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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第4章  魔王国の統治者
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第79話  戦団の統べる女


 クローディア戦団の偵察隊と戦った場所から少し離れた場所でゼブルはティリア、防衛長と共に南の方角を見つめていた。

 ゼブルたちは現在、クローディア戦団のアジトに向かうまでの道のりの確認するため、シムスたちと別行動を取っている。


「では、此処から南に数百m行った所にクローディア戦団のアジトがあるわけだな?」

「ハイ、奴らは木の生えていない広場に無数のテントを張り、そこを活動の拠点としています」


 防衛長は自分たちが持つクローディア戦団のアジトに関する情報をゼブルに細かく説明する。


「拠点の周りには我々が近づけないよう、複数の罠を設置しているようです。しかも手懐けたモンスターたちにも見張りをさせているため、偵察隊は拠点に近づくことができず、罠の設置場所やアジトの内部、敵の人数などの有力な情報は得られませんでした」

「恐らくクローディア戦団も森林戦を得意としてるんだろう。そうでなければアンタたちが近づけないように罠を設置するなんてことはできない」


 お互いに森での戦いを得意としている点から、ゼブルはモンスターを従え、罠を設置しているクローディア戦団の方がダークエルフたちよりも有利だと感じる。

 現状からこのままクローディア戦団のアジトへ向かうのは危険なため、普通なら慎重に進むべきだと考えるだろう。

 だが、ゼブルはクローディア戦団の戦力や設置されている罠などを一切恐れていない。自分がいればダークエルフたちが勝つと確信しているからだ。


「俺たちはこのまま予定どおり、最短ルートを通ってクローディア戦団のアジトへ向かう。時間を掛けると面倒な事態になるかもしれないからな」

「しかし、奴らのアジトの周囲には無数の罠が仕掛けられています。しかも連中が罠や人員をどのように配置しているかも分かりません。ここから先は警戒しながら進んだ方がよろしいのかと……」

「その心配はない。俺がいれば奴らが仕掛けた罠など何の意味も無いからな」

「は?」


 ゼブルの言葉の意味が分からんず、防衛長は目を細くしながら小首を傾げる。

 黙って二人の会話を聞いていたティリアはゼブルが自身の技術スキルや魔法、マジックアイテムなどを使って罠を対処するつもりでいると想像しており、ゼブルを見ながら「相変わらず凄い」と考え、小さく苦笑いを浮かべていた。


「それにクローディア戦団の情報はすぐに手に入るだろうしな」

「……成る程」


 防衛長は深刻そうな表情を浮かべながら呟く。その表情は何かに対して抵抗を感じているように見えた。

 ティリアもゼブルの言葉を聞いて、若干複雑そうな顔をしながら小さく俯く。


「大将、此処にいたのか」


 背後から声が聞こえ、ゼブルたちが振り返ると真っすぐ自分たちの方へ歩いてくるシムスとそれに付き従うように同行するアセーラの姿があった。

 シムスは無表情だが、アセーラは何か嫌なものを見てしまったような歪んだ表情を浮かべている。

 アセーラの顔を見た防衛長は何かを察し、アセーラを見ながら気の毒に思うような反応を見せた。


「どうだった?」

「ああ、あの嬢ちゃん、全部話してくれたぜ。クローディア戦団の戦力やアジトの詳しい情報とかをな」

「そうか。……素直に話してくれたのか?」


 ゼブルが問いかけるとシムスは小さく笑った。


「素直に話してくれたら、もっと早く此処に来てたさ。……最初は俺らにビビりながらも一切情報を吐かずにいたぜ? 『団長を裏切るわけねぇだろうが!』ってな」

「つまり、予定どおり“あれ”をやったってことか」

「ああ、相当効いたのか、ちょっと痛い思いをしたら全て喋ってくれた」


 シムスの話を聞き、ゼブルは「そうか」と言いたそうにコクコクと頷く。

 実はクローディア戦団の偵察隊の一員である橙色の髪の団員を捕らえた後、防衛長は捕らえた団員からクローディア戦団の情報を聞き出そうとしていた。敵の人数や仕掛けらえている罠の配置などが分かれば、戦闘や仲間を救出する多彩に少しは動きやすくなるかもしれないと考えたからだ。

 だが、捕らえた橙色の髪の団員は、ダークエルフや彼らに同行しているゼブルやモンスターたちに驚きこそしたが、仲間の情報は一切話そうとしなかった。

 橙色の髪の団員が情報を話さないため、防衛長は情報を聞き出すことを諦めて先へ進むしかないと考えた。するとゼブルがシムスと配下のモンスターに任せてほしいと進言したのだ。

 防衛長がゼブルに情報を上手く聞き出せるのか尋ねると、ゼブルは素直に喋らないのなら多少手荒な方法を取ると伝える。

 ゼブルの言葉を聞いた防衛長は情報を聞き出すため、拷問のような行動を取るのだと察した。


 EKTでは魔王プレイヤーが捕らえたNPCから情報を聞き出したり、配下に入れたりするために拷問を行うことができるようになっている。

 ゼブルはEKTをプレイしている時にモンスターたちに拷問を行わせていた。そのため、情報を入手するために敵を拷問することに対して抵抗は無く、どうすれば効率よく情報を聞き出せるのかよく分かっていた。

 因みにNPCに拷問を行うことができるVRMMOGはゼブルがいた現実リアルの世界ではEKT以外には数えるくらいしかないため、現実リアルの世界ではそれなりに話題になっていた。


 防衛長としては手荒な方法を取らずに情報を聞き出したいと思っていたが、仲間を救出するためにも情報が必要なため、仕方なくゼブルたちに頼むことにした。

 情報を聞き出すまでの間、ゼブルと防衛長は今後の予定について話し合うために別行動を取り、情報の聞き出しはシムスとモンスターたちに任せた。

 そして、アセーラは情報をすぐに仲間たちに伝えられるよう、シムスたちの傍で情報の聞き出しを見届けることのしたのだ。

 防衛長はアセーラが暗い表情を浮かべていることから、予想どおり拷問を行って情報を聞き出したのだと知り、アセーラが拷問を目の当たりにして気分を悪くしたのだと悟った。


「リーダーへの忠誠心はあっても所詮は盗賊。拷問を受けてまで秘密を守ろうとする意志は無かったようだな」

「ああ、それもアッサリと情報を吐いた理由の一つだろうな」


 クローディア戦団の団員たちの忠誠心が小さいこと、保身を優先して仲間を裏切ったことにシムスは肩を竦めながら呆れる。

 ゼブルも欲深い連中で集まった盗賊団の絆も所詮はその程度だと感じていた。しかし、絆が弱いおかげですぐに情報を聞き出すことができたため、それに関しては都合が良かったと思っている。


「あ、あの、ゼブル様。捕まえた団員は、どうされるのでしょうか?」


 拷問を受けたクローディア戦団の団員が今後どうなるか気になるティリアは不安そうな顔でゼブルに尋ねる。

 ティリアとしては、犯罪を犯した盗賊でも若い娘が最悪の結末を迎えることに抵抗を感じているため、多少は慈悲を与えてあげてほしいと考えていた。

 ゼブルは声をかけて来たティリアの顔を見て、彼女が何を考えているのか察する。


「……素直に情報を吐いたからな。あの姉ちゃんの命は助けてやるつもりだ」


 捕らえた団員が殺されることは無いと聞いたティリアは安心したのか静かに息を吐いた。


「ただ、あっちが暴れたり、シムスに話した情報が嘘だった場合はまた痛い思いをしてもらうことになるかもしれんな」

「そう、ですか……」


 全ては捕らえられている団員たちの言動次第。団員の命が保証されたわけではないと知ったティリアは複雑そうな表情を浮かべながら呟いた。


「それで、どんな情報が手に入ったんだ?」


 ティリアの質問に答えたゼブルはどのような情報を聞き出せたのかシムスに尋ねる。

 シムスはゼブルの方を向くと笑みを消し、目を僅かに鋭くしながら口を開く。


「まず戦団の戦力についてだが、あの嬢ちゃんの話では団員は全部で四十三人。それ以外に連中のリーダーが配下にしたモンスターが二十一体いるそうだ」

「なっ! そんなにいたのか……」


 防衛長は敵の戦力を聞き、予想よりも戦力が多いことに驚く。

 これまでの情報から少なくても十人以上はいるだろうと予想していたが、それを遥かに超える数だったため衝撃を受けていた。

 しかも配下のモンスターも二十一体もいるため、かなり厳しい戦いになるかもしれないと防衛長は僅かに表情を険しくする。


「ティリアが言っていたとおり、団員たちはCランク冒険者と同等の力を持っているらしい。そして手懐けられているモンスターもさっきのグレイファングのような凶暴な種類だそうだ」

「……連中はモンスターを戦力として利用しているそうだが、どうやってモンスタ―たちを手懐けた? 団員の中にテイマー系の職業クラスを修めている奴がいるのか?」

「いいや、捕まえた団員の話では、奴らのリーダー、つまりクローディア戦団の団長が固有技術ユニークスキルを使ってモンスターたちを従わせてるみてぇだ」

固有技術ユニークスキル?」


 異世界にしか存在しない特別な技術スキルをクローディア戦団の団長が開花させていると聞いてゼブルは反応する。

 ティリアも盗賊の中に固有技術ユニークスキルを使える者がいると知って意外そうな顔をしていた。

 これまでに出会った固有技術ユニークスキルが使える存在は冒険者であり、ゼブルと戦う勇者候補の一人であるエファリア・メルホルトのみ。ゼブルにとっては二人目の固有技術ユニークスキルを開花させた存在だったので興味があった。


「そのクローディア戦団の団長が使える固有技術ユニークスキルっていうのは、どんな能力なんだ?」

「戦団の連中も詳しくは分かってねぇみてぇだ。ただ、技術スキルを発動し、配下にしたいモンスターに攻撃を当てればそのモンスターを配下における能力みたいだぜ」

「成る程、戦力を増強させるのに使える技術スキルってわけだ」


 使い方によっては非常に役立つ、ゼブルはシムスの説明を聞いてそう感じた。

 クローディア戦団の団長が固有技術ユニークスキルを開花させていると聞いた時、ゼブルはエファリアに続く勇者候補の一人になるかもしれないと考えていた。

 だが、盗賊として犯罪を犯し、ダークエルフたちを平気で捕らえようとする存在が勇者候補やその仲間になるとは思えない。

 ゼブルは団長が勇者やその仲間になる可能性は低いと感じ、勇者候補にせずとも、人格を確かめてからどうするか決めることにした。


「戦力や固有技術ユニークスキル以外に何か有力な情報を吐いたのか?」

「あとはアジトの周囲に仕掛けてある罠の数と位置だな。数は三十以上でアジトを囲むように設置してあるらしい」


 固有技術ユニークスキルほど重要ではないが、アジトに近づく際に使えるとゼブルは感じながら話を聞いていた。


「それと、例の結界を突破した方法についても話してくれたぜ」


 シムスの言葉にゼブルと防衛長は反応する。二百年前の勇者でも破れないと言われた結界を盗賊が突破したため、ゼブルと防衛長はどんな手を使ったのかとても気になっていた。ある意味で戦力や罠の配置などよりも重要な情報と言ってもいい。


「どうやら戦団の団長がマジックアイテムを使い、結界の一部に穴を開けてそこから侵入したそうだ」

「結界に穴を?」

「ああ、穴を開けるだけで結界を解除するわけじゃねぇから、しばらく経つと開けた穴は塞がっちまうらしい」

「成る程、それならダークエルフたちが結界の異常に気付かなかったのも頷けるな」


 ダークエルフたちに悟られることなくポルザン大森林に侵入できた理由を知ってゼブルは納得する。

 EKTの世界にも結界を解除したり、一定時間通過できるようにするマジックアイテムは存在するため、マジックアイテムを使って通過したと聞いてもゼブルは驚かない。

 ただ、異世界にはEKTの世界には存在しないマジックアイテムなどが存在するため、クローディア戦団の団長が持っているマジックアイテムもゼブルの知らないマジックアイテムである可能性があった。

 ゼブルはクローディア戦団を壊滅させたら、結界に穴を開けるマジックアイテムを必ず手に入れてやると決意する。


「あとは捕まえたダークエルフが何処にいるかとかを話してくれたぜ。あの嬢ちゃんから聞き出せた使えそうな情報はこんなところだな」

「……一つ聞きたいのだが、聞き出した情報、本当に信用できるのか?」


 今まで黙って話を聞いてた防衛長は低めの声を出しながらシムスに尋ねる。

 信用できる根拠などが無い状態で聞かされても、その情報が信用できるとは断言できない。捕らえた団員が自分を守るためにいい加減なこと、もしくは自分たちを罠に嵌めるために嘘を言ったのかもしれないため、防衛長は聞き出した情報を完全に信用することができなかった。


「完全には信用したわけじゃねぇ。ただ、拷問にかけて聞き出した情報だ。心身共に追い詰められた女があの状態で嘘を言うとは思えねぇよ」

「だから信用できると?」

「嘘をついている可能性は低いってことだ。現状じゃあ、これ以上問い詰めても他の情報は吐かねぇだろうし、信用できる根拠とかも得られねぇ。今は手に入れた情報が真実だと考え、やるべきことをやるだけだ」


 説明するシムスを見た防衛長は、若干納得できないような表情を浮かべながら目を逸らす。

 シムスも万が一団員が話した情報が嘘だと分かったら、再び団員から情報を聞き出そうと思っている。勿論、嘘だった場合は今度こそ真実を話してもらうため、以前よりも手荒な方法で聞き出すつもりだ。


「とりあえず、俺たちはこのままクローディア戦団のアジトへ向かう。そして、手に入れた情報をもとに作戦を練り、捕らえられたダークエルフたちを救出し、戦団を壊滅させる」


 予定を確認するように語るゼブルを見て、ティリアは無言で頷く。

 シムスも異議はなく、真剣な表情を浮かべながらゼブルを見ていた。

 防衛長も情報が信用できないからと言ってこのまま動かずにいるわけにはいかないと考え、予定どおりクローディア戦団のアジトに向かうことにした。


「……では、手に入れた情報を皆に伝えてから移動します。アセーラ様、皆を集めてください」

「分かりました……」


 指示を受けたアセーラは小さな声で返事をすると、ゼブルたちに背を向けて歩き出す。

 クローディア戦団の団員が拷問される光景を見たため、アセーラはまだ少し気分の悪そうな顔をしている。

 だが、いつまでも暗くなってはいられないため、アセーラは捕まった仲間を救出することだけを考えるよう自分に言い聞かせ、気持ちを切り替えながら仲間の下へ向かった。


「ゼブル様、捕まえた団員の子はどうされるんですか?」

「とりあえずは同行させる。もしクローディア戦団の戦力やアジトの情報が聞き出したものと異なっていた場合、すぐに本人に確認できるようにな」


 もし情報が違っていた場合、捕らえた団員がどんな目に遭うのか想像するティリアは、団員のためにも情報が真実であってほしいと心の中で願うのだった。

 その後、ダークエルフやモンスターたちにクローディア戦団の情報を伝え、ゼブルたちは再びクローディア戦団のアジトを目指して南へ移動する。

 一度偵察隊と遭遇したため、他にクローディア戦団の団員がいないか警戒しながら先へ進んだ。


――――――


 ポルザン大森林の南にある広場。木は生えておらず、地面が平らで休息を取ったり野営をするには打ってつけの場所だ。

 そんな広く見通しの良い場所に無数のテントが張られており、その周りには濃い緑の長袖、茶色の長ズボン姿の若い女たちが剣や弓矢を装備しながら周囲を見回している。

 他にもテントの中でくつろいだり、テントの近くに置かれた丸太を椅子代わりにし、食事をしたり、酒を飲んだりして騒いでいる女たちもいた。

 若い女たちはポルザン大森林に侵入した盗賊団、クローディア戦団の団員たちで、団員たちがいる広場こそ、クローディア戦団がアジトだった。

 アジトの周りにはポルザン大森林の木々などを使って作成したバリケードが一定の間隔を開けて設置されており、その近くでは見張りの団員たちがアジトの周囲を見回している。そして、団員たちの近くにはグレイファングなど、様々な種類の獣族モンスターが待機していた。

 アジトの中央にあるテントでは一人の若い女が寛いでいる。女は二十代半ばぐらいで身長160cm強、豊満な胸と青い目を持ち、肩に届くくらいの長さの茶髪をしていた。

 胸の谷間が見える茶色の長袖、灰色の半ズボン姿をしており、黒いロングブーツを履いている。そして、鉄製のショルダーアーマーを装備し、腰には二本の短剣を差していた。

 床に座っている茶髪の女の後ろには一体の獣族モンスターが体を丸めて横になっていた。体長は約2.2m、体高は1.5mはあり、さび色のたてがみと少し薄い灰色の体毛を生やした獅子のようなモンスターだ。

 獣族モンスターはプランドラーレオと呼ばれる下級モンスターで、レベルは30から33と下級モンスターの中ではそれなりの強さを持っている。

 凶暴で移動速度も速く、上級冒険者も一人ではプランドラーレオを倒すのは難しい。もしプランドラーレオを単独で倒せたら、その人物は周囲から英雄級の実力者と認められると言われている。

 茶髪の女は片手に木製ジョッキを握り、中の酒を飲むと笑いながら後ろで寝ているプランドラーレオにもたれかかる。

 プランドラーレオは女がもたれかかっても嫌がる素振りなどは見せず、片目を開けて女を見た後に再び目を閉じた。その光景はまるで主人と飼われているペットのようだ。


「おい、酒を注げよ」


 茶髪の女は木製ジョッキを前に出しながらテントの隅に目をやる。視線の先には下着だけを身に付けた十代前半ぐらいの人間の少年がおり、酒瓶を持ったまま怯えた表情を浮かべていた。


「聞こえねぇのか? さっさと酒を注げ」

「は、ハイ……」


 返事をした少年は震えた声で返事をすると茶髪の女に近づき、持っている酒瓶の中身を木製ジョッキに注ぐ。

 少年は茶髪の女とプランドラーレオに恐怖して震えており、それにより酒瓶も震えて注がれている酒がこぼれそうになる。


「分かってると思うが、酒をこぼしたら俺の可愛いペットの餌にすっからな?」

「……ッ!」


 茶髪の女の言葉に少年は目を大きく見開いた。

 酒をこぼせば殺されてしまう。その考える少年は涙目になりながら必死に酒をこぼさないように注いだ。

 やがて酒が木製ジョッキいっぱいに注がれると、少年は酒瓶を上げて木製ジョッキから離す。

 

「よぉしよぉし、いい子だ。ご褒美に今夜は俺がたっぷり気持ちよくしてやるぜ」

「あ……ありがとう、ございます……」


 少年は礼を言うとゆっくりと後ろに下がり、最初に立っていた場所に戻った。

 最初の位置に戻った後も少年は涙目のまま震えており、無理矢理茶髪の女に奉仕させられているのが一目で分かる。

 茶髪の女はプランドラーレオにもたれたまま、木製ジョッキの中の酒を飲む。酒が美味いのか、女は木製ジョッキの中に残る酒を見ながらニッと笑みを浮かべるのだった。


「失礼します」


 酒を飲んでいると、二十代前半ぐらいで茶色いレザーキャップを被った薄い水色の髪の団員がテントに入ってくる。

 茶髪の女は団員を見ると面倒くさそうな表情を浮かべ、持っている木製ジョッキの床に置いた。


「何だよ、また奴隷の値段の確認かぁ? んなもんお前らで勝手に決めればいいだろう」

「そうはいきませんよ。こういう重要なことは団長にしっかり決めてもらわないと」


 団員は困り顔をしながら団長と呼ぶ茶髪の女に近づき、隣までやって来ると正座をして持っている羊皮紙を差し出す。

 茶髪の女は軽く舌打ちをすると、団員から羊皮紙を受け取って書かれてある内容を確認する。そう、茶髪の女こそ、クローディア戦団の団長であるサリィ・クローディアなのだ。

 冒険者時代に冒険者ギルドの規律を破って冒険者の資格を剥奪されて以降、サリィは盗賊に成り下り、クローディア戦団を結成してからは数え切れないほどの犯罪を犯した。

 しかもモンスターを配下にする固有技術ユニークスキルを開花させているサリィは、技術スキルを利用して多くのモンスターを支配下に置き、クローディア戦団を並の冒険者では敵わないほどの組織に成長させたため、キュレースト王国では厄介な存在として見られている。

 因みにサリィがもたれかかっているプランドラーレオも固有技術ユニークスキルを使って配下にした存在だ。


「……やっぱ、ダークエルフは高値で売ることにしたんだな?」


 羊皮紙に書かれてあるダークエルフの値段を確認したサリィが団員に尋ねると、団員は被っているレザーキャップを直しながら小さく頷いた。


「ええ。ダークエルフは珍しく、取引しても国によっては法的に罰せられる可能性が低いですからね。多くの連中が欲しがる存在です。だから、多少高くしても欲しがる奴は買うはずです」

「殆どの国がダークエルフを奴隷として扱うことを認めてるからな。例え奴隷商や悪趣味ない貴族どもに非合法に売ったとしても、その国の軍や冒険者たちも簡単には動けねぇ。フフフ、売る側からすればありがてぇことだ」

「で、団長。ダークエルフの値段はこの額でよろしいですか?」

「ああ、問題ねぇだろう」


 羊皮紙を団員に返したサリィは木製ジョッキを手に取って残っている酒を一気に飲み干す。


「そう言やぁ、少し前にも新しくダークエルフを捕まえて来たんだろう?」

「ハイ。今度は若い男のダークエルフが数人、あと女のダークエルフを捕らえたそうです」

「なら、いつもどおり下着以外は全部ひん剥いて拘束しとけ。逃げられないよう、しっかり見張らせろ?」

「勿論です」


 団員は用が済んだのか、立ち上がるとテントの外の出るために出入口の方へ歩いて行く。すると、出入口の前まで来た団員は立ち止まり、振り返ってサリィの方を向いた。


「あの、団長。最近団員たちがダークエルフたちの探索と長時間大森林に留まっていることが原因で、神経をすり減らしているようなのです。この辺りで一度、団員たちに休息と遊びの時間を与えるのはどうでしょうか?」


 サリィは団員の言葉を聞き、彼女が何を言いたいのか察して笑みを浮かべる。


「ああ、いいぜ。捕まえたダークエルフの中には俺らに反抗的な奴がまだいるはずだ。ソイツらに自分たちの立場を分からせるという意味でも、可愛がってやれ」


 捕らえたダークエルフたちに団員たちの相手をさせるようサリィは不敵な笑みを浮かべながら許可を出した。

 クローディア戦団では、サリィや団員たちがストレスを溜め込んだ際に誘拐した若い男たちを抱いてストレスを発散することにしていた。

 ただ、奴隷商などに売る時に傷が少ない方が奴隷として高値で売れる。サリィたちもそれを理解しているため、全ての奴隷を抱いたりせず、一部の者だけをストレス発散の道具として利用しているのだ。

 ダークエルフを抱く許可を出したサリィを見て、レザーキャップの団員も笑みを浮かべる。どうやら報告に来た団員も他の団員たちと同じようにストレスが溜まっていたようだ。

 折角許可が出たのだから、仲間たちに抱かせるついでに自分も一緒に楽しんでやろうと団員は思っていた。


「先程捕らえたダークエルフたちも使いますか?」

「好きにしな。ただ、他の奴らに回すんだったら、その前に俺に見せろ。俺好みの男がいたら、最初に味見させてもらうからよ」

「分かりました。すぐに捕らえた男どもを連れて来ま……」


 団員がサリィと会話していると、突然テントの外から大きな音が聞こえてきた。

 音を聞いたサリィと団員は目を大きく見開き、横になっていたプランドラーレオも顔を上げる。

 酒瓶を持っていた少年も驚いて思わず持っていた酒瓶を落とす。酒瓶が割れ、テント内に酒が広がるが、音に驚いていたサリィはそんなこと気付いていなかった。


「おい、何だ今の音は?」

「分かりません。何かが吹き飛んだような音でしたが……」


 何が起きたのか分からずに困惑していると、濃い茶色の短髪をした団員が勢いよくテントに飛び込んできた。


「だ、団長! アジトが何者かの襲撃を受けています」

「襲撃!? どういうことだ!」


 自分たちのアジトが襲撃を受けたという報告にサリィは驚きを隠せずにいる。

 当然だ。アジトの周りには常に大勢の団員と手懐けた獣族モンスターたちを配置し、アジトから離れた場所には大量の罠を設置して敵が近づけない状態にしているのだから。


「いったい何が起きたのか、もっと詳しく説明して」


 レザーキャップの団員が説明を求めると、茶髪の団員は驚きの表情を浮かべながら口を動かす。


「さ、先程、アジトの北の方から何かが飛んできてテントの一つを吹き飛ばしました。飛んで来た物を確認したら、一本の矢だったんです」

「矢? 弓とかボウガンに放つ?」

「ハイ」


 茶髪の団員が深刻な表情を浮かべながら頷くと、報告を聞いていたサリィは表情を鋭くしながら立ち上がった。


「ふざけてるのか! たった一本の矢でテントが吹き飛ぶわけねぇだろうが!」

「で、でも、本当に一本の矢でテントが吹き飛ばされたんです。まるで攻撃魔法を撃たれたかのように……」


 険しい顔をするサリィに驚きながらも、茶髪の団員は報告内容が真実であることを説明する。

 最初は団員がふざけて報告していると思っていたサリィだったが、団員の態度と先程の音から、本当にテントを吹き飛ばすほどの威力の矢が放たれたのではと感じ始めていた。


「……矢でテントが吹き飛んだと言ったが、それ以外に被害は出たのか?」


 冷静になって現状を確かめるサリィを見て、茶髪の団員は信じてくれたのだと安心する。


「今のところ、負傷者は出ていません。ですが、アジトが何者かの攻撃を受けているのは間違いありません。まもなく、矢を放った奴がアジトに攻め込んでくるかと思います」

「どんな方法でそんな高威力の矢を放ったかは知らねぇが、敵が矢を当てられる距離まで接近したのは間違いねぇだろう。……そして、矢を撃ったのは十中八九ダークエルフだ」


 ダークエルフを捕らえた直後にアジトが襲撃されたことから、サリィはダークエルフが攻めて来た可能性が非常に高いと考えていた。

 襲撃して来たのがダークエルフだと聞いた団員たちは、驚きの反応を見せながらサリィに視線を向ける。もし本当にダークエルフたちが襲撃して来たのなら、目的は捕らえられた仲間の救出だと二人は確信していた。


「団長、いかがいたしますか?」


 レザーキャップの団員が尋ねると、サリィは再び表情を鋭くして団員の方を向いた。


「んなもん、迎撃するに決まってんだろう! アジトにいる奴ら全員で迎撃し、ダークエルフどもを返り討ちにしろ。生け捕りが無理なら殺しても構わねぇ!」

「ハイ!」


 返事をしたレザーキャップの団員は走ってテントから飛び出し、報告に来た茶髪の団員もその後に続く。

 残ったサリィは奇襲を受けたことが気に入らず、拳を強く握りながら険しい表情を浮かべる。


「俺を出し抜こうなんて百年早いんだよ。……もし生け捕りにしたら、死んだ方がマシだって思うくらい甚振ってやるからなぁ」


 襲撃して来た者たちに苛立ちを露わにしながらサリィは呟く。

 サリィがもたれかかっていたプランドラーレオも立ち上がり、サリィの隣にやって来て小さな唸り声を出していた。


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