第84話 新しい魔王国民
クノモダ族の集落ではダークエルフたちが騒いでいた。少し前にクローディア戦団のアジトに向かった救出部隊が帰還したからだ。
ただ、ダークエルフたちは救出部隊が無事に捕まった者たちを助けて戻って来たこと以上に、予想していたよりも早く救出部隊が帰還したことに驚いていた。
ゼブルたち救出部隊は集落を出発してから三時間ほどで戻って来た。普通なら半日でも早いのにその四分の一の時間でも集落に返って来たのだから驚くのは当然と言える。
しかも救出に向かったダークエルフの中には死者や重傷者はいないため、集落にいた者たちは目を丸くしていた。
救出部隊が戻った直後、ドアンや環境長たち責任者たちは驚きながらゼブルやアセーラたちを出迎え、結果はどうだったのか尋ねた。
無事に帰還し、捕まっていた者たちを全員連れて帰って来たのを見れば、どのような結果なのかは分かる。だが、それでも救出に向かったゼブルたちの口から直接結果を聞きたかった。
ゼブルがドアンたちにクローディア戦団との戦いがどのようなものだったのか説明すると、内容を聞いたドアンたちは目を見開く。
ドアンはゼブルの言うとおりなのか、近くにいたアセーラや防衛長の方を向き、真実か目で尋ねるとアセーラと防衛長は無言で頷く。アセーラと防衛長の反応を見たドアンや責任者たちは全て真実だと知って驚愕した。
説明が終わり、ドアンたちが納得するとゼブルは今後について話し合いたいとドアンに提案する。
話し合いの内容は勿論、ポルザン大森林で暮らすダークエルフたちがファブール魔王国の国民になることを受け入れるかについてだ。
ゼブルの提案を聞いたドアンは一瞬驚いたような反応を見せるが、話を持ち出されることが分かっていたのか、真剣な表情を浮かべてゼブルに会談の準備を整うまで待っていてほしいと伝えた。
すぐに話し合うことはできないだろうと予想していたゼブルは不満を見せることなく納得する。
ドアンはゼブルが納得すると、部下たちにゼブルと配下の者たちを用意していた来客用の建物まで案内させた。
ゼブルたちが移動するとドアンはゼブルから聞かされていない情報をアセーラと防衛長から聞くため、そしてゼブルの支配下に入るべきか話し合いをするため、責任者たちと共にゼブルと最初に話し合いを行ったツリーハウスへ向かった。
「まさか、こんなに早く終わらせて戻ってくるとは……」
集落の入口前の広場では、レイシが離れた所に集まっているダークエルフたちを見つめながら呟いている。
視線の先にいるのはクローディア戦団に捕まっていたダークエルフたちで、集落に戻ると家族と再会し、集落に帰って来れたことを心の底から喜んだ。
勿論、捕まっていた者たちの家族や友人たちも再会を喜んでいる。中には捕まっていた者たちが帰って来たのを見て嬉し泣きしている者もいた。
「ゼブル陛下たちは私たちが思っている以上に強大な力をお持ちだったようだな」
「やっぱり、魔王様は凄い方なんですね」
驚いているレイシの隣では、グアーバが無事に戻って来たダークエルフたちを見ながら微笑んでいる。
グアーバも救出部隊が戻って来た直後は予想以上に早く帰還したことに驚いていだが、捕まった者たちが無事に帰って来た光景を見ると驚きが消え、仲間の生還を素直に喜んだ。それと同時に仲間を救ってくれたゼブルの強さに感服した。
無事に集落に戻って来た仲間たちをグアーバは見守っている。そんな時、集まっているダークエルフたちから少し離れた所で、落ち着かない様子を見せながら辺りを見回す数人の人間が視界に入った。
「兄様、あそこにいるのがクローディア戦団に捕まっていた人間たちですか?」
「ああ、ゼブル陛下たちが捕まっていた者たちと一緒に連れ帰ったそうだ」
ダークエルフだけでなく、人間までもがクローディア戦団の奴隷として捕まっていたと知り、グアーバは意外そうな顔をする。
亜人だけでなく、同じ人間までも平気で捕らえるクローディア戦団をグアーバは改めて恐ろしく思う。
ただ、クローディア戦団は既に壊滅しており、新たに誰かが攫われることも無いので少しだけ気持ちが楽になっていた。
「あの人間たちはどうなるですか? もしかして、集落で僕らと一緒に暮らすんじゃ……」
「いや、ゼブル陛下がお帰りになられる際に連れて行くそうだ。その後は魔王国の中心都市であるトリュポスでしばらく休ませ、体力が回復したら祖国へ帰すらしい。あと、帰る気が無い者はそのまま魔王国の民にするとか……」
レイシの説明を聞いたグアーバは、少し驚いたような反応を見せる。
ゼブルが救出を頼まれたダークエルフだけでなく、無関係な人間たちも保護しようとしていると知り、グアーバはゼブルのことを寛大な心の持ち主だと感じていた。
「僕、今回のことで魔王様は見た目は怖いけど、優しい方だって分かりました。兄様もそう思うでしょう?」
「あ、ああ、そうだな」
笑顔を浮かべるグアーバを見下ろしながら、レイシは苦笑いを浮かべる。
「それで、あそこにいる人間たちは何なんですか?」
グアーバは捕まっていた人間たちの近くで、縄で縛られながら地面に座り込んでいる三人の若い人間の女たちを見ながら尋ねる。
レイシは女たちを見ると、気分を悪くしたのか僅かに目を鋭くした。
「あれはクローディア戦団の生き残りだ。アジトを壊滅させる際に殆どの団員を倒したそうだが、生き残った者たちがいたため、捕らえて連れ帰ったそうだ」
視界に映る者たちが自分たちを脅かし、仲間を攫っていたクローディア戦団の団員だと知ったグアーバは僅かに眉間にしわを寄せる。幼いグアーバも戦団に対して怒りを感じているため、集落に団員がいることをあまり良く思っていないようだ。
「あの団員たちはどうするんですか?」
「捕まっていた人間たちと同じようにゼブル陛下がトリュポスへ連れて行くそうだ。もっとも、捕まっていた者たちと違って何かしらの罰を受けることになるだろうがな」
グアーバはレイシの説明を聞いて納得の反応を見せる。これまでのクローディア戦団の悪行を考えれば当然のことだ。
「クローディア戦団をやっつけて、捕まっていた皆も助けたから、クローディア戦団の問題はこれで解決したんですよね?」
「ああ、我々にとって存亡に関わる問題は片付いた。……あとはゼブル陛下の支配下に入るかという問題だけだ」
「父上たちはどうされるつもりなんでしょう?」
「まだ分からない。ゼブル陛下たちがクローディア戦団のアジトに向かっている間にどうするか話し合ったそうだけどな……」
レイシはドアンたちがいるツリーハウスがある方角を向き、不安そうな表情を浮かべながら呟く。
――――――
ゼブルと最初に話し合いを行ったツリーハウスの一室では、ドアンとクノモダ族の責任者たちが長方形の机を囲んで座っている。
ドアンの向かいの席にはアセーラが座っており、ドアンの方を向きながら真剣な表情を浮かべていた。
ツリーハウスに移動したドアンたちはクローディア戦団とどのような戦いが繰り広げられたかを詳しく知るため、ゼブルと同行したアセーラと防衛長から話を聞いていた。同時に魔王を名乗るゼブルがどれほどの力を持っていたのか、自分たちにとって脅威なのかを確かめようとしていた。
「……これが、私が見たゼブル陛下の力です」
話し終えたアセーラは深刻そうな表情を浮かべながら軽く俯く。
周りにいるドアンたちはアセーラの話を聞いて、驚きのあまり目を大きく見開いていた。
報告会議が始まった直後、アセーラと防衛長はクローディア戦団のアジトに正面から挑んだこと、陽動作戦で捕まっていたダークエルフたちを救出したことなどをドアンたちに話していた。
アセーラと防衛長も最初は落ち着いた様子で語っていたが、ゼブルや配下であるティリアたちの強さが話題になると二人は暗い表情を浮かべ、ゼブルたちが予想以上に強大な力を持っていることを語った。
「まさか、クローディア戦団が配下にしていたモンスターたちを意図も簡単に倒すとは……」
「しかも、その中には英雄級の実力者でなければ倒せないと言われているプランドラーレオも含まれていた……ということは、ゼブル陛下は少なくとも英雄級の実力を持っているということか」
「いえ、プランドラーレオを難なく倒したとなると、英雄級の実力者以上の力を持っていることになります」
環境長の口から、英雄級の実力者を越えているという言葉が出ると、ドアンや魔術長は無言で環境長を見つめた。
英雄級の実力者を超える存在と言えば、二百年前に現れた魔王を倒した勇者やその仲間と同等の力を持っているということになる。ゼブルが本当に勇者たちに匹敵する力を持っているのなら、自分たちとは比べ物にならないほどの強者だとドアンたちは知った。
「アセーラ、ゼブル陛下の戦いを直接見たお前自身はどう思っている。ゼブル陛下は二百年前の魔王を倒した勇者と同等の力を持っていると思うか?」
「……ハイ。プランドラーレオを倒すことができた者は英雄級の実力者として認められると言われています。そのプランドラーレオの頭部を一撃で、それも拳を振り下ろしただけで粉砕してしまったのです。間違いなく、勇者と互角の力を持っているでしょう」
ドアンの問いに、アセーラは俯いたまま低めの声で答える。
最初、アセーラはゼブルのことを警戒し、ただ魔王を名乗っているだけの思い上がりだと考えていた。だが、ゼブルがプランドラーレオや団長のサリィを簡単に倒した光景を見て、自分の考えた間違っていたこと、戦闘になったら自分や他のダークエルフでは倒せないことを知ったのだ。
「防衛長、お前の方はどうなのだ? ゼブル陛下の補佐を務めるティリア殿が戦うところを見たのだろう?」
ドアンはゼブルの仲間であるティリアの実力も気になり、同行していた防衛長に尋ねる。
「……ティリア殿もかなりの力を持っていると思います。見たことの無い技術を使い、襲い掛かって来たハードエイプたちを簡単に倒しましたから。それに配下のモンスターたちも並のモンスターとは比べ物にならない強さかと……」
部下であるティリアも想像以上の戦闘能力を持っていると聞かされたドアンは深い溜め息をつき、俯きながら自身の眉間をつまむ。
クローディア戦団の一件が片付き、悩みの種が一つ無くなったと思った直後に新たな悩みが生まれたことで、ドアンは強いストレスを感じていた。
「……改めて皆の意見を聞きたい。我々クノモダ族はゼブル陛下が統治する魔王国の民になるべきだと思うか?」
今後ゼブルとどう関わっていくか、自分一人では決めることはできないドアンは周りにいるアセーラたちに尋ねる。
もしゼブルの国の民になることを拒んだりすれば、ゼブルを敵に回すことになるかもしれない。そうなれば強大な力を持つゼブルを止めることはできず、ダークエルフは確実に破滅の道を歩むことになる。
ドアンとしてはクノモダ族の未来のためにも、ファブール魔王国の民になるべきだと考えており、アセーラたちも自分の同じ考えであってほしいと願っていた。
「私は魔王国の民になるべきだと思っています」
教育長のパイナがドアンに自分の意見を伝えると、周囲の者たちはパイナに視線を向けた。
前の話し合いで、パイナがダークエルフの暮らしを良くするためにファブール魔王国の国民になることに賛成なのはドアンたちも知っている。そのため、ドアンたちはパイナの意見を聞いても驚くことは無かった。
パイナの意見を聞いたドアンは他の者たちの考えを聞くため、アセーラや他の責任者たちの方を向く。
「私も、パイナ教育長と同じ意見です。大森林で採取できる薬草や木の実の量を考えると、今までどおりの生活を続けていくのは難しいでしょう。少しでも暮らしを良くするためにも、魔王国の民になるべきだと思います」
環境長もパイナと同じように、ダークエルフたちが問題無く生活できる環境を手に入れるべきだと考えているらしく、ゼブルの申し出を受けるべきだと語る。
集落のダークエルフや彼らの暮らしを管理することが役目である環境長はある意味でパイナ以上に魔王国の民になるべきだと考えていたのかもしれない。
「わ、私もお二人と同じ気持ちです。人間たちが大森林に入れるようにする、というのには若干抵抗がありますが、今までどおり大森林から出ることなく暮らすことができ、物資などの支援を受けられるのであれば、魔王国の民になるべきでしょう」
「そうか。……アセーラ、防衛長、お前たちはどう思っている?」
魔術長の意見を聞いたドアンは今までゼブルに不信感を抱き、魔王国の民になることに抵抗を感じていた二人の考えを聞こうと声を掛けた。
「……正直に申しますと、私はまだ魔王を名乗るゼブル陛下を完全に信用しておりません」
防衛長の言葉を聞き、ドアンや賛成しているパイナたちは防衛長に視線を向ける。
捕まったダークエルフたちの救出に協力してもらったとしても、それだけでゼブルを信用するのは、やはり難しいかとドアンは感じていた。
「ですが、自身の利益のためとは言え、我らの仲間の救出に手を貸してくれました。ゼブル陛下が二百年前に現れた魔王と違い、他種族に力を貸すだけの良心を持っていると今回の一件で分かりました」
「良心を持っているゼブル陛下なら、信用できると思ったわけか」
「それもありますが、強大な力を持つゼブル陛下を敵に回すような判断は避けるべきだ、という考えもあります」
正直に自分が思っていることを口にする防衛長にドアンは納得の反応を見せる。
「アセーラ、お前はどう思っているのだ?」
最後にアセーラの意見を聞くため、ドアンはアセーラに声をかける。
パイナや防衛長たちもアセーラがゼブルをどう思っているの気になり、アセーラに注目した。
「私も防衛長と似た考えです。強大な力を持つゼブル陛下を敵に回せば、私たちクノモダ族はお終いです。ゼブル陛下は私たちに危害を加える気は無いと仰いましたが、それも完全に信じたわけではありません……」
娘のアセーラもまだゼブルを信じ切れていないと聞き、ドアンは反対するのではと難しい表情を浮かべる。
「……しかし、今回の救出作戦で私はゼブル陛下に人間らしさがあることを知りました。ただ何も考えずに敵を襲うモンスターと違い、他人の立場や意思を理解し、その者を理解しようという考えがゼブル陛下にはあります」
今までゼブルを警戒していたアセーラの口から予想外の言葉が出てきたため、ドアンは目を見開いて驚く。
「魔王であるゼブル陛下は危険な存在だと思っています。ですが、人間らしさを持つ魔王であれば、私たちを無下に扱ったりはしない、と私は考えています」
「つまり、お前も魔王国の民になることに賛成というわけか」
ドアンが確認すると、アセーラはドアンを見ながら頷く。
救出作戦のおかげでアセーラもゼブルを少しだけ信用するようになったと知り、ドアンは安心したのか静かに息を吐いた。
話し合いに参加する全員が、クノモダ族がファブール魔王国の民になることを受け入れたため、現状ではダークエルフたちにとっては最良だと結果と言ってもいいだろう。
「では、我らクノモダ族はゼブル陛下の支配下に入ることとする。それで良いな?」
ドアンが周りにいるアセーラたちを見回しながら改めて確認すると、全員が無言でドアンを見つめ、異論が無いことを目で伝える。
「……では、ゼブル陛下を呼んできてくれ。我々がファブール魔王国の民になることを受け入れたことをお伝えする」
「分かりました……」
アセーラは席を立つとゼブルを呼びに部屋から出ていく。
残されたドアンたちは若干複雑そうな表情を浮かべながら黙り込む。ただ一人、パイナだけは何処か嬉しそうな表情を浮かべていた。
――――――
呼び出されたゼブルはティリアとシムスを連れてツリーハウスへやって来る。そして、ドアンたちが待つ部屋に入ると、空いている席に座り、向かいに座るドアンや他の席に付いている責任者たちを見た。
ゼブルが到着すると、ドアンは早速先程の話し合いで決めたことをゼブルに伝える。
パイナや他のドアンの話を聞くゼブル、そしてその後ろで待機しているティリアとシムスを黙ってみていた。
「……以上のことを話し合い、我々クノモダ族は正式に魔王国民になることを決めました」
「そうか、俺としては嬉しい答えだ」
ドアンの説明を聞いたゼブルは本心を口にした。
もしダークエルフたちがファブール魔王国の民になることを受け入れなかったら、別の方法を考える必要がある。ゼブルとしてはそれは面倒なことだったため、ドアンや責任者たちが受け入れたことをラッキーと思っていた。
ただ、族長のドアンや責任者たちが受け入れても、他のダークエルフたちが同じ考えとは言い切れない。ダークエルフの中には魔王であるゼブルの支配下に入ることに納得しない者もいるはずだ。
納得できないダークエルフが現れても、ゼブル自身にはどうすることもできないため、ドアンたちに説得してもらうしかない。
ゼブルはドアンたちが納得できないダークエルフたちを問題無く説得してくれることを祈った。
「正式に魔王国の民となるのなら、こちらも約束は守る。アンタたちダークエルフの身の安全は保障するし、これまでどおりこの大森林で生活してくれても構わない。必要な物資があれば支援もする」
「ありがとうございます、ゼブル陛下」
「ただし、こちらが出した希望も聞き入れてもらうぞ?」
「分かっております。大森林に張られている結界は解除し、外部の者が出入りできるようにいたします。そして、冒険者などが薬草を採取に来た際にはそれを許可し、彼らに危害を加えるような行動もいたしません」
前回の話し合いでゼブルが出した希望を振り返りながら、ドアンはそれら全てを受け入れることを伝える。
ポルザン大森林に自由に出入りできるようになれば、トリュポスで起きている冒険者の依頼減少問題も解決するため、ゼブルはこれでトリュポスで起きている問題の一つが解決すると感じ、フッと静かに笑うのだった。
「ただ、大森林を訪れた人間や他の亜人が我々に危害を加えてきた際は、こちらも身を守るために反撃させていただきます」
「当然だな。誰にだって襲われた際に自分の身を守る権利がある。……まぁ、アンタたちダークエルフが魔王国の民になったことはすぐ国中に伝えるつもりでいる。同じ魔王国の民がアンタたちを襲う可能性はとても低いと思うぞ」
攻撃された際に反撃するのを認める一方で、ダークエルフたちに危険が及ばないよう手を打つことを話すゼブルを見て、ドアンは軽く頭を下げて感謝の意を伝える。
「それと、俺がアンタたちの力を必要とした時には無条件で協力するというのも忘れるな?」
「勿論です。全力でお力になります」
ドアンの返事を聞いて、ゼブルは「よし」と言いたそうに無言で頷く。
魔王としての使命を果たすには、人間だけでなく亜人の力や知識を必要とする時が来るはずだ。もし魔王の使命を果たすために亜人の力が必要となったら、ゼブルはダークエルフたちを上手く使って問題を解決するつもりでいた。
「他に何か、気になることや質問はあるか?」
ゼブルが問いかけるとドアンは周りにいるパイナたちを見て、質問はないかと目で尋ねる。
パイナたちはドアンと目が合っても何も言わない。どうやら質問することはもう無いようだ。
「……何も、気になることは無さそうです」
「そうか。……なら、俺たちはそろそろ帰らせてもらうかな」
これ以上、ダークエルフの集落にいる理由は無いと判断したゼブルはゆっくりと立ち上がる。
ゼブルが立ち上がるのを見たドアンたちは軽く目を見開いて意外そうな表情を浮かべた。
「お帰りになられるのですか?」
「ああ、色々とやることがあるんでな」
ドアンはゼブルが本当に帰るつもりだと知ると、ゼブルを見ながらゆっくりと立ち上がる。
魔王であるゼブルが集落を去れば張り詰めていた空気が解消されるため、ドアンたちはゼブルが帰ることを内心喜んでいた。
勿論、自分たちの支配者であり、魔王であるゼブルが去ることが喜ぶなど表情に出したり、口にすることは許されない。ドアンたちは本心を悟られないよう注意しながらゼブルを見送ることにした。
「では、集落の入口までお見送りさせていただきます」
ドアンの言葉を聞き、座っていたパイナたちも一斉に立ち上がる。族長であるドアンがゼブルを見送るのに、集落の責任者である自分たちが見送らないのは問題だと感じたのだろう。
立ち上がったドアンたちを見たゼブルはティリアとシムスを連れて部屋の出入口の方へ歩いて行く。
集落に来たばかりで、ゼブルは集落の何処に何があるのか詳しく理解していない。ドアンたちが同行してくれれば出入口まで案内もしてくれるので、ゼブルにとっては都合のいいことだった。
ツリーハウスの中を移動し、玄関まで辿り着いたゼブルは扉を開ける。すると、玄関の近くでアセーラ、レイシ、グアーバの三人が立っている姿が目に入った。
アセーラたちはツリーハウスから出て来たゼブルを見ると軽く姿勢を正す。現状から三人はゼブルがツリーハウスを訪れた後、結論をすぐに聞けるよう外で待機していたようだ。
「そんなところで何をやってるんだ?」
ゼブルは玄関前にいたアセーラたちを見ながら意外そうな口調で尋ねる。
ドアンは子供たちが外にいたのを知らなかったのか、三人を見て少し驚いたような表情を浮かべていた。
「我々クノモダ族が魔王国でどのような立場になるのか気になりまして、失礼ながら結論を聞くために外で待たせていただきました」
嘘をついたり、いい加減なことを言えばゼブルの機嫌を損ねると思ったのか、レイシが緊張した様子で玄関前にいた理由を正直に語った。
レイシを見たゼブルは、緊張する姿が面白いと思ったのか小さく鼻を鳴らした。
「クノモダ族を正式に魔王国の民として受け入れることになった。詳しいことはあとで親父さんたちから聞け」
「は、ハイ」
ファブール魔王国の民として認められたと知ったレイシは安心して小さく笑みを浮かべる。
アセーラはドアンたちが出した答えや状況から、ファブール魔王国の民になれると確信していたため、ゼブルの返事を聞いても表情を変えたりはしなかった。
グアーバは答えを聞いた時に一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに笑みを浮かべてゼブルを見上げた。
「ゼブル陛下はこれからお帰りになられる。私たちは陛下を集落の出入口までお見送りに行くから、お前たちも同行しなさい」
「は、ハイ」
ゼブルが帰ると聞き、レイシはドアンを見ながら返事をする。
レイシが返事をするとゼブルはツリーハウスの前にある坂道を下っていき、ティリアたちもその後に続く。
アセーラとレイシはゼブルの後に続くドアンの近づくと、速度を合わせながら歩いて行く。
だが、グアーバだけは笑ったままゼブルに近づき、ゼブルを見上げながら右隣を歩いた。
「魔王様、僕たちはクノモダ族は魔王国の民になったんですよね?」
「ああ、そうだ」
「と言うことは、ダークエルフの中に大森林を出て何かをしたいって人がいたら、魔王国の町とかに行ってやりたいことができるってことですよね?」
「ん? まあ、そうなるな」
ゼブルの返事を聞いたグアーバは、嬉しいことがあったかのように目を輝かせた。
「それじゃあ僕、これから大人になるまでの間に沢山剣の修行をして、魔王様みたいに強い戦士になります!」
「俺みたいな?」
「ハイ! 僕、モンスターをあっという間に倒せるくらい強い冒険者になって、困ってる人たちを助けたり、色んな国を見て回りたいんです」
「そうか」
まるで壮大な夢を追う子供を見る親のように、ゼブルは意外そうな口調で呟く。
魔王である自分のようになりたいという点については、ゼブルも少し複雑な気分になったが、誰かのために強い戦士になりたいという意志には感心していた。
「なら、剣の腕だけじゃなく、ダークエルフであることを馬鹿にされたり、軽く見られても耐えられるくらい精神も強くするんだな」
「ハイ!」
力の入った声で返事をするグアーバを見たゼブルは小さく笑いながら前を向く。
ゼブルの後ろでは、ティリアがゼブルとグアーバのやり取りを見ながら優しく微笑んでいる。
シムスもティリアの隣を歩きながらグアーバを見ており、ゼブルに憧れるグアーバを見て気分を良くしているのかニッと笑っていた。
ティリアとシムスが笑う一方で、ドアンたちはグアーバを見ながら大きく目を見開いて驚いている。
ただ、グアーバがいずれポルザン大森林の外に出るつもりでいたり、冒険者になるのを夢見ていることに驚いているわけではない。
ファブール魔王国の民となったダークエルフが、ポルザン大森林の外に出ても問題無く生活できるようにするとゼブルから聞かされている。
今後、ダークエルフの中にポルザン大森林を出たいと言う者が現れれば、ドアンたちは好きなようにさせるつもりでいる。だから、グアーバが大森林を出たり、冒険者になることに驚いていたわけではなく、そのことに反対する気も無かった。
ドアンたちは幼いグアーバが魔王であるゼブルを恐れることなく、まるで親しい友人のように接していることに驚愕していたのだ。
グアーバの大胆な行動にドアンたちが驚く中、パイナだけは息子が楽しそうにする姿を見て笑っている。
パイナはゼブルのことを恐ろしい存在ではないと思っており、ドアンたちほどゼブルを警戒していなかった。
寧ろグアーバがゼブルと接したことで成長したと考えており、グアーバが成長するきっかけを与えたゼブルに感謝している。それと同時にグアーバが成長したことを心から喜んでいた。
ゼブルたちは様々な思いを抱きながら、集落の出入口へ向かうのだった。
今回で第4章は終了です。第5章はしばらくしてから投稿します。
次回はゼブルが再び冒険者バアルとして活動し、あのキャラクターと再会する内容となっています。
ここまで作品を読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。これからも頑張りますので、よろしくお願いいたします。
それでは、今回はこれで失礼いたします。




