第101話 調査の始まり
病院と言う未知の建造物の調査が始まることに、エファリアとカイルは少し緊張した表情を浮かべる。
ファリスやクレシアたちプレッジのメンバーは過去に何度も似たようなことをしていたからか、緊張せず落ち着いて病院を見つめていた。
「で、どうやって調べるんだ? この病院とかいう建物、それなりに広く三階まであるみたいだが、分かれて別々の階を調べていくのか?」
エバンスは調査の流れについてクレシアに尋ねると、クレシアは視線をエバンスに向けながら軽く首を横に振る。
「いや、私たちはこの建物についてまだ何も分かってない。情報が無く、魔王が造ったかもしれない場所でいきなり上の階を調べるのは危険だ」
「じゃあ、どうするんだ?」
「まず、全員で一階を調べて他の階の情報を探したり、モンスターが棲みついているかなどを確かめる。他の階やこの建物の有力な情報を集めたら、分かれて他の階を調べることにする」
「成る程、上の階の情報を手に入れてから上がるってわけか」
冒険者たちにとって依頼を熟すことは大切だが、それ以上に重要なのは命だ。命を落とすリスクを少しでも下げるためには、多少効率が悪くなるとしても問題無く調査できるようにしなければならない。
エバンスはクレシアが自分たちの身や今後のためにも、まずは全員で一階を調べるべきだと考えていると知り、クレシアの案に反対することなく納得する。
グオンやネフィリアも不満などを見せずにクレシアを見ている。二人もエバンスと同じようにクレシアの考えを理解しているようだ。
「お前たちもそれで構わないか?」
チームメイトたちの意見を聞いたクレシアは続けてバアルたちに声を掛けた。
「ああ。俺も最初に二階や三階に行くべきじゃないと思ってたしな」
「まぁ、今回のまとめ役はアンタだからね。アンタがそうするって言うならそれに従うわ」
「僕もそれでいいよ」
バアルとファリス、カイルは自分の考えに賛成してくれると思っていたのか、クレシアは表情を変えず、無言で三人を見つめる。
「アルフォルト、お前たちはどう思っている?」
クレシアは最後に神闘の方を向き、リーダーであるアルフォルトに声を掛ける。
バアルたちの意見を聞いた時と違い、クレシアは僅かに目を鋭くしながらアルフォルトを見つめた。
「個人的には他人に従うのは御免だが、この状況じゃあ仕方がないからな。……今回だけは、お前の言うとおりにしてやるよ」
「決まりだな。では、早速中に入る。……言うまでも無いが、くれぐれも気を抜かないようにしろ?」
Bランク以上で経験豊富な冒険者に言うべきことではないが、未知の建造物の中に入る以上、何が起きるか分からない。経験があるからと言って油断しないよう、クレシアはバアルたちに忠告しておくべきだと考えていたようだ。
バアルたちは真っすぐ病院に近づく、入口前で足を止める。入口は少し厚めの大きなガラスでできた二枚扉で隅は僅かに欠けており、少し大きめの罅も入っていた。
クレシアたちは初めて見たガラスと扉を見て意外そうな顔をする。どうして入口の扉がガラスでできているのか、ガラスで作ったら簡単に壊れてしまうのではなどと、様々な疑問を抱きながらも扉をゆっくりと押し開けて中に入っていく。
ガラスの入口を通過し、中に入ると天井の高いエントランスがバアルたちを出迎える。
壁や床は白く、奥には受付と思われるカウンターがあり、その前にある広場には無数の長椅子が置かれてあった。
クレシアたちはバアルから病院は怪我人や病人を治す場所だと聞いているため、今いるエントランスが怪我人や病人が待機する場所だと予想する。
「建物の大きさから中も広いと予想してたけど、思っていた以上ね」
「うん、この大きさなら百人は余裕で入れると思う」
病院の大きさや広さから、調査するのにはかなり時間が掛かるとファリスとカイルは予想し、同時にかなりの数の財宝があるかもしれないと考える。
だが、広ければ多くのモンスターが棲みついている可能性も高いため、決して油断はできない。
カイルとファリスは財宝のことばかり考え、モンスターへの警戒を怠らないようにしなくてはと自分に言い聞かせるのだった。
クレシアたちも病院の構造から調査し甲斐のある場所だと感じている。自分たちの知らないアイテムや情報を得られるかもしれないとエントランスを見回しながら期待するのだった。
クレシアたちが周囲を見回す中、バアルは近くにある大きめの円柱に近づき、張られている一枚の古い紙を剥がした。
円柱の前に移動したバアルに気付いたリーテたちは不思議そうにしながらバアルに近づき、彼が持つ紙を覗き込む。
紙には見たことの無い文字で文章が書かれてあり、文章を見たリーテたちは軽く目を見開いた。
「見慣れない文字ね。何て書いてあるのかしら?」
エファリアは書かれた内容が気になり、小首を傾げながら難しい顔をする。
「バアル、貴方は何て書いてあるか読める?」
「いや、まったく。文章を解読できるマジックアイテムとかがあればいいんだが、今は手元に無くてな」
紙を見つめるバアルは軽く首を横に振り、解読はできないことを伝えた。
エファリアは今いる病院のことを知っているバアルでも、未知の文章は読めないと知って少し残念そうな顔をする。
「アンタたちー、今後の予定を決めるから、こっちに集まってぇ」
少し離れた所からファリスの呼ぶ声が聞こえ、バアルたちは声が聞こえた方を向く。
視線の先には自分たちの方を向いて手を振るファリスと周りで同じように自分たちを見ているカイルたちの姿が視界に入った。
バアルは持っている紙を捨てると、リーテたちを連れてファリスたちの下へ戻る。
先程バアルが捨てた紙には漢字とひらがなの文章が書かれてあった。今いるダンジョンはEKTの世界のアイテムを使って造られた物であるため、ダンジョン内にある書類や本に書かれてある文章は殆どが日本語となっている。
当然、バアルには紙に書かれてある内容は分かっていた。だが、異世界に存在しない文字をどうして読めるのかと聞かれた時に説明するのが面倒だったため、エファリアには読めないと嘘をついたのだ。
因みに文字の書かれた紙や本があるのは、バアルがダンジョンを造る時に病院なのに本などが無いのは不自然だと考えたからである。
「……では、これから一階の調査を開始するが、もう一度調査をする際の注意事項を確認する」
バアルたちが合流すると、クレシアは集まっている冒険者たちを見ながら語り始める。
情報の少ないダンジョン内で後先考えずに行動すれば、命に関わる事態になるかもしれないため、プレッジのメンバーやカイル、ファリスは真面目にクレシアの話を聞いていた。
「最初に話したとおり、まずは一階を全員で調べ、この建物や他の階の情報を集める。効率よく情報を集めるため、各チームに分かれて一階を調べることにする」
一階だけを調べるとしても、それなりの広さがあるため、全員が固まって調査していては手間がかかってしまう。
クレシアは短時間で多くの情報を集めるため、それぞれのチームで情報を集めるべきだと判断したのだ。
未知のダンジョンで分かれて行動するのは危険だが、同じ階ならば他のチームに何か遭ってもすぐに合流し、問題に対処できるため、分かれて調査しても大丈夫だと全員が考えていた。
「最初は一時間だけ調査して情報を集める。有力な情報を見つけたらこのエントランスに戻り、他のチームと情報交換を行う。……それでいいか?」
クレシアは調査の流れに不満はないか、バアルたちを見ながら尋ねる。
不満は無いのか、バアルやカイルたちは頷いたり、小さく笑ったりしながらクレシアを見ていた。
「他に何か気になることや、言いたいことはないか?」
もう一度周りを見回して質問などがないか尋ねるが、誰も何も言わない。バアルたちの反応を見たクレシアは質問は何も無いと感じた。
「それでは調査を開始する。まず、右と左の廊下のどちらを選ぶか決めてくれ」
そう言ってクレシアはエントランスの奥にある受付に視線を向けた。
受付の左右には病院の奥へ続く広めの廊下があり、そこを通って先へ進むことができるようになっている。
今回の調査依頼に参加しているチームは四つなので、状況から二チームは右、残りのチームは左の廊下を選んで先へ進むことになる。
病院の大きさから廊下の奥には新たに分かれ道があるはずなので、そこで二つのチームが更に分かれて調査すれば病院内を効率よく調べることができるはずだ。
「廊下の先を調べるチーム数は公平にする。もし右の廊下を選んだチームが二つになったら、残りは左を調べることになる。だからできるだけ早く決めた方がいいと思うぞ」
「なら、僕ら神闘は右の廊下を選ばせてもらうぞ」
早い者勝ちだと知ったアルフォルトはバアルたちよりも早く右の廊下を選んだ。
神闘のチームメイトたちはアルフォルトが決めたのなら、それでいいと思っているのか、誰も不満を露わにしていない。
「なら、あたしとカイルは左の道を選ばせてもらうわ」
真っ先に進み廊下を選んだアルフォルトを見て、ファリスはカイルの意見も聞かずに左の廊下を選ぶ。
カイルは素早く、そして迷うことなく進む廊下を選んだファリスを見て目を丸くしていた。
ファリスが左の廊下を選んだ理由は、性格に問題のあるアルフォルトのチームと同じ廊下を選びたくなかったからだ。
もし同じ廊下を選んで行動を共にすれば、アルフォルトや神闘のメンバーたちから馬鹿にされたり、喧嘩を売られたりするとファリスは確信していたため、バアルたちより早く左の廊下を選んだのだ。
カイルはファリスが左の廊下を選んだことに対して、不満などは感じていなかった。カイルもアルフォルトのチームと行動を共にすることに抵抗を感じていたため、ファリスが左を選んでくれたことに感謝している。
「……バアル、お前たちゴスペルはどちらを選ぶ?」
アルフォルトとファリスが廊下を選んだのを見て、クレシアはバアルに声を掛けた。
既に左右の枠は一つずつ埋まっているため、もしバアルが左の廊下を選べば、クレシアたちは残っているのは右の廊下、つまりアルフォルトたちと同じ廊下の先を調べることになる。
クレシアもアルフォルトのことを良く思っていないため、できることなら左の廊下を選びたいと思っていた。
ただ、バアルより先に左の道を選べば、性格の悪いアルフォルトと共に行動するという嫌な役割をバアルたちゴスペルに押し付けたことになってしまう。
クレシアとしては自分が嫌なことを他人に押し付けるようなことはしたくないため、先に選ぶ権利を譲り、バアルにどっちを選ぶが決めてもらうことにしたのだ。
バアルは腕を組み、左右の廊下どちらを選ぶか考える。
クレシアやプレッジのメンバー、そしてカイルとファリスは状況から、バアルは左の廊下を選ぶだろうと予想していた。
「じゃあ、俺たちは右の廊下を選ぶ」
「……え?」
予想外の選択をしたバアルにクレシアは思わず声を漏らす。
カイルやファリス、エバンスたちもてっきり左の廊下を選ぶと考えていたため、バアルの言葉を聞いて目を見開きながら驚いている。
「何だ? どっちを選んでもいいんだろう?」
「え? ……あ、ああ、そのとおりだ」
バアルが不思議そうな顔で尋ねると、我に返ったクレシアは頷きながら返事をする。
左の廊下を選ばなかったことには驚いたが、内心では嫌っているアルフォルトと同行せずに済んだと安心していた。
「では、私たちは左の廊下から先へ進ませてもらう」
バアルが自分の意思でアルフォルトと同じ廊下を選んだので申し訳なさを感じることなく、左の廊下を選ぶことができた。
ただ、分かれ道が見つかるまでカイルとファリスの二人と行動するため、クレシアは若干複雑な気持ちで調査をすることになる。
とは言え、アルフォルトのチームと行動するのと比べたら、元チームメイトの二人と行動する方がずっと良い。
右の廊下を選んだバアルはリーテたちと共に神闘の下へ歩いて行く。
カイルたちは嫌な顔をすることなく、アルフォルトたちの方へ歩いて行くバアルを無言で見つめた。
「よぉ、お前がゴスペルのリーダー、バアルか?」
「ああ、そうだ。よろしく」
バアルはアルフォルトの前までやって来ると、興味の無さそうな顔でアルフォルトを見上げながら挨拶をする。
アルフォルトはバアルを見ながら小さく笑う。その笑みは不敵なもので、明らかに自分よりランクが上のバアルを見下していた。
「噂ではセプティロン王国でそれなりに活躍してたそうじゃないか? ……フッ、ダーバイア公国でも同じように活躍できるかどうか、見物だな」
セプティロン王国でバアルがどのような活動をしていたか知らないアルフォルトはバアルを鼻で笑う。
アルフォルトだけでなく、神闘の他のメンバーたちも小馬鹿にするような顔でバアルやリーテたちを見ていた。
神闘のメンバーはアルフォルト以外に二人の男と二人の女となっている。
男の内、一人は片手で扱う斧と丸い金属の盾、スケイルアーマーを装備し、身長170cmほどで茶色い短髪でがっしりとした体系の戦士。
もう一人は短剣を二本腰に納め、レザーアーマーを装備し、フードの付いた薄茶色の長袖と濃い灰色の長ズボンを穿いた身長170cm弱の盗賊だ。
女は一人は弓矢を装備し、濃い緑の長袖と茶色い半ズボンの格好をした身長160cm強の濃い赤いセミロングヘアーに茶色い目をしたレンジャー。
もう一人は白い長袖に紺色のスカートを穿いた姿で木製の杖を握った身長160cm弱の濃い金色の短髪と青い目を持つ女魔導士だ。
四人とも十代後半から二十代前半ぐらいで、アルフォルトと歳の近い若者ばかりだった。
バアルは神闘のメンバーがどんな理由がアルフォルトと活動しているのか知っているため、つまらないものを見るかのような目でチームメイトたちを見つめる。
この時のバアルには、アルフォルトのチームメイトが大企業の御曹司である高校生に群がる取り巻きの同級生にしか見えなかった。
「一つだけ言っておくぞ? セプティロン王国で活躍できても、今回の依頼で同じようにいくとは限らないんだ。見っともない姿を見せないよう、せいぜい頑張ってくれよ?」
「……フッ、お互いにな」
笑いながら言い返すバアルにアルフォルトは僅かに目元を動かす。
幼いエルフが貴族である自分を小馬鹿にするような発言をしたことに若干気分を悪くしたのか、小さく舌打ちをしながら右の廊下の方へ歩き出す。
神闘のメンバーたちもアルフォルトに偉そうな口を利くバアルが気に入らないのか、鋭い目でバアルを睨んでからアルフォルトの後をついて行った。
「何なのよ、あのガキ。バアル様に対して失礼な……」
バアルの後ろでは、ランハーナがバアルに偉そうな口を利くアルフォルトを見ながら眉間にしわを寄せ、拳を軽く震わせている。
自分の主人であるバアルを馬鹿にしたことに対して腸が煮えくり返るような気持ちになっており、今にも殴り掛かりたいと思っていた。
だが、此処で問題を起こせばバアルの計画が狂ってしまうため、ランハーナは必死に怒りを抑えているのだ。
「ま、まぁまぁ、落ち着いてください」
不機嫌になっているランハーナをリーテが苦笑いを浮かべながら宥める。
ランハーナは不満そうな顔をしながらも落ち着きを取り戻し、アルフォルトの後ろ姿を睨んだ。
「……あのぉ、どうして右の廊下を選んだのですか?」
リーテはランハーナが冷静さを取り戻すとバアルに小声で話しかける。
どうしてわざわざ性格に問題のあるアルフォルトと同じ廊下を選んだのか、リーテはバアルの考えが分からなかった。
「別に深い意味は無い。ああいう奴らと一緒の道を選ぶのも、たまにはいいんじゃないかって思っただけだ」
「はあ……そうですか」
ただ気まぐれた神闘と同じ道を選んだと語るバアルを見て、リーテはまばたきをする。
「それに、カイルとファリスもプレッジと色々話したいことがあるだろうしな」
バアルがカイルたちの方を向き、自分を見ているカイルとファリスを見つめる。
二人の表情は若干暗く、性格の悪いアルフォルトと共に行動しなければならないことを気の毒に思っているように見えた。
リーテもバアルと同じように左の廊下を進むカイルたちに視線を向ける。カイルとファリスの隣には、二人と同じように自分たちを見ているクレシアたちの姿があった。
(もしかして、カイルさんとファリスさんをクレシアさんたちと一緒にして、仲直りするきっかけを与えるために右の廊下を選んだの?)
アルフォルトたちと同じ道を選んだのは、カイルとファリスがクレシアたちと和解できるようにするためではと予想するリーテは少し驚いたような顔でバアルを見る。
バアルは無言で自分を見つめるリーテを見上げ、不思議そうな顔でまばたきをした。
「どうした?」
「……いいえ、何でもありません」
微笑みながら首を横に振るリーテにバアルは小首を傾げた。
(やっぱり、ゼブル様はお優しい方だわ……)
カイルたちのために、バアルは自分から損する選択をしたのだとリーテは確信し、改めて魔王を名乗りながらも人を思いやる心を持っていると感じるのだった。
「よし、俺たちも行くぞ。あんまりのんびりしてると、アルフォルトの奴が癇癪を起こすかもしれねぇからな」
「ハイ」
リーテが返事をすると、バアルはアルフォルトたちの後を追うように右の廊下に向かって歩き出す。リーテたちも置いて行かれないよう、早足でバアルのその後をついて行く。
バアルたちがエントランスから出ていき、静かなエントランスにはカイルたちだけが残る。
久しぶりにプレッジと行動を共にすることに対してカイルは複雑な気持ちになっているため、クレシアと目を合わせようとしなかった。
「……私たちも行くか」
クレシアの言葉に黙り込んでいたカイルは反応してクレシアの方を向く。
「そ、そうだね」
返事をするカイルをクレシアは見つめ、ゆっくりと背を向けて廊下の方を向く。
「……お前はマンティコアを倒せるほどの力を得たのだったな。どれほど強くなったのか、今回の調査で確かめさせてもらうぞ?」
「う、うん……」
クレシアの背中を見つめながらカイルは緊張した様子で頷く。
竜帝の霊鎧を手に入れて強くなった自分を見た時、クレシアは何を感じるのか、自分をどのように見るのか、カイルはクレシアを見ながら様々な思惑を抱いていた。
カイルたちは自分たちのやるべきことをやるため、左の廊下に向かって歩き出す。進んだ先に何が待ち構えているのか、カイルたちは警戒心を強くしながら奥へ進んでいく。
廊下はエントランスと同じように壁や床は白く、天井はエントランスよりは低い。そして、廊下の壁には無数の扉が一定の間隔を空けて設置されており、扉と扉の間には休憩用の長椅子が置かれている。
「凄いわねぇ。長い廊下に幾つも部屋が……何の部屋なの?」
「此処は病院だってバアルは言ってたからな。多分、怪我人な病人を治療する場所だろう」
「この部屋全部が? もしそうなら凄いわね……」
エバンスから視界に映る部屋の全てが治療する部屋と聞かされ、ファリスは軽い衝撃を受けた。
しかし、まだ全ての部屋が治療する場所だと確定したわけではないため、どんな部屋か知るためにも一つずつ調べる必要がある。
「とにかく、部屋を一つずつ調べていこう。モンスターが棲みついている可能性もあるから、油断せずに調べろ?」
「……分かってるわよ。いちいち偉そうな言い方しないで」
指示を出すクレシアを見ながら、ファリスは不満そうな顔で答えた。
クレシアとファリスの関係はマンティコアの一件から変化は無く、ファリスは今でもクレシアに命令されたり、上から目線で忠告されることを不快に感じている。
本当はすぐにプレッジと分かれてカイルと共に別行動を取りたいが、分かれ道が見つかるまでは共に調査することになっているため、渋々追放したクレシアたちと同行していた。
カイルは不満を露わにするファリスを見て複雑そうな表情を浮かべており、エバンスとグオンはカイルを追放した理由を知りながらもクレシアを嫌っているファリスを見て、困り顔で息を吐いた。
クレシアは自分の行いを考えれば、ファリスが不満そうにするのは仕方がないと考えており、ファリスに言い返すことなく黙っている。
「ファリス、アンタこそ偉そうな言い方するのはやめなさいよね? クレシアがカイルを追放した理由を知ってまだそんな態度を取るとか、器が小さいとしか言えないわよ」
不満を口にするファリスにネフィリアが挑発的な言葉を口にする。自分が愛するクレシアに偉そうな態度を取るファリスが気に入らず気分を悪くしたようだ。
ファリスはネフィリアが止めるのを見て、眉間にしわを寄せながら鋭い視線をネフィリアに向けた。
「はあぁ? アンタこそ、あたしとカイルをマンティコアに襲わせようとしたくせにデカい態度取るんじゃないわよ」
「うわぁ~、過去のことを何時までもネチネチ言って、カッコ悪ぅ~い」
「何ですってぇ!」
自分のやったことを棚に上げ、挑発的な態度を取り続けるネフィリアにファリスは青筋を浮かべる。
マンティコアの一件からまだ一週間も経っていないのに以前と同じ態度を取るネフィリアを見て、ファリスは反省も改心もしていないと確信していた。
「落ち着いて、ファリス」
カイルは今にもネフィリアに掴みかかろうとするファリスを宥める。モンスターがいるかもしれない場所で大きな声を出せば、隠れているモンスターに見つかる可能性があったからだ。
ファリスはカイルに止められ、不満そうな顔をしながら大人しくなった。ファリスも病院にモンスターがいる可能性があることを思い出し、感情的になってしまったことを反省する。
「まったく、相変わらず気の短い子ね。こんなことで感情的になるなんて見っともないわ」
再び挑発的な言葉を口にするネフィリアにファリスは険しい表情を向ける。今度は声を出さず、奥歯を噛み締めながら無言でネフィリアを睨んでいた。
「それに比べて、カイルは少しは成長したようね。過去のことを水に流し、感情的になったポンコツレンジャーを止めたんだもの」
「ネフィリア、勘違いしないでよ?」
笑みを浮かべるネフィリアにカイルは少し低めの声で語り掛ける。
ネフィリアがカイルの方を向くと、僅かに目を鋭くしながら自分を見ているカイルの顔があり、それを見たネフィリアは思わず目を見開く。
「僕もファリスと同じで君のことを許したわけじゃないんだ。今は騒ぐのは良くないと思ったからファリスを止めただけ……これ以上、ファリスを挑発したり、騒ぎを起こすような発言はやめてくれ」
「なっ、何ですってぇ? たかが荷物持ちのくせに偉そうな口を利くんじゃないわよ」
「僕はもう荷物持ちじゃない。ファリスと一緒に戦う戦士だ」
気弱な反応を一切見せず、堂々と語るカイルに驚いたネフィリアは僅かに表情を歪めた。
ネフィリアの前にいるカイルは嘗てプレッジで荷物持ちをしていた時と明らかに雰囲気や性格が違っている。
「あ、アンタ、生意気なこと言うわね。アンタ、何時からそんなに偉くなったのよ」
「ネフィリア、いい加減にしろ」
カイルに言い返すネフィリアをクレシアが強い口調で制止する。
リーダーであり、溺愛しているクレシアに止められたネフィリアは素直に口を閉じた。
「前にも言ったが、少しは自分の立場をわきまえろ。今のお前にカイルやファリスに偉そうな口を利く資格はない」
「ぬうぅぅ……」
クレシアから厳しい言葉をぶつけられたネフィリアは暗い顔で俯く。
エバンスとグオンは自身の立場を忘れ、以前のように振る舞うネフィリアを見て、情けなく姿だと思いながら呆れていた。
ネフィリアが大人しくなると、クレシアはカイルとファリスの方を向いて申し訳なさそうな顔をする。
「二人とも、すまなかった。ネフィリアには後でしっかり言い聞かせておく」
「……もういいわよ。それより、さっさと部屋を調べましょう」
いつまでも、つまらないことで時間を無駄にするわけにはいかないと考えるファリスは調査を始めるよう語る。
クレシアもファリスの言葉を聞き、今やるべきことをやろうと自分に言い聞かせ、調査に集中することにした。
気持ちを切り替えたカイルたちは周囲を警戒しながら、廊下にある部屋を一つずつ調べていく。
調べる際は当然、中にモンスターがいないか気配を探り、何もいないと判断したら静かに扉を開けた。




