第102話 獣魔の病院
右側の廊下ではアルフォルトたち神闘が奥へ進んでおり、その後ろをバアルたちがついて行く形で歩いている。
静かなで物が散乱し、窓も扉も無い長い廊下を見回しながら、バアルたちは財宝や情報を得られそうな物がないか探した。
バアルたちゴスペルやエファリアが警戒しながら進む一方で、アルフォルトたちは警戒する様子などを見せずに移動していた。情報が一切ない場所で警戒もせずに進むのはあまりにも危険な行為と言える。
警戒していないことにバアルたちも気づいているが、注意したところで素直に言うとおりにするはずがないので、アルフォルトたちの分まで周囲を警戒することにした。
「何だよ、二百年前の魔王が造った場所だって言うのに、全然お宝なんて無いじゃないか」
先頭のアルフォルトは財宝が見つからないことに不満を感じ、歩きながら不機嫌そうな口調で語る。
アルフォルトの後ろを歩いている盗賊と女レンジャーもつまらなそうな顔をしていた。
まだ殆ど奥に進んでおらず、調査を初めて三十分も経っていないのに財宝が見つかるわけがない。調査を簡単に考えているアルフォルトを見て、リーテとエファリアは呆れた顔をしている。
「そう不機嫌になるなよ、旦那。もう少し行きゃあ財宝が見つかるはずさ」
アルフォルトの真後ろにいる戦士が笑いながら語り掛けると、不機嫌そうな顔をするアルフォルトは歩きながら戦士の方を向いた。
「本当か?」
「ああ、間違いねぇさ。俺の感がそう言ってる」
もうすぐ目当ての物が見つかると聞かされ、アルフォルトはニッと笑みを浮かべた。
戦士は決してアルフォルトの機嫌を直そうとして言っているわけではない。彼も本当に財宝が見つかると考えていたため、アルフォルトが喜びそうなことを言ったのだ。
他の三人のメンバーも戦士の言葉を聞いて気分を良くしたのか、歩きながら笑っている。
今いる病院は二百年前の魔王が造った可能性があるため、普通の依頼では得られないような物があるとアルフォルトたちは確信している。
どんな財宝が見つかるのだろうと、神闘のメンバーたちは胸を躍らせてながら奥へ進んでいく。
「ねぇねぇ、宝物ってやっぱり貴族が持っているような高価な宝石とかかしら?」
「それもあると思うけど、私は強力なマジックアイテムだと思うわ」
「マジックアイテムかぁ、それもいいわね」
財宝がどんな物か、女レンジャーと女魔導士は笑いながら想像する。その姿は最早危険な場所を調査する冒険者と言うよりは、市場に買い物に行く町娘だった。
緊張感の無いアルフォルトたちを見たバアルは心の中で呆れ果てる。それと同時に自分の計画にふざけた連中が関わっていることに機嫌を悪くしていた。
(やっぱりコイツらの中に勇者やその仲間になる素質を持った奴はいねぇな。予定どおり、さっさと排除しちまおう……)
神闘のメンバーに一切期待していないバアルはアルフォルトたちを見つめる。バアルだけでなく、ランハーナもアルフォルトたちを目障りに思っており、早く消えてほしいと願っていた。
しばらく廊下を進むと、バアルたちはT字路に辿り着く。道はバアルたちが来た道以外に廊下を右に曲がる道と奥へ真っすぐ進む道の二つがあった。
「分かれ道か。……此処からは二手に分かれることになるが、構わないか?」
バアルがアルフォルトに尋ねると、アルフォルトはバアルを見下ろしながら鼻を鳴らした。
「ああ、構わないよ。寧ろお前たちと別々に行動できて清々する」
仮にもランクが上のバアルに生意気な態度を取るアルフォルトにランハーナは拳を震わせながら薄っすらと青筋を浮かべる。
リーテはランハーナが再びアルフォルトに怒りを抱いていることに気付き、咄嗟に震わせている拳に触れて落ち着かせた。
「決まりだな。問題はどっちの道を選ぶかだ。ダンジョンの場合、大抵奥の方にお宝とかが眠ってるものだが……」
アルフォルトはバアルの言葉を聞いて反応する。
右の道よりも正面の道を選んだ方が財宝が見つかる可能性が高いと予想し、アルフォルトはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「なら、僕たちはこのまま真っすぐ進ませてもらうよ」
「えっ?」
エファリアはアルフォルトの言葉に思わず声を漏らす。
普通はどちらのチームがどっちを進むか相談して決めるのだが、アルフォルトは相談もせずに勝手に道を選んだ。
周囲の意見も聞かず、自分の考えだけで道を決めたアルフォルトの身勝手さにエファリアは軽い衝撃を受けていた。
「ちょっと待ってよ。私たちの意見も聞かずに勝手に決めないでよ」
「うるさいなぁ、こういうのは早い者勝ちだろう。それにこういう場合、ランクの低い方に先に道を選ばせるのが、ランクが上の者として当然のことなんじゃないか?」
自分がBランクであることを利用し、先に選んだことを正当化しようとするアルフォルトを見て、エファリアは僅かに眉間にしわを寄せる。
例えランクが低いとしても、同じ依頼を受けているのなら話し合って物事を決めるのが普通だ。にもかかわらず、他人の意見も聞かずに自分だけで決めるのは冒険者として問題ある行動と言える。
「私やバアルたちだけじゃないわ。貴方のチームメイトの意見も聞いてから、どっちの道を選ぶか決めるべきじゃないの?」
「俺らは構わねぇぜ」
アルフォルトの隣にいた盗賊は正面の道でも問題無いことを伝える。
戦士や女レンジャー、女魔導士も同じ考えなのか、誰一人不満そうな顔はしていない。
「俺たちは旦那がそっちがいいって言うならそれに従う。それに俺たちもお宝が欲しいからな」
「そうそう。というか、アルフォルト様の言うとおり、ここはランクの低い方に選ばすべきでしょう?」
「たかが道を選ぶくらいでムキになっちゃって、見っともな~い」
まるで自分の非があるように語る女魔導士と女レンジャーを見て、エファリアは思わず拳を握って震わせた。
「貴方たちは周囲のことを何も考えてないし、未知の場所を調査する際の危機感が小さすぎる。それじゃあ、いつか命を落とすことになるわよ?」
「ハッ、文句の次はお説教かよ。ホントに見っともない女だなぁ。というか、Aランクだからってあまり偉そうなことを言わないでもらいたいな」
自分の思いどおりにならない状況が気に入らないのか、アルフォルトは少しずつ機嫌を悪くしていく。
エファリアはアルフォルトたちを心配して言っているのに、それを鬱陶しく思われていることに更に気分を悪くした。
「貴方ねぇ――」
「止せ、エファリア」
言い返そうとした時、バアルがエファリアの前に手を出して止める。
「バアル?」
「俺たちは同じ場所を調査しているが、他のチームの調査を邪魔したり、やり方を否定する資格は無い。好きにやらせてやればいい」
「でも……」
エファリアは納得できずに表情を曇らせながら呟く。
「それに俺たちゴスペルはどっちの道でも構わない。神闘が正面の道を進みたいって言うならそれでいい」
「へっ、よく分かってるじゃないか。そっちのエルフの言うとおり、僕らのやり方や選択に文句を言う資格はお前には無い」
バアルが自分の味方をしていると思ったのか、アルフォルトはエファリアを見ながら勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
エファリアはアルフォルトやその周りにいる神闘のメンバーを見つめながら哀れむような顔をした。
嘗てセプティロン王国で発見された地下ダンジョンでエファリアはチームメイトを失い、共に調査した冒険者たちも死んだ。仲間を失う辛さを知っているエファリアはチームメイトでないとしても、同じ冒険者を死なせたくなかった。
アルフォルトたちが同じ目に遭わないように忠告していたが、それを迷惑としか思っていないため、エファリアは苛立ちと同時に悲しさを感じていたのだ。
バアルもエファリアがアルフォルトたちを心配して忠告しているのは分かっている。性格の悪い人物に対しても死なせたくないと思えるエファリアを見て、バアルはエファリアがより勇者に相応しい存在だと感じるのだった。
「と言うわけで、僕らはこのまま奥へ進ませてもらうよ。お前たちはお宝の無い場所をチマチマと調べるんだな」
アルフォルトはバアルたちに背を向けると真っすぐ正面の道へ歩いて行く。
戦士と盗賊も見下したような笑みを浮かべながらアルフォルトの後をついて行き、女レンジャーは舌を出しながら、女魔導士は手を振りながら病院の奥へ向かう。
アルフォルトたちの姿が見えなくなると、ランハーナは我慢していた苛立ちを解放するかのように大鎌の石突部分で床を強く叩いた。
「ほんっとうにムカつきますね、アイツら! どうすればあそこまで捻じ曲がった性格になるんでしょうか。アイツがモンスターだったら迷わずぶった切ってましたよ」
「落ち着け、あんな奴にいちいち熱くなるな」
バアルに宥められたランハーナは若干不満そうな表情を浮かべ、アルフォルトが歩いて行った方を見つめる。
このままアルフォルトたちが病院内にいるモンスターに襲われたり、罠に掛かって命を落とせばいいのにとランハーナは心の中で願っていた。
「さて、それじゃあ俺たちも行くか」
自分たちもやるべきことをやるため、バアルは廊下を右に曲がる。
リーテたちも、もう一度アルフォルトたちが歩いて行った方を見た後にバアルの後をついて行く。
廊下をしばらく進むとバアルたちは一つの扉の前までやって来る。カイルたちと別れて初めて部屋を発見したため、バアルたちは早速中を調べることにした。
部屋の中に気配が無いことを確認すると、バアルたちはゆっくりと扉を開けて中に入る。
室内はそれなりに広く、隅には幾つものベッドが並んで置かれてあった。ただ、そのベッドの脚の部分には車輪が付いており、変わったベッドを見たリーテとエファリアは不思議そうな顔をする。
ベッド以外にも小さな銀色の台車や車輪の付いた銀色の細長い棒なども置かれており、リーテとエファリアは目を丸くしながら部屋を見回す。
「何だか不思議な部屋ね……此処が怪我人や病人を治療する部屋なのかしら?」
「ベッドとかもあるし、多分そうだろうな」
バアルは部屋を見回しながらエファリアの疑問に答える。
病院を造ったバアルは部屋がどういう場所なのか分かっているが、初めて訪れたことになっているため、予想するような素振りを見せていた。
今回、造られた病院はEKTの世界で手に入った素材を使って造られた物だが、元々EKTの世界には病院などは存在していない。
ゼブルが異世界に転移するずっと昔、EKTで“未知の世界から突然現れた病院と言う建物”を探索すると言う期間限定のイベントが発生した。
そのイベントのクエストで手に入れた素材を使い、バアルは当時EKTに出現した病院型のダンジョンを再現したのだ。
「それじゃあ、早速この部屋を調べてみるか。結構広いから、分かれて調べた方がいいな」
「分かったわ」
バアルの提案に賛成のエファリアは小さく頷く。未知のダンジョンで分かれて行動するのは危険だが、同じ部屋の中を調べるのなら分かれても問題無い。
今いる部屋を調べるため、バアルたちは四つに分かれてベッドや棚などを細かく調べる。だが、なかなか病院の情報や財宝などは見つからなかった。
バアル自身はダンジョンである病院の中にアイテムや財宝などを設置しているため、何処に何があるのかは把握している。だが立場上、探さないと怪しまれるため、念入りに探すフリををしていた。
「バアルさん、ちょっといいですか?」
バアルが部屋の隅に置かれている棚の中を調べていると、リーテがランハーナと共にバアルの下へやって来た。
声を掛けられたバアルは不思議そうな顔をしながら二人の方を向く。
「どうした、二人して?」
「あのぉ……そろそろ、私たちにこの病院がどのようなダンジョンか教えていただけませんか?」
「そうですよぉ。ずっと気になって仕方がなかったんです」
自分の所に来た理由を聞いたバアルは「ああぁ」と納得の反応を見せる。
ここまでカイルたちを病院に入らせ、調査させることを考えていたため、リーテとランハーナに説明することをバアル自身もすっかり忘れていた。
バアルは遠くで探索をしているエファリアを見て、自分たちのことに気付いていないのを確認するとリーテとランハーナに視線を戻した。
「そうだな、カイルたちを病院に入れることができたし、教えてやるよ」
既に病院に入り、計画は始まっているため、リーテとランハーナに話してもいいバアルは考え、病院の詳しい情報を教えることにした。
ようやくバアルがどのようなダンジョンを造ったのか教えてもらえると知ってリーテは小さく笑い、ランハーナはワクワクしながらバアルを見つめる。
「今回のダンジョンは病院と言う表の顔を持ち、裏で秘密の研究をする場所っている設定にした。そして、それに合った仕掛けやモンスターを配置してある」
「秘密の研究?」
リーテは小首を傾げながら確認すると、バアルは小さく頷く。
「そう、邪悪な研究をする病院。……それがこの“獣魔の病院”だ」
不敵な笑みを浮かべるバアルは床を指差しながら、今いる病院の名前を口にした。
――――――
バアルたちと別れた神闘は病院の更に奥へ進んでいく。相変わらずろくに警戒もせず、軽い気持ちで探策をしていた。
「ったく、ランクが上だからって偉そうにしやがって」
「ああ、まったくだ。Aランクって言うのがそんなに凄いことなのかねぇ」
先程のエファリアの態度が気に入らない戦士と盗賊は歩きながら不満を口にする。後ろをついて来ている女レンジャーと女魔導士も同感なのか、目を細くしたりしていた。
アルフォルトは他の四人よりも機嫌が悪くしており、眉間にしわを寄せて奥歯を噛み締めながら歩いていた。
「あの女、冒険者でなければ僕の力でヴァリンにいられないようにしてやるのに……クソッ!」
エファリアを追い出したくても貴族としての権力が使えないため、ヴァリンから追放することができない。アルフォルトは思いどおりにならない状況に更に機嫌を悪くするのだった。
「おい、何かアイツを後悔させてやるいい方法は無いのか?」
「そうだなぁ……旦那の権力が使えないのなら、他の奴にあの女を痛めつけるよう依頼するって言うのはどうだ?」
人々を守る立場でありながら、戦士は冒険者としてあるまじき発言をする。
貴族であるアルフォルトに取り入ろうとしている戦士は自身の立場など考えず、ただアルフォルトが気に入るような提案をしていた。
「裏社会の奴らに奴らを痛めつけ、ヴァリンから追い出すよう依頼すれば、旦那が糸を引いていることが親父さんに知られることも無いだろうし、上手くいけば裏社会と繋がりを持つこともできると思うぜ?」
「成る程、それもいいかもしれないな」
とんでもない提案してくる戦士を見ながらアルフォルトは興味のありそうな顔をする。
アルフォルトだけでなく、他の新党のメンバーたちも面白そうにしながら二人の会話を聞いていた。
ヴァリンには冒険者以外にガラの悪い輩などが大勢おり、一部の地区では住民たちがよく暴行や恐喝などの被害に遭っていた。
因みに冒険者はモンスター討伐のような依頼だけでなく、そう言った犯罪者たちの監視や捕縛などの依頼も受けており、街中で犯罪者を見つければ捕らえることができる。
アルフォルトは冒険者でありながら犯罪者たちに依頼を出し、エファリアを傷つけてヴァリンにいられない状況を作り、エファリアが自分の意思でヴァリンから出ていく計画を練ろうとしていた。
今のアルフォルトたちは冒険者ではなく、如何なる手段を用いても気に入らない存在を傷つけようとしている小悪党でしかなかった。
「ただ、奴もAランク冒険者ですから、並の連中を差し向けても返り討ちに遭うと思います。もし依頼するならAランク以上の実力を持った奴にした方がいいですね」
「確かに……だとしたら、依頼できる奴は限られてくるな」
強者に依頼すると言う盗賊の提案を聞き、アルフォルトは難しい顔をする。
Aランク以上の実力者は冒険者ギルドにも数えるくらいしかいない。それを考えると、ギルドに所属していない人間でAランク以上の実力を持っている者を見つけるのは難しいと言える。
どのようにして依頼する犯罪者を見つけるか、アルフォルトは歩きながら考えた。
「まぁ、その話はこの依頼を終わらせてから考えようぜ」
「そうね。今は宝物を見つけることに集中しましょう」
「……チッ、仕方ないな」
戦士と女魔導士の言葉を聞き、アルフォルトは若干不満そうな顔をしながら気持ちを切り替える。
本当はすぐにエファリアを片づける段取りを決めておきたいのだが、今は財宝を見つけるのが目的であるため、調査に集中することにした。
アルフォルトは仲間たちと共に廊下の奥へ進んでいく。やがて一つの部屋の前にやって来て、扉の前で立ち止まった。
「やっと一つ目の部屋を見つけたな」
「ここまで一つも部屋が見つからなかったんだ、何かお宝がねぇと許さねぇぞ」
不満を顔に出すアルフォルトを見て、戦士は小さく笑いながら扉を開ける。
他のメンバーも笑みを浮かべており、目の前の部屋に何か価値のある物があると確信しているようだ。
部屋に入ると 無数のベッドと倒れている車輪の付いた銀色の台車、瓶やガラス片が散乱している光景が目に入る。部屋はあちこち汚れており、床や壁の至る所に傷が付いていた。
「うわあぁ、きったなぁ~い。何なのよこの部屋は……」
女レンジャーはあまりの汚さに表情を歪める。病院の中が荒れているのは分かっていたが、今いる部屋は予想していたよりも酷い状態だった。
「よし、早速部屋を調べるぞ? 値打ちのありそうなものを見つけたらすぐに僕の所に持ってくるんだ」
「ああ、分かったよ」
アルフォルトたちは探索を始めるために部屋の奥へ向かおうとする。その時、何処からか音が聞こえ、全員が一斉に反応した。
「おい、何か聞こえるぞ」
音の正体が気になり、アルフォルトたちは音が聞こえた方へ向かう。
二百年前の魔王が造った可能性がある病院内で音がすることから、モンスターが音を発していると予想するアルフォルトたちは病院に入って初めて警戒心を強くした。
武器を構えながら慎重に音がする方へ移動する。音は目の前にあるベッドの後ろから聞こえ、アルフォルトたちはゆっくりとベッドの陰を覗き込む。
そこには汚れた薄い水色の長袖長ズボンを着た人間が四つん這いになり、床に顔を近づけている姿があった。
「何だ、コイツ? 他の冒険者チームの奴か?」
「いいえ、こんな格好の人はいなかったわ」
女魔導士から冒険者ではないと聞かされ、アルフォルトは四つん這いになっている人物に視線を向ける。
他のチームのメンバーでないとすると、自分たち以外に病院に入り込んだ者である可能性が高い。アルフォルトは自分たちより先に病院を探索し、財宝を手に入れようとしているのではと予想して気に入らなそうな顔をする。
ただ、目の前にいる人物は普通ではないと神闘のメンバー全員が直感していた。なぜならその四つん這いになっている人物は手足が傷だらけで青白く、裸足だったからだ。
「おい、そこで何してるんだ」
戦士が四つん這いになっている人物に声を掛けると、その人物は床に近づけている顔を上げてゆっくりと振り返る。
アルフォルトたちの視界に入ったのは青白い肌と赤い目をした男の顔で、茶色の髪はボサボサで肩に掛かりそうなくらいの長さだった。
青白い男の顔を見て、アルフォルトたちはすぐにまともじゃないと悟って驚く。何より彼らを驚かせたのは、男の歯が犬のように鋭く、口全体が血で赤く染まっていたからだ。
歯だけでなく、男の両手両足の爪も鋭くなっており、目の前の異常な人間を警戒するアルフォルトたちは武器を構え直す。
そんな時、アルフォルトたちは青白い男が顔を近づけていた場所を目にする。そこには首筋の肉を喰いちぎられ、苦痛の表情を浮かべている白い服を着た若い女の死体があった。
死体を見たアルフォルトたちは更に驚いて目を大きく見開く。同時に先程の音は青白い男が死体の肉を喰らっていた時の咀嚼音だと気付いた
「……ウオオオオォッ!」
青白い男は立ち上がり、アルフォルトたちを睨みながら大きな声を上げる。その姿は獲物を威嚇する獣のようだった。
「な、何なんだコイツは!?」
状況から目の前の男はモンスターだと判断したアルフォルトは後ろに下がり、周りにいる仲間たちに声を掛ける。
チームメイトの方がモンスターなどに詳しいため、アルフォルトは仲間たちなら何か知っているはずだと考えていた。
「お、俺らも分からねぇ。こんなモンスター、初めて見た」
「何だよ、知らないのか? 情けない奴だなぁ」
使えない戦士にアルフォルトは気分を悪くし、ゆっくり近づいてくる青白い男を見つめる。
男は唸り声を上げながら一歩ずつアルフォルトたちに近づいてくる。
「お前たち、戦闘態勢に入れ! 部屋の探索はコイツを始末してからだ」
アルフォルトは青白い男の様子から、戦闘は避けられないと判断して仲間たちに指示を出す。
戦士たちも問題無く探索するためにも、目の前の異常な男を倒して安全を確保しなくてはならないと考えていた。
「分かってると思うが、僕に近づけるんじゃないぞ? 全員で攻撃して一気に終わらせてや――」
「ぎゃあああぁっ!」
突然背後から叫び声が聞こえ、驚いたアルフォルトたちは一斉に振り返る。
アルフォルトたちの後ろには、仲間の女魔導士が長い金髪で青白い肌をした女エルフに背後から捕まり、首筋を噛まれている姿があった。
女エルフは四つん這いになっていた男と同じで薄い水色の長袖長ズボン姿をしており、裸足で両手両足の爪は鋭く、歯も獣の騎馬のようになっている。
状況から目の前の女エルフは、四つん這いになっていた男と同類だとアルフォルトたちは確信する。
「あが……がが……」
女魔導士は涙目で痙攣しながらかすれた声を出す。どうやらアルフォルトたちが青白い男を警戒している間に部屋に隠れていたか、室外から入って来た女エルフに背後を取られて襲われたようだ。
口周りを血で染める女エルフは首筋を噛むのをやめ、捕まえていた女魔導士を解放した。
女魔導士はその場に倒れ、目を見開いたまま動かなくなる。女エルフに首を噛まれたことで致命傷を負ったようだ。
「う、嘘……」
仲間があっという間に殺されたことに女レンジャーは青ざめる。
獣のような男と女エルフに前後から挟まれ、アルフォルトたちは危機的状況に立たされていた。
「お、おい、やられたぞ!? 何とかしろ!」
「お、落ち着いてくれ、旦那。まずは戦いやすいよう、広い場所に移動して……」
戦士がアルフォルトを落ち着かせようとしていると、近くにあるベッドの陰から何かが勢いよく飛び出してアルフォルトたちの前に現れる。
そこにいたのは青白い男や女エルフと同じ格好をした濃い金色の短髪をした人間の女だった。彼女も他の二人と同じように肌は青白く、獣のような歯と鋭い爪をしている。
更に女エルフの近くにある棚の陰からも黄緑色でボサボサの短髪をしたエルフが現れる。こちらも肌が青白く、同じ服装で鋭い歯を生やし、手足の爪も鋭くなっていた。
新たに二体の人型のモンスターが現れ、アルフォルトたちは驚きのあまり言葉を失う。
青白い男たちは四方からアルフォルトたちを囲んでおり、完全に逃げ道を塞いでいた。
「そ、そんな馬鹿な……」
予想外の事態にアルフォルトは現実を受け入れられずにいる。
他のメンバーたちも危機的状況に立たされ、顔からは先程までの余裕が完全に消えていた。
アルフォルトたちが絶望する中、四体の青白い人型のモンスターたちは声を上げ、獰猛な獣のようにアルフォルトたちに跳びかかった。




