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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第4章  魔王国の統治者
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第78話  欲の大きな女盗賊


 クノモダ族の集落から南に約3km。地面が平らで歩きやすく、茂みの多い場所で二人のダークエルフが茂みの陰に隠れている。彼らは数十分前にクローディア戦団と交戦した警備隊の隊員たちだ。

 捕まった仲間を救出するため、クローディア戦団のアジトの偵察しようとしていたが、ダークエルフたちは動けずにいた。

 ダークエルフたちは音を立てずに茂みから顔を出して前を確認する。200mほど先では濃い緑色の長袖と茶色の長ズボンの格好をした人間の女が三人いた。

 三人とも十五から二十歳くらいの若させ、全員がチェインメイルを装備し、剣を握りながら周囲を見回している。そして、三人の中心では一体の狼のようなモンスターが付き従うように待機していた。

 狼のようなモンスターは体高が90cmほどで体長は1mはあり、通常の狼と比べた僅かに大きい。濃い灰色の体毛を生やし、黄色の目で辺りをキョロキョロと見回している。その姿は周囲を警戒しているように見えた。


「偵察隊か。……面倒だな」

「ああ、剣士が三人にグレイファング、俺らだけじゃあ対処は難しい」


 人数が自分たちより多い上にモンスターを引き連れていることから勝ち目は無いとダークエルフの一人が感じる。もう一人も悔しそうな顔で女たちを見ていた。

 ダークエルフたちの視界に映る女たちこそ、ポルザン大森林でダークエルフたちを襲う盗賊団、クローディア戦団の団員たちだった。

 森林での戦いに慣れているのか、団員たちは大きな隙を見せることなく周囲を見回している。

 団員と同行している狼のようなモンスター、グレイファング。レベルは15から18と下級の獣族モンスターの中では弱い方だが、移動速度が速いため、戦況によってはレベル20代の敵とも互角に戦うことができる。

 更に嗅覚も鋭く、敵や物の場所を感知することも可能で、ビーストテイマーを職業クラスにしている者からは使えるモンスターとして見られていた。


「奴らのアジトまでもうすぐだって言うのに……クソォ、今すぐにでも奴らを叩きのめしてやりてぇ」

「落ち着けよ。俺らの役目はあくまで敵の見張りと情報収集だ。捕まった連中を助けるために敵地に突っ込んだらお終いだぞ?」

「分かってる。だけどよ、俺たちがこうしている間にも捕まった奴らは戦団の人間どもに痛めつけられているかもしれねぇんだ。何もせずに救出部隊が来るのを待つだけなんてできねぇよ」


 仲間が悔しがる姿を見て、もう一人ののダークエルフは複雑そうな顔をする。彼も心の中ではすぐにでも捕まったダークエルフたちを救出したかった。だが、たった二人で敵地に突撃するのは自殺行為だ。

 今の自分たちに出来るのはクローディア戦団に見つかることなく、情報を集めながら救出部隊が来るのを待つことだけなので、ダークエルフは助けに行きたいという気持ちを抑えながら遠くにいる団員の女たちを見張る。

 二人のダークエルフは茂みから少し顔を出した状態でクローディア戦団の様子を窺う。そんな時、背後から無数の小さな足音が聞こえてきた。

 現状からダークエルフたちはクローディア戦団の団員が他にもおり、自分たちを見つけて背後に回り込んだのではと予想し、緊迫した表情を浮かべて振り返る。

 ダークエルフたちの視線の先には、遠くから大勢のダークエルフが自分たちの方へ走ってくる姿があった。

 しかも先頭には防衛長の姿もあり、見張りをしていたダークエルフたちは仲間の姿を見て、救出部隊が来たのだと笑みを浮かべる。

 だが、防衛長たちの後ろを空を飛ぶ人型の甲虫の異形と蝶の羽根を生やした人間の女、奇妙な格好をするウェアウルフ。そして下半身が蜘蛛の人間の女たちを見た瞬間、見張りのダークエルフたちは大きく目を見開いた。


「お前たち、大丈夫か?」


 見張りをしていたダークエルフたちと合流した防衛長は安否を確認する。

 後をついて来ていたアセーラや他のダークエルフたちもクローディア戦団を見張っていた仲間の姿を見て、無事なのを知ると安心の反応を見せた。

 空を飛んでいた甲虫の異形と人間の女も防衛長の隣に下り立ち、ウェアウルフも木の枝から甲虫の異形の近くに着地する。

 下半身が蜘蛛の人間たちは枝の上からダークエルフたちを見下ろしていた。


「えっ……あ、ハイ、大丈夫です」


 驚いていたダークエルフの一人は防衛長に声を掛けられたことで我に返り、防衛長の方を見ながら頷く。

 さっきまでは甲虫の異形たちが自分や防衛長たちを襲おうとしているのではと考えていたが、防衛長たちが落ち着いている様子を見て、ダークエルフは異形たちが自分や仲間を襲う気は無いのかもしれないと予想する。


「そうか。……それで、状況はどうなっている」


 救出作戦を決行するためにも、まずはクローディア戦団の情報や現状を確かめる必要があると考える防衛長は見張りをしていたダークエルフたちに尋ねた。

 見張りをしていた二人のダークエルフは防衛長から現状を聞かれると、僅かに目を鋭くし、先程まで見張っていたクローディア戦団の団員たちの方を向く。


「数分前にクローディア戦団の人間どもを発見し、様子を窺っていたところです。人数は三人ですが、手懐けた思われるグレイファングも一緒です」


 現状を聞いた防衛長は反応し、ダークエルフたちが見ている方角を目を細くしながら確認する。

 遠くには周囲を見回している人間の女三人とグレイファングの姿があり、防衛長は見つからないよう、近くの木の陰に身を隠す。

 アセーラたちも防衛長と同じように遠くにいるクローディア戦団の団員たちに気付くと姿勢を低くしたり、茂みの陰に隠れた。

 異形たちも無言で移動すると近くの木の陰に身を隠す。


「……他に敵の姿は確認したか?」

「いえ、見つけたのはあそこにいる奴らだけです」

「そうか……視界に入っていないだけで、見えない所に他の人間たちがいる可能性もある。油断せず、念入りに周囲を警戒した方がいいな」


 防衛長の言葉に見張りをしていたダークエルフは無言で頷いた。

 もし他にもクローディア戦団の団員がいたら不意を突かれたり、挟み撃ちを受けるかもしれない。そうなれば自分たちは一気に不利になるため、防衛長は周囲の警戒も怠らないようにした。


「……あの、防衛長。防衛長に同行している者たちは全員救出部隊に選ばれた人物なのですか?」

「そうだ。集落にいる者の中も優秀な戦士で編成されている」


 クローディア戦団のアジトに向かい、捕まった者たちを救出するのだから、アセーラや戦闘能力の高い者たちを連れて来てもおかしくないと、見張りのダークエルフたちも納得する。

 だが、甲虫の異形たちについては救出部隊だと言われても受け入れられずにいた。


「では、そっちの昆虫族モンスターも救出部隊に加わっているのですか?」


 ダークエルフが視線を甲虫の異形に向け、不安そうな口調で尋ねる。

 防衛長はダークエルフが何を言いたいのかすぐに気付き、僅に表情を曇らせた。


「お前たちはゼブル陛下と初めて会うんだったな。……この方はファブール魔王国の統治者である、魔王ゼブル陛下だ」

「ま、魔王?」


 信じられない言葉にダークエルフは僅かに力の入った声を出す。

 ダークエルフの反応を見た防衛長は驚き、慌ててダークエルフの口を左手で塞いだ。


「大きな声を出すな。距離があるとはいえ、静かな森林で声を上げれば戦団の奴らに気付かれるぞ」


 今の声を聞かれたのではと、不安になる防衛長はさり気なくクローディア戦団がいる方角を確認する。

 遠くではクローディア戦団の団員の女たちが無表情で周囲を見回しており、グレイファングは地面の匂いを嗅いでいた。

 団員たちの反応から、声は聞かれていないと知った防衛長は静かに息を吐いた。

 人間の女たちはともかく、グレイファングは嗅覚と聴覚が鋭いため、下手をすれば声を聞かれてこちらに気付いていたかもしれない。

 しかし、グレイファングは声が聞こえていなかったのか、自分たちの方を向かず、鳴き声も上げなかった。防衛長はグレイファングが気付かなかったことに対し、本当に運が良かったと安堵する。

 防衛長はダークエルフの方を向き、ダークエルフが落ち着いたのを確認するとゆっくりと口から手を離す。


「改めて紹介しよう。この方はゼブル・ファブール陛下、今回捕まった仲間たちの救出を志願してくださった方だ」

「よろしくな」


 紹介されたゼブルは見張りのダークエルフの方を見ながら簡単な挨拶をする。

 ダークエルフは目の前にいる甲虫の異形が魔王だと言われたことで未だに驚いており、軽く目を見開きながら無言で頭を下げる。

 驚いてはいるが、挨拶をしなくてはいけないと考える冷静さは残っているようだ。


「ぼ、防衛長、これはどういうことですか? なぜ魔王が仲間の救出を?」

「それについては後で話す。今はあの盗賊どもを何とかし、アジトにいる仲間たちを救出することだけ考えろ」


 防衛長の言葉を聞き、ダークエルフは複雑そうな表情を浮かべる。

 正直、ゼブルとか言う魔王がどうして力を貸してくれるのか、今すぐその理由を聞きたい。だが、防衛長の言うとおり、捕らわれた仲間を助けることが現状では一番重要だ。

 仲間のためにも今は詳しく聞くのを我慢し、クローディア戦団の問題を解決することだけを考えることにした。


「さて、これからどうするか……」


 防衛長は約200m先にいるクローディア戦団の団員たちを見つめながら目を鋭くした。

 敵は盗賊が三人とグレイファングが一体だけなため、今の戦力なら問題無く倒せる。だが、今いる位置から見えない場所に敵が隠れている可能性もあるため、迂闊に近づくことはできなかった。


「もし敵の伏兵がいたら、アイツらに近づいた途端に囲まれてあっという間に不利になるだろう。……念のため、二手に分かれて周囲に伏兵がいないか調べるか」

「心配するな。近くに伏兵はいない」


 作戦を考えている防衛長にゼブルが声をかけると、防衛長はチラッとゼブルに視線を向ける。


「なぜ、そう断言できるのです?」


 ゼブルのことを信用し切れていない防衛長は、ゼブルがいい加減なことを言っているのではと感じながら尋ねる。

 アセーラや他のダークエルフたちも根拠が無いのに他に敵がいないと言われても受け入れられず、不満そうな表情を浮かべながらゼブルを見ていた。


「今、探索系魔法の探求者の目シーカー・アイズを使って500m圏内を調べたんだが、視界に映っている奴ら以外に敵の反応は無かった」


 魔法で周囲を調べたと聞いた防衛長は驚いたのか軽く目を見開く。

 話を聞いたアセーラやダークエルフたちも一斉に驚きの反応を見せている。


「……本当に、伏兵は潜んでいないのですか?」


 疑う発言をした防衛長をゼブルは無言で見つめる。

 目が合った防衛長はゼブルから威圧感のようなものを感じて黙り込んだ。

 普通なら探索系魔法を使って調べたと言われれば、本当に伏兵はいないと信じるのだが、ゼブルを警戒している防衛長はそれを素直に信じることができずにいた。


「信じられないのなら、アイツらの対処はこっちでやろう。アンタたちダークエルフは何もせずに見ていればいい」


 そう言うとゼブルは軽く上を向き、右手の人差し指でクローディア戦団がいる方角を指す。

 ゼブルが指差した直後、頭上を何かの影が通過し、影に気付いた防衛長やアセーラたちは上を向いた。


「ぜ、ゼブル陛下、先程のは……」

「フフフ、まぁ見てろ」


 質問に答えないゼブルは笑いながら遠くにいるクローディア戦団を見つめる。

 防衛長は不敵に笑うゼブルを見て、何か良からぬことを考えているのかと僅かに表情を歪ませるのだった。


――――――


 見通しの良い広場の中にクローディア戦団の団員である三人の若い女が剣を握りながら周囲を見回している。三人の中心では探索及び戦力として同行させたグレイファングが座っていた。

 彼女たちの役目は後方にあるクローディア戦団のアジトにポルザン大森林に棲みついているモンスターやダークエルフが近づいて来ていないかを見張りことだ。

 もし近づいてきたのがモンスターで、自分たちだけで排除することが可能ならそのまま倒し、難しかった場合は仲間に報告し救援を要請するようにしている。

 ダークエルフが近づいて来た場合は生け捕りにし、アジトに連れて帰るよう上から指示を受けていた。


「この辺りにはモンスターもダークエルフも近づいて来てないみたいね」


 金髪のショートボブの団員は周囲を見回しながら呟く。近くだけでなく、遠くもしっかり見て異常が無いか確認していた。


「そりゃあ、この辺りはアタイらの縄張りだからなぁ。近づこうとする馬鹿はいねぇさ」


 男のような口調で語る橙色の短髪の団員は、持っている剣を肩に掛けながら笑みを浮かべる。

 余裕の態度を取る仲間を見て、金髪の団員は目を細くしながら軽くため息をついた。


「そうやって気を抜いてるとまた失敗するわよ? この前だって、ダークエルフを捕まえようとした時に背後に回り込んだダークエルフに不意を突かれそうになったじゃない」

「うるせーなぁ。あん時はちーとばかり油断してただけだ」


 注意されたことが不満なのか、橙色の髪の団員は目を細くしなが金髪の団員を見る。

 一方で金髪の団員は言い訳をする仲間が面白いのか、小さく鼻で笑いながら橙色の髪の団員を見ていた。


「アンタたち、喋ってないで真面目にやりなさいよね」


 仲間たちのやり取りを見て、ウェーブの入った水色の長髪の団員が困ったような顔をしながら声をかける。


「へいへい、分かったよ」


 面倒くさそうに返事をする橙色の髪の団員を見て、水色の髪の団員は溜め息をつく。

 橙色の髪の団員は普段から仕事をいい加減にやっているため、水色の髪の団員は注意してもきっとすぐに忘れるだろうと内心では呆れていた。


「そう言えば、また新しいダークエルフを捕まえたって聞いたんだが、ホントなのか?」

「ええ、数十分前に捕まえた子たちがアジトへ連れて行ったらしいわ。今回は女のダークエルフもいたとか」

「女もってことは、男のダークエルフもいるんだよな? いい男はいたのか?」


 異性のダークエルフに興味があるのか、橙色の髪の団員は先程まで見せていた面倒そうな表情を消し、笑みを浮かべながら尋ねる。

 金髪の団員と水色の髪の団員は仲間の笑う姿を見て何を考えているのか察し、再び呆れたような反応を見せていた。


「貴女、また若い男のダークエルフで遊ぶつもりでしょう? いい加減にしないと団長に叱られるわよ?」

「大丈夫だよ。団長だって、自分の気に入った男と楽しんでるんだからよぉ」


 笑いながら問題無いと話す橙色の髪の団員を見て、金髪の団員はこれ以上何を言っても無意味だと感じるのだった。

 クローディア戦団は女だけで構成された盗賊団なので男は一人もいない。しかも盗賊として強奪や暴力などを行うため、団員である女の殆どが気の強く、男に対して性的な欲望を抱いているのだ。

 団長であるサリィ・クローディアをはじめ、殆どの団員は性欲が強く、誘拐した者の中に若い男がいたら自分たちの性欲を発散するための玩具として利用していた。

 もし誘拐した者の中に自分たちが気に入った男がいれば、その男は奴隷を欲しがる者たちには売らず、時間を掛けて弄ぶ。そして遊んでいた男に飽きたり、使い物にならなくなったら安値で奴隷商に売り飛ばして金を得ているのだ。

 見張りをしている三人の団員も男に対する性欲を持っている。ただ、橙色の髪の団員は他の二人よりも性欲が強く、若い男を捕らえたら何度も弄び、時には薬などを使ったりして楽しんでいた。

 故に仲間たちからは捕らえた男を壊す問題児として見られていたのだ。


「とにかく、もっと男を大事に扱いなさい? アンタが男を壊す度に高く売れる奴隷の数が減って困ってるんだから」

「分かった分かった。気を付けるって」


 絶対に口で言っているだけだ、水色の髪の団員は笑う橙色の髪の団員を見ながらそう思っていた。


「……それにしても、最近は問題無く活動できてるわね」

「ええ、この国にいればキュレースト軍から追われることも無いし、ダークエルフも捕まえることができて、とても都合がいいわ」


 盗賊団として活動しやすい現状に満足しているのか、金髪の団員と水色の髪の団員は小さく笑いながら語り合う。

 元々キュレースト王国で活動していたクローディア戦団はキュレーストの軍や冒険者から逃れるため、セプティロン王国まで逃げて来た。

 そんな最中、ポルザン大森林という場所にダークエルフが隠れて暮らしているという噂を聞き、クローディア戦団はその事実を確かめるために大森林にやって来たのだ。

 もし本当にダークエルフが暮らしているのなら、彼らを捕らえて奴隷商や奴隷を欲しがる者に売りつけ、活動及び逃亡資金を手に入れようと考えていた。


「まさか噂どおり、本当にダークエルフがいたとはね。これで戦団は大金を手に入れることができるわ」

「そうだな。……ただ、あの結界には驚いたよ。大森林に入ろうとしたら、見えない壁が邪魔して入れなかったんだからな」


 橙色の髪の団員はポルザン大森林を訪れた直後のことを思い出し、どこか不満そうな表情を浮かべる。

 ポルザン大森林に到着した時、クローディア戦団は大森林を囲む見えない結界に行く手を阻まれ、大森林に侵入できなかった。

 結界が張られていることで、大森林に侵入することができず、団員たちは皆気分を悪くしていたが、同時に結界を張った何者かがポルザン大森林に隠れていると確信する。

 ダークエルフがポルザン大森林に隠れ住んでいる可能性が高くなり、団員たちは大森林に侵入してやるという意思をより強くした。


「結界が邪魔するせいで、ダークエルフどもを捕まえることができないと諦めかけてたけど、それも団長が問題無く解決してくれたもんな」

「ええ、団長が持つマジックアイテムのおかげで、問題無く結界を通過できたもんね」


 自分たちの行く手を阻むことは誰にも、どんな物にもできないと言いたそうに、橙色の髪の団員と金髪の団員は笑いながら語るのだった。


「マジックアイテムも凄いけど、私はそれ以上に団長が使う技術スキルの方が凄いと思うわ」


 水色の髪の団員の言葉を聞き、二人は同時に水色の髪の団員に視線を向けた。


「確かに、あの技術スキルはスゲェよな。あれのおかげで凶暴なモンスターも団長やアタイらの言いなりになってくれてるんだからよぉ」

「ええ。実際、団長の技術スキルのおかげで私たちは盗賊として活動できるし、軍や冒険者たちに追われても逃げ切れたり、返り討ちにすることができたわけだしね」


 金髪の団員はそう言いながら近くで大人しくしているグレイファングを見つめる。

 グレイファングは団員たちが見つめる中、大人しく周囲を見回していた。その姿はまるで主人の近くで待機する飼い犬のようだ。


「既に団長は強力なモンスターを何体も手懐け、自分の手足として使っている。このままモンスターの数が増えれば、いつかは一国の軍隊と同じくらいの戦力になるんじゃないかしら」

「ハッハァ! そうなったらアタイらはもう敵無しだなぁ」


 いつか自分たちは最強の盗賊団になる、橙色の髪の団員はそう考えながら満面の笑みを浮かべた。

 団員たちがクローディア戦団の戦力拡大について話していると、待機していたグレイファングが何かに気付いて耳を動かす。そして、何かを警戒しているのか、上を向きながら唸り声を上げ始めた。


「どうかしたの?」


 グレイファングの異変に気付いた金髪の団員は不思議そうな顔をする。だが、唸り声を上げていることから、敵が近くにいるのかもしれないと考え、持っている剣を構えて周囲を警戒した。

 他の二人も同じように構えて近づいて来ている生物がいないか辺りを見回す。しかし、見える範囲には生き物どころか動くものすら見当たらない。


「何もいないわね」

「何だよ、急に唸り出すから敵が来たかと思ったじゃねぇか」


 橙色の髪の団員は紛らわしい行動を取ったと感じ、グレイファングに不満そうな視線を向ける。だが次の瞬間、頭上から三つの影が落下して団員たちを囲むように着地した。

 突然何かが落ちて来たことに驚いた団員たちは目を大きく見開いて確認する。そこには大きな赤い二つ目と薄い茶色の体、両腕の部分から長い鎌状の脚を生やした二本足で立つ人型の昆虫族モンスターが三体いた。


「な、何よ、コイツら……」

「何って、どう見てもモンスターだろうが」

「そんなのは見れば分かるわよ!」


 橙色の髪の団員の方を見ながら金髪の団員は僅かに力の入った声を出す。

 モンスターであることは金髪の団員も分かっている。ただ、ポルザン大森林に侵入してから初めて目にした種類で、雰囲気も今まで遭遇したモンスターと違ったため、普通のモンスターではないのかもと感じていたのだ。


「二人とも、お喋りは後にしなさい。コイツらが何者であれ、私たちに敵意を抱いているのは間違いないわ。さっさと片づけて、このことを団長に報告するわよ」


 水色の髪の団員は剣を両手で握りながら目の前にいる昆虫族モンスターを睨む。

 グレイファングも現れた昆虫族モンスターを敵と見なしたのか、唸り声を上げながら睨みつけている。

 昆虫族モンスターは顎を鳴らしながらゆっくりと水色の髪の団員に近づき、両腕部分の鎌状の脚を振り上げて攻撃体勢に入った。

 目の前にいる昆虫族モンスターがどんな種類で、どんな能力を持っているか分からないが、動かれる前に先手を打つべきだと考えた水色の髪の団員は昆虫族モンスターに向かって走り出す。そして、間合いに入った瞬間に袈裟切りを放って攻撃した。

 ところが、剣は昆虫族モンスターの胴体に当たった瞬間に高い音を立てながら弾かれてしまい、水色の髪の団員は反動で体勢を崩し、後ろによろめいた。


「なっ!?」


 まるで鉄の塊か何かを切ろうとしたかのような感覚に水色の髪の団員は驚く。

 全力で攻撃したのに目の前の昆虫族モンスターは傷一つ負っていない。目の前の状況から水色の髪の団員は昆虫族モンスターの体が想像以上に硬いのだと知る。

 水色の髪の団員が驚きの反応を見せていると、昆虫族モンスターは右の鎌状の脚を振り、水色の髪の団員の体を切り裂いた。


「うあああぁっ!」


 突然切られたことと、体の激痛に声を上げる水色の髪の団員は仰向けに倒れ、目を開けたまま動かなくなった。

 仲間が殺された光景に金髪と橙色の髪の団員は驚愕する。いくらモンスターの攻撃とは言え、たった一撃で殺されたことに驚きを隠せなかった。

 昆虫族モンスターは水色の髪の団員を気にすることなく、残っている二人の団員の近づく。

 近づいてくる昆虫族モンスターを見た団員たちは今度は自分たちを狙っているとすぐに理解し、剣を構えながら後ろに下がった。

 団員たちが下がった瞬間、グレイファングが昆虫族モンスターに向かって走り出して右足に噛みつく。

 昆虫族モンスターは噛みつくグレイファングを不思議に思うような反応を見せながら見下ろす。どうやら痛みを感じていないようだ。

 しばらく噛みつくグレイファングを見た昆虫族モンスターは左の鎌状の脚でグレイファングを胴体から両断した。

 グレイファングは高い鳴き声を上げながら噛みついていた右足を放し、目と口を開けたままの状態で絶命する。


「な、何なのよ、コイツは!?」


 仲間に続いてグレイファングまで殺された光景を見て、金髪の団員は恐怖で表情を歪めながら後退した。すると、金髪の団員の後ろにある草むらが僅かに動き、ゆっくりと何かが現れる。

 背後の気配に気づいた金髪の団員が振り返ると、そこに自分たちに襲い掛かって来た昆虫族モンスターと同じ種類のモンスターがいた。ただし、背後にいた個体は体が薄い茶色ではなく、草むらと同じ色だ。

 昆虫族モンスターを見た金髪の団員は更に一体現れたこと、気付かない内に背後に回り込まれたこと、そして体の色が違うことに驚く。

 現状から金髪の団員は、昆虫族モンスターが本当は四体おり、体の色を変える能力を持っていると知って衝撃を受ける。

 金髪の団員が固まっていると、草むらから現れた昆虫族モンスターは体を薄い茶色に変色させ、その直後に右の鎌状の脚を横に振り、金髪の団員の首を刎ねる。

 頭部は宙を舞いながら離れた所にある茂みの中に落ち、頭部を失った体は首から鮮血を噴き出しながら崩れるようにその場に倒れた。


「な、何なんだよ、これは……」


 あっという間に自分だけとなった現状に橙色の髪の団員は愕然とする。

 仲間やグレイファングは殺され、周りには未知の昆虫族モンスターが四体いる。今の状況では逃げることはできないと直感した橙色の髪の団員は表情を歪ませながら体を震わせた。


「そこまでだ、アサルトホッパーたち」


 突然男の声が聞こえ、それと同時に四体の昆虫族モンスターたちは動きを止めて鎌状の脚を下ろす。

 橙色の髪の団員は昆虫族モンスターたちが動かなくなったのを見て目を見開き、何が起きたのだと不思議そうにしながら辺りを見回す。すると正面にある茂みの奥から濃い緑色の甲殻に覆われた人型の甲虫の異形が姿を見せた。

 漆黒のプレートアーマーと真紅のマントを装備し、頭部から前に向かって伸びる反りに入った角を二本、人間の鼻のある部分から少し短めの反りの入った角を一本生やす異形を見て、橙色の髪の団員は言葉を失う。

 さっきまで自分や仲間を襲っていた昆虫族モンスターとは明らかに雰囲気が違うと橙色の髪の団員は悟り、現状から目の前の甲虫の異形が周りの昆虫族モンスターたちのボスだと確信する。

 橙色の髪の団員は昆虫族モンスターたちの間を通って近づいてくる甲虫の異形を黙って見つめる。

 目の前の怪物は何者なんだ、そう考えながら見ていると、甲虫の異形が出てきた茂みの奥から、銀髪の三つ編みをした人間の少女とモスグリーンの変わった服装をしたウェアウルフ、そして大勢のダークエルフが現れた。

 新たに現れた人間とウェアウルフに橙色の髪の団員は衝撃を受けるが、その後ろにいたダークエルフたちを見た瞬間、甲虫の異形と他の二人がダークエルフたちの仲間だと悟った。

 甲虫の異形は橙色の髪の団員の目の前までやって来ると静かに立ち止まり、黄色い目で薄っすらと光らせた。


「こんにちは、クローディア戦団の姉ちゃん。俺は魔王ゼブル。今回お前たちに捕らえられたダークエルフを救出するため、クノモダ族と手を組んだ者だ」

「ぜ、ゼブル?」


 自らをゼブルと名乗る甲虫の異形を見上げながら橙色の髪の団員は小さな声を出す。

 驚くべきことが連続で起こりすぎたせいか、橙色の髪の団員はゼブルが何者で、どうしてダークエルフと行動を共にしているのかハッキリと分からずにいる。

 だが、クローディア戦団の敵であること、そして自分が危険な状況だということは理解できた。


「出会った早々悪いんだが、幾つか質問に答えてもらうぞ?」


 ゼブルがそう言うと、周りにいた四体のアサルトホッパーたちは橙色の髪の団員に近づいて彼女を取り囲む。

 これから自分はどうなるのだろう、橙色の髪の団員はそう思いながら不安の表情を浮かべていた。


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