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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第4章  魔王国の統治者
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第80話  陽動作戦


「……敵さんが動き出したようだぜ」


 クローディア戦団のアジトから北に300mほど離れた所にある茂みの中かで、片膝をつくシムスが魔弓銃ダークウィリアムを構えながら語る。

 遠くにいる敵を視認できる技術スキルを使用できるシムスにはクローディア戦団がどのように動き、反応しているかを把握することができたのだ。

 シムスの後ろではゼブルたちが遠くにいるクローディア戦団のアジトを見つめている。

 ゼブルたちはシムスと違って遠くを視認する技術スキルは修得していないため、視認可能なシムスから話を聞いて状況を把握していた。

 十数分前、ゼブルたちはクローディア戦団の見張りや罠を警戒しながら移動し、クローディア戦団のアジトを発見した。

 アジトを目にしたダークエルフたちはすぐにでも捕まった仲間たちを救出したいと思っていたが、アジトにいる敵の戦力、仕掛けられている罠の場所、そして捕まった者たちが何処にいるのか分からない状態で突撃するのは危険だ。

 現状から、すぐには行動できないと感じた防衛長とアセーラは助け出したいという気持ちを抑え、まずは作戦を練らなくてはならないと仲間たちに伝えた。

 ダークエルフたちは防衛長とアセーラの話を聞いて、自分たちが後先考えずに行動しようとしていたことに気付く。

 仲間たちを無事に救出するためにも、まずは情報を集めてならないと冷静さを取り戻し、情報収集を行うことにした。

 だが、捕らえた団員から得た情報では、クローディア戦団はアジトの周囲に複数の罠を仕掛けているため、情報を得るためにアジトに近づくことはできない。かと言って遠くから観察しても、得られる情報は限られる。細かい情報を得ることができない状況にダークエルフたちは頭を悩ませていた。

 そんな時、ゼブルがシムスならクローディア戦団に奇襲を仕掛けながら情報を集められると言い出す。

 防衛長はゼブルたちがどんな方法で情報を得るのか気になり、やり方を確かめるためにゼブルの部下であるシムスに情報収集を任せることにした。

 情報収集を任されたゼブルはシムスにアジトへの攻撃を命じ、攻撃した時にクローディア戦団がどんな反応を見せるか確かめながら、相手の情報を得ようと考えていたのだ。


「連中はどんな動きをしている? こっちの位置には気付いてるか?」

「いや、俺の攻撃で警戒態勢に入ったようだが、こっちの正確な位置は分かっちゃいねぇようだ」

「まぁ、300m近く離れている上に見通しの悪い森林内から攻撃してるからな。いくら森林での戦いに慣れていても、すぐにはこっちの位置を特定できないだろう」

「その間にこっちは攻撃しながら、連中の情報を集めさせてもらおうぜ」


 笑みを浮かべるシムスはダークウィリアムに新しい矢を装填する。そして、クローディア戦団のアジトの中にあるテントの一つに狙いを定めると引き金を引いて矢を放つ。

 放たれた矢は勢いよくテントに命中し、命中すると同時に大きな音を立てながらテントを吹き飛ばした。

 テントが吹き飛ばされたことで近くにいたクローディア戦団の団員は更に驚愕し、周囲を見回しながら攻撃してくる敵を探す。

 しかし、いくら探しても敵の姿は確認できず、自分たちが押されている現状に団員たちは表情を歪ませた。


「へっ、団員ども、どこから攻撃されているのか分からずに混乱してやがる」

「攻撃するのもいいが、アジトの状況や敵の位置とかを確認するのも忘れるなよ?」

「分かってるって」


 ゼブルの忠告を聞いたシムスは笑いながら矢を再装填し、ダークウィリアムを構えながらアジトの中を見回す。

 今回はすぐに矢を放たず、アジトの何処に何があるのかを確かめていった。


「あの、ゼブル陛下……」


 ゼブルの後ろでシムスの攻撃を見物していた防衛長は、小さな声でゼブルに話しかける。

 防衛長は遠距離から一方的にクローディア戦団に攻撃を仕掛ける現状に驚きを隠せずにいるのか、信じられないような顔をしていた。


「シムス殿がボウガンを撃って攻撃しているのは分かりますが、いったいどんな攻撃をしているのですか?」

「シムスは今、衝撃矢インパクト・アローでアジト内を破壊している」

衝撃矢インパクト・アロー?」


 聞いたことの無い攻撃方法に防衛長はまばたきをしながら聞き返した。


「矢が命中した箇所を中心に衝撃波を発生させ、近くにいる他の敵や物体を破壊する効力がある技術スキルだ。破壊力があり、衝撃波が発生した時に大きな音を立てるから、攻撃だけでなく、敵を脅かしたりする際にも使える」

「そ、そのような技術スキル、私は聞いたことがありません……」


 ダークエルフとして、数百年生きてきた自分が知らない技術スキルが存在していたことを知った防衛長は目を見開く。

 隣で会話を聞いていたアセーラも、ゼブルの仲間が未知の技術スキルを使えることを知って驚きの反応を見せていた。


(……知らなくて当然だ。衝撃矢インパクト・アローはアーチャー系の職業クラスの中でも中級の上位職以上、つまり、二百年前の勇者と同等かそれ以上の実力者しか修められない職業クラスでないと、覚えられない技術スキルなんだからな)


 異世界では才能があり、優れた戦闘能力を持った者の一部だけが、二百年前の魔王を倒した勇者やその仲間と同等の力を得られる。しかし、そんな存在は簡単には生まれない。

 才能や高い戦闘能力があり、自身を強くするために努力したとしても、異世界ではレベル30代、英雄級の実力者になるのがやっとだ。

 それは人間よりも長寿の亜人も同じで、長い時間を掛けて自分を鍛えても、レベル30以上になれるかどうか分からない。

 要するに異世界の住人では、シムスが使える技術スキルを修得したり、それに関する情報を得ることも不可能に近いということ。だからダークエルフである防衛長やアセーラが知らないのは当たり前なのだ。

 ゼブルが防衛長に説明している間、シムスはクローディア戦団のアジトの様子を窺っていた。

 団員たちはアジト内を走ったり、配下のモンスターたちを連れて必死に敵を探している。

 シムスは団員たちの反応が面白いのか、ダークウィリアムを構えながら笑っている。そんな中、アジトの中で数人の団員が一つのテントの近くに集まっている光景がシムスの視界に入った。

 そのテントは他のテントと比べると若干大きく、出入口以外は周りを先端の尖った太い枝で作った柵で囲まれている。まるで外にいる者がテントに近づいたり、テントの中にいる者が出られないようにしているようだった。


「大将、アジトの中におかしなテントがあるぜ」


 声を掛けられたゼブルはシムスの方を向いた。


「おかしなテント?」

「ああ、他のテントと比べてデカく、テントの周りを柵で囲んでやがる。しかもそのテントの近くにいる団員たちがテントの中を何度も覗き込んでるぜ」


 伝えないと後々面倒なことになるかもしれないと感じたシムスは、自分が目にした内容を全てゼブルに話した。


「……そのデカいテントはアジトの何処にある?」

「真ん中あたりだ」


 テントの位置を聞いたゼブルは小さく俯きながら考え込んだ。


「……確か捕らえた団員から、さらったダークエルフたちが何処にいるのか聞いたんだったな?」

「ああ、ダークエルフたちが簡単に逃げられないよう、アジトの真ん中にあるテントに閉じ込めてるってな。……!」


 シムスは何かに気付いたような反応を見せてゼブルの方を向く。

 近くにいた防衛長もシムスと同じような表情を浮かべていた。


「お前たちも気付いたか。その団員たちが集まっている大きめのテントの中に、捕らえたダークエルフたちが監禁されている可能性がとても高い」

「成る程な。アジトが攻撃され、その騒ぎに乗じて捕まえたダークエルフたちが逃げ出さないよう、団員たちを見張りに就かせたってことか」

「あるいは折角手に入れたダークエルフを奪われないよう警備として回したの……いずれにせよ、これでダークエルフたちが何処にいるのかが分かった」


 救出対象の居場所が特定できれば、救出は勿論、アジトも制圧しやすくもなる。ゼブルは予定よりも早くダークエルフを救出し、クローディア戦団を殲滅することができるかもしれないと感じていた。


「ゼブル陛下、この後はいかがいたしますか?」


 必要な情報は手に入れたと判断した防衛長はゼブルに今後の予定について尋ねる。

 どうするか尋ねてはいるが、防衛長の顔からは情報が集まったのだから攻撃を仕掛けるべきだという意思が感じられた。

 ゼブルは防衛長を見て、彼が何か考えているのか察する。普通であれば、もう少し情報を手に入れてから攻め込むべきだが、ゼブルにとってはダークエルフの居場所と敵の戦力、配置を理解できれば十分戦える状況だった。


「……捕まったダークエルフたちの位置は把握した。これよりダークエルフの救出及びクローディア戦団の討伐を開始する」


 自分の望んだとおり、仲間を救出するために動いてくれるゼブルを見て、防衛長は小さく笑みを浮かべる。

 アセーラやダークエルフたちはゼブルの言葉を聞き、いよいよクローディア戦団のアジトに攻撃を仕掛けるのだと、少し緊張した様子を見せていた。


「それでゼブル様、作戦はどうなさいますか?」


 傍で控えていたティリアがどのように攻めるか尋ねた。

 ゼブルが強大な力を持っており、クローディア戦団程度なら簡単に倒せることはティリアも理解している。だが、攻め方によっては捕まっているダークエルフたちの身が危険に晒される可能性もあるため、どのように動くか聞いておくべきだと思っていた。


「戦力は二つに分ける。一つは正面から戦団に襲撃を仕掛け、奴らの注意を引く部隊。もう一つは戦団の注意が襲撃した部隊に向けられている間に捕まったダークエルフたちを救出する部隊だ」

「片方の部隊に敵が集中している隙に、捕まったダークエルフの方々を助け出す……陽動作戦ですか」

「そうだ。戦団は俺らの正確な戦力を理解していない。こっちの戦力が多いのか少ないのか、相手が理解していない現状では効果的な作戦と言えるだろう」


 ティリアも救出が最大の目的である今回なら陽動作戦が一番だと感じており、小さく笑いながら頷く。

 一方で防衛長やアセーラは単純な作戦だと感じていた。だが、二人もゼブルの言うことに一理あると考えているのか、反対する様子は見せていない。


「それで、戦力はどうされるのです? 陽動作戦となると片方は囮になるため、クローディア戦団の全戦力を相手にしても問題無く戦えるだけの戦力を用意する必要があります。あと、救出部隊の方も解放した仲間を護衛するため、それなりの戦力が必要かと……」


 どちらの部隊も半端な戦力にすることはできない。そう考える防衛長は真剣な表情を浮かべていた。


「襲撃する部隊には俺とシムスが入り、アサルトホッパー、アルケニーロード、セイレーンを二体ずつ入れる。ティリアと残りのモンスターは救出部隊だ」


 配下のモンスターの編成を語るゼブルを見て、ティリアは軽く目を見開く。てっきり魔王補佐官である自分はゼブルと同じ部隊に編成されると思ったため、ゼブルと別行動することに少し意外に感じていた。


「防衛長、アンタたちはどうする? ダークエルフたちの指揮官はアンタだ。ダークエルフの戦力をどうするかはアンタが決めろ」


 ダークエルフ側の戦力をどうするか勝手に決めるつもりの無いゼブルは、防衛長にダークエルフたちの振り分けを任せる。

 防衛長はアセーラや他のダークエルフたちの方を向くと難しい顔をした。

 ゼブルが振り分けたモンスターの数と種類、そして各部隊の役割からどのように戦力を分けるのが一番良いか、作戦を成功させるために防衛長は真剣に考える。


「……では、私とアセーラ様が一人ずつどちらかの部隊に入り、他の者たちを指揮することにします。戦力は二十名をゼブル陛下の部隊に加え、残りは救出部隊に回します」

「そうか。……で、アンタとアセーラはどっちの部隊に入るんだ?」


 今回の作戦ではゼブルやモンスターたちが最前線に出て戦うつもりでいたため、ゼブルとしてはどちらが同行しても問題なかった。


「では、ゼブル陛下には私が同行いたします」

「待ってください、防衛長」


 ゼブルに同行することを進言した防衛長を突然アセーラが止める。

 アセーラの声を聞いたゼブルたちは一斉にアセーラに注目する。


「防衛長、私をゼブル陛下に同行させてください」

「アセーラ様が?」

「ええ、ゼブル陛下がどれほどの力を持っておられるのか、この目で確かめたいのです」


 防衛長はアセーラに言葉に反応し、彼女が何を考えているのか悟る。

 アセーラは魔王を名乗るゼブルが自分たちにとって危険な存在なのかを確かめるため、今回の救出作戦の同行した。

 これから行う正面からの襲撃でゼブルがどれほどの実力者なのかを確認し、ゼブルと戦うことになった際に対処できるかを見極めようとしているのだと防衛長は気付いた。


「……分かりました。そう言うことでしたら、アセーラ様にお任せします」


 アセーラの狙いを知っている防衛長は不満などを一切見せずに納得する。

 ゼブルの実力を確かめたいという考えは防衛長にもあったが、アセーラは自分から危険な作戦に参加してまでゼブルの情報を手に入れようとしている。その覚悟を無駄にしないためにも、防衛長はゼブルと同行する権利を譲ることにしたのだ。


「アセーラ様、くれぐれも無茶をなさらないでください?」


 防衛長の忠告を聞いたアセーラは、防衛長が何を伝えたいのか察して無言で頷いた。

 ゼブルの戦闘能力を確かめるのが目的だということは、ゼブル本人に悟られてはいけない。もしも自分たちの狙いにゼブルが気付けば、自分たちだけでなく、ポルザン大森林にいる全てのダークエルフに危険が及ぶかもしれない。

 何があってもゼブルに気付かれないようにしなくては、アセーラと防衛長はそう自分に言い聞かせるのだった。


「ゼブル陛下、お聞きになられたとおり、陛下にはアセーラ様が同行し、私は救出部隊に加わることになりましたので、よろしくお願いいたします」

「ああ。アセーラがそうしたいって言うなら、俺はそれでも構わない」


 どちらでも構わないという意思を伝えると、防衛長は深く頭を下げる。


(魔王ゼブル、お前の力がどれほどのものか、この戦いで見せてもらうぞ……)


 アセーラは防衛長と向き合うゼブルを見つめながら、心の中で呟いた。

 クローディア戦団の団員を捕らえたアサルトホッパーとかいう昆虫族モンスターは確かに強かったが、ゼブルがそれ以上の実力者とは限らない。

 この時のアセーラはゼブルは魔王を名乗っているが、もしかするとアサルトホッパーと同じくらいの力しかないのではないかと予想していた。


「よし、早速行動を開始するか」


 部隊分けが済むとゼブルはアジトの方を向いて作戦開始を宣言する。


「俺たちはこのままクローディア戦団のアジトに攻撃を仕掛ける。防衛長たちが問題無く捕まった奴らを救出できるよう、徹底的に暴れて戦団の注意を引きつけろ」


 ゼブルの指示を聞き、周りにいたモンスターたちは返事をするかのように鳴き声を上げる。

 アセーラやダークエルフたちは指揮官のように勝手に指示を出すゼブルに小さな不満を感じながらも、真剣な表情で話を聞いている。

 陽動作戦なのだから、遠慮せずに暴れてやるとアセーラたちは思っていた。


「シムス、お前は此処に残って狙撃を続けろ。念のため、霊狼を召喚して周囲に敵がいないか見張らせるんだ」

「ああ、任せておけ」


 笑みを浮かべるシムスは左手を顔の前まで持ってくると、人差し指と中指を立てて前にピッと動かす。

 レベル90のシムスがゼブルたちと共に戦えば、クローディア戦団など短時間で壊滅させられるだろう。しかし、ゼブルは高レベルの自分たちでも対処できない、予想外の事態が発生することを警戒し、シムスを後方に残すことにした。


「防衛長、アンタたちは迂回し、俺たちが襲撃してからしばらく経った頃にアジトに潜入しろ。仲間たちを救出したら、再び此処に戻って待機しているんだ」

「分かりました」


 救出した仲間に再び危険が及ぶことを避けたいと考える防衛長はゼブルの指示に納得し、頷きながら返事をした。


「ティリア、同行するモンスターたちの指揮はお前が執れ。モンスターたちにはダークエルフたちの護衛を優先して行動するよう命じるんだ」

「ハイ」

「それと、もしクローディア戦団の連中と戦闘になった際はお前も動け。技術スキルも自由に使って構わない」

「わ、分かりました!」


 自身の技術スキルが強力なことを自覚しているティリアは、ダークエルフたちを巻き込まないよう注意して戦わなくてはと、少し緊張しながら返事をする。


「さぁ、始めるぞ」


 全員に指示を出したゼブルは目を薄っすらと黄色く光らせながら低い声で呟いた。


――――――


 クローディア戦団のアジト内では、団員たちが突然の襲撃に驚きながらも急いで戦いの準備を行っていた。

 見張りをしていた者だけでなく、休息を取っていた団員も武器を手に取り、緊迫した表情を浮かべながら辺りを見回している。

 他にも、団長であるサリィの固有技術ユニークスキルによって配下となったモンスターたちも使い、敵が近づいて来ていないか警戒させていた。


「全員、周囲の警戒を厳重にしなさい! 特に敵が潜んでいると思われる北側の守りを固めるのよ」


 アジトの中心部では、レザーキャップを被った団員が周りにいる仲間たちに指示を出していた。

 他の団員たちは詳しく状況を把握できずにいるが、攻撃を受けていることから自分たちが何を優先して動けばいいか分かっている。そのため、レザーキャップの団員から細かい指示を受けなくても動くことができた。

 仲間たちが動く姿を見たレザーキャップの団員は表情を鋭くしながらアジトの北側を向く。

 ダークエルフが仲間の救出に来たのだと考えている団員は、ダークエルフたちが本格的に動く前に有利に戦える状況を作らなくてはと思っていた。


「ダークエルフたちは弓矢を使った攻撃を得意としている。なら、まず敵の位置を探りながら守りを固め、ダークエルフたちが持つ矢を全て使わせる。そして、矢が無くなったら団長が支配しているモンスターたちを突撃させ、一気に仕留めればいい」


 レザーキャップの団員はダークエルフたちとどう戦うか、自分に言い聞かせるように作戦を呟く。

 ポルザン大森林に入ってから、クローディア戦団は何度もダークエルフと戦っており、彼らがどのような戦い方を得意としているか、どう戦えば自分たちが優勢になるのかを把握している。

 だから、例え奇襲を受けたとしても、ダークエルフたちを返り討ちにする自信があった。


「それにしても、ダークエルフはどうやってここまで近づいて来たのかしら? アジトの周りには沢山の罠が仕掛けてあるから、こっちに気付かれることなくアジトに近づくのはほぼ不可能なはずなのに……」


 罠の数と配置した場所から、攻撃が届くほどの距離まで近づいたことが信じられないレザーキャップの団員は、どんな手を使って近づいたのか考え込む。


「気付かれずに近づくには、仕掛けられた罠の場所を正確に知っている必要がある。……まさか、団員の誰かを捕まえて罠の配置場所を聞き出したの?」


 難しい表情を浮かべながら考えていると、アジトの北側から大きな音が数回聞こえてくる。それはアジトに張られていたテントが一本の矢で吹き飛ばされた時に聞こえた音と同じ音だった。

 音を聞いたレザーキャップの団員は、再びダークエルフが攻撃してきたと直感し、鬱陶しそうな表情を浮かべながら奥歯を噛み締めた。


「考えるのは後ね。まずはダークエルフたちを黙らせるのが先よ。……どうやってアジトに近づいたのかは、連中を大人しくさせた後に聞き出せばいい。ついでにテントを吹き飛ばした矢についても教えてもらうわ」


 事態の解決が最優先と判断したレザーキャップの団員は腰の剣を抜くと、攻撃を受けているアジトの北側に向かって走り出す。

 既に北側には迎撃のために仲間たちが向かっているはずなので、少しでも自分たちに有利な戦況になってくれているのを祈りながら移動した。

 全速力で走り、アジトの北側にやって来たレザーキャップの団員はすぐに周囲を確認する。

 北側に張られていたテントは既に幾つが吹き飛ばされており、テントの残骸が散らばっている。その近くではまだ壊されていないテントや、道具などが入った木箱の陰に隠れながら北にある森林を警戒する団員たちの姿があった。

 レザーキャップの団員は森林の方を警戒しながら一番近くにあるテントの陰に隠れている仲間に下へ移動する。


「状況はどうなってるの?」

「まだ詳しくは分かってないけど、敵は間違いなく森林の中から矢を放ってきてるわ」

「森林から? でも、アジトからここまでは300mはあるわのよ。そんな遠くからテントを吹き飛ばせるほど強力な矢を撃てるわけが……」


 仲間からの報告が信じれないレザーキャップの団員は狙われないよう警戒しながら、テントの陰から僅かに顔を出して遠くにある森林を確認する。

 その直後、森林の方から一本の矢がもの凄い速さで放たれ、離れた所に張られているテントに命中すると同時に大きな音を立ててテントを吹き飛ばした。

 間近でテントが吹き飛ぶ光景を目の当たりにしたレザーキャップの団員は目を大きく見開く。

 周りにいた他の団員たちも破壊されたテントを見て、同じように驚きの反応を見せていた。


「ま、まさかホントに遠くから強力な矢を放ってくるとは……あれは間違いなく技術スキルか魔法で強化して攻撃してるわ」

「ど、どうするのよ?」


 レザーキャップの団員は不安そうな顔で尋ねる仲間を見ると、ニッと笑みを浮かべた。


「問題無いわ。こっちには団長が配下にしたモンスターが沢山いるんだもの。ソイツらを使えば簡単に蹴散らせる。それに向こうにだって、技術スキルや魔法の使用回数、矢の本数に限界があるはず。いつかはあの強力な矢も飛んでこなくなるわ」

「そ、そうよね」

「そう。それまで持ち堪えれば私たちの勝ちは確実よ」


 自信に満ちた口調で語るレザーキャップの団員を見て、仲間の団員は士気が高まったのか表情を明るくする。

 矢が飛んでこなくなったら全員で森林に突撃し、攻めて来た奴らを黙らせてやる。団員たちはそう思いながら森林に視線を向けた。

 団員たちが森林に視線を向けると、再び矢が勢いよく飛んで来てアジトの中に設置されているバリケードに命中し、音を立てながら粉砕した。

 破壊されたバリケードの残骸は周囲に飛び散り、それを近くで見た団員たちはテントやバリケードを破壊して、少しずつ自分たちが身を隠せる場所を無くそうとしているのではと予想する。

 バリケードが破壊された直後、団員たちは次の攻撃を警戒する。ところが、どういうわけかバリケードが破壊されてから、強力な矢は飛んでこなくなった。

 攻撃が止んだことで、団員たちは強力な矢を撃てなくなったと予想し、一気に反撃しようと考える。

 団員たちは武器を手に取り、物陰から姿を現そうとした。すると突然、森林の中から四体のモンスターが姿を現す。

 薄い茶色の体で二足歩行をする昆虫族モンスターと蜘蛛の下半身をした人間の女のようなモンスターが二体ずつ現れ、クローディア戦団のアジトを見つめている。

 レザーキャップの団員は矢が飛んできた森林から昆虫族モンスターたちが現れたのを見て、再び目を大きく見開く。


「な、何? 昆虫族のモンスター?」


 てっきりダークエルフたちが攻めて来たのかと思っていたのに、昆虫族モンスターが現れたのを見たレザーキャップの団員は自分の予想が外れたのかと、驚いたまま昆虫族モンスターたちを見つめる。

 しかし、レザーキャップの団員が昆虫族モンスターたちを見つめる中、昆虫族モンスターたちの後ろから二十人ほどの武装したダークエルフたちが姿を現した。


「ダークエルフ! やっぱりアイツらが攻めて来たのね。……でも、何で昆虫族モンスターがダークエルフたちと一緒にいるのよ……」


 更に予想外の状況を目の当たりにしたレザーキャップの団員は僅かに表情を歪ませる。

 ダークエルフについては最初から予想していたため、姿を現しても驚いたりはしない。だが、ダークエルフと共に昆虫族モンスターが自分たちのアジトに攻め込んで来たことには衝撃を受けていた。

 しかも、昆虫族モンスターは後ろにいるダークエルフたちを襲う様子を見せていないため、団員たちはダークエルフが昆虫族モンスターを従わせているのではと考えた。


「……ダークエルフの中に団長みたいにモンスターを配下にする技術スキルを持った奴がいたってこと? あるいは技術スキルとかじゃなく、餌とかを与えて仲間にしたのか……」


 どんな方法を使ったのかは分からないが、状況から昆虫族モンスターがダークエルフたちの仲間で、自分たちを襲おうとしているのは間違いない。

 レザーキャップの団員はダークエルフたちへの警戒を強くしながら周りにいる仲間たちを見回した。


「皆、状況からダークエルフたちは接近戦を仕掛けて来るみたいよ。しかもどんな方法を使ったか知らないけど、昆虫族モンスターを手懐けて戦力に食われているわ」


 レザーキャップの団員の言葉に周りの団員たちは目を鋭くし、ダークエルフたちを睨みながら持っている武器を構える。

 団員たちは今まで下に見ていたダークエルフたちが、自分たちと真正面からぶつかろうとしていることを腹を立てているようだ。


「でも、接近戦を挑んでこようと私たちに勝ち目は無いわ。全戦力ではこっちが勝ってる上に、団長が配下にしたモンスターたちもいるんだから!」


 そう言うとレザーキャップの団員は後ろを見ながら口笛を鳴らす。

 口笛を鳴らした直後、後方にある複数のテントの陰からグレイファング、薄い茶色の大きな猫のようなモンスター、赤茶色の体毛を生やした熊のようなモンスターなど、数種類の獣族モンスターが姿を現れて団員たちの近くに集まる。

 その数は十体で、アジトの北側に集まっている団員たちと合わせるとダークエルフたちを上回る数になった。

 獣族モンスターたちの力を使えばダークエルフたちに難なく勝てる、団員たちはそう確信していた。

 ダークエルフたちも同じようにモンスターを従えているようだが、数はたったの四体。団員たちは自分たちが負けるとは微塵も考えていないようだ。


「全力で叩きのめして、アイツらに思い知らせてやりましょう。自分たちがどれだけ弱いか、そして、ダークエルフが私たち人間に支配されるだけの存在だってことをね!」


 レザーキャップの団員が剣を抜いて力の入った声を出すと、周りにいる団員たちは一斉に戦闘態勢に入る。

 構える団員たちはダークエルフたちが昆虫族モンスターたちを引き連れて向かってくるのを待つ。そんな時、森林の奥から新たに二つの人影が現れて待機しているダークエルフたちの前に出た。

 二つの人影の内、一つは女ダークエルフで目を鋭くしながら団員たちを睨んでいる。

 そして、もう一つは漆黒のプレートアーマーと真紅のマントを装備した人型の甲虫の異形で、目を黄色く光らせながら遠くにいる団員たちを見つめた。


「な、何よアイツ……」


 レザーキャップの団員は女ダークエルフと共に現れた甲虫の異形を見ながら目を見開く。

 状況から先に出て来た昆虫族モンスターと同じように、ダークエルフに手懐けられた存在なのかもしれないと予想していた。

 ただ、他の昆虫族モンスターとは明らかに雰囲気が違い、レザーキャップの団員は甲虫の異形に対して不気味さを感じている。

 何だか嫌な予感がする。レザーキャップの団員はそう考えながら甲虫の異形を見つめた。


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