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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第5章  憤慨の竜騎士
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第100話  未知の建造物へ


 翌日の早朝、明るくなりかかっているヴァリンの南門前の広場にバアルたちの姿があった。

 既に調査依頼に参加する冒険者は全員集まっており、各チームは他のチームと少し距離を空けながら持ち物の確認や他のチームの観察などをしている。

 バアルは広場を見回し、集まっている冒険者は確かめ、数m先でカイルとファリスがお互いの持ち物を確認し合っているのを見つける。

 カイルとファリスから少し離れた場所にはクレシアたちプレッジの姿もある。既に持ち物の確認など、やるべきことを済ませたのか、クレシアたちは何もせずに待機していた。

 慌てずに待機しているクレシアたちを見たバアルは、これまでに似たような経験を何度もしているのだろうと考え、改めてプレッジが優秀なチームなのだと感じるのだった。

 バアルは今回の計画でプレッジが自分の予想を超えた活躍をしてくれることを期待する。そんな中、クレシアとカイル、ファリスが一ヵ所に集まるのが目に入った。

 移動するクレシアたちを見たバアルは各チームのリーダーが挨拶をするために集まっているのだと予想し、自分も挨拶をしようとクレシアたちの下へ歩み寄る。


「よぉ、準備は万端か?」

「ええ、問題無いわ。必要な道具とかは昨日のうちに全部用意したしね」

「そうか……カイル、調子はどうだ?」


 バアルはファリスの隣で静かにしているカイルに声を掛ける。今回の計画ではカイルの力を確かめることも目的の一つであるため、カイルには全力で戦える状態で依頼を受けてもらう必要があった。

 声を掛けられたカイルはバアルの方を向くと小さく笑みを浮かべた。


「大丈夫。ちょっと緊張してるけど、ちゃんと調査できると思う」


 笑みを浮かべるカイルを見たバアルは問題無いと判断し、小さく笑みを返す。

 因みにカイルとファリスは共に行動をしているが、どちらがリーダーだと決まっているわけではない。そのため、二人で他のチームのリーダーに挨拶をしようと集まったのだ。


「クレシア、アンタたちはどうだ?」


 バアルは続けて自分たちを見ていたクレシアに声を掛ける。カイルとファリスもバアルが声を掛けたことでクレシアに視線を向けた。


「問題無い。どんな事態になっても対応できるよう準備は済ませているし、エバンスたちも万全の状態だ」

「まぁ、アンタたちならそうでしょうね。今回のような調査依頼は何度か受けてるわけだし……」


 経験豊富なクレシアたちに抜かりは無い、ファリスはそう思いながらクレシアに語り掛ける。

 クレシアたちは過去に未探索地を調査する依頼を何度か受けたことがあったため、どのように準備をすればいいのかも理解している。

 嘗て行動を共にしていたファリスとカイルはクレシアたちが初心者のような失敗をするはずがないと確信しており、心配する様子は見せなかった。


「……ファリス、カイル。お前たちも私たちと一緒に調査依頼を受けたことがあるため、どうすればいいか分かっていると思うが、今は二人だけなんだ。油断するなよ?」


 視線を動かし、カイルとファリスを見つめながらクレシアは忠告する。経験があるとは言え、二人だと予想外の事態になった時に対応できないかもしれないとクレシアは心配していた。

 ファリスはクレシアを見ると軽く溜め息をついた。


「二人で行動するきっかけを作ったアンタの口から、そんな言葉が出るとはね」

「ふぁ、ファリス……」


 嫌味を口にするファリスにカイルは困ったような顔をする。

 クレシアはファリスの言葉に対し、不満や不快などは一切見せずに黙って目を閉じる。

 ファリスとカイルが二人で行動することになったのは、クレシアがカイルを追放したのが原因だ。クレシアは自分が嫌味を言われても仕方がないと自覚しているため、言い返すことなくファリスの嫌味などを全て受け入れるつもりでいた。


「……クレシア、ありがとう。僕もファリスも無茶をする気は無いから、君たちも気を付けてね」

「ああぁ……ありがとう」


 ファリスと違って嫌な顔をせず、素直に忠告を受け入れるカイルを見て、クレシアは小さく笑みを浮かべる。


「失礼するよ」


 突然男の声が聞こえ、バアルたちが声がした方角を向くと一人の若い男が薄い笑みを浮かべながら近づいてくるのが目に入った。

 男は二十代前半ぐらいの若さで金色の短髪に茶色い目をしており、身長は165cmほど。貴族服のような高級感のある赤い長袖長ズボン姿で銀色に輝くハーフアーマーと白いマントを装備し、腰には剣を一本修めている。

 バアルたちは目の前までやって来た男を無言で見つめる。そんな中、ファリスだけは嫌そうな表情を浮かべていた。


「共に依頼を受ける者として一言挨拶をと思ってな」

「……そうか」


 クレシアは興味の無さそうな表情を浮かべながら呟く。

 ファリスは男と目を合わせたくないのか、男の顔を見ないようそっぽを向いた。


「カイル、もしかしてこの男が?」


 目の前の男を見つめるバアルは隣にいるカイルに小声で声を掛ける。

 話しかけらえたカイルはバアルが何を聞こうとしているのか察し、男を見ながら顔をバアルに近づけた。


「うん、神闘のリーダーのアルフォルト・シム・ジャルガータだよ」

「やっぱりそうか」


 予想したとおりだと知り、バアルは僅かに目を細くしながらアルフォルトを見つめた。

 神闘のリーダーは性格に問題があることは昨日ウォルレスたちの会話を聞いて知っていたが、実際に本人を見たことでウォルレスたちの言うとおりだとバアルは改めて理解した。


「おいおい、いくらAランクとは言え、その態度は失礼じゃないか? 僕はジャルガータ家の次男なんだ。それなりの接し方をするべきなんじゃないのか?」

「はあ? 何言ってんのよアンタ」


 クレシアの隣で話を聞いていたファリスは呆れ顔で声を掛ける。

 アルフォルトはファリスの方を向くと不満そうな顔でファリスを睨む。この時のアルフォルトは貴族である自分に失礼な態度を取ったこと、クレシアと話している最中に口を挟まれたことに腹を立てていた。


「冒険者に貴族も平民も関係ないわ。相手が何者だろうと平等に扱い、接するのが常識よ。つまり、クレシアのアンタに対する接し方は間違って無いってことよ」


 自分を庇うするような発言をするファリスを見て、クレシアは意外そうな反応を見せた。

 今でもファリスは自分を許していないはずなので、自分がアルフォルトと揉め事を起こしても擁護しないだろうとクレシアは思っている。そのため、アルフォルトの間違いを指摘し、自分を助けるような発言をしたことに少し驚いていた。


「フン、何が平等だ。貴族は平民たちの上に立つ資格を持つ存在。その貴族の僕に平民のお前たちが頭を下げ、礼儀を尽くすのは当然のことだろう」

「それは違うと思う……」


 ファイスに続き、カイルもアルフォルトの考えを否定する。


「貴族だからと言って、人を見下すような発言をする人に礼儀を尽くすことはできないし、そんなことをする必要も無いと僕は思うけどな……」


 カイルの発言を聞き、ファリスとクレシアは軽く目を見開く。

 以前は気が弱く、自分の思ったことをハッキリと言えなかったカイルが自分から、それも貴族であるアルフォルトに自身の考えを伝えたことに二人は内心驚いていた。

 竜帝の霊鎧を手に入れたことで自信がついたカイルは自分の意思を言えるようになったため、アルフォルトの間違いを堂々と指摘できるようになっていたのだ。


「何だとぉ? お前、誰に向かって口を利いているのか分かってるのか? 平民如きが僕に意見するなんて、無礼にもほどがあるぞ」


 アルフォルトは貴族である自分に従わず、気に入らない態度を取るカイルに目くじらを立てる。

 平民は貴族に従うもの、そう考えているアルフォルトにとって自分の言うことを聞かないカイルたちの態度は許せず、同時に平民が貴族に逆らうことが信じられずにいた。


「大体、プレッジから追放され、生意気な女と二人で活動するような小物に偉そうなことを言う資格など――」

「おい!」


 クレシアは大きな声を出してアルフォルトの発言を制止する。いきなり大きな声を出したクレシアにアルフォルトは驚き、カイルとファリスもクレシアの方を向く。

 三人の前には目を鋭くしながらアルフォルトを睨むクレシアの顔があった。


「私のことはいくら見下しても構わない。だが、私の大切な幼馴染たちを馬鹿にすることだけは許さないぞ。例え相手が貴族だろうとな……」


 クレシアの予想外の迫力にアルフォルトは思わず後ろに下がる。

 過去に何度かクレシアを遠くから見たことがあるが、今のような険しい顔はアルフォルトも見たことが無かったため、初めて見る怒りの表情に衝撃を受けていた。

 ファリスは驚いているアルフォルトを見ながら再び呆れたような顔をし、カイルはクレシアほどではないがムッとアルフォルトを睨んでいる。

 会話を聞いていたバアルも貴族の立場を振りかざし、自分が選ばれた者だと思い込んでいるアルフォルトを小物と感じており、つまらない物を見るかのような視線を向けていた。

 平民であるクレシアたちから軽蔑や不満の眼差しを向けられるアルフォルトは黙り込む。だが、すぐに自分に恥を掻かせたこと、貴族である自分に偉そうな態度を取ったことに対する怒りが込み上がり、奥歯を噛み締めながら三人を睨み返す。


「さっきから偉そうなことばかり言いやがって……お前たち、僕がジャルガータ家の人間だと言うことを忘れたのか? 僕がその気になれば、お前たちをヴァリンから叩き出すことも……」

「そこまでにしろ」


 再び男の声が聞こえ、バアルたちは一斉に声が聞こえた方を向く。そこには数枚の羊皮紙を持ったギルド職員の男を連れて歩いてくるウォルレスの姿があった。

 ウォルレスは今回の調査依頼の内容確認、そして出発するバアルたちを見送るために南門にやって来た。そんな時にカイルたちがアルフォルトと揉めているのを目にして止めに入ったのだ。

 ギルド職員と共にバアルたちの下へやって来たウォルレスは困ったような顔で軽く息を吐いてから、機嫌を悪くするアルフォルトの方を向いた。


「アルフォルト、冒険者ギルドでは貴族の地位も権限も意味はないと何度も言っているだろう。いい加減に平民の冒険者を見下すのはやめろ」

「チィ……」


 ギルドマスターのウォルレスが現れたことで、アルフォルトは不服そうにしながら黙り込む。

 冒険者ギルドは貴族の力に影響されないため、その長であるウォルレスには傲慢なアルフォルトも逆らえず、偉そうな態度を取ることもできなかった。


「そもそもお前には貴族の権限を使い、気に入らない者をヴァリンから追放することはできん。それはお前の父であるジャルガータ男爵が許さない」


 父親の話を出されたことでアルフォルトは反応し、更に機嫌を悪くしたのか小さく俯きながら拳を小さく震わせる。


「お前は貴族でありながら平民を見下し、気に入らない者を何度もジャルガータ家の権力を使って黙らせた。そんなお前の素行の悪さにジャルガータ男爵は愛想を尽かせ、根性を叩き直すために冒険者として働かせたのだ」


 アルフォルトが冒険者として活動している理由をウォルレスが話すと、それを聞いたバアルは「ほぉ」と意外そうな表情を浮かべてアルフォルトを見る。


(息子がどうしようもない馬鹿だから、父親もそうかと思ってたんだが……父親の方はまともだったようだな)


 父親のジャルガータ男爵がどんな人物なのかは分からない。ただ、ウォルレスの発言から、アルフォルトと違って貴族としての誠実さや平民を平等に扱う意思は持っているとバアルは直感する。


「権力を振りかざす性格を叩き直すためにお前を冒険者にしたのに、そのお前が貴族の力を使って気に入らない冒険者を追放することをジャルガータ男爵が認めるはずがないだろう」

「クッ……」

「儂はジャルガータ男爵から、お前が大きな問題を起こしたり、ギルド内で貴族の権力を振りかざすような真似をした場合、報告するよう言われている。もし、これ以上貴族の立場を利用すると言うのなら……」

「……ああぁぁっ! 分かったよ。大人しくしてりゃあいいんだろう!」


 これ以上説教を聞きたくないのか、アルフォルトは声を上げながら渋々納得する。

 大きな問題を起こし、そのことがジャルガータ男爵に耳に入れば、今以上に自分の立場が悪くなってしまう。最悪の場合、勘当されて何もかも失うことになるかもしれない。

 貴族として好きなように生きたいアルフォルトとしては勘当だけは絶対に避けたいことなため、不服に思いながらも大人しくすることにした。

 ウォルレスとアルフォルトのやり取りを見ていたファリスはいい気味と思ったのか、アルフォルトを見つめながらクスクスと笑っていた。

 バアルたちも散々大きな態度を取っておきながら、父親の話をされた途端に大人しくなったアルフォルトを情けなく思い、憐れむような目で見ている。


「全員揃っているな? ……では、今回の調査依頼の内容や流れなどについて話す」


 アルフォルトが大人しくなると、ウォルレスは集まっているバアルたちに声を掛ける。そして、待機しているギルド職員に目で指示を出し、持っている羊皮紙をバアルたちに配らせた。

 羊皮紙を受け取ったバアルたちは内容を確認する。そこには調査する建造物の特徴や調査の期間、移動手段や何を調べるかなどが細かく書き記されていた。


「既に話は聞いていると思うが、今回お前さんたちには南東の林に突然現れた奇妙な建造物の調査をしてもらう。殆ど情報が無く、どんな場所なのか、危険なのかも分かっていない。モンスターが出現する可能性もあるため、十分気を付けた調べるように」


 未知の場所を調査するということから、カイルたちは真剣な表情を浮かべながらウォルレスを見つめる。

 バアルは奇妙な建造物を造った本人でどんな場所なのか既に理解しているため、カイルたちと違って呑気に話を聞いていた。

 ウォルレスはバアルたちの顔を見た後、南門の方を向く。南門の前にな三台に大きめに荷馬車が停められており、数人の冒険者が木箱などを荷車に乗せている姿があった。


「林までは荷馬車で移動してくれ。荷馬車なら三十分ほどで着くはずだ」

「……ウォルレスさん、荷馬車の近くで作業をしているのは?」


 ファリスは作業をしている冒険者たちについてウォルレスに尋ねる。今回の調査依頼に参加するのは自分たちだけと聞いていたため、他の冒険者がいるのを見てファリスは意外に思っていた。


「彼らはお前たちの野営地を守るDランク冒険者たちだ。お前たちが建造物を調査している間に野営地が襲撃され、物資などが台無しになったら調査できんからな」


 直接調査に参加するのではなく、自分たちの拠点を警護する存在だと聞いてファリスやカイルたちは納得する。

 同時に拠点のことを気にせずに調査できるよう配慮してくれたウォルレスにカイルたちは心の中で感謝した。


「Dランクで大丈夫なのかぁ? もしオーガみたいな手強いモンスターが現れたらDランク程度じゃ対処できないだろう」


 突然アルフォルトがその場の空気を壊すかのように不満そうな口調で語る。しかもその声は大きめで、離れた所で荷物を積んでいる冒険者たちの耳にも届くほどだ。

 冒険者たちはアルフォルトの失礼な発言を聞き、不機嫌そうな様子でアルフォルトを見つめる。

 Dランクの冒険者はAやBランクであるカイルたちと比べると確かに力は劣っているだろう。しかし、それでもランクが下の者を侮辱していいわけではない。わざわざ大きな声で見下す発言をしたアルフォルトに冒険者たちは腹を立てていた。

 場の空気を悪くしたアルフォルトにカイルは目を見開き、ファリスやクレシアたちは不機嫌そうにアルフォルトを見る。

 先程ウォルレスに注意されたばかりなのに、再び位が下の仲間を見下す発言をしたアルフォルトを見て、カイルたちは学習能力が無いのではと呆れてしまう。


「南東の林にはオーガどころかゴブリンも棲みついていない。いるのは狼のような猛獣ぐらいだ。襲撃して来てもDランクなら問題無く対処できる」


 ウォルレスも再び他人を見下すアルフォルトに少し機嫌を悪くしているのか、低めの声でDランクを同行させる理由を話す。

 説明を聞いたアルフォルトは納得したのか、腕を組みながら黙り込む。ただ表情はムッとしており、まだDランクに警護を任さることを不服に思っているように見えた。


「……調査の日数は五日間。その五日の間に出来るだけ建造物の情報を集めてくれ。調査の流れや、やり方はお前たちに任せる」


 アルフォルトが黙ると、ウォルレスは視線をバアルたちに戻し、少しだけ口調を穏やかにして説明を続けた。


「五日が経ったら、例え未調査の場所があったとしても必ず戻れ。緊急事態が起きた場合もだ。……それと分かってると思うが、建造物内でアイテムや財宝を発見した場合、それは見つけたチームの物だ。他のチームが見つけた物を奪ったりするんじゃないぞ?」

「勿論です」


 盗賊のような卑劣なことをする気など微塵も無いクレシアはウォルレスを見つめながら返事をする。


「安心してください。あたしたちは冒険者であることに誇りを持ってますから、そんな馬鹿な真似はしませんよ……まぁ、若干一名怪しい奴がいますけどね」


 ファリスは視線を動かし、不満そうな顔で黙っているアルフォルトを見つめながら嫌味を口にする。

 アルフォルトはファリスの言葉を聞き、自分が他のチームが見つけた財宝を横取りすると思われていると知ると、ファリスを睨みつけて言い返そうとする。

 だが、アルフォルトが喋るより先にウォルレスが手を叩き、大きめの声で喋った。


「よしっ、説明は異常だ。各自、すぐに荷馬車に乗り込んで出発しろ。依頼の詳しい内容は今渡した書類に書かれているから、分からない点は後で書類を見て確かめてくれ」

「……チッ」


 言い返すことができなかったアルフォルトはファリスを睨みながら小さく舌打ちをする。

 ファリスは悔しがるアルフォルトを見て、ニッと笑いながら僅かに舌を出す。

 ウォルレスの説明が済み、バアルたちはそれぞれ自分のチームメイトの下へ戻っていく。

 クレシアたちが戻る中、バアルは立ち止まってゆっくりと振り返ってアルフォルトの方を向いた。

 アルフォルトはウォルレスに注意されたこと、ファリスに馬鹿にされたことでかなり機嫌を悪くしており、神闘のメンバーと合流すると鬱憤を晴らすかのように不満を口にしている。

 チームメイトたちは機嫌を悪くするアルフォルトを見て同情したり、アルフォルトのように機嫌を悪くするような反応を見せていた。

 神闘のメンバーは全員が貴族であるアルフォルトに気に入られようと仲間になった者たちだ。

 アルフォルトが間違った言動をしても、気に入られるためにアルフォルトの考えを理解しない相手が悪いと話し、常にアルフォルトの機嫌を取ったりしているのだ。


「……アイツらの中には勇者候補どころか、勇者の仲間になれる奴は一人もいないな。それほど強くもなさそうだし、調査が始まったらいち早く退場してもらおう」


 興味の無さそうな口調で呟くバアルはアルフォルトたちに背を向け、再びリーテたちの下へ歩き出す。

 今回の計画ではエファリアを強くし、カイルとクレシア、そして二人の仲間たちの実力を確かめることが目的だったため、神闘の参加はバアルにとって予定外だった。

 ただ、大して力の無い神闘が参加しても計画には大きな影響は出ないため、バアルにとっては参加しようがしまいがどちらでも問題は無い。

 とは言え、小物であるアルフォルトとその仲間がいては効率よく計画を進めることはできないので、バアルは計画が始まったら真っ先に神闘を始末するつもりでいる。

 バアルはリーテたちと合流すると、ウォルレスから聞かされた話を簡単に伝え、受け取った羊皮紙を見せる。

 リーテたちは羊皮紙に書かれてある内容を確認し、調査依頼の流れや目的を理解するとバアルと南東の林に着いた後について相談するのだった。

 その後、荷物の積み込みが完了すると、バアルたちは一斉に荷馬車に乗り込む。

 全員が乗ると荷馬車は動き出し、バアルたちは南門を通過して目的地である南東の林へと向かう。

 ウォルレスとギルド職員はバアルたちが出発するのを見届けると、無事に戻ることを祈りながら冒険者ギルドへと戻っていった。


――――――


 ヴァリンを出発したバアルたちは荷馬車に乗りながら南東へ向かう。静かな平原の中を走り、しばらく移動してバアルたちは目的地の林に到着した。

 林に到着すると、バアルたちは周囲を警戒しながら林に入り、荷馬車が進める道を通って未知の建造物が目撃された場所を目指す。

 しかし、奥に進みにつれて道は少しずつ険しくなり、やがて荷馬車では進めない場所まで来るとバアルたちは徒歩で移動するため、荷馬車を停めて一斉に降りた。

 荷馬車が停まった場所は平らで見通しが良いため、バアルたちは今いる場所を調査の拠点とすることにし、各チームは他のチームと少し距離を取りながら自分のテントを設置する。

 テントの設置、荷物の積み下ろしが済むとバアルたちは野営地の警護をDランク冒険者たちに任せ、建造物が目的された広場を目指す。

 幸い今いる場所から建造物が発見された広場まではそんなに距離は無いため、しばらく歩けば辿り着く。

 バアルたちは周囲を警戒しながら林の中を進んでいく。既に太陽が昇って周囲は明るくなっているため、数十m先もよく見ることが可能だった。今なら例え遠くに狼のような猛獣がいてもすぐに気付くこともできる。

 徒歩で移動してから二十分ほどが経過した頃、バアルたちや遂に目的地の広場へ辿り着く。

 情報どおりそこは木が生えておらず、とても広い場所だった。そして、広場の中央には林には合わない変わった形状の建造物が建っている。

 建造物は広場を囲む木々よりは若干高く、10m近くはある。ウォルレスから聞かされたとおり、白い平らな長方形の上に一回り小さい長方形が乗ったような見た目で複数の窓が付いており、本当に砦のようだった。

 ただ、白い壁には大小様々な大きさの傷が幾つも付いており、あちこちに蔦が張り付いている。そして窓も殆どが割れており、誰が見ても廃墟だと分かる状態だった。


「これが、未知の建造物……」


 見たことの無い外観の建造物に目にし、クレシアは大きく目を見開く。

 これまで冒険者として様々な依頼を受け、多くの建造物などを見てきたが、目の前にある物は明らかに今まで見た物と雰囲気が違っていた。

 クレシアだけでなく、チームメイトのエバンスたち、カイルやファリス、神闘のメンバーたちも驚いて未知の建造物を見上げている。

 勿論、エファリアも驚いており、外見から予想していたとおり、二百年前の魔王が遺したダンジョンかもしれないと感じていた。


「こ、こんな物、今まで見たことねぇぞ。いったい何なんだ?」

「分かりません。ただ、数日前に現れたことを考えると、エファリアさんが仰ったように二百年前の魔王が造った物である可能性が高いですね」


 状況からただの建造物ではないと確信するグオンは難しい顔をしながら呟く。

 周りにいるクレシアたちも二百年前の魔王が造った物なら危険は十分ある、そう感じていた。


「と言うか、この建物は何なのよ。見た感じから砦か倉庫のようだけど……」

「倉庫である可能性は低いな。倉庫ならあれだけの数の窓を付ける必要も無い」

 

 エバンスは倉庫だというネフィリアの考えを否定し、もう一つの砦かもしれないと予想する。


「恐らく、あれば病院だろう」


 バアルの言葉を口にし、周りにいる者たちは一斉に注目する。病院という聞いたことの無い単語を聞き、それはいったい何なのだと全員が疑問を抱いた。


「バアルさん、そのビョーインって何ですか?」


 まばたきをするリーテは病院がどんな物なのかバアルに尋ねる。

 リーテとランハーナは目の前にある建造物がバアルが造ったダンジョンであること、そのダンジョンが特殊な物だということは知っている。だが、ダンジョンの構造や設定などはバアルから何も聞かされていない。

 今聞いた病院という単語も、状況からダンジョンに関係していることは分かるが、詳しい意味は全く分からなかった。

 バアルは問いかけるリーテを見ると、リーテやランハーナに教えるためにも、目の前の建造物のことをカイルたちに教えることにした。


「病院は薬とかを使って怪我をしたり、病気になった人を治療する施設だ。まぁ、魔法を使わない神殿みたいな場所だな」

「魔法を使わずに怪我や病気を治す場所ですか……」


 この世界では大きな傷や病気は神殿で回復魔法を掛けてもらい、怪我や病気を完治させるのが普通だ。しかし、目の前の病院という建物が魔法を使わずに完治させる場所だと聞いてリーテは意外そうな顔をする。

 バアルが以前いた世界では病院のような特別な施設が幾つもあるのか、リーテはそんなことを考えながら病院を見つめた。

 ただ、目の前にあるのはバアルがダンジョンとして造った物であるため、実際に怪我や病気を治す場所ではないことはリーテも分かっている。そもそも見た目がボロボロで窓も割れているため、怪我や病気を治す場所としては不衛生すぎると感じていた。


「バアル、アンタはこの建物が病気を治す病院って所だって言ったけど、どうしてアンタはそんなことを知ってるの?」


 ファリスは誰も知らない建造物のことをどうしてバアルが知っているのかと、当然の疑問を投げかける。

 周りにいるエファリアやカイル、クレシアたちも理由が気になり、全員がバアルに注目していた。

 バアルは表情を一切変えずに尋ねてきたファリスを見る。自分が病院のことを口にすれば誰かが知っている理由を聞いてくると確信していたため、バアルは焦りを一切見せなかった。


「昔、似たような建物があって、そこを調査した冒険者から話を聞いたんだよ。白くて四角い外観で、病院という怪我人や病人を治す建物だったらしい。目の前の建物も見た目が同じから、その病院なんじゃないかって思ったんだ」

「似た建物があった? それって何時の話なの?」

「よく覚えてないけど、確か十年くらい前に帝国に出現したって話だ」


 ファリスに話したことは勿論嘘だ。ファリスやエファリアたちが納得するよう、現実的にあり得そうな内容を話しただけだ。


「十年前に似た物を……因みにその建物はどうなったの?」

「調査した冒険者によると、建物の外に出た後に突然消えちまったらしい。しかも有力な情報は得られなかったとか……」

「そう……」


 バアルの話を聞いたファリスは役立つ情報は得られないと感じ、残念そうな顔をする。


「俺も最初に話を聞いた時は信じられなかったけど、今目の前の建物を見て、その時の冒険者が本当のことを言っていたんだって分かったよ」


 ファリスたちをより信じ込ませるため、バアルは更にあり得そうな嘘を口にする。

 隣で話を聞いていたリーテは口ごもること無く語っていくバアルを見て、誤魔化すのがとても上手いと感じ、小さな苦笑いを浮かべるのだった。

 エファリアたちはバアルの話を信じるのか、全員が納得したような反応を見せている。

 まだ気になることが幾つもあるが、現状から目の前にある病院と過去に現れた似た建物には何か繋がらりがあるかもしれないと予想した。

 そんな中、エファリアだけは過去の現れた建造物も二百年前の魔王が遺したダンジョンかもしれないと考えていた。


「さてと、これからどうする?」


 バアルはクレシアたちを見ながら尋ねる。

 声を掛けられたクレシアたちは顔を見合わせ、真剣な表情を浮かべると目の前の病院を見上げた。


「勿論、中に入って調べる」


 このままジッとしていても何も分からないため、クレシアは情報を集めるためにもすぐに調査を始めるべきだと判断した。

 バアルはクレシアの返事を聞き、いよいよ計画が始まるのだと周囲に気付かれないくらい小さく笑みを浮かべる。


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