第87話 ヴァリンでの再会
ダーバイア公国の小都市ヴァリンは公国の都市の中でも小麦粉の生産に力を入れている。公国で使われている小麦粉の殆どは、ヴァリンで作られた物だと言われているほどだ。
小麦粉の生産だけでなく、薬草を使ったボーションの調合も行っており、小都市でありながらも宿屋の数が多い。
他にも教会や子供たちに戦い方を教える養成学院も存在しているため、公国の小都市の中でも人口が多く、暮らしやすい場所だと国民たちは評価している。
「なかなかいい都市じゃないか。普通に生活するだけなら不自由は無さそうだな」
ヴァリンの西側にある街道では、冒険者バアルとなったゼブルが街道を見回しながらが歩いていた。
バアルの後ろには冒険者リーテの姿をしたティリアとランハーナが付き従うようについて来ている。
見たことのない小柄なエルフと二人の美女に興味があるのか、すれ違う者の中には足を止めたりして三人に注目する者もいた。
ただ、バアルたちが首からAランク冒険者のプレートをぶら下げていることに気付くと、冒険者だと知って少し驚いたような反応を見せる。
「ヴァリンは小都市でありながら、首都であるサザンテアと同じくらい生活しやすい都市だと言われています。更に宿屋の数も多いため、滞在する冒険者の数も多いそうです」
リーテがヴァリンの簡単な情報を語ると、バアルは歩きながらリーテの方を向いて小さく笑う。
「冒険者が多ければ、勇者の素質がある奴も見つけやすいかもしれないな。時間に余裕ができたら、滞在している冒険者たちに会って情報を集めてみるか」
楽しそうに笑みを浮かべるバアルを見て、リーテは思わず苦笑いを浮かべる。
ダーバイア公国に来て早々問題ある行動は控えてほしい、リーテはバアルを見ながらそう感じていた。
バアルたちがヴァリンを訪れたのはほんの十数分前で、まだヴァリンがどんな都市で何処に何があるのかなどを全く理解していない。
冒険者として活動するための準備や下調べが済む前に問題を起こしてしまえば、ダーバイア公国で活動するのが難しくなる。
リーテとしては勇者の素質がある存在を見つけるため、そしてプレッジと接触するためにも、悪い意味でバアルには目立ってほしくなかった。
「ねぇ、ちょっと気になることがあるんだけど」
ランハーナに声を掛けられ、リーテは苦笑いを消してランハーナの方を向く。
「何でしょうか?」
「このヴァリンが人口が多いって言うのは分かるけど、さっきから女の人や子供、老人ばかりで若い男の人は殆ど見かけないわよ?」
ランハーナが街道を見回しながら語るとリーテは反応し、真剣な表情を浮かべながら口を動かす。
「公国は先の王国との戦争で徴兵された国民を大勢失いました。ヴァリンからも徴兵された人が沢山いたそうですから、男性が少ないのはそのせいだと思います」
リーテの説明を聞いたランハーナは納得した反応を見せる。バアルもリーテの話を行きながら街道にいる住民たちを確認した。
ダーバイア公国がセプティロン王国と戦うために徴兵したのは、二十代から四十代の一般人でその殆どが戦死した。
働き盛りの男を大勢失ったことで、ダーバイア公国の生産力は低下し、国力は大きな打撃を受けている。他にも亡くなった人たちの家族が精神的に苦痛を受けたり、生活費を稼げなくなってしまったため、公国の各都市には大きな影響が出ているのだ。
ヴァリンも大勢の国民が亡くなったことで、現在は徴兵令が出る以前と比べて小麦粉などの生産力が大きく低下してしまっていた。そのため、現在のヴァリンは雰囲気か変わらずとも、生産力や生活環境に大きな変化が出ている。
ただ、男が全くいないというわけではなく、未成年や老人、五十代以上と言った徴兵令の対象にならなかった男はいる。
残った男たちは亡くなった者たちの労力を補うため、徴兵令が出される前以上に必死に働いたりしていた。
「若い男の人が亡くなったことで、ヴァリンは女の人が多くなり、生活環境が大きく変わっちゃったってことね」
「ハイ。……ただ、国民の生活だけでなく、公国自体も変化が出たようです」
「変化ってどんな?」
リーテの気になる言葉にランハーナは不思議そうな顔をしながら尋ねた。
バアルもダーバイア公国の変化とやらに興味があり、リーテの話に耳を傾ける。
「そもそも、王国と戦うために出した徴兵令は公国の内政や軍事に関わる貴族たちが提案し、統治者である大公陛下がそれを許可したことで出されたものです」
初めて聞く徴兵令の秘密にバアルとランハーナは意外そうな反応を見せる。
「今まで公国軍に所属している兵士たちだけで王国と戦ってきたのに、突然戦闘経験のない国民を兵士として戦場に向かわせるという提案を聞いて、一部の公国貴族は反対したそうです」
「まあ、当然だろうな。軍とは何の関係もない民たちにいきなり徴兵令なんて出せば、国民たちの反感を買うことになるからな」
軍に所属する兵士や騎士だけが戦場に出ていたのに、セプティロン王国に勝つための戦力を集めるためと言って、戦いとは無縁の国民たちを危険な戦場に駆り出せば信用を失いかねない。
ダーバイア公国の統治者である大公が国民を敵に回すような選択をすれば、大公家やその下で働く者たちの立場も危うくなる。そんなことを国民からの信用を第一に考える貴族たちが見過ごすはずがなかった。
「情報によると、徴兵令が提案された直後、徴兵令に賛成する貴族と反対する貴族で口論になったそうです。ですが、結局公国の未来や威厳を守るためだと賛成派の貴族たちが押し切る形となり、徴兵令が発令されたそうです」
「大公は自分で決めず、貴族たちに従って徴兵令を認めたのか。これじゃあ貴族たちの傀儡だな」
バアルの言うとおりだと思っているリーテは大公を哀れに思ったのか、僅かに表情を曇らせながら無言で頷く。
因みに徴兵令が出された理由や、ダーバイア公国がセプティロン王国との協定を一方的に破った情報は公国が再び王国と停戦協定を結んだ後に公国中に広まった。そのため、既に公国の民の殆どが大公や貴族たちの愚行の事実を知っている。
「とにかく、停戦協定が再び結ばれて以降は国民たちの大公陛下に対する信頼は低下し、統治者を交代するべきだと考える人も現れているそうです」
「多くの国民が死ぬ結果となったんだから、仕方のないことよねぇ。……貴族たちの方はどうなの?」
「貴族の方は詳しくは分かっていません。ただ、噂では大公陛下に公国の統治を続けてもらおうと考える派閥と統治者の交代を求める派閥に分かれて対立しているとか……」
「うわぁ、もう滅茶苦茶ね」
公国の上層部にまとまりが無いことから、ダーバイア公国は近いうちに崩壊するかもしれないとランハーナは呆れたような顔をしながら感じるのだった。
「ただ、公国の環境が変わってしまった理由は徴兵された人々が亡くなったことにもあります。それを考えると、私たち魔王国側にも責任があるのではと思ってしまうんです」
「……まぁ、多少はあるかもな」
若干暗い顔で語るリーテと違い、バアルは無表情で前を向きながら答える。
リーテとランハーナはバアルの言葉を聞き、同時にバアルに視線を向けた。
「確かに俺らは徴兵された国民を大勢手に掛け、ダーバイアの環境が変わるきっかけを作った。だが、そうなった原因は大公と徴兵令を出すことを提案した貴族にある。責任があるとすればソイツらだろう」
「それはそうですが……」
直接殺めたのは自分たちなのだから、少しは死んだ者たちに対して罪の意識を感じてもいいのでは、リーテはバアルを見ながら心の中でそう考える。
「俺はセプティロン王国を守るために攻め込んできた公国軍を攻撃し、徴兵された奴らを殺した。そのことを間違いだとは思っていない。そもそも俺は魔王だ。人間を殺して罪悪感を感じたりはしない」
「バアルさん……」
使命を全うするため、魔王としての生き方を貫こうとするバアルを見て、リーテは何処か寂しそうな表情を浮かべた。
「ただ、俺は公国民たちを殺したことを一生忘れない。多くの人間を殺したことを忘れずに生き続ける。それが殺した奴らに俺がしてやれることだ」
バアルの言葉を聞き、リーテは軽く目を見開いた。
自分が他人を殺め、それが原因で多くの人が傷つく結果になったことを忘れずに生き続けようとするのは、罪を犯した者の責任の取り方の一つだと言える。
当然、忘れないだけでは本当の意味で責任を取ることはできない。だが、リーテはバアルの言葉を聞き、忘れないことが彼なりの誠実さなのだと感じていた。
「俺たちは魔王国の存在として今後も多くの罪を犯し、他人の命を奪うことになるだろう。そのことに責任を感じたり、感じずに生きるのは自由だが、自分がやらかしたことは死ぬまで忘れるな?」
「……ハイ!」
「了解です」
リーテは真剣な表情を浮かべながら、ランハーナも微笑みながらそれぞれ返事をする。
バアルの話を聞き、自分が行ったことを忘れずに生きるのはある意味でとても重要だと二人は理解し、バアルの配下として見っともない生き方はしてはならないと自身に言い聞かせた。
「さて、公国の話はこれぐらいにして、冒険者ギルドへ行くぞ。確かギルドはヴァリンの北西にあるんだったな?」
「あ、ハイ。此処からそれほど遠くない広場にあるはずです」
「んじゃ、早速行きますか」
難しい話が終わったことでバアルは気分を良くし、リーテとランハーナを連れて冒険者ギルドがある広場に向かった。
――――――
街道を歩いて行き、バアルたちは目的地の広場へ辿り着いた。
広場はそれほど大きくないが、あちこちにヴァリンで活動している冒険者たちがおり、仲間や依頼人と思われる人物と立ち話をする姿が見られる。そして、広場の一番奥には冒険者ギルドと書かれた看板を入口の真上に掛けた立派な建物があった。
冒険者ギルドを見たバアルは小さく笑みを浮かべてギルドの方へ歩いて行く。
後ろにいたリーテとランハーナも移動するバアルを見て、その後に続いた。
歩いている間、バアルはギルドにどのような冒険者たちがいるのか、その中に勇者の素質がある者がいるのか、そして目当てのAランクチーム、プレッジはいるのかなど様々なことを考えながら移動した。
やがて、冒険者ギルドの入口前にやって来たバアルは両手でゆっくりと入口の二枚扉を押し開ける。
建物の中はそれなりに広く、入口から見て左側には依頼を受けるための受付のカウンターが三つ、右側には依頼書である羊皮紙を張り出すボードがある。
一番奥には二つの扉があり、奥の右側には休憩するための円形の机と丸椅子が数個置かれ、左側には二階へ上がるための階段があった。
階段を上がった先には幾つか扉があり、状況から冒険者たちが使う控室か何かがあると思われる。
そしてギルド内には大勢の冒険者がおり、依頼の書かれた羊皮紙を見たり、奥の休憩所で寛いだりしていた。
(へぇ~、トリュポスのギルドと同じくらいの広さだな。雰囲気も良さそうだ)
バアルは広さや雰囲気がトリュポスの冒険者ギルドと似ていることを意外に思いながら、ギルド内にいる冒険者たちを見回す。
冒険者の中には安物の装備をしている者もいれば、高級そうな武器や防具を装備している者もいる。
勿論、高級感のある装備をしているのは上位ランクの冒険者ばかりだった。
バアルはギルド内にいる冒険者、特に高級そうな装備をした者たちを見て、どれほどの実力者が揃っているのだと、小さく笑いながら想像する。
「バアルさん、まずはどうしましょう? 受付の方に挨拶しますか?」
入口前で部屋を見回すバアルにリーテが声を掛ける。
「そうだな。しばらくはこの街で活動するわけだし、挨拶はしておいた方がいいな」
初めて訪れたのだから、挨拶はするべきだと考えるバアルは最初に受付へ向かうことにした。ただ、挨拶以外にも受付へ向かう理由はあった。
バアルたちの目的は依頼を受けながら、ヴァリンで活動するプレッジがどのようなチームなのか確かめることだ。
ヴァリンで活動するプレッジの情報を得るのなら、冒険者ギルドの従業員に聞くのが一番なので、挨拶するついでにプレッジのことを尋ねようとバアルは考えていたのだ。
バアルはリーテ、ランハーナと共に左側にある受付の方へ歩いて行く。
受付に向かう間、ギルド内にいた冒険者たちはバアルたちに気付いて三人に注目する。ヴァリンでは見かけない冒険者たちがギルド内にいるのだから、気になるのは当然だった。
受付までやって来たバアルたちはカウンターの前に立つ。カウンターには二十代前半ぐらいで、背中まである薄い水色の長髪を束ねて眼鏡を掛ける受付嬢が立っていた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。お見かけしないお顔ですが、初めてですか?」
笑顔を浮かべる受付嬢はバアルたちの顔を見ながら尋ねる。ヴァリンで活動する冒険者たちを何度も見て覚えたからか、受付嬢はすぐにバアルたちはヴァリンの外から来た者だと理解したようだ。
「ええ、今まで別の都市で活動していたので……」
「そうですか。もしかして、以前活動していた場所では良い依頼が受けられなくなったので……」
受付嬢がバアルにヴァリンを訪れた理由を尋ねようとした時、受付嬢の目にバアルが首から下げているAランクのプレートが目に入った。
「え、Aランク冒険者?」
目の前のエルフが上位冒険者だと知った受付嬢は思わず力の入った声を出す。
受付嬢の声を聞いた周りの冒険者たちも一斉にバアルたちに視線を向け、目を見開きながら驚いた。
エルフの少年のプレートを見た受付嬢は後ろにいる赤い髪の美少女と紫色のショートヘアの美女のプレートを確認する。
二人のプレートにも同じAのマークが彫られており、彼女たちもAランク冒険者だと受付嬢は知った。
「そちらのお二人もAランク冒険者でしたか。……ご一緒に行動されてるということは、同じチームですか?」
「ええ、ゴスペルというAランクチームです」
「ゴスペル……! もしかして、セプティロン王国で活躍されているという、あのゴスペルですか?」
受付嬢の言葉を聞き、バアルたちに注目していた冒険者たちは一斉に反応した。
現在は停戦中とは言え、セプティロン王国はダーバイア公国と敵対関係にあるため、その敵国で活動していた冒険者チームがヴァリンに来ていると知ったのだから、冒険者たちは反応するのは当たり前だ。
「何よ、もしかして敵国で活動してい奴には依頼を受けさせない、なんて言うんじゃないでしょうね?」
ランハーナは受付嬢の反応から、自分たちを良く思っていないと感じ、目を細くしながら不満そうな口調で尋ねた。
「い、いえ、そのようなことはありません。冒険者は国同士の争いや問題には関与しない存在です。ですから、例え敵対している国で活動していた冒険者だからと言って差別などはしませんし、平等に依頼を紹介いたします」
「……そ、ならいいわ」
ダーバイア公国の冒険者と同じ扱いをすると聞かされ、ランハーナは表情を和らげながら納得する。
受付嬢は紫髪の美女が機嫌を直したのを見ると、笑顔を浮かべながら心の中で安心する。
ヴァリンの冒険者ギルドは周辺の町のギルドと比べて難易度の高い依頼が多い。ただ、難しい依頼が多くても、それを受けられるほどの実力を持った冒険者は少なかった。そのため、新たにヴァリンで活動するAランクの冒険者が増えるのは、ギルド側からしてみればとても都合のいいことだった。
難易度の高い依頼が多い状況でAランクの機嫌を損ねるようなことをすれば、難しい依頼を受けてもらえないかもしれない。
依頼の数を減らすためにも、受付嬢は目の前のAランク冒険者たちの機嫌を損ねてるようなことはあってはならないと考えていたのだ。
「え~、では改めまして、チームと皆様のお名前をお聞かせいただけますか?」
「Aランクチーム、ゴスペルだ。俺はリーダーで、魔導士のバアルだ。赤い髪の子がリーテ。紫の髪の女はランハーナ。二人とも戦士職を修めている」
バアルに紹介されたリーテは頭を下げて挨拶する。
ランハーナは頭を下げたりはせず、興味の無さそうな表情を浮かべながら黙って受付嬢を見ていた。
受付嬢もリーテとランハーナを見ながら、軽く頭を下げて挨拶を返す。それが済むとリーダーであるバアルに視線を向けた。
「私はこのギルドの受付を任されている者です。依頼に関する質問や、ご不明な点がありましたら、ご遠慮なくお声掛けください」
「よろしく。早速ですが、ちょっと聞きたいことがあるんですけど……」
「ハイ、何でしょうか?」
この時のバアルは目当ての冒険者チーム、プレッジについて受付嬢に詳しく聞こうとしていた。
通常、冒険者が他の冒険者のプライバシーなどを詳しく詮索するのは禁止されており、受付嬢のようなギルド関係者もそれらを教えることはできない。
ただ、冒険者としての実績や活動しているチームなど、他人に教えても問題無い情報であればギルド関係者から教えてもらうことはできのだ。
「……貴方たち、もしかしてゴスペル?」
受付嬢に質問しようとした時、突然誰かに声を掛けられ、バアルたちゴスペルは一斉に反応する。その声は何処かで聞いたことのあるものだった。
誰の声なのか考えながら、バアルたちは声のした方を向く。そこには十代半ばくらいで身長は約160cm、黒い長髪に黄色の目をした美少女が驚いたような表情を浮かべながら立っている。
美少女は白い長袖と黒いスカートの服装で、銀色のハーフアーマーに同じ色のガントレットを両手に装備し、腰に剣を差していた。
「やっぱり、バアルたちじゃない!」
「アンタは……エファリア」
目の前にいた予想外の人物にバアルは目を見開く。
リーテも驚いており、ランハーナは意外そうな表情でエファリアは見ていた。
バアルたちの目の前にいるのは、以前トリュポスで出会った勇者候補の一人である冒険者、エファリア・メルホルトだった。
固有技術を開花させ、十代半ばの少女とは思えないくらいの正義感と実力を持っていることから、バアルも勇者候補として高く評価している存在だ。
意外な人物との再会に驚くバアルたちに対し、エファリアは最初こそ驚いていたが、今は笑みを浮かべながらバアルたちを見ている。
「久しぶりね。こんな所で会うなんて思わなかったわ」
「それはこっちの台詞だ。まさか此処でアンタと再会するとはな」
笑いながら自分を見ているエファリアにバアルも小さく笑みを返す。
リーテも勇者候補とは言え、以前冒険者として親しくなったエファリアとの再会できたため、心の中では再会を喜んでいた。
「あ、あの、エファリサさん。ゴスペルの皆様とお知り合いなのですか?」
バアルたちのやり取りを見ていた受付嬢は状況が理解できず、目を丸くしながらエファリアに尋ねる。受付嬢の反応から、彼女はエファリアのことを知っているようだ。
「ええ、彼らとは一時、セプティロン王国で一緒に活動していたんです」
笑顔で説明するエファリアを見て、受付嬢は納得の表情を浮かべる。
他の冒険者たちもバアルたちと親しくするエファリアを意外そうな顔で見つめていた。冒険者たちも受付嬢と同じでエファリアのことをよく知っているようだ。
バアルは受付嬢やギルド内にいる冒険者たちの反応から、エファリアがヴァリンの冒険者やギルドの関係者から信頼されていると知る。同時に信頼されていることから、ヴァリンで良い活躍をしていると推測した。
「……エファリア、折角再会したんだし、少し話さねぇか?」
「話? ……ええ、いいわよ」
エファリアの返事を聞いて、バアルは周囲に気付かれないくらい小さく笑う。
トリュポスで別れてからエファリアが今日までどのように生きてきたのか、勇者候補として腕を上げたのか確かめるため、直接エファリアと話して情報を聞き出そうと思っていた。
「それじゃあ、あっちの休息所で話しましょうか」
「ああ。お前たちも構わないか?」
バアルがリーテとランハーナの方を向いて尋ねると、リーテは微笑みながら頷く。
「ハイ、私もエファリアさんとお話ししたかったので構いません」
「私はバアル様に従います」
二人の意見を聞いたバアルはエファリアの方を向き、休息所へ向かうよう目で伝える。
「あ、あのぉ、バアルさん。何かお聞きしたいことがあったのでは?」
受付嬢が声を掛けると、バアルは質問しようとしていたことを思い出す。
先にプレッジについて聞いておこうかと考えたが、質問はいつでもできるため、今は再会したエファリアの状態を確かめることを優先することにした。
「すみません。エファリアと色々話したいんで、また後で来ます」
「そうですか。ではまた後ほど」
受付嬢が軽く頭を下げると、バアルはリーテたちと共にギルドの奥にある休息所の方へ歩いて行く。
冒険者たちはエファリアと親しそうなバアルたちを見つめ、本当に一緒に活動しただけの関係なのかと疑問を抱いていた。
休息所へ移動したバアルたちは空いている丸机を囲んで座る。
トリュポスで別れてから、それぞれがどのような道を歩んできたのか互いに気になっていた。
「改めて、お久しぶり。元気だった?」
「まあな。アンタと別れた後も問題無くやっていけたよ」
「貴方たちの強さならそうよね」
出会った時からバアルたちがとてつもなく強いことをエファリアは理解しているため、バアルたちなら苦労することなく実績を上げてこれたと確信していた。
「さっき受付の人と話しているのを聞いたけど、Aランクになったんでしょう? 私と別れた日からまだ数ヶ月しか経っていないのにAランクになるなんて、流石としか言えないわ」
「それはアンタも同じだろう?」
小さく笑うバアルはエファリアの首元を指差す。
エファリアの首からは冒険者のランクプレートが下げられており、そこにはBのマークが彫られている。
そう、エファリアは現在Bランク冒険者として活動しているのだ。
「エファリアさん、Bランクになったんですね。前はDランクだったのに、たった数ヶ月で上位冒険者になるなんて凄いじゃないですか」
「アハハハ……同じくらいの時間でAランクになった人に言われると、ちょっと惨めになりそう……」
「あ……す、すみません……」
苦笑いを浮かべながら言うエファリアを見て、気付かない内に失礼なことを言っていたと知ったリーテはエファリアに謝罪する。
「いいのよ、気にしないで」
リーテがわざと言ったり、馬鹿にするつもりで言ったわけではないことはエファリアも理解しているため、気分を悪くしたりはしなかった。
「で? 腕の方はどうなのよ? 下級モンスターを楽に倒せるくらいは強くなったの?」
ランハーナが強さについて尋ねると、エファリアはランハーナの方を向いた後、顎に指を当てながら考え込む。
「……確かこの前、ヴァリンの近くにリトルゴーレムが出現したから一人で挑んだんだけど、苦戦することなく倒せたわ」
エファリアの話を聞いたランハーナとバアル、リーテは意外そうな反応を見せた。
リトルゴーレムは体が岩で出来た人型の物質族モンスターで、名前のとおり通常のゴーレムと比べて体が小さい。身長は160cmほどだが、物理防御力が高い上にレベルも22前後なので並の戦士では倒せないほどの強さを持っている。
戦士職のエファリアがリトルゴーレムを単身で倒したと聞き、ランハーナはエファリアが自分が想像している以上に強くなっているのではと感じていた。
ランハーナは真剣な表情を浮かべ、チラッとバアルに視線を向けた。
バアルはランハーナと目が合うと彼の考えていることを察し、無言で能力看破を発動させてエファリアのレベルを確認する。
バアルの視界にはエファリアの名前やレベル、種族などが映し出される。名前や種族は変わっていないが、レベルは30になっており、今まで出会ったどの現地人よりもレベルが高かった。
出会った時と比べて明らかに強くなっており、装備も前と比べて充実しているため、間違いなくBランク冒険者になれるだけの強さを得ているとバアルは確信する。
(レベルが上回っただけじゃあ、物理防御力の高いリトルゴーレムを簡単に倒すことはできない。だが、エファリアには退魔の剣という固有技術がある。あれを使って剣の切れ味を鋭くすれば、リトルゴーレムの体も難なく両断できるはずだ。……まさか、ここまで強くなってたとはな)
まだ英雄級の実力者とは言えないが、それでも下級モンスターであれば問題無く戦えるほどエファリアのレベルが上がっていたため、バアルはエファリアが勇者に一歩近づいたと感じて小さく笑った。
バアルの反応を見たリーテとランハーナはエファリアがかなり強くなっていると察し、バアルと同じように小さく笑う。
リーテは純粋にエファリアが強くなっていることを喜んでいるが、ランハーナはバアルが魔王の使命を果たすのに一歩近づいたと知って笑っていた。
「ん? どうしたの?」
笑っている三人に気付いたエファリアは不思議そうに声を掛ける。
話しかけられたバアルたちは反応し、一斉に笑みを消してエファリアの方を向いた。
「いや、何でもない。……ところで、もう一つ聞きたいことがあるんだが……」
今度はどんな質問だろうと、エファリアはまばたきをしながらバアルを見つめる。
「アンタ、どうして公国にいるんだ?」




