第89話 使えない力
探していたプレッジがギルドにやって来たことを知ったバアルはゆっくりと立ち上がり、遠くにいるプレッジの方へ歩き出す。
ダーバイア公国へやって来た最大の理由であるプレッジが運良く現れたため、早速どのようなチームなのか確かめようと思っていた。
リーテとランハーナもバアルに続いて席を立ち、後をついて行く。
「三人とも、どうかしたの?」
無言で立ち上がるバアルたちを見たエファリアは不思議そうにしながら声を掛ける。
「いや、ヴァリンでも有名と言われているプレッジが来てるらしいからな。近くで見てみようと思っただけだ」
バアルの話を聞いたエファリアは「成る程」と納得の反応を見せた。バアルたちゴスペルもAランク冒険者であるため、同じAランク冒険者チームであるプレッジに興味があるのだと予想する。
エファリアは一週間前からプレッジに来ているが、直接プレッジと接触したことはない。
遠くから見たり、他の冒険者から話を聞いたりしただけだったので、エファリア自身もプレッジのことが気になっていた。
バアルたちが近くでプレッジを見てみようとしているのなら、自分も便乗して確かめてみようと考えたエファリアはバアルたちと同じように席を立ち、プレッジがいる方へ歩いて行く。
「相変わらず注目されてるわねぇ」
ギルド内の冒険者たちが見つめる中、ファリスは小さく苦笑いを浮かべながら歩く。
プレッジはヴァリンで活動する冒険者チームの中でも特に注目、期待されているため、依頼を終えてギルドに戻った際には毎回多くの冒険者たちが驚きや関心の反応を見せる。
ファリスは特別な存在として見られることに少し照れくささを感じていた。
近くにいるエバンス、グオン、カイルも同じ気持ちだったため、ファリスのように苦笑いを浮かべたり、恥ずかしそうな表情を浮かべている。
クレシアは注目されても気にしない性格なのか、あるいはリーダーとして恥ずかしい姿を見せてはならないと思っているのか、無表情のまま先頭を歩いている。
ネフィリアだけはファリスたちと違って注目されていることに優越感を感じているのか、愉快そうに笑いながらクレシアの後ろを歩いていた。
「フフフ、今日も皆が私たちに注目してるわねぇ。実績も上げて期待もされている。これならすぐにSランクに昇格できるわ。そうよね、クレシア?」
「ああ」
前を向きながら返事をするクレシアを見て、ネフィリアは頬を薄っすらと赤くしながらニコニコと笑う。自分の溺愛するクレシアが周囲を気にすることなく、落ち着いて返事をする姿をカッコよく思っていた。
「今日も早いお帰りだったな?」
前から男の声が聞こえ、先頭のクレシアはゆっくりと立ち止まる。
後ろにいたエバンスたちもクレシアにつられて立ち止まり、全員が声が聞こえた方を向く。
クレシアたちの視線の先には六十代半ばくらいの男がおり、小さく笑いながらクレシアたちの方へ歩いてくる。
身長は170cm強で茶色の短髪に同じ色の顎髭、緑色の目をしており、白い長袖と濃い茶色の長ズボンを穿いた格好をしていた。雰囲気と状況から、冒険者ギルドの関係者と思われる。
「確か今回はオークジェネラルの討伐依頼だったな。Aランクの依頼でも難しいものなのに、こんなに早く帰還するとは、流石は期待のチームだな」
「それは言いすぎですよ、ウォルレスさん」
自分たちを褒める男を見ながらクレシアは小さく笑う。冒険者たちに注目されても表情を変えなかったクレシアだったが、この時は普通の少女のように微笑んでいた。
クレシアの目の前にいる男はウォルレス・ドルデレン。ヴァリンの冒険者ギルドのマスターで元Sランク冒険者だ。
冒険者だった頃は優れた戦士として活躍し、よく新米冒険者たちの面倒を見たりなどをしていたため、多くの仲間から信頼されていた。冒険者を引退し、ギルドマスターになった後もそれは変わらず、今でもギルド職員や後輩たちから慕われている。
冒険者の中でも、クレシアたちプレッジのメンバーとは親しく、特にクレシアとファリスの二人はウォルレスにとって娘のような存在だ。
クレシアとファリスはヴァリンの養成学院に通っていた頃、学院の授業以外でウォルレスから冒険者に必要な技術と知識を教わっており、他の学院生以上に強くなろうと努力していた。
ウォルレスはクレシアとファリスの熱意を知ると、自分が教えられることを全て教えることを決め、二人を全力で鍛えた。
冒険者として育ててくれたウォルレスをクレシアとファリスも心から慕っており、彼女たちもウォルレスのことをもう一人の父親のような存在として見ている。
「これからもこの調子で頑張ってくれ? そうすればいつかはお前さんの両親を越える冒険者になれる。……いや、もしかしたらもう両親を越えてるかもしれんな」
「それは大袈裟ですよ。私なんてまだまだです」
冒険者だった両親と比べられたクレシアは微笑んだまま目を閉じ、首を軽く横に振る。
ウォルレスはクレシアの反応を見て、どこか懐かしそうな表情を浮かべた。
実はウォルレスは冒険者だったクレシアの両親とは親しい関係で、クレシアの両親が生きていた頃は冒険者の先輩としてアドバイスなどもしていた。
クレシアの両親と友人だったウォルレスは二人が依頼中に命を落とした時は心から残念に思っていた。
だからこそ、娘であるクレシアがファリスと共に冒険者としての技術や知識を教えてほしいと頼んできた時、クレシアが少しでも生き残れるよう鍛えることを決意したのだ。
「お前さんが両親のような、いや、それ以上の冒険者を目指していることは知っている。だが、強くなるためと言って無茶なことはするな? そんなことをして命を落としたら、両親を超える冒険者にはなれないぞ」
「ハイ、肝に銘じておきます」
忠告を聞き入れるクレシアを見て、ウォルレスは「よし」と言いたそうにニッと笑う。
「さて、お前さんたちの顔も見れたことだし、儂は仕事に戻るとするか。これからも頑張ってくれ?」
ウォルレスは振り返り、クレシアたちに背を向けると手を振りながらギルドの奥へ歩いて行く。
クレシアはウォルレスが奥へ行くのを見届けると笑みを消し、真剣な表情を浮かべながら後ろにいるエバンスたちの方を向いた。
「皆、ギルドに戻ってきて早々悪いが大切な話がある。二階にある控室へ移動してくれ」
「話? どんな話よ?」
帰ってきた直後にどんな話をするのだろうと、ファリスは不思議そうにしながらクレシアに尋ねる。
クレシアの様子から冒険者の活動に関わる重要な内容ではないかとファリスは予想するが、どんなことなのかは分からなかった。
「それは二階に移動して時に話す」
クレシアが低めの声で語ると、ファリスは目を鋭くしてファリスを見つめる。
此処で聞き出そうとしてもクレシアは絶対に答えない。クレシアの性格を知っているファリスはそう感じていた。
ファリスがクレシアを見つめる中、エバンスとグオンは少しだけ表情を曇らせながらファリスを見ている。
ネフィリアはエバンスやグオンと違い、つまらないものを見るかのような表情を浮かべていた。
「カイル、お前は受付に依頼完遂の報告をし、依頼とオークジェネラルの素材の報酬を受け取って来てくれ。その後に二階へ上がって来い」
クレシアが最後尾にいるカイルに指示を出すと、カイルは意外そうな顔をしながらクレシアを見た。
「でも、これから大切な話をするんでしょう? だったら先の話を聞いて、その後に報酬を受け取れば……」
「いいから報告と報酬の受け取りをして来い」
少し強めの口調で命じるクレシアにカイルは一瞬驚きの反応を見せる。
これまで何度もクレシアから強い口調で命じられたり、注意されたことはあったが、今回は今までと何かが違う感じがした。
「わ、分かったよ。……ただ、報告と報酬の計算とかをするから、二階に行くには少し時間が掛かると思うけど……」
「構わない……寧ろ、その方が都合がいい」
クレシアの言葉にカイルはフッと反応する。最後の方は声が小さくて、何と言ったのかハッキリと聞き取れなかった。
ファリスは相変わらずカイルへの当たりが強いファリスを見ながら目を細くする。もう少しカイルに優しくできないのか、ファリスはクレシアを見つめながらそう思っていた。
「よし、二階へ行くぞ」
クレシアはギルドの二階へ続く階段の方へ歩き出し、エバンスたちもその後に続く。
ファリスだけは一人その場に残るカイルの方を向き、小さく笑いながら軽く手を振ってクレシアたちの後を追う。
カイルはクレシアたちが二階へ向かうのを見届けると一人で受付へ向かい、受付嬢に依頼完遂の報告をする。それと同時に背負っていた鞄を下ろし、中に入っていたオークジェネラルやオークの素材をカウンターの上に一つずつ並べていった。
「……プレッジ、なかなかバランスのいいチームだな」
離れた所でプレッジを見ていたバアルは目を薄っすらと赤く光らせながら呟く。
「やはり、プレッジの方々は全員レベルが高かったですか?」
右隣に立っているリーテが小声で尋ねると、バアルは視線を動かしてリーテを見ながら口を開いた。
「ああ、俺が過去に出会った現地人たちと比べたら強い方だ」
バアルがリーテと同じように小声で答えると、返事を聞いたリーテは納得したような反応を見せる。
プレッジがギルドに入った直後、バアルはプレッジのメンバーの実力を確かめるために極級魔法の全知全能の神眼を発動していた。
全ての情報を閲覧できるようになったバアルはメンバーの名前やレベル、職業、使える技術、そして個人情報などを細かく確認する。その結果、プレッジが二階に上がる前に全員の情報を得ることができた。
「先頭にいた女剣士、クレシアがプレッジのリーダーでレベルは32とエファリアより上だ」
プレッジのリーダーがエファリアよりレベルが上だと聞き、リーテは軽く目を見開く。
Aランク冒険者チームのリーダーだからそれなりのレベルだと予想はしていたが、エファリアより上だとは思ってなかったので内心驚いていた。
「他のメンバーはエバンス、ファリス、グオン、ネフィリアという名前で、それぞれレベル30、28、25、27と並の冒険者と比べるとレベルが高い。ただ、鞄を背負っていたカイルという男はレベル15で、他のメンバーと比べて低かったな」
バアルはリーテにプレッジの情報を伝えながら、受付前にいるカイルに視線を向ける。
リーテはAランク冒険者チームのメンバーでありながらレベルが低いことを意外に思い、不思議そうな顔をしながらカイルを見つめる。
「なぜ、Aランクなのに彼だけレベルが十代なのでしょう? 共に依頼を受けていれば、自然と同じくらいのレベルになると思うのですが……」
「全知全能の神眼で得た情報によると、アイツは他のメンバーと違って戦いの訓練をまともに受けておらず、独学で技術や知識を得たようだ。そのため、前線に出てもまともに戦うことができず、仲間たちから荷物持ちをやらされているらしい」
バアルの説明を聞いたリーテはカイルが荷物持ちをやらされ、戦闘に参加できないから経験値を得られず、レベルも他の仲間と比べて低いのだと知って納得した。
「そう言えば、固有技術を開花させたのは誰だか分かったのですか?」
プレッジの情報で最も重要とされる固有技術について尋ねると、バアルはカイルの方を向いたまま小さく頷く。
「固有技術を開花させた二人の内、一人はクレシアだった。彼女は英霊の刀剣と言う強力な戦闘系の固有技術を開花させていた。……どんな技術かは後で話す」
「成る程、戦闘系ですか。……それで、もう一人はどなただったのですか?」
「……カイルだ」
バアルは受付嬢と話すカイルを顎で指しながら、もう一つの固有技術を開花させた存在であることを教える。
荷物持ちで最もレベルの低いカイルが固有技術を開花させていると聞いたリーテは驚いて目を見開く。
「でも、おかしくありませんか? 固有技術を開花させれば、他の人よりも優れた能力を得ることができます。例え他の人よりレベルが低く、技術や知識が劣っていても何らかの形で戦闘に関わることができると思うのですが……」
他のチームメイトより弱いとしても、固有技術を開花させたカイルが荷物持ちという戦闘とは無縁の役目を任されるのはおかしい。リーテはそう感じながらバアルの方を向いた。
「カイルの固有技術はクレシアやエファリアのような直接戦闘で使える固有技術とは違うものなんだよ」
「違うもの?」
リーテが聞き返すと、バアルは小さく頷く。
「カイルの固有技術は“守神の衣”と言って、あらゆる防具を装備できるようになる技術だ。この技術があれば、条件を満たさなければ装備できない防具も普通に装備することができる」
「あらゆる防具を装備できるなんて、凄い技術じゃないですか。……なのに、どうしてカイルさんは戦闘に参加させてもらえず、荷物持ちをやらせているのでしょう?」
十分優れた技術にもかかわらず、主戦力として使われない理由が分からないリーテは小首を傾げる。
バアルは理解できていないリーテを見て、彼女が理解できるよう分かりやすく説明した方が良いと感じた。
「確かにあらゆる防具を装備できる、というのは魅力的な能力と言える。だが、それは技術を使う奴が装備できない防具が手元にある場合の話だ」
「どういうことですか?」
「条件を満たさなければ装備できない防具を装備する際、守神の衣は役に立つ。だが逆に言えば、無条件で装備できる防具に対しては何の意味も無いと言うことだ」
バアルの説明が理解できているのか、リーテはうんうんと小さく頷きながら説明を聞く。
「この世界で得られる防具の殆どは無条件で装備できる物ばかりだ。一定のレベルに達した者、ステータスを一定量まで上げた者が装備できるような強力な防具は数が少なく、手に入れるのも難しい。普通の冒険者はまず持っていないだろう」
「……あっ!」
何かに気付いたリーテはフッと顔を上げた。
「気付いたか? 強力な防具を持っていないのなら、折角の固有技術も役に立たない。そして、無条件で装備できるような防具は性能が低く、低レベルの奴が装備しても戦力は殆ど変わらない。そんな奴を前線に出しても、モンスターに殺されるのは火を見るよりも明らかだ」
「今のプレッジは強力な防具を所持していないため、カイルさんの固有技術は使えない。かと言って並の防具を装備したカイルさんは戦力にならないため、荷物持ちをやらせていると言うことですか」
「そう言うことだ」
固有技術を開花させたカイルが荷物持ちをやらされている理由を知ったリーテは、納得しながらカイルの方を向く。折角固有技術を開花させたのに、仲間のために使うことができないカイルにリーテは同情していた。
リーテが同情する一方で、バアルは期待を裏切られたような顔でカイルを見つめている。
一つのチームに固有技術を開花させた冒険者が二人いると聞き、二人の勇者候補を見つけることができたと思っていた。
だが、カイルの固有技術は現状では殆ど役に立たず、勇者どころかその仲間になれる可能性も低かった。
(カイルが固有技術を使わないと装備できない強力な防具を手に入れれば勇者かその仲間になれるだろうが、現状では難しいだろう。……これは、クレシアだけを勇者候補として扱った方がいいかもな)
人数は少なくなってしまったが、勇者の素質がある者を見つけることができたのは事実だ。
バアルはいつまでも不満を抱いていても仕方がないと自分に言い聞かせ、クレシアを勇者として強くするための計画を進めることにした。
「ねぇ、さっきから何をコソコソと話しているの?」
エファリアは不思議そうな顔をしながらバアルに声を掛ける。
プレッジに近づいてから、バアルとリーテが何かを小声で話していたのをエファリアは気付いていた。だが、会話の内容は聞こえなかったため、会話を終えたのを見計らってバアルに尋ねたのだ。
声を掛けられたバアルは一瞬驚いたような反応を見せるが、すぐに表情を戻してエファリアの方を向いた。
「いや、プレッジはなかなかバランスのいいチームだなぁってリーテと話してただけだ」
「そう……」
他のチームの感想を言うのなら、わざわざ小声で話す必要は無いのでは、とエファリアは疑問に思うが、それほど気にしていなかったので、バアルの答えを聞いて納得した。
ランハーナはバアルとリーテが小声で会話をしているのを見て、勇者候補に関する話をしていたのだろうと確信する。
ただ、詳しい内容はエファリアと同じで聞こえていなかったため、エファリアが近くにいない時にバアルかリーテに聞くことにした。
「さて、プレッジを見ることもできたし、予定どおり俺たちが受けられる依頼がないか聞いてみるか」
今はこれ以上プレッジを確認したり、情報を得る必要は無いと判断したバアルは受付へ行くことにした。受付の方を向くと、カイルが自分の鞄を覗き込んでいる姿が目に入る。
カイルは依頼で得たモンスターの素材を出そうと、鞄の奥に手を入れていた。そんな時、カイルの懐から小さな何かが床に落ちる。
(ん? 何か落ちたな)
バアルはカイルが何かを落としたことに気付くと落ちた物を確認する。それは手に平サイズで翡翠色の全身甲冑を着た騎士の人形だった。
鞄から素材を取り出すのに集中しているからか、カイルは人形が落ちたことに気付いていない。
「……ッ! あれは……」
人形を見ていたバアルは何かの驚いて目を見開く。
周りにいるリーテたちはバアルの反応を見て、どうしたのだろうと不思議そうな顔をしていた。
リーテたちが見つめる中、バアルはカイルの方へ歩いて行き、カイルが落とした騎士の人形を拾う。
「これ、落ちたぞ?」
「え?」
声を掛けられたカイルは振り向き、目の前にエルフの少年がいることに気付く。そして、少年が騎士の人形を拾い、差し出しているのを見て軽く目を見開いた。
「あ、ありがとう。気付かなかったよ」
礼を言ったカイルは人形を受け取ると懐に仕舞う。大切な物を落としたことに気付かなかった自分を恥ずかしく思い、同時に人形を拾ってくれたエルフの少年に心の中で感謝した。
「いい人形だな。何処で手に入れたんだ?」
「これかい? これは、幼馴染の女の子たちがプレゼントしてくれた物なんだ」
「そうか。……俺、バアルっつうんだ。アンタと同じAランクだ。よろしくな」
「え? う、うん、よろしく。僕はカイル・ファルメーズ」
突然声を掛けて自己紹介をしてくるバアルにカイルは違和感を覚える。だが、大切な人形を拾ってくれた相手を変に思うのは失礼だと感じ、自分も名乗ることにした。
「俺、仲間と一緒にヴァリンに来たんだけど、今日着いたばかりで街のことを何も知らないんだ。もしよかったら今度色々教えてくれよ?」
「う、うん。機会があったら……」
「期待してるぜ。……じゃあな」
バアルは笑いながらカイルに背を向け、リーテたちの方へ歩いて行く。
カイルは不思議な雰囲気を漂わせるバアルをしばらく見つめていたが、まだ素材の提出が済んでいないことを思い出すと、再び鞄に手を入れて素材を取り出す。
やがて、全ての素材を取り出すと受付嬢は出された素材をカウンターの奥に仕舞い、依頼と素材の報酬をカイルに差し出す。
カイルは報酬を受け取ると鞄に入れ、クレシアたちが待つギルドの二階へと向かった。
一階では、バアルが階段を上がっていくカイルを無言で見つめている。真剣な眼差しを向けており、まるでカイルから何かを感じ取っているように見えた。
「あ、あの、バアルさん。どうかしたんですか?」
カイルに人形を渡し、戻って来てから様子のおかしいバアルを見てリーテは声を掛ける。
ランハーナとエファリアもバアルを見ながら不思議そうな顔をしていた。
「アイツ、とんでもない物を持っていた」
「とんでもない物?」
状況を把握できないリーテはバアルを見ながら聞き返した。
実はこの時、バアルが発動した全知全能の神眼の効力はまだ消えておらず、バアルは自分が見た物の情報を把握できる状態だった。つまり、カイルが持っていた騎士の人形の情報を得ることができていたのだ。
バアルは全知全能の神眼を発動した状態でカイルが落とした人形を見て、人形に隠された驚くべき事実を知った。
因みに人形の情報を得た直後、全知全能の神眼の効力は消えた。
「カイルが持っていたのはただの人形じゃない。あれは、マジックアイテムだ」
「えっ、あの騎士の人形が?」
ただの人形にしか見えなかった物がマジックアイテムだったと聞かされたリーテは驚く。勿論、エファリアとランハーナもバアルの言葉を聞いて目を見開いて驚いている。
「マジックアイテムって、本当なの?」
「ああ、間違いない。以前見たことがある」
真剣な表情を浮かべて話すバアルを見て、エファリアは嘘や冗談を言っているわけではないと感じ、本当にマジックアイテムなのだと悟った。
バアル自身、全知全能の神眼で確認するまでは人形がマジックアイテムであることに気付かなかった。だが、人形の秘密を知った途端に過去の記憶が蘇り、EKTの世界で全く同じマジックアイテムを目にしたことを思い出したのだ。
人形がマジックアイテムだと知った時、バアルはどうして異世界にEKTの世界に存在したマジックアイテムがあるのかと驚いていた。
だがよくよく考えれば今いる異世界はEKTの平行世界なので、同じマジックアイテムがあってもおかしくない。それを考えると驚くようなことではないとすぐに落ち着きを取り戻した。
「それでバアル様、あの人形はどんなアイテムなんですか?」
ランハーナが尋ねると、バアルは三人の方を向きながら口を開く。
「あれはかなり強力なアイテムだ。使いこなすことができれば、二百年前に現れた魔王と同等の敵とも普通に戦える」
「ええぇ、本当?」
人々を苦しめた魔王と互角の力を得られると知ってエファリアは驚愕する。
リーテとランハーナは既に二百年前の魔王以上の強さに達しているため、エファリアほど驚いてはいない。だが、魔王と互角の力を得られるマジックアイテムがこの世界に存在していたことには軽い衝撃を受けていた。
「どんなアイテムなのかは後で詳しく教える。ただ、このことは誰にも言うな? もしこのことが広まれば大騒ぎになるからな」
「ハ、ハイ」
他人に知られてはいけないほど重要な情報だと聞かされ、リーテは少し緊張しながら頷く。
(あのアイテム、現状では現地人の誰にも使うことはできないが、カイルなら問題無く使うことができるだろう。……ただ、あれを使うにはまだ一つ問題がある。それの問題が解決しないと意味がない)
全知全能の神眼でカイルの人形を見た時、バアルは人形にある問題があることを知った。その問題を解決しない限り、人形をマジックアイテムとして使用することはできない。
バアルは目的を果たすためにも機会があればその問題を解決し、カイルがマジックアイテムを使用できるようにしたいと考える。
(……さっきまでカイルは勇者候補にはなれないと思っていたのに、あのアイテムを見た瞬間にまた勇者候補になると考えるとはな)
子供みたいに気が変わる自分をおかしく思いながらバアルは小さく笑うのだった。
それからバアルたちは受付で自分たちが受けられる依頼がないか受付嬢に尋ねた。
運よくAランクとBランクが共に受けられる依頼があり、バアルたちはその依頼を受け、依頼主の下へ向かうために冒険者ギルドを後にする。
移動中、バアルはリーテたちにカイルが持っていたマジックアイテムの詳しい情報を説明した。




