第88話 冒険者としての意思
バアルの意味深な質問に、不思議そうな顔をしていたエファリアはフッと反応する。
「トリュポスで別れる前、俺が聖王国へ行くことを勧めた時にアンタ、聖王国へ行って言ってただろう? てっきり聖王国へ行って魔王に関する情報を集めに行ったと思ってたんだが……」
「ああぁ、そのこと……」
質問の意味を理解し、エファリアは苦笑いを浮かべながら自分の頬を指で掻く。
バアルが言ったとおり、エファリアは自身を強くするため、そして二百年前に現れた魔王の情報を集めるためにイルテ聖王国へ向かうこと決めた。
だがエファリアはダーバイア公国にいたため、それを意外に思ったバアルはどうして公国にいるのか尋ねたのだ。
「貴方たちと別れた後、私は勧められたとおり聖王国へ行ったわ。そこでしばらくの間、冒険者として活動しながら自分を鍛えたり、二百年前の魔王の情報を集めたりしてたの」
エファリアはトリュポスでバアルたちと別れた後のことを静かに説明し始める。
バアルたちはエファリアがイルテ聖王国へ向かった後にどのように過ごしていたのか気になり、エファリアの話に耳を傾けた。
「最初に行ったのは聖王国の西にある“レリエ”って言う大都市で、そこのギルドで依頼を受けていたの。まだDランクだったけど、開花した固有技術のおかげで難しい依頼も問題無く完遂できたわ」
「そうか」
イルテ聖王国へ行った後も冒険者として問題無く依頼を熟せていたと知ってバアルは小さく笑う。
勇者候補として選んだ少女が戦士として成長していたと聞き、バアルは自分の目に狂いは無かったと感じていた。
「短い期間でDからCランクへ昇格し、装備も以前より優れた物を使えるようになったわ。そんな私の噂はあっという間にレリエ中に広がり、私の仲間になろうとする冒険者や加入を求めてくるチームも現れたの」
「共に依頼を受けてくれる方と会ったんですね。……あれ? でも、それならどうして……」
仲間になることを求める者が現れたのに、どうして一人でいるのか分からないリーテは不思議に思う。
バアルやランハーナもリーテと同じ疑問を抱きながら、黙ってエファリアを見つめていた。
トリュポスで仲間を失ってから、エファリアが新しい仲間を求めていた。それを考えると、他の冒険者から誘われた時に断るようなことはしないとバアルたちは確信していたので、一人でいることには何か理由があるのではと三人は推測していたのだ。
バアルたちの顔を見たエファリアは三人が何を考えているのか察し、複雑そうな表情を浮かべながら口を動かす。
「誘われた時、私はランクが同じチームに加入したの。最初は上手くやっていけたんだけど、少しずつチームメイトとの間ですれ違いが生まれるようになったの」
エファリアの話を聞き、バアルたちはチームメイトとの仲が悪くなり、それがエファリアが単独行動をしていることに関係しているのだろうと考えた。
「ある討伐依頼を受けた時、討伐対象のモンスターを倒した後、私はギルドへ討伐完了の報告に行くことを提案したんだけど、チームのリーダーは『まだ他にモンスターが潜んでいるかもしれない』と言って、周囲の捜索を行うよう言い出したの」
「はぁ? 倒さなきゃいけないモンスターは倒したんでしょう? どうしてそんなことをしたのよ」
リーダーの判断が理解できないランハーナは呆れたような顔をしながらエファリアに尋ねる。
「……自分たちがいる場所の近くには村があり、モンスターが残っていれば村人を襲う可能性があるため、モンスターは全て狩りつくさなくてはならない、とリーダーは言ってたわ」
「村人を守るため、というのは分かるけど、狩りつくすって言うのはちょっと異常性を感じるわね」
「ええ、私もそう思ったわ。しかもその時はチームメイトの何人かは傷を負っていて、回復用のポーションや食料なども少なくなっていたの。捜索を続けるのは難しい状態だった」
嫌なことを思い出したエファリアは僅かに表情を歪め、軽く俯きながら話し続ける。その顔には不快感だけでなく、リーダーの判断に対する苛立ちのようなものも感じられた。
エファリアは正義感と責任感が強いため、仲間が負傷し、万全じゃない状態でモンスターの捜索と討伐を続けることに納得できなかったはずだ。
バアルたちはエファリアの性格から、リーダーの判断を不満に思っていたと直感した。
「他のメンバーたちはその時のリーダーの判断をどう思っていたんだ?」
「……全員、リーダーの判断に従ったわ。負傷している仲間もね」
傷ついていた冒険者も捜索を続けることに賛成していたと聞き、バアルは僅かに目を細くする。
リーテは自らの体に鞭を打つような行動を取った冒険者に目を軽く見開いて驚き、ランハーナは興味が無いのか驚いたりすることなく話を聞いていた。
「どうして負傷した奴らまでリーダーに従ったんだ? いくらリーダーも命令だとしても、危険と分かっていて従うのはおかしいだろう」
「……彼らにとっては、自身が傷ついても人々のためにモンスターを倒すのは正しいことらしいわ」
ゆっくりと顔を上げ、不満そうな顔でバアルたちを見つめながらエファリアは語る。
「後で分かったことだけで、聖王国の冒険者の大半は自身が傷だらけになったとしても、モンスターや盗賊など、国民の暮らしを脅かす存在を倒すべきだと考えているそうよ。それが女神イルティアナを崇拝する聖王国の冒険者の使命だとか」
「成る程なぁ。生命と救済を司る女神を崇拝する国の人間なら、自分が危険な状態でも国民のために戦おうと考えるのは当然か」
イルテ聖王国の宗教概念を考えれば、冒険者たちが進んで危険な行動を取るのは不思議じゃないとバアルは納得する。同時にイルテ聖王国の人間の信仰心が想像以上に厚いと知った。
「人々のためにモンスターを倒そうとする意思は正しいと思うけど、仲間や自分が危険な状態だと分かっていて戦い続けるのは間違っていると思うわ」
「私もそう思います」
リーテもエファリアの言うとおりだと思っており、彼女の意見に賛同する。
他人を守るためと言って自身を危険に晒せば、いつかは命を落としてしまうかもしれない。それだけでなく、戦場で自分が命を落とせば戦況が悪くなり、残された仲間が更に危険な状況に立たされることになる。つまり、自分が死ねば仲間も死ぬかもしれないと言うことだ。
「その後もチームメイトたちは人々を救うためと言って、何度も危険な状態で戦闘を行ったり、依頼以外の戦闘を繰り返したわ。私は下手をすれば全滅してしまうから、無茶をするのはやめてほしいとリーダーや仲間たちに言ったの。だけど、国民を守るために命を懸けて戦うのは女神イルティアナの教えだと、誰も取り合わなかったわ」
「それでそのチームで活動するのが嫌になって、チームを抜けたのか?」
「ええ。抜けた後に別のチームに入ったり、私と同じように一人の冒険者と一緒に活動したりしたんだけど、殆どの冒険者が同じ考え方をしてたわ」
いくらモンスターや盗賊から人々を守ることが冒険者の役目だとしても、自分が死んでしまったら何の意味も無い。
自分を大切にできない者が他人を守れるはずがないとエファリアは考えていた。
「無茶な行動ばかりする聖王国の冒険者たちの考え方に不満が溜まっていき、私は彼らと一緒に依頼を受ける意思を無くした。それ以降、私は単独で依頼を受けるようになったの」
「だが、単独だと受けられる依頼や活動に限界があるんじゃないのか?」
「ええ、難易度の高い依頼が多かったり、一人では受けられない依頼とかも多かったから依頼を熟すことも、ランクを上げることもできなっていったわ」
一人で活動するようになってから苦労したことを語るエファリアを見て、バアルは少しだけ同情する。
「あと、聖王国が保有する二百年前の魔王や勇者の情報は聖王国の中でも高い地位を持つ人、もしくはSランク冒険者でなければ得られないことになってるの。つまり、二百年前の魔王の情報を得るには、Sランク冒険者にならなければいけない」
エファリアが求めている二百年前の魔王や、魔王が遺したダンジョンなどの情報は一部の者しか知ることができないと聞き、バアルたちは一斉に反応する。
二百年前に現れた魔王やその魔王を倒した勇者の詳しい情報は、ある意味で最高機密と言ってもいい重要なものだ。
もし魔王や勇者の情報が身元の分からない者、信用できない者たちに知られたら、何かに悪用されてしまうかもしれない。
イルテ聖王国の王族や要人たちは二百年前の勇者と魔王に関する情報の中でも特に重要なものは国内でも軍や政治に関わる者、あるいは冒険者の中でも信頼できるSランクにしか知ることができない法律を作り、今日まで極秘情報として守ってきたのだ。
「魔王に関する情報を知るにはSランクになる必要がある。だけど、効率よくランクを上げるには仲間と一緒に依頼を受けないといけない。かと言って、聖王国の冒険者たちと一緒に依頼を受ける気にはなれない。……だから、私は心から信頼できる仲間を見つけるためにダーバイア公国へやって来たの」
説明を聞いたバアルは、エファリアがダーバイア公国にいた理由を察して納得の表情を浮かべる。
イルテ聖王国の冒険者たちとは馬が合わないため、聖王国で仲間を探しても今後上手くやっていけるとは思えない。
エファリアは他人を助けたいと言う意思を持ちながら、自分や仲間のことも大切にできる者を求め、聖王国とは価値観が異なり、すぐ隣にあるダーバイア公国に来たのだ。
「入国した後、私は何処で仲間を探すか考えていたんだけど、そんな時にヴァリンで依頼の数や冒険者になる人が増えているって噂を聞いたの。冒険者が増えているのなら、すぐに仲間が見つかるんじゃないかと思ってヴァリンに向かったの」
「だから、お一人でヴァリンにいたんですね」
エファリアはリーテの方を向くと小さく頷いた。
「ただ、一週間前から依頼を受けながら仲間を探してるんだけど、なかなか仲間になってくれる人が見つからないの」
「どうしてですか? エファリアさんは固有技術を開花させているのですから、それを知れば仲間になりたがる人が現れると思うのですが……」
一週間も経っているのにどうして仲間になろうとする者が現れないのか、リーテは小首を傾げながら不思議に思う。
「ギルドの人から聞いたんだけど、いくら固有技術を持っていても、知名度が低かったり、実績が無ければ仲間になろうとする人は現れないらしいわ」
キッドやハンナがいた時と違い、最初から一人だった者は仲間を見つけるのが難しいと知り、リーテは冒険者の世界は思っていたよりも厳しいのだと感じた。
「他にも同じランクの冒険者が少なかったりとか、色々な理由があるらしいわ。私が来たばかりの頃はCランク以上の冒険者やチームが少なく、私の仲間になれそうな人がいなかったの。そんな中、Bランクに昇格したことで余計に見つけ難くなったみたい」
Cランクでも仲間になってくれる者が見つからないのに、ランクが上がったことで更に見つかる可能性が低くなったため、エファリアは軽く俯きながら表情を曇らせる。
リーテは仲間が見つからず、苦労しているエファリアに同情の眼差しを向ける。
一方でバアルとランハーナは同情する様子は見せておらず、ヴァリンにやって来てすぐにBランクになったことを意外に思いながらエファリアを見ていた。
バアルたちが見つめる中、エファリアは何時までも暗くなっていてもしょうがないと思ったのか、気持ちを整えるかのように静かに深呼吸をする。そして、晴れやかな表情を浮かべながらバアルたちに視線を向けた。
「それはそうと、貴方たちはどうしてヴァリンにいるの?」
「え? えっと、私たちは……」
何と答えるのが良いのか、いまいち分からないリーテは言葉に詰まらせた。
変にことを言ってエファリアに怪しまれたり、正体に勘付かれるようなことがあれば大変なことになるため、リーテはエファリアから目を逸らしながら考える。
「俺たちは仕事を探しに来たんだ。今、トリュポスは受けられる依頼の数が少なくなってるからな」
困り果てているリーテに助け舟を出すかのようにバアルがエファリアの質問に答えた。
リーテは自分の代わりに答えたバアルを見ながら申し訳なさそうな顔をする。
本来なら魔王補佐官である自分が答えるべきなのに、バアルに答えさせる状況を作ったことを内心情けなく思っていた。
次からは言葉を詰まらせず、素早く答えられるようにしようとリーテはバアルを見ながら自身に言い聞かせるのだった。
「依頼が少ない……それって、やっぱり例の魔王国が関係してるの?」
バアルの返事を聞いたエファリアは真剣な表情を浮かべながら小声でバアルに尋ねる。
既にファブール魔王国の情報は大陸中に広まっており、大陸に住む殆どの人間が魔王国のことを知っていた。
当然、冒険者として様々な情報を得られる立場のエファリアも魔王国のことは知っている。そして、バアルたちと出会った都市、トリュポスが魔王国の都市となったことも知っていた。
「……ああ。魔王ゼブルがトリュポスに警護のモンスターを多く配置したことで、都市内での犯罪数が一気に減ってな。おかげで都市内の警護や犯罪者の捕縛に関する依頼も少なくなった」
「依頼の数が減ったってことは、今までトリュポスで活動していた冒険者も仕事が無くなって困ってるんじゃないの?」
「ああ、効率よく依頼を受けられるよう、トリュポスを出てセプティロン王国や他の国に移った冒険者は沢山いる。……まったく、迷惑な話だ」
自分がゼブルに不満を抱いていると思わせるよう、バアルは不機嫌そうな口調で語る。
もし、冒険者バアルと魔王ゼブルが同一人物であることをエファリアに知られれば面倒なことになり、勇者と戦う計画も大きく狂ってしまう。
自分とゼブルには何の繋がりも無いとエファリアに思い込ませるため、バアルは敢えて魔王ゼブルに不満を抱いているような態度を取っているのだ。
エファリアはバアルの態度から、魔王ゼブルを良く思っていないと直感する。バアルの態度やトリュポスで受けられる依頼の数が減っていることから、バアルもトリュポスを出てダーバイア公国に移ったのかと推測した。
「もしかして、バアルたちも依頼の少ないトリュポスを出て、活動拠点をヴァリンに移したの?」
「いや、そういうわけじゃない。ヴァリンには公国の状況確認と依頼を受けるために来ただけだ。しばらくしたらトリュポスに……いや、魔王国に戻る」
「えっ、どうしてわざわざトリュポスに戻るの?」
エファリアをバアルは見つめ、しばらく黙った後にゆっくりと口を開く。
「……魔王ゼブルを見張るため、だな」
バアルの言葉にエファリアは驚きの反応を見せる。
二人の会話を聞いていたリーテとランハーナもバアルの口から出た言葉に思わず目を見開いた。
「魔王ゼブルの目的は世界征服、つまり全てを手に入れることだ。だがその前に、アイツはこの大陸を手中に収めるつもりでいる」
表情を鋭くしながら魔王ゼブルの目的を語るバアルをエファリアは無言で見つめる。この時のエファリアはバアルから迫力のようなものを感じており、微量の汗を流していた。
「アイツは二百年前の魔王と違い、力で全てを支配したり、人間を奴隷のように扱ったりはしないと言っている。だが、状況によっては力で敵をねじ伏せることもあると言っていた。正直、どこまで信用できるか分からない。だから、アイツの近くで妙な行動を取ったり、独裁的な行動を取らないか見張ることにしたんだ」
「成る程……それで、もし魔王ゼブルが力で大陸を支配しようとしたらどうするの?」
「危険な存在と見なし、それ相応の対処をするつもりだ。場合によっては敵対することになるかもな」
決して起こり得ないことをバアルは真剣な顔で語る。少しでも真面目に、冒険者バアルなら考えそうなことを話せばエファリアが信じるだろうと考えていた。
「……因みに、バアルは魔王ゼブルと戦ったとして、勝つ自信はある?」
魔王ゼブルと戦うことになるかもしれないと聞き、エファリアはバアルに勝てるかどうか尋ねる。
エファリアはバアルの実力なら、魔王を名乗るゼブルに勝てるかもしれないと感じていた。
「さぁな、何とも言えない。ただ、今のままでは勝つのは難しいだろう」
勝てるかどうか分からないと正直に語るバアルに、エファリアは思わず目を見開く。
「エファリアも知ってると思うが、ゼブルはダーバイア公国が徴兵令で集めた数万の部隊を一瞬で壊滅状態にするほどの力を持っている。俺の予想では、ゼブルは二百年前に現れた魔王よりも強いだろうな」
「ええぇっ!?」
驚くべき発言にエファリアは思わず大きな声を出して立ち上がる。
ギルド内の冒険者やギルド関係者はエファリアの声を聞き、不思議そうな反応を見せながらエファリアに視線を向けた。
自分の声が周囲の者たちに聞こえたことを知ったエファリアは口を手で押さえ、恥ずかしそうにしながら椅子に座る。
「二百年前の魔王より強いなんて、それじゃあ、戦うことになったから勝ち目が無いんじゃないの?」
周りに聞こえないよう気を付けなくては、と自分に言い聞かせるエファリアは再び小さな声でバアルに尋ねた。
「そんなことはないさ。二百年前の魔王だって人間の勇者に倒されたんだ。例えゼブルが前の魔王より強くても、倒すことはできるはずだ」
魔王は決して倒せない存在ではないと、バアルはエファリアを安心させるかのように話す。
二百年前の勇者は魔王を倒すために様々な修行を行ったり、仲間たちの協力を得て推定レベル60の魔王を倒せる実力を得たと、バアルは大陸中で集めた情報から知った。
手に入れた情報から、努力をすれば人間も強大な力を持つ異形に勝つことができるとバアルは考え、努力をすれば現地人も強大な敵を倒せるほどの力を得られると確信していたのだ。
ただ今回の魔王、つまり自分自身は二百年前に現れた魔王よりも遥かにレベルが高く、二百年前の勇者と同じやり方で強くなろうとしても現地人に勝ち目はないとバアル自身も分かっていた。
だから魔王ゼブル、冒険者バアルの二つの立場を上手く使い分け、勇者候補やそれ以外の者が自分と互角に戦える実力者になれるよう、誘導や手助けをしようと考えている。
今回、ヴァリンでエファリアと再会するのはバアルにとっては予想外だったが、この機会を上手く利用すれば、勇者候補のエファリアをゼブルとしての自分と対立するように仕向け、さり気なくエファリアのレベルを上げられると思っていた。
「とにかく、俺は魔王ゼブルの傍で情報を集めながら力をつけるつもりでいる。そして、確実に対立することになったら、手に入れた情報を上手く使ってアイツと戦い、共に戦ってくれる者たちにも提供するつもりだ」
「魔王ゼブルと対立……」
いつの間にかとんでもない話をしていたことを実感するエファリアは難しい顔をしながら呟く。
「エファリア、アンタは魔王ゼブルのことをどう思ってる?」
バアルの問いかけにエファリアは一瞬驚いたような反応を見せるが、すぐに表情を戻して自分が魔王ゼブルをどう見ているのか考える。
「……正直に言うと、ゼブルが二百年前の魔王と同じような存在なのかは分からないわ。だけど、多くの人を一瞬で殺せるだけの力を持ち、世界を支配しようと考えている存在がまともとは思えない」
まだ詳しくは分かっていないが、現状と今自分が知っている情報から、エファリアはゼブルをどう思っているのか素直に話す。
エファリアの答えを聞いたバアルは、勇者候補のエファリアが魔王としての自分を友好的に思っているわけではないと知って小さく笑う。
リーテも今のところ計画の進行に問題は無いと感じて安心したのか静かに息を吐いた。
ランハーナは主人であるゼブルに良い印象を持っていないエファリアに若干不満そうな顔をしている。
「エファリア、ゼブルが何を考えて行動しているのはまだ分からない。あまり信用しすぎるなよ?」
「え、ええ」
魔王を名乗るからには恐ろしいことを企んでいるかもしれない。そう言いたそうな忠告するバアルを見て、エファリアは頷きながら返事をする。
「……さて、真面目な話はこれぐらいにしよう。これ以上話しても、何も変わらねぇしな」
ゼブルについての話が終わらせるとバアルは表情を和らげた。
リーテとエファリアは話が終わった途端に態度と口調を変えるバアルを見て、気持ちの切り替えが早いと感じながらまばたきをする。
「俺たちは従業員と話をしてから依頼を探そうと思ってるんだが、エファリアはどうする?」
「私? そうね……とりあえず、ギルドの人に仲間になってくれそうな冒険者がいないが聞いてみるわ」
問題無く依頼を熟すために仲間を探そうとするエファリアを見て、バアルは「大変だなぁ」と言いたそうに苦笑いを浮かべる。
勇者候補のエファリアには少しでも強くなってもらわないといけないため、バアルは早く共に活動してくれる仲間が見つかることを願った。
エファリアは、今日は仲間になってくれる冒険者が見つかるだろうか、と不安そうな表情を浮かべる。すると、エファリアは何かに気付いたように目を軽く見開き、数秒間黙り込んだ後、真剣な表情を浮かべてバアルを見た。
「バアル、私をゴスペルに入れてくれないかしら?」
「はあ?」
予想外の言葉にバアルは思わず聞き返す。
リーテとランハーナもエファリアを見ながら驚きの反応を見せていた。
「このまま仲間探しを続けても、いつ信頼できる仲間が現れるか分からないし、難しい依頼を受けることもできない。かと言って、素性の分からない人を仲間にしても、上手くやっていけるとは思えないわ。だったら、一緒に活動したことのある貴方たちのチームに入った方がいいと思ったの」
難易度の高い依頼を受け、短時間でランクを上げるためにも、エファリアは強くて信頼できる冒険者を必要としている。そんな時にバアルたちと再会したため、エファリアはダーバイア公国の冒険者よりも信頼できるバアルたちに仲間にしてほしいと頼んだのだ。
真剣な様子で頼むエファリアをバアルは無言で見つめる。顔は落ち着いているように見えるが、内心はエファリアが仲間になることを願っていることに困っていた。
バアルにとってエファリアは魔王ゼブルとしての自分と戦う勇者候補の一人であるため、魔王である自分と行動されるのはある意味で問題があった。
更に共に活動すれば正体に勘付いたり、自身や隷属たちの秘密を知られる可能性がある。エファリアがゴスペルのメンバーになるのはバアルにとっては都合の悪いことでしかない。勿論、リーテとランハーナもバアルと同じことを考えていた。
都合が悪いのなら断ればいいと思われるが、理由も無しにただ断ってもエファリアは納得しないだろうし、仲間にしたくない理由があるのではと怪しまれてしまう可能性もあった。
「あ~っと……俺らのチームに入るのは、やめた方がいいぞ?」
「えっ? どうして?」
「さっきも言ったように、俺たちは魔王ゼブルの見張りをするために魔王国で活動している。今回のように依頼の数が少ないといった理由でもない限りは魔王国からは出ないことにしているんだ」
エファリアが納得してくれるよう、バアルは思い付いた理由を丁寧に説明していく。
「もしゴスペルに入れば、アンタは俺たちと一緒に行動することになる。そうなったら二百年前の魔王に関する情報を得るために聖王国へ行くのが難しくなるぞ?」
「えっ、それはちょっと……」
イルテ聖王国で二百年前の魔王の情報を得ることを諦めていないエファリアにとって、聖王国へ行けないのは都合の悪いことだ。聖王国へ行けなくなると言われ、エファリアの顔にはゴスペルに入ることに対する迷うが生じていた。
「自由に聖王国へ行き、効率よく強くなるのなら俺たちのチームには入らない方がいい」
「確かに聖王国へ行けなくなるのは困るわ。……分かったわ。今の話は聞かなかったことにして」
エファリアがゴスペルに入ることを諦めるとバアルは無言で頷く。無表情だが、心の中ではエファリアが納得してくれたことに心の底から安堵していた。
リーテも上手く納得させられたのを見て、静かに息を吐きながら安心している。
ランハーナは上手くエファリアを説得したバアルを見て「流石です」と言いたそうに笑みを浮かべていた。
「ごめんなさい。自分から仲間にしてほしいと言っておいて……」
「いいんだよ。アンタにも都合があるんだからな」
バアルは苦笑いを浮かべ、顔の前で右手を横に振りながら気にしていないことを伝える。
「とは言え、条件の合った冒険者がいつ見つかる分からず、その間エファリアがまともな依頼を受けられないのも問題だ。……だから、俺たちがヴァリンにいる間は同行しても構わないぞ?」
「えっ、いいの?」
バアルの提案を聞き、エファリアは意外そうな表情を浮かべながら確認する。
「ああ、正式にチームに入れるわけじゃないから、俺たちと一緒に魔王国へ戻る必要もない。一緒に活動していれば金も稼げるし、悪くないだろう?」
一時的とは言え、バアルたちが共に活動してくれることはエファリアにとっては非常に都合のいいことだ。
一度はチームに入ることを取り止めたのに力を貸してくれようとするバアルにエファリアは感服する。
「ありがとう。ついさっき勝手なことを言ったのに力を貸してくれるなんて……」
「それは、一緒に活動するってことか?」
「ええ」
エファリアが微笑みながら頷くと、バアルもエファリアを見ながら小さく笑う。
バアルがエファリアに行動を共にすることを提案したのは、決して仲間のいないエファリアを気の毒に思ったからではない。勇者候補であるエファリアが同行すれば、エファリアがどれほど力をつけたか確認できると思ったからだ。
他にも同行中にさり気なくエファリアをレベルの高いモンスターと戦わせ、エファリアを強くしようという考えもあった。
隣で笑っているリーテはバアルがエファリアのためを思って同行を勧めたのだと考えており、バアルの心の広さに感心して優しく笑っている。
「ただ、俺たちとアンタはランクが違うから、違うランクの冒険者が一緒に受けられる特殊な依頼や依頼人が認める依頼しか受けられない。そう言った依頼が無かった場合はヴァリンの周辺でモンスターの討伐をする。それでいいな?」
「ええ、勿論」
同行させてもらうからか、エファリアは不満そうな顔は一切せずに了承した。
「よし。なら早速、俺らが受けられる依頼がないか受付嬢に聞きに行くか」
予定が決まり、バアルたちは立ち上がって受付に向かおうとする。その時、冒険者ギルドの扉が開き、数人の冒険者がギルドに入って来た。
「……おい、プレッジだ。プレッジが戻って来たぞ」
「嘘、もう帰って来たの?」
冒険者たちの驚きの言葉にバアルたちゴスペルのメンバーは反応し、一斉にギルドの入口の方を向く。
バアルたちの視線の先には薄い茶色の長髪をした剣士の美少女と彼女の後をついて行く五人の男女の姿があった。




