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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第4章  魔王国の統治者
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第77話  救出部隊出陣


 会談が終了し、ゼブルたちはツリーハウスの外に出る。外ではダークエルフがクローディア戦団に捕まったことが広まっており、集落内のダークエルフたちはざわついていた。

 ツリーハウスの前にある坂道の下では武装したダークエルフたちが大勢集まっており、ツリーハウスから出てきたゼブルたちを見上げている。

 集まっているダークエルフは全部で三十人。全員が弓矢と剣、レザーアーマーを装備していた。彼らの武装から全力でクローディア戦団と戦う意思があるのがよく分かる。

 既に捕らわれたダークエルフを救出するための部隊が用意できているのを見て、ゼブルはすぐに出発できると感じながら坂道を下っていく。

 坂道を下りて部隊の前までやって来ると、ゼブルの後ろにいた防衛長が前に出て、集まっているダークエルフたちを見回す。


「此処にいるのが救出に向かう部隊か?」

「ハイ、現在集落にいる部隊の中から選りすぐりの者たちを集めて構成されております」


 部隊の隊長らしきダークエルフの言葉を聞いた防衛長は戦力として問題無いと感じ、隊長を見ながら小さく頷く。


「では、部隊を集落の入口前まで移動させろ。私も急いで出撃の支度をする。合流次第、すぐにクローディア戦団に捕らえられた者たちの救出に向かう」

「ハッ!」


 指示を受けた隊長は力強い声で返事をする。

 後ろにいた救出部隊のダークエルフたちも、必ず仲間を助けて見せるという意志を強くしながら防衛長を見ていた。


「……それから、今回の救出作戦にはゼブル陛下と配下のモンスターも加わることになった。皆にも伝えておけ」


 小声でゼブルが同行することを語る防衛長に、隊長は思わず目を見開く。

 ゼブルが魔王を自称する異形であることは隊長も知っているため、ゼブルが自分たちの仲間を救出する作戦に加わると知って衝撃を受けていた。


「ま、魔王を名乗る者が同行するのですか?」


 防衛長の後方で待機しているゼブルを見た隊長は小声で防衛長に声をかける。

 隊長もゼブルを警戒するダークエルフの一人で、救出作戦に同行するのには何か裏があるのではと疑っていたのだ。

 不安そうな顔をする隊長を見た防衛長は、隊長が何を思っているのか察して僅かい暗い顔をしながら小さく頷く。


「ゼブル陛下は自分が統治する国に住む者が、クローディア戦団に捕らえられるのが許せないから我々に力を貸すと言った。他にも、自国で好き勝手にやっている戦団が気に入らないため、排除するために力を貸すとも言っていた」

「統治する国に住む者? それは、我々のことですか?」

「ああ、そうだ。……詳しいことはこの問題が片付いたら族長が説明してくださると思う。今は捕らわれた者たちを救出することだけ考えろ」

「は、ハイ……」


 詳しいことは分からないが、ゼブルが仲間の救出に協力してくれるのは間違いないと悟った隊長は、とりあえず防衛長の言うとおりにすることにした。


「防衛長、私も救出作戦に参加させてください」


 防衛長が隊長に指示を出していると、アセーラが近づいて来て声をかける。

 アセーラの声を聞いた防衛長は振り返り、意外そうな表情を浮かべながらアセーラを見た。


「アセーラ様、どういうことですか?」

「今はクローディア戦団から仲間を救出するために少しでも戦力が必要な状況のはずです。でしたら、私も共に仲間たちの救出に向かうべきではないでしょうか?」

「それは、確かに……。ですが、そうなると集落の防衛の指揮を執る者がいなくなってしまいます。アセーラ様には防衛隊の隊長として此処に残り、集落の守りに就いていただきたいのです」


 防衛隊の指揮を執る者が一人もいない状態で、もしクローディア戦団の別動隊やポルザン大森林に棲みついているモンスターたちが襲撃して来たら、集落を守ることができなくなる。

 防衛長は集落を守るために防衛隊長のアセーラは残し、自分たちだけで仲間の救出に向かうつもりでいたのだ。他にも族長であるドアンの娘であり、次期族長となるアセーラを危険度の高い作戦に参加させるわけにはいかないという考えもあった。


「私は集落に住む仲間たちを守る防衛隊の隊長です。仲間たちを守る立場でありながら、ただ集落を防衛しているだけなんて、私には耐えられません」

「ですが、アセーラ様はドアン族長の後を継ぐ立場にあります。そんなお方を危険な戦団たちが待つ場所へ行かせるなどできません。そもそも、族長の許可を得ていないのにそのような決断をされるのは……」

「許可なら会談が終了した直後に得ています。父上に防衛隊長として、仲間たちを助けに行かなくてはならないと説得したら、無茶をしないという条件で救出部隊に加わることを許可してくれました」


 既に許可を得ていたことを知った防衛長は、アセーラの行動の速さに驚く。それと同時に娘が危険な場所へ行くことを認めたドアンに少し呆れていた。

 普段なら、防衛隊を指揮する立場から同行を認めずに残すのだが、族長が許可した以上、防衛長としての立場であってもアセーラを残すことはできない。防衛長は俯きながら静かに疲れたような溜め息をついた。


「それに、私もこの目で見ておきたいのです。……魔王ゼブルがどれほどの力を持っているのかを……」


 アセーラの呟きを聞いた防衛長はフッと顔を上げ、軽く目を見開きながらアセーラの方を向く。


「あの者はこの大森林を囲む結界を力で破り、この集落までやって来たと語りました。直接この目で魔王ゼブルが戦うのを見て、結界を破ったのが事実か、万が一戦うことになった際、我々に魔王ゼブルを止めることができるのかを確かめておきたいのです」


 捕まった仲間を助けること以外に、ゼブルが脅威になるかどうかを確かめるに同行するのだとアセーラは小声で防衛長に説明する。

 まだゼブルを信用できていないアセーラはゼブルの近くにいれば、ゼブルの力や思考を理解できると考え、救出部隊に参加し、ゼブルが危険な存在なのかを見極めようと考えたのだ。それが防衛隊の隊長であり、次期族長である自分のやるべきことだと思ったのだろう。


「……分かりました。そう言うことでしたら、同行してくださって構いません。ただし、くれぐれも無茶だけはしないようにお願いいたします」


 防衛長が部隊の参加を認めると、アセーラは小さく笑みを浮かべる。だがすぐに表情を鋭くし、チラッとゼブルに視線を向けた。

 今回の救出作戦でゼブルの実力を、自分たちにとって害悪になるのかを見極めてやる。そう思いながらアセーラはゼブルを見つめた。


「成る程、なかなかの戦力のようだな」


 アセーラと防衛長から少し離れた所ではゼブルは救出に向かうダークエルフの部隊を見ながら呟く。

 これからクローディア戦団のアジトへ向かい、捕まったダークエルフたちを救出に向かうため、同行するダークエルフの部隊の戦力を確かめておくことにしたのだ。


(人数は三十、武器や防具もそれなりにいい物を使っているようだな。だが、ダークエルフ一人一人の強さが低ければ、いくら重装備でも勝てるかどうか分からない)


 クローディア戦団との戦力差が分からない状態で挑んでも、ダークエルフたちが苦戦を強いられる可能性が高いとゼブルは直感する。

 ダークエルフたちが甚大な被害を受けるのを避けるためにも、彼らの強さを確かめる必要があった。


能力看破ステータス・アサルテイン


 ゼブルは魔法を発動させて目を青く光らせると、目の前にいるダークエルフたちの強さを確かめる。

 視界に入るダークエルフたちの頭上には名前とレベル、種族など一部のステータスが浮かび上がり、ゼブルは魔法の効力が切れる前に作戦に参加するダークエルフの強さを確認した。


(……同行するダークエルフは全員がレベル15から20の間、少し弱めの中堅冒険者ぐらいの強さか。HPと比べてMPは低めだから、全員がレンジャーか弓兵系の戦士職だろう)


 視界に映るステータスを見たゼブルはダークエルフたちのおおよその強さを予想する。

 クローディア戦団の団員たちの強さと人数がハッキリしていないため、ダークエルフたちが戦団に勝てるかどうかは分からない。だがそれでもダークエルフたちが下級モンスター程度なら問題無く倒せるだけの力は持っていることは分かった。

 ダークエルフたちの実力を確かめたゼブルは続けて、アセーラと防衛長の強さを確かめようとする。

 防衛隊の指揮を任されている防衛長と防衛隊長のアセーラなら、他のダークエルフよりも多少は力が強いのではとゼブルは予想しながら二人の方を向く。

 アセーラと防衛長が視界に入った瞬間、アセーラの頭上には名前と数字の22、他の情報が浮かび上がる。

 防衛長の頭上にも名前と数字の24、そしてHPやMPなどの情報が浮かんでいた。


(レベル22と24……他のダークエルフよりは少しは強いみたいだな)


 全てのダークエルフの強さを確認したゼブルは能力看破ステータス・アサルテインを解除して無言で腕を組む。

 情報からゼブルは、目の前にいるダークエルフの部隊はCランク冒険者チーム二個分の戦力はあると判断した。

 並のモンスターなら問題なく蹴散らせるが、これから戦うクローディア戦団はモンスターを従えており、Bランク冒険者チームに匹敵すると言われている。そのため、ダークエルフたちが挑んでも苦戦は免れられないだろうとゼブルは確信していた。


(こりゃあ、ダークエルフ全員を無事に救出するには、俺やモンスターたちが前に出る必要があるな)


 ダークエルフたちは戦力として殆ど使えないと判断したゼブルは、自分たちが最前線でクローディア戦団と戦うことになるだろうと予想する。


「大将、ダークエルフたちは集落でも実力のある奴らで部隊を編成したようだが、俺らはどうする?」


 戦闘時にどう戦うか考えていると、背後からシムスが声をかけてきた。

 ダークエルフたちの戦力を確認するのも大切だが、自分たちの戦力をどうするか決めるのも大切だ。ゼブルは戦闘時のことを考えるのは後にし、先に自分たちの部隊をどうするか考えることする。


「部隊を二つ分ける。片方は此処に残して集落の防衛に就かせ、もう片方は救出に向かう。俺は勿論、救出側だ」

「部隊編成はどうする?」

「移動用のモンスターは全て残す。アサルトホッパー、アルケニーロードは半分に分け、ハウンドスイーパーたちは全て集落に残してアサルトホッパーたちの指揮を執らせる」

「んじゃあ、残りのセイレーンたちは救出部隊に入れるんだな?」

「ああ、飛行能力があり、回復魔法が使えるセイレーンたちは前線で役に立つだろうからな」


 もしもダークエルフたちがクローディア戦団との戦いで負傷した際にはセイレーンたちに治療させたり、空から安全な場所へ避難させることができる。

 ゼブルはダークエルフ側が大きな被害を受けないよう、セイレーンは全て救出部隊に入れるつもりでいた。


「ティリア、シムス、お前たちは俺と一緒に来い。万が一別行動を取るような事態になった際は、お前たちにモンスターたちの指揮を執ってもらう」

「分かりました」

「了解だ」


 返事をする二人を見たゼブルは待機しているモンスターたちの方を向く。

 モンスターたちは隊列を組みながらゼブルを見ており、無駄な動きなどは一切見せていなかった。

 シムスはゼブルから聞かされた部隊を編成するため、モンスターたちに近づいて二つの部隊に分けながら指示を出す。特にハウンドスイーパーたちには集落に残るモンスターたちを上手く動かせるよう、細かく説明した。


「……ゼブル陛下、よろしいですか?」


 声が聞こえ、ゼブルが振り返るとそこにはドアンが立っていた。

 ドアンの後ろにはパイナや環境長、魔術長の姿があり、全員がどこか不安そうな顔をしている。


「今回の救出作戦にはアセーラも同行することになっております」

「ほぉ?」


 ゼブルがチラッと救出部隊のダークエルフたちと会話をしているアセーラに視線を向けると、ドアンもつられてアセーラの方を向く。

 アセーラは救出部隊のダークエルフたちと向かい合って何かを話しており、さっきまでアセーラと会話していた防衛長は既に出撃の準備をしに向かったのか姿は無かった。


「あの子はとても真面目な性格で、集落やそこに住む仲間たちを守り、穏やかに暮らせる環境を作るのが防衛隊長である自分の役目だと思っております。ですから今回の救出作戦に自分も参加させてほしいと志願してきたのです」


 不安そうな表情を浮かべながら、ドアンはアセーラが救出部隊に加わることになったのかを語っていく。今のドアンは族長ではなく、娘を心配する一人の父親だった。


「わたしも最初は反対しました。ですが、集落を守る防衛隊だからと言って、何もせずに集落に残ることなどできないと言いました。結局私は折れ、無茶をしないという条件を出して部隊への参加を認めました」

「……なぜそんなことを俺に話すんだ?」


 視線をドアンに戻したゼブルは低めの声で尋ねる。

 ドアンは暗い顔のままゼブルの方を向くと、静かに口を開いた。


「仲間の救出に協力していただく身でありながら、このようなことを申すのは大変図々しいですが、それを承知でお願いいたします。……どうか、娘を守っていただけませんでしょうか?」


 アセーラの保護を懇願するドアンをゼブルは無言で見つめる。


「アセーラは強いです。その実力は集落でも上位のもので、私や他のダークエルフたちもそれは認めています。……それ故、アセーラは仲間が窮地に立たされた際には、どれほど危険な状況であっても前に出て仲間を助けようとするのです」

「自分が死ぬかもしれない状況であっても、仲間を優先して自分を追い詰めるような行動を取るというわけか」


 ゼブルの言葉に、ドアンは僅かに表情を曇らせながら頷いた。


「仲間が死ねば、その仲間を大切に思う者たちが悲しみ、傷つくことになる。そうならないためにも、強者である自分が命を懸けて仲間を守るべきだとアセーラは言っていました。……あの子にも自分を大切に思ってくれている者がいるというのに……」


 ゼブルは軽く俯きながら暗い声で語るドアンを見つめ、ドアンが何を考えているのかを察した。

 アセーラは仲間を守るため、そしてその仲間を大切に思う者を悲しませないために自分自身を危険に晒している。

 全ては仲間たちが傷ついたり、悲しまないようにするための行動だが、アセーラが無茶をしたり、命を落としかねない状況に立たされれば、彼女自身を大切に思う者たち、つまりドアンたち家族が傷つくことになってしまう。

 アセーラは仲間を守ることに優先しすぎて、自分を守ることを疎かにしている。ドアンは娘のアセーラが仲間のためと言って、自分から危険に飛び込むような行動を取ることに強い抵抗を感じており、ゼブルにアセーラを守るのと同時に無茶をしないよう見守ってほしいと頼んできたのだ。

 戦士であるのだから、アセーラがいつ命を落としても不思議ではないことはドアンも分かっている。だが、それでも父親として娘が自らを危険に晒したり、命を落とすような事態にはなってほしくなかった。


「ゼブル陛下、改めてお願いいたします。アセーラが追い詰められり、敵に命を奪われるような事態になったらあの子を助けてやってください」

「……心配するな。アンタの娘が今回の戦いで命を失うことは勿論、窮地に立たされることは無い」


 返事を聞いたドアンは目を軽く見開く。


「へ、陛下、それはどういうことでしょうか?」

「言ったとおりだ。クローディア戦団との戦いでアセーラの身に危険が及ぶことは無い。クローディア戦団がダークエルフたちを追い詰める前に俺と配下の者たちで片づけるからな」


 慌てたり、動揺したりすることなく、余裕の態度を取りながらゼブルは語る。

 ドアンや彼の後ろにいたパイナたちはゼブルの反応を見て改めて驚き、目の前にいる魔王は本当にアセーラや他のダークエルフがクローディア戦団に襲われる前に勝つつもりでいるのかと疑問を抱いた。

 普通ならゼブルの言葉を聞いても、自身の力を過信していると考えるだろう。しかし、ゼブルはポルザン大森林に張られた結界を突破しているため、本当にダークエルフたちを傷つけることなく、クローディア戦団に勝つだけの実力があるのではと感じている者もいた。


「ゼブル陛下のお力なら、クローディア戦団を難なく倒すことが可能なのですか?」

「ああ、想定外の事態になったりしなければな」

「そうですか……では、よろしくお願いいたします」


 ドアンはゼブルに向けて軽く頭を下げ、改めてアセーラたちのことを頼む。

 パイナたちもドアンに続いて頭を下げ、捕まった仲間たちを救ってほしいと心の中で祈るのだった。

 ゼブルは頭を下げるドアンたちを見ると、静かに振り返ってゼブルたちに背を向ける。


「集落には配下のモンスターを十数体残しておく。俺たちが戻るまでの間、アンタらはソイツらと共に集落を守れ。詳しいことはハウンドスイーパーたちと相談しろ」

「は、ハイ」

「あと、可能なら俺たちが救出に行ってる間に魔王国の民になるかどうか相談しておけ」

「わ、分かりました」


 ドアンの返事を聞いたゼブルはティリアとシムスを連れて集落の入口に向かって移動する。

 同行するモンスターたちも騒いだりせず、静かにゼブルたちの後をついて行く。

 ゼブルたちが移動すると、アセーラも救出部隊のダークエルフと共に集落の出入口へ向かう。ゼブルたちが先に移動したのを見て、後れを取ったと感じたのかアセーラは若干不満そうな表情を浮かべていた。

 ドアンたちは離れているゼブルたちを見つめながら、大きな被害が出ることなく問題が解決するのを願うのだった。


――――――


 集落の入口前までやって来たゼブルはティリア、シムスと共に目の前で隊列を組みながら待機しているモンスターたちを見ながら出発の時を待っていた。

 少し離れた所ではアセーラたちダークエルフが自身の装備の確認をしたり、クローディア戦団のアジトに近づいたらどう動くかなどを話し合いながら防衛長が来るのを待っている。

 ダークエルフたちの指揮を執る防衛長が合流したら出発することになっているため、それまでは出撃することはできない。

 時間が経過すれば捕まったダークエルフたちの身が危険に晒される可能性が高くなるため、少しでも早くアジトに向かいたいとダークエルフたちは思っていた。

 だが、早く助けたいからと言って焦ったりすれば敵に足元をすくわれたり、万全の状態で戦うことができなくなってしまう。ダークエルフは急ぎたい気持ちを抑えながら防衛長が来るのを待つ。

 ゼブルたちが防衛長が来るのを待っていると、集落の奥から武装した防衛長が走ってくるのが見えた。レザーアーマーを身に付け、腰には短剣と矢筒を装備し、右手にはロングボウが握られている。


「皆、待たせてすまなかった」


 防衛長はアセーラたちと合流すると遅くなったことを謝罪する。そんな防衛長を見て、アセーラや周りのダークエルフたちは気にしていない素振りを見せた。

 合流したのはゼブルたちが入口前に来てから僅か十分後のことだったため、時間的には問題は無いと言えるだろう。

 アセーラたちに挨拶をした防衛長はゼブルたちの方を向き、僅かに目を鋭くしながらゼブルの方へ歩いて行く。

 信用できない相手とは言え、自分たちのために力を貸してくれるのだから、ちゃんと声をかけておくべきだと防衛長は考えていた。


「ゼブル陛下、待たせて申し訳ない」

「いや、問題無い。それよりもすぐにアジトに向かうことはできるのか?」

「ええ、連中のアジトの場所は既に把握していますので、最短ルートで向かうことができるかと……」


 集落の外を見ながら、防衛長は左手で森林の奥を指差しながら説明する。

 ダークエルフたちはクローディア戦団がポルザン大森林に侵入したことを知った時から、大森林の中を細かく調べてアジトを見つけたため、正確な位置は勿論、大森林のどの道を通れば短時間でアジトに辿り着けるかも分かっていた。


「では、早速出発しますが……ゼブル陛下たちはどのように移動されますか? もし森林内での移動に慣れていないのなら、歩きやすい道を選びますが……」


 防衛長はゼブルの方を向くと、僅かに目を細くしながら尋ねる。

 仲間がクローディア戦団に捕まっているため、防衛長はできることなら急いでアジトに向かいたいと思っている。だが、ポルザン大森林の外から来たゼブルたちは、森林内を移動することに慣れていないだろうと予想していた。

 移動に慣れていないことから、アジトに辿り着くのに時間が掛かるかもしれないと防衛長は考えており、予定時間よりもアジトに着くのが遅くなる現状や、その原因であるゼブルたちに対して小さな不満を抱いていた。


「その必要は無い」


 ゼブルは返事をした直後、マントを消して背中から翅を出現させる。

 突然ゼブルの背中から昆虫の翅が現れたことに防衛長は目を見開き、アセーラや他のダークエルフたちも驚きの反応を見せながらゼブルを見ていた。

 ゼブルに続いてティリアも背中から七色に輝く蝶の羽根を出現させる。

 ティリアが羽根を出したのを見たダークエルフたちはてっきり人間だと思っていたティリアが人間ではなく、ゼブルと同じ昆虫の異形だと知って更に驚いて目を丸くした。

 ダークエルフたちが驚く中、今度は五体のセイレーンが翼を広げて飛び上がり、待機しているアサルトホッパーたちの真上に移動する。そしてゆっくりと降下し、鳥の足でアサルトホッパーたちの肩の部分を掴むと、上昇してアサルトホッパーたちを持ち上げた。

 どうやらセイレーンたちは空を飛んでアサルトホッパーたちを運ぶつもりのようだ。


「俺たちは空を飛んで移動する。だからアンタらは移動しやすい道を選ばず、予定どおり最短ルートを通って案内してくれればいい」

「そ、そうですか。ゼブル陛下がそれでよろしいならそうしますが……」


 防衛長は何かを気にしているような反応を見せると、チラッとシムスや残っているアルケニーロードたちに視線を向ける。

 ゼブルは防衛長がシムスたちを見ていることに気付くと、防衛長が何を気にしているのか察した。


「シムスたちなら問題無い。コイツらはアンタたちダークエルフと同じで森の中を移動することが得意だからな」


 シムスとアルケニーロードたちがダークエルフたちについて行けると聞いた防衛長は、まばたきをしながらシムスたちを見ている。

 飛行能力を持つモンスターや森林での活動を得意とするモンスターを引き連れているゼブルを見て、防衛長はゼブルがどれほどの種類のモンスターを配下に置いているのだろうと疑問に思う。

 そして様々なモンスターを従えているゼブルを敵に回せば、ダークエルフは簡単に滅ぼされてしまうかもしれないと感じ始めた。


「さて、それじゃあ早速、クローディア戦団のアジトへ向かうとしよう。……案内は頼むぞ?」

「え? は、ハイ……」


 声を掛けられて我に返った防衛長は待機しているアセーラたちの方を向き、目で出発することを伝えた。

 ゼブルたちの能力に驚いていたアセーラやダークエルフたちも、防衛長と目が合うと自分たちのやるべきことを思い出して気持ちを切り替える。

 防衛長はアセーラたちの反応を見ると走って集落から飛び出し、アセーラたちも走り出して防衛長の後を追う。

 全てのダークエルフが集落を出たのを確認したゼブルは翅を広げてゆっくりと上昇し、3mほどの高さまで上がるとダークエルフたちの後をついて行く。

 ティリアとアサルトホッパーを運ぶセイレーンたちもゼブルと同じ高さまで上昇すると、ゼブルやダークエルフたちを見失わないよう注意しながら後を追った。

 地上のシムスは地面を強く蹴り、勢いよく走り出し、アルケニーロードたちも一斉に近くの木の枝に跳び上がると、枝から枝へ飛び移りながら移動する。

 捕らわれたダークエルフたちを救出するため、ゼブルたちはクローディア戦団のアジトへ向かう。


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