で思い当たる節があると言ったため、その場にいる全員がエファリアに注目した。


「お前さんは、誰が造ったのか知っているのか?」

「確信はありませんが、可能性は高いと思います」

「誰なんだ?」

「……二百年前にこの世界に現れた魔王です」


 予想外の言葉にゴスペルのメンバー以外の全員が驚愕する。

 最初は何も無かった場所に突然現れるような建造物なので、特別な能力を持った者が造ったのではと予想してはいた。

 だが、二百年前にこの世界を支配しようとしていた魔王だとは思っていなかったため、ウォルレスたちは衝撃を受けた。


「二百年前に現れた魔王だと? ……なぜそう思う?」

「私がセプティロン王国で活動していた時、王国で似たような出来事が起きたんです。最初は何も無かった場所に突然地下ダンジョンが出現しました」


 僅かに目を鋭くしながら、エファリアは二百年前の魔王が造ったと考えている根拠を話す。

 エファリアの顔を見たウォルレスたちは彼女がいい加減なことを言っているわけではないと直感し、無言でエファリアの話を聞いた。


「地下ダンジョンは大きく、造られてからかなりの時間が経過していました。出現するモンスターも強力でしたし、あれほどのダンジョンを造れるのは強大な力を持った存在、二百年前の魔王しかいないと私は思っています」

「……まるでその目で見たような言い方だが、お前さんはそのダンジョンに入ったのか?」

「ハイ、当時チームを組んでいた仲間や他のチームの冒険者と一緒に……あと、バアルたちゴスペルも同行しました」

「バアルたちも?」


 二百年前の魔王が造ったと思われるダンジョンの調査にゴスペルも参加していたと聞き、ウォルレスはバアルの方を見て、本当なのかと目で尋ねる。

 目が合ったバアルはウォルレスが何を思って自分を見ているのか察し、ウォルレスを見つめながら軽く頷く。


「確かに俺たちもそのダンジョンの調査に参加しました。……と言っても、俺たちの役目はエファリアたちの野営地を守ることだったので、ダンジョンに入って調べたわけじゃありません」

「そうか……それで、そのダンジョンを調査は上手くいったのか?」


 ダンジョンを調査していないバアルたちからは詳しい話は聞けないとウォルレスと感じ、実際にダンジョンに入ったエファリアに声を掛けた。


「私たちは情報を集めるためにダンジョンに入り、調査を行いました。ですが、強力なモンスターの襲撃を受け、調査に参加した冒険者は私以外、全員死にました……」


 ダンジョンを調査した時のことを思い出し、エファリアは俯きながら暗い顔をする。

 ウォルレスたちはエファリアが仲間を失ったと聞くと、気の毒に思いながら彼女を見つめる。

 会話を聞いていたリーテもエファリアを見つめながら同情の眼差しを向け、同時に小さな罪悪感を感じた。

 仲間が死んだ時のことを思い出してエファリアは暗くなっていたが、すぐに顔を上げて再び真剣な表情を浮かべる。今はウォルレスたちに説明している最中なのだから、いつまでも暗くなってはいられないと自分に言い聞かせたのだろう。


「その地下ダンジョンで私は妖精のモンスターと遭遇し、何とかその妖精に勝利しました。その妖精は死に際に『魔王様』と言っていたので、二百年前の魔王が造ったダンジョンである可能性が高いと私は思っています」

「成る程……調査したダンジョンが二百年前の魔王が造った物である可能性が高く、今回出現した建造物も似た状況で出現した。そのため、二百年前の魔王が造った物かもしれないと考えているわけか」


 エファリアが無言で頷くと、ウォルレスは腕を組みながら難しい顔をする。

 確かに未知の建造物が出現した状況とエファリアの話の内容から考えると、二百年前の魔王が造った可能性は高い。

 しかし、それだけではまだ二百年前の魔王が造った物だと断言することはできないため、もっと情報を集める必要があった。


「バアル、お前さんもその建造物は二百年前の魔王が造った可能性は高いと思っているのか?」


 ウォルレスは決断材料を揃えるため、エファリアと共にダンジョンを目にしたバアルの意見を聞こうと声を掛けた。


「確かに今回出現した建造物が二百年前の魔王が造った物のである可能性はあります。……ですが、今は情報が少なすぎるため、魔王が造った物だとは言い切れません」

「お前さんもそう思うか。……やはり、誰が何のために造ったか知るには、実際にその建造物を調べて情報を集めるしかないな」


 情報を得るには調査する以外に方法は無いとウォルレスは判断し、目の前に集まっているバアルたちに真剣な眼差しを向ける。


「改めて、お前たちに依頼する。その未知の建造物を調査し、誰が何の目的で造ったのかを解明してほしい」

「……分かりました」

「任せてちょうだい」


 ウォルレスの要請にカイルは真剣な顔で返事をし、ファリスも小さな笑みを浮かべる。

 現れた建造物が二百年前の魔王が造った物なら、人々に害をもたらす可能性は高い。人々を悲しませない最高の冒険者を目指しているカイルとファリスにとって、今回の依頼は必ず受けなくてはいけない依頼と言えるだろう。


「俺たちも引き受けます。その建造物がどんな物なのか、興味もありますしね」


 ニッと笑いながらバアルも依頼を受けることを伝える。

 リーテとランハーナはバアルが受けると決めたのなら、それに従うのか反対する様子は見せなかった。


「……ウォルレスさん、一つ聞いてもいいでしょうか?」


 バアルたちが依頼を引き受ける中、クレシアがウォルレスに問いかけた。


「何だ?」

「その調査ですが、それは強制依頼による仕事なのですか?」


 これから受ける依頼が処分で受けることになるのか気になり、クレシアはウォルレスに尋ねる。

 クレシアたちプレッジも突然出現した建造物に危険性があると考えており、未知の建造物の調査を引き受けるつもりではいる。

 ただ、強制依頼で受けさせられる場合、今後の予定や受ける依頼などを変更する必要があるかもしれないため、確認する必要があった。


「まあ、状況から考えると、強制依頼として受けてもらうことになるな」

「そうですか……」


 予想していたとおり、強制依頼として受けさせられると聞いたクレシアは目を閉じながら呟く。


「ウォルレスさん、その調査依頼なんですが、俺たち必ず受けるんで、普通の依頼として受けさせてくれませんか?」


 エバンスの発言を聞き、クレシアやカイルたちは意外そうな顔をしながらエバンスの方を向く。


「……それは、依頼の報酬が関係しているからか?」


 ウォルレスが僅かに目を細くしながら尋ねると、エバンスはウォルレスを見ながら無言で頷いた。

 今回のように緊急で複数のチームが参加する依頼は通常の依頼と比べて難易度が高く、命を落とす可能性もある。だがその代わり、依頼を受けた際に得られる報酬は通常よりも多い。

 緊急の依頼は大金を得られるチャンスなため、普通ならクレシアたちも迷うことなく依頼を引き受けるだろう。だが、現在のクレシアたちは強制依頼処分を受けている最中であるため、調査依頼で得られる報酬は全てカイルとファリスに回されてしまう。

 つまり、プレッジは無償で命を落とすかもしれない依頼を受けさせられると言うことだ。これは処分を受ける立場であっても受け入れ難い条件と言える。


「普通の依頼なら、詳しい内容や難易度を事前に知ることができるから問題無いです。でも、今回みたいに詳しい内容も難易度も分からない依頼を無償で受けるのは流石に納得できません」

「私も同感です。難易度が分からなければ、対策を立てることもできませんので、普段受ける依頼よりも死亡する可能性が高くなります。それで無償というのは……」


 グオンもエバンスと同じように強制依頼で建造物の調査をすることが受け入れられず、今回は通常の依頼として受けさせてほしいと語り出す。


「止せ、二人とも。私たちは罰を受ける立場にあるんだ。勝手なことを言う権利は無い」


 不満を訴えるエバンスとグオンをクレシアは冷静に説得しようとする。


「だとしても、死ぬ可能性が高い依頼を無償で受けろって言うのはあんまりだろう」

「落ち着け、まだ死ぬ可能性が高いと決まったわけではない。それに強制依頼は受けた依頼の報酬を得られなくなると言うもので、依頼中に得た物は対象外だ。それを考えれば無償とは言えない」


 例え強制依頼で受けたとしても、自分たちにも見返りがあることをクレシアはエバンスに説明する。

 もし、今回の調査依頼を強制依頼として受けたとしても、カイルとファリスに回されるのは報酬のみであるため、調査中に得た素材や希少なアイテムなどはプレッジの物となる。アイテムなどは普通に手に入るのため、クレシアは強制依頼として受けても問題無いと考えていた。

 説明を聞いたエバンスとグオンは若干不満そうな顔をしながら黙り込む。

 例え無償で依頼を受けるわけではないとしても、危険度の高い依頼を受けるのに報酬を得られないことには抵抗があった。

 そもそも依頼中に素材やアイテムを手に入れることができなければ、無償で依頼を受けたことになるので、やはり強制依頼で受けることに納得できない。

 会話を聞いていたバアルたちは様々な表情を浮かべながらクレシアたちを見ている。

 バアルとランハーナは興味の無さそうな顔をしており、リーテとエファリア、カイルはエバンスの訴えに一理あると感じ、同情するような表情を浮かべていた。

 ファリスは処分を受けている立場でありながら、無償で依頼を受けることに抵抗を感じているエバンスを見てた呆れたような顔をしている。


「確かに、難易度も情報も分からない状態で魔王が作り出したかもしれない建造物を調べろ、というのは酷かもしれんな」


 クレシアがエバンスを説得していると、今まで黙っていたウォルレスが口を開く。

 一同はウォルレスの言葉を聞き、一斉に彼に視線を向けた。


「……分かった。今回の調査は強制依頼ではなく、通常の依頼とする」

「うぉ、ウォルレスさん、いいんですか?」


 処分を受ける自分たちに情けを掛けようとするウォルレスを見て、クレシアは目を軽く見開く。

 カイルとファリスもウォルレスを見つめながら意外そうな表情を浮かべていた。


「ただし、今回だけだ。次からは例え難易度が高かったり、情報が少ない依頼だとしても強制依頼として受けてもらうからな」

「は、ハイ……ありがとうございます」


 クレシアはウォルレスに深く頭を下げて感謝の言葉を口にする。

 エバンスは通常の依頼として受けることで報酬を得られると知り、心の中で喜んだ。グオンも安心したような顔をしており、ネフィリアはニッと笑っている。

 ただ、依頼として受けたからにはいい加減に仕事をするつもりは無いため、エバンスたちは真面目に未知の建造物の調査を行うつもりでいた。

 ファリスはクレシアたちの反応を見て、静かに鼻を鳴らす。

 処分を受けている立場なのに嬉しそうな素振りを見せるな、ファリスはクレシアたちを見ながら心の中でそう思っていた。


「さて、此処にいる全員が依頼を受けることが決まったわけだが……依頼について何か質問はあるか?」


 調査依頼に関して不明な点や気になる点はないか、ウォルレスはバアルたちを見回しながら確認する。


「その調査依頼にはあたしたち以外の冒険者は参加するんですか?」


 ファリスは他に調査へ向かう者がいるかウォルレスに尋ねる。

 大きな未知の建造物を調査するとなると、少ない人数では効率よく調査できない。しかも難易度が分からないため、少人数ではいくらAランク冒険者でも失敗する可能性がある。

 調査依頼の難易度から、ファリスは自分たち以外にも調査を任される冒険者がいるのではと予想していた。


「ああ、まだ声を掛けてはいないが、もう一チームに調査を依頼するつもりだ」

「そうですか。……因みにそのチームって?」

「……神闘(しんとう)だ」

「ええぇっ?」


 チームの名を聞いたファリスは耳を疑う。

 エファリアやカイル、クレシアたちも驚きの反応を見せ、バアルたちゴスペルもチームの名を聞いて反応した。


「な、何でアイツらに声を掛けるんですか?」

「仕方が無かろう。現在、ヴァリンにいる冒険者チームの中で今回の依頼を頼めるチームはお前たち以外にはアイツらしかおらんのだ」

「だからって、アイツが同行するなんて……」


 納得できないファリスは俯きながら不満そうにする。

 ウォルレスはファリスやカイルたちの顔を見ると、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「……その神闘っていうチーム、確か色々と問題のあるチームだったか?」


 不満そうにするファリスを見たバアルはカイルに神闘について尋ねる。

 声を掛けられたカイルは困ったような表情を浮かべながら軽く頷いた。


「うん。神闘は僕らと同じようにこの都市を拠点にするBランク冒険者チームなんだけど、リーダーが傲慢な性格で自分の気に入らない人や格下の人を平気で見下すんだ」

「……リーダーって確か、ヴァリンの都市長である貴族の息子だったか?」

「そう。都市長の次男である自分に誰も逆らえる人はいないと考えて、地位や権力を利用してよく好き勝手なことをやってるらしいんだ。ただ、冒険者ギルドでは身分や地位とかは関係ないから、自分の言うとおりにしないギルドや冒険者に少なからず不満を抱いているみたいだよ」


 神闘のリーダーの話を聞いたバアルは素行の悪さに呆れた表情を浮かべる。

 バアルたちも一週間以上ヴァリンで冒険者活動を行っているため、既にヴァリンの大抵の情報を得ている。勿論、冒険者たちの情報も得ており、今話していた神闘についてもある程度は理解していた。

 神闘は都市長の息子であるリーダーを中心に五人の冒険者で構成されたチームで、チームメンバーの全員が貴族で権力を持つリーダーに気に入られ、その後ろ盾を得ようと考えて集まった者たちだ。

 ただ、冒険者チームとしての実力はギルドが認めるほどなので、並のモンスターなら問題無く討伐できる。


「性格に問題があるとはいえ、その息子も一応Bランク冒険者なんだろう? だったらそれなりの実力を持ってるんじゃねぇのか?」

「一応はね。……だけど、それでも他のメンバーよりは劣ってる」


 仲間たちのおかげでBランクになったようなものだと聞かされ、バアルはそのリーダーは冒険者としては大したことないだろうと考えるのだった。


「ねぇ、ウォルレスさん。他のチームに変えることはできないの? あたし、アイツのチームとは一緒にやりたくないわ」

「無理だな。神闘以外で調査依頼を任せられるほどの力を持ったチームはいない。我慢して同行してくれ」

「……ハァ~~」


 チームの変更が認められず、ファリスはあからさまに嫌そうに溜め息をつく。

 クレシアとエバンス、グオンは嫌そうにするファリスを見て、同情するような顔をしている。三人も神闘のリーダーが傲慢なことを知っているため、今回はファリスと同じ気持ちだった。

 ネフィリアもファリスを見ながら納得できないような顔をしている。どうやらプレッジの問題児であるネフィリアも神闘のリーダーを良く思っていないようだ。


「とにかく、お前たちに同行するチームは神闘にするつもりだ。納得できないだろうが、今回は共に調査を行ってもらう。いいな?」

「分かりました……」


 他のチームは期待できないと感じたクレシアは静かに返事をする。表情にこそ出していないが、内心ではファリスと同じで神闘が同行することを不満に思っていた。


「例の建造物が周囲に害をもたらす可能性がある以上、速やかに調査する必要がある。よって、お前たちには明日の早朝にヴァリンを出発してもらう」

「まぁ、仕方がないですね」


 エバンスは状況から時間に余裕は無いと、両手を腰に当てながら納得する。

 突然明日の早朝に出発すると言われれば、普通は早すぎると異議を上げるだろう。だが、未知の建造物が危険かどうか分からない状況では、少しでも早く調べなくてはならないため、エバンスやバアルたちは早朝の出発に反対しなかった。


「神闘にはこれから例の建造物と調査の件を伝えるつもりだ。集合場所は南門。遅れるんじゃないぞ」


 ウォルレスは出発時間に続き、集合場所をバアルたちに伝える。

 バアルたちも依頼に関する重要なことなので、忘れないよう頭に入れていった。

 その後、バアルたちはウォルレスから調査依頼に関する情報を聞かされ、数分後には話を終えて執務室を後にした。


――――――


 広間に戻ったバアルたちはすぐに明日の調査依頼の準備をするために行動に移る。

 カイルとファリスはバアルたちに別れの挨拶をすると、明日の依頼に必要な物資を揃えるために冒険者ギルドを後にする。

 クレシアたちも今日の依頼で消費した道具などを補充するため、カイルとファリスの後を追うようにギルドから出ていった。


「バアル、私たちはこの後どうする?」


 カイルたちが冒険者ギルドを出ていくと、エファリアはバアルに声を掛ける。

 少し前は報奨金を得るためにモンスターの討伐に行くつもりだったが、調査依頼を受けたため、討伐に行くのをやめて調査依頼の準備をすることになった。


「とりあえずは商業区へ行くつもりだ。あそこなら調査に使える道具とかを色々揃えられるからな」

「分かったわ。……あっ、悪いんだけとちょっと待ってて。私、トイレに行ってくるから」


 恥ずかしそうに笑うエファリアは小走りでトイレへ向かい、その後ろ姿をバアルたちは無言で見つめる。


「……いよいよですね」


 エファリアの姿が見えなくなると、リーテがバアルに小声で語り掛ける。


「ああ。明日、俺たちはヴァリンの南東にあるダンジョンへ向かう。そこでカイルとクレシア、他の冒険者たちの実力を確かめる」


 バアルは腕を組みながら、リーテと同じように小声で答えた。

 実は今回、ヴァリンの南東で発見された未知の建造物はバアルが造ったダンジョンなのだ。

 バアルはカイルが竜帝の霊鎧を使えるようになった後、カイルに自分と戦える素質があるかどうかを改めて確かめるため、この五日間、冒険者として活動しながらダンジョンを製作していた。

 カイルや他の冒険者のレベルや技術などを計算しながら造り、二日前に納得したダンジョンが完成した。そして、ヴァリンから南東に少し離れた場所にある林の中に設置し、近くの村に住む村人に発見させたのだ。


「今回の調査依頼でカイルとクレシアが生き残れたら、エファリアとチームを組むよう仕向けて彼女の仲間にする。もし、二人以外に生き残った奴がいたら、勇者の仲間になる素質があると見なし、ソイツもエファリアの仲間にするつもりだ」

「それと同時にエファリアさんが勇者に近づくよう、モンスターと戦わせてレベルを上げるんですよね?」

「ああ、二百年前に勇者の子孫であるエファリアなら、今回の依頼で必ず強くなるはずだ」


 エファリアの潜在能力に期待するバアルは今回のダンジョン調査で必ずエファリアが成長すると信じていた。


「ところでバアル様、今回のダンジョンのこと、そろそろ私たちに教えてくれませんか?」


 ランハーナは上半身を前に倒し、顔をバアルに近づけると微笑みながらダンジョンの説明を求める。

 リーテとランハーナはダンジョンが完成したことは聞かされていたが、ダンジョンの詳しい構造や配置されているモンスターなどの情報はまだ聞かされていない。

 ウォルレスの話を聞いて、外観や大きさなどは分かったが、それ以外のことは何も分からず、今でもバアルがどんなダンジョンを造ったのか知らずにいた。

 バアルはランハーナの顔を見ると、軽く笑いながら前を向いた。


「それは明日、ダンジョンに着いたら教えてやる。それまでは内緒だ」

「えぇ~? んもぉ、バアル様の意地悪ぅ~」


 教えてくれないバアルに対す、ランハーナは軽く頬を膨らませながら不満そうな顔をする。

 リーテはランハーナの表情を見ると思わず苦笑いを浮かべるのだった。


「マンティコアを倒した時も言ったように、以前と違って少し特殊なダンジョンを造った。……この世界には存在せず、お前たちがこれまで見たことの無いダンジョンを造った、とだけ言っておこう」


 バアルの言葉にリーテとランハーナは反応し、お互いに顔を見合う。

 自分たちがいる世界には存在せず、見たことの無いダンジョンとはどんな物なのか、リーテとランハーナは小首を傾げながら考える。

 リーテとランハーナが考え込んでいると、トイレに行っていたエファリアが戻って来た。


「お待たせ。それじゃあ、行きましょうか?」

「ああ、そうだな。……お前たち、行くぞ」


 バアルが声を掛けると、リーテとランハーナはフッと顔を上げ、バアルとランハーナの方を向く。

 どんなダンジョンなのか気になるが、今は冒険者としてやるべきことをやろうと二人は自分に言い聞かせるのだった。

 バアルたちは調査依頼で使う道具を揃えるため、冒険者ギルドを出て商業区へ向かった。


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