第76話 第三の組織
ポルザン大森林を囲む結界はダークエルフたちが自分たちを見下し、酷な扱いをする人間や他の種族との関わりを絶つために張ったもの。それを解除することを要求して来たのだから、ドアンたちが驚くのは当然だ。
「け、結界を? なぜですか?」
「結界を解除し、魔王国の民たちがこの大森林を自由に出入りできるようにするためだ」
驚くドアンにゼブルは冷静な口調で語る。
ポルザン大森林の外にいる人間や他の亜人を大森林に入れさせるために解除させると聞かされ、ドアンは大きく目を見開く。勿論、周りにいる他のダークエルフたちも同じ反応を見せていた。
「じょ、冗談ではない! そんな希望を聞けるはずがない!」
防衛長は立ち上がり、声を上げながら否定する。
「我々ダークエルフが結界を張って外部との繋がりを絶つ理由は知っているはずだ。それなのに人間や他の亜人と関わりを持てと言うのか!?」
「ぼ、防衛長、落ち着いてください」
興奮する防衛長を環境長が宥めようとする。ただ、環境長も結界を解除し、他種族と関わりを持たせようとすることには納得できずにいた。
ドアンやダークエルフの責任者たち、そして部屋の隅で待機しているアセーラたちが不安や不満の表情を浮かべる中、ゼブルはこれ見よがしに溜め息をつく。
「勘違いするな。何度も言うが、俺はアンタたちダークエルフをこの大森林から出すつもりは無いし、人間たちと関わりを持たせる気も無い」
「では、なぜ結界を解除しろなどと要求するのだ」
「冒険者たちの問題を解決するためだ」
冒険者が関係していると聞いたドアンたちは一斉に反応する。
今までファブール魔王国とダークエルフの今後のことについて話し合っていたのに、突然冒険者と言う直接関係なさそうな単語が出てきたため、ドアンたちは意味が分からずにいた。
ゼブルはドアンたちの反応を見て、理解できていないと悟ると詳しく理解してもらうため、一から説明することにした。
「現在、魔王国の中心都市であるトリュポスでは事情があって冒険者への依頼が激減している。そのため、冒険者たちは依頼を受けられず、生活費などを稼げなくっているんだ」
ドアンたちは結界を解除する理由を語り始めるゼブルを見ながら黙って話を聞く。
感情的になっていた防衛長も落ち着きを取り戻したのか、静かに腰を下ろしてゼブルの説明に耳を傾けていた。
「冒険者たちが問題無く生活するため、冒険者として活動するためには依頼の数を増やすしかない。だが、モンスター討伐や護衛と言った依頼は殆ど無く、現状でギルドが用意できる依頼は薬草採取ぐらいだ。しかし、トリュポスの周辺にある森や林で採れる薬草や木の実なども少なく、僅かな冒険者しか依頼を受けることができない」
「問題を解決するには、冒険者たちが受けられる依頼の数を増やすしかない、と言うことですか?」
「そのとおりだ」
問題点を理解した魔術長を見ながら、ゼブルは小さく頷いた。
「冒険者の問題と言うのは理解できましたが、それが大森林の結界を解除することにどのような関係があるのですか?」
「このポルザン大森林にはトリュポスの周辺にある森や林と比べて薬草の種類や自生地が多い。つまり、他の森や林と比べて多くの薬草や採取できるということだ」
ゼブルの説明を聞いたドアンたちは、ゼブルが何を言いたいのか考える。するとドアンが何かに気付いて軽く目を見開いた。
「トリュポスの冒険者たちがこの大森林に自生している薬草や木の実などを採取できるよう、結界を解除して出入りできるようにしろいうことですか?」
「察しがいいな」
ドアンはゼブルを見つめなが難しそうな表情を浮かべる。
ポルザン大森林を囲む結界は外部の者が大森林に侵入できないように張られているため、結界が張られていては冒険者たちが大森林に入ることができない。
大森林に入れなければ、当然薬草なども採取できないため、冒険者たちが大森林に入れるよう、ゼブルは結界の解除を求めてきたのだとドアンたちは理解する。
だが、それでも結界を解除しろという希望を聞くことはできなかった。
「ゼブル陛下のお話は理解できました。ですが、やはり結界を解除することはできません」
「なぜだ?」
「ご存知のとおり、ダークエルフは長年人間や他種族から蔑まれ、酷い仕打ちを受けてきました。それは現在でも様々な国な行われています。我々は他種族から軽んじられ、奴隷のような扱いをされないようにするためにこの大森林に結界を張り、他種族と関わることなく生きてきました」
今日までダークエルフがどのように見られ、扱われてきたのかをドアンは落ち着いた口調で語る。
話を聞いていたパイナや他のダークエルフたちは僅かに表情を曇らせていた。彼女たちは直接他種族から酷い扱いをされてはいないが、同族が虐げられていると言う話を聞くと、自分のことのように辛い気持ちになってしまうのだ。
暗い表情を浮かべるダークエルフの中で、アセーラと防衛長は悔しそうな顔をしている。二人も自分たちの知らない所でダークエルフが傷つけられ、軽んじられていることを辛く思っていた。
だが、それと同じくらいダークエルフを蔑む他種族に対する悔しさを感じているのだ。
「もし結界を解除し、人間や他の亜人がこの大森林に入れるようになれば、運悪くその者たちと遭遇してしまったダークエルフが傷つけられる可能性があります。最悪、捕まって奴隷にされたり、その者から情報を聞き出し、この集落の場所を知られることになる」
「人間や他の種族に襲われたり、捕まらないようにするためにも結界を解除するわけにはいかないと言うわけか」
「ハイ」
ドアンの説明を聞き、ゼブルは「成る程」と納得の反応を見せる。
確かにダークエルフたちが過去に他種族からどのように見られ、扱われてきたのかを考えれば、他種族を警戒し、ポルザン大森林に入らせないようにするのは当たり前だ。
更に過去の出来事から他種族を信用できないと言う考えもあるため、結界を解除する気にはなれないのだろう。
ダークエルフの事情を考えれば、結界を解除したくないと考えるの当然のこと。しかし、だからと言ってゼブルはこのまま諦めるつもりは無い。
トリュポスの冒険者の問題を解決するため、必ずドアンたちを説得するつもりでいた。
「他種族に傷つけられたり、捕まることを気にしているのなら心配ない。結界を解除した後、冒険者や他の奴らがアンタたちを傷つけたりしないよう手を打つつもりでいるからな」
「それは、魔王国の法律で決めたり、ゼブル陛下が他の者たちに言い聞かせるということでしょうか?」
「ああ。ただそれ以外にも、特殊なアイテムは魔法を使うと言ったより効果的な方法も使うつもりでいる」
ドアンは話を聞き、ゼブルが自分たちのために手を尽くそうとしてくれていることを知る。
安全が保障されるのなら、支配下に入った後に結界を張らなくても、他種族がダークエルフを傷つけることはないかもしれないと感じていた。
しかし、確証が無い現状ではダークエルフを傷つけないようにすると言われても完全に信用することはできず、すぐに答えを出すこともできなかった。
「……ゼブル陛下、貴方の支配下に入るべきかどうか、一度皆と話し合いたいのですが、お時間をいただけますでしょうか?」
「族長、まさか支配下に入るつもりでいるのですか?」
ドアンの言葉に防衛長は驚いて目を見開く。
環境長と魔術長も、防衛長ほどではないが驚きの表情を浮かべながらドアンを見ていた。
ただ、パイナだけはドアンを見ながら微笑みを浮かべている。
「私としては魔王国の民になるべきだと考えている。だが、族長である私も一人で魔王国の民になるべきだと決めるつもりは無い。だから責任者である皆の意見を聞き、話し合って決めるべきだと思っているのだ」
「それでも、魔王を名乗るゼブル陛下の支配下に入るなど、私には受け入れられません」
ゼブルの前で本人やファブール魔王国を否定するような発言をする防衛長をドアンは無言で見つめる。その目からは失礼な発言をするのもいい加減にしてほしい、というドアンの意思が感じられた。
「それに今は魔王国の民になるかを決めること以上に優先すべきことがあるはずです」
「……“クローディア戦団”か」
ドアンの口から出た言葉にゼブルは小さく反応する。同時にポルザン大森林に入って会談を行うまでの記憶を思い返す。
グアーバを救出した後、レイシが部下のダークエルフに言っていた「奴ら」や、集落の入口前でグアーバがアセーラと話している時に口にした「あの人たち」という言葉を思い出したゼブルは、それらがドアンの言ったクローディア戦団のことではないかと予想する。
「そのとおりです。奴らの問題が片付いていない状況で、集落や一族の今後を左右する重要な問題を抱え込んでは、奴らへの対処に影響が出てしまいます」
「それは分かっている。なら、早急に話し合って答えを出し、魔王国の件を片付けてから奴らの問題に集中できるようにするべきではないか?」
「族長も、現状でどちらを優先して行動するべきは分かっているはずです。なら、まず我々がやるべきことは……」
防衛長が僅かに力の入った声を出してドアンを説得していると、突然部屋の入口である二枚扉を開いて一人のダークエルフが飛び込むように入って来た。
突然ダークエルフが入室してきたことに驚いたドアンたちは一斉に入って来たダークエルフに視線を向ける。
ゼブルとティリア、シムスは驚くことなく落ち着いた様子でダークエルフを見ていた。
「族長!」
ダークエルフは慌てた様子でドアンに声をかける。
部屋に入った来たダークエルフはゼブルがグアーバを助けた後にレイシから指示を受け、結界柱の状態を確認しに向かったダークエルフの一人で、部屋の隅で待機していたレイシはダークエルフを見て軽く目を見開く。
「何事だ。今は重要な会談中だぞ」
「それどころではありません。大森林の南東を巡回していた警備隊がクローディア戦団の襲撃を受けました!」
「何っ!?」
報告を聞いたドアンは驚き、会談中であることも忘れて立ち上がる。
パイナたち集落の責任者たちもダークエルフを見ながら目を見開き、待機していたアセーラたちも驚きの反応を見せていた。
「状況を詳しく説明しろ!」
「は、ハイ」
ダークエルフは何があったのか、その場にいる全員に説明し始める。
話によると、部屋に飛び込んできたダークエルフはレイシの指示を受けて同じ隊の女ダークエルフと共に結界柱の状態確認を向かい、状態を確認すると報告するために集落に戻ろうとしていた。その途中で別の警備隊がクローディア戦団と遭遇し、応戦しているところを目撃したそうだ。
ダークエルフたちは、仲間たちに加勢してクローディア戦団を撃退しようとしたが、敵は警備隊よりも数が多く、モンスターを従えていたため、徐々に追い詰められていき、最終的には自分と警備隊の隊員だった二人のダークエルフを除いて全員がクローディア戦団に捕まってしまった。
運よく捕まらなかったダークエルフたちは早急に対処をするため、二手に分かれて行動することにした。
警備隊に所属していた二人のダークエルフは情報を少しでも得るため、既に判明しているクローディア戦団のアジトへ偵察に向かい、結界柱の様子を見に行ったダークエルフは集落に戻って現在に至るのだ。
「捕らえられたのは遭遇した警備隊の四名と私と行動を共にしていた一名の計五名です。既に大森林の南部にある奴らのアジトに連れていかれたかと……」
「何ということだ……」
ドアンは防衛長とクローディア戦団のことを話しているところに、クローディア戦団に仲間を攫われたという報告が入って来たため、思わず表情を歪ませる。
パイナたちも最悪と言ってもいい状況に暗い顔をしながら黙り込む。特に防衛長は部下が攫われたと聞かされて悔しそうな顔をしていた。
「……ティリア、クローディア戦団が何か知ってるか?」
ゼブルはドアンたちを見ながら隣で待機しているティリアに小声で尋ねる。
ドアンたちの様子や報告に来たダークエルフの話から、クローディア戦団が冒険者のような人助けを行う集団でないのは分かる。
だがそれ以外にことは何も分からないため、ゼブルは現地人で元騎士団員のティリアなら何か知っているとかもしれないと考えて聞いてみたのだ。
「クローディア戦団……確か女性だけで構成された中規模の盗賊団です」
「ほぉ、女だけの盗賊団か……」
「ええ……ただ、盗賊団と言っても、普通の意盗賊と比べて人数が多く、噂では上位の冒険者チームと同等の力を持っているとか」
並の盗賊とは戦力も規模も違うと知ったゼブルは興味が湧いたのか、小さく鼻で笑いながらティリアの方を向く。
「お前の知ってる範囲でいい。もう少し詳しく教えろ」
「あ、ハイ」
説明を求められたティリアは自分の知るクローディア戦団の情報を語り始めた。
クローディア戦団はファブール魔王国とセプティロン王国の南に存在する“キュレースト王国”で活動する組織で“サリィ・クローディア”という女が団長を務めている。
主にキュレースト王国内に存在する村や亜人の集落、町の外にいる商人を襲撃して物資を強奪しているが、それ以外にもそこの住人たちを誘拐して奴隷商や奴隷を欲しがる者に売って金銭や物資を得ているようだ。
元々はキュレースト王国で活動するCランク冒険者チームだったが、リーダーのサリィが効率よく金銭を手に入れたり、名声を得るために違法な手段を取っていた。そして、仲間たちもサリィの考えに賛同し、何度も冒険者ギルドの規則を破るような行動をしていた。
サリィたちの悪行を知った冒険者ギルドはサリィとその仲間たちから冒険者の資格を剥奪し、ギルドから追放した。その結果、サリィたちは盗賊に成り下がり、キュレースト王国内で犯罪を行うようになったのだ。
クローディア戦団は元冒険者チームということもあり、拠点は持っておらず、キュレースト王国内を移動しながら活動している。そのため、王国は正確な縄張りや活動範囲を掴むことができずにいた。
団員は全員がCランク冒険者に匹敵するの実力を持っている。更に何かしらの方法でモンスターを手懐けており、戦闘や強奪などに利用しているらしい。
人数と団員たちの実力、モンスターを利用していることからBランク冒険者チームと互角の力を持っていると王国は判断し、野放しにはできないと軍や冒険者を使って長い間、クローディア戦団を捜索していた。
しかし、未だに捕らえることができず、キュレースト王国は手を焼いているようだ。
一国が手を焼く盗賊団が自分の統治する国内におり、好き勝手やっていると知ったゼブルは気分を悪くする。同時に冒険者が盗賊になったことに対して呆れ果てていた。
「元冒険者が盗賊になるとは、どうしようもない連中だな」
「確かに酷い人たちですが、その戦力はとても高いそうです。あと、正確な情報ではありませんが、キュレースト王国の貴族とも繋がりを持っており、彼らから強力な武器やアイテムなどを受け取っているとか……」
盗賊と繋がりを持つ貴族がいると聞き、ゼブルはキュレースト王国は思っている以上に問題のある国家なのではと予想する。
「と言うか、何でキュレーストで活動している冒険者が魔王国にいるんだよ」
ゼブルとティリアの会話を聞いていたシムスが小声で尋ねる。
シムスの言うとおり、キュレースト王国の盗賊がどうしてファブール魔王国におり、ポルザン大森林のダークエルフを襲っているのか理由が分からず、ゼブルも不思議に思っていた。
「私の推測ですが、キュレースト王国の軍から逃亡するために魔王国に入国したのではないでしょうか? あるいは狙える村などが無くたったため、魔王国にやって来たのか……」
「ケッ、だとしたら迷惑な連中だな」
クローディア戦団の行動を不満に思うシムスは露骨に嫌な顔をする。
ティリアはシムスの反応を見て、ただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。
シムスとティリアが話している中、ゼブルは無言で慌てた様子のドアンたちを見ている。
ドアンたちの会話とティリアから聞いた話の内容から、現在ポルザン大森林にはクローディア戦団が侵入してダークエルフたちを襲撃し、彼らを捕らえているのだとゼブルは察した。
状況からクローディア戦団は捕らえたダークエルフを奴隷として売りさばこうとしている可能性は高いが、まだ断言できないため、可能性の一つとして頭に入れておくことにした。そして、クローディア戦団の狙い以外にもう一つ、ゼブルは疑問に思っていることがある。
(この大森林は外の連中が侵入できないように結界で守られている。結界が守護者の障壁であることから、Cランク冒険者程度の実力者では絶対に破ることはできない。となると、何か別の方法で結界を突破したということになるな……)
二百年前の魔王を倒した勇者でも破ることができない結界が張られているのに、クローディア戦団はどのようにしてポルザン大森林に侵入したのか、ゼブルは軽く俯きながら考える。
ドアンたちの様子から、クローディア戦団は少なくともゼブルたちがポルザン大森林を訪れるよりも前に大森林に侵入していることになる。そのため、ゼブルが結界を破った後に大森林に侵入したというのはあり得ない。
結界を力で破ることができず、ゼブルたちが訪れるより前に大森林に侵入していることから、やはりクローディア戦団が特別なマジックアイテムや技術を使って結界を解除、もしくは解除することなく侵入した可能性が高かった。
ゼブルは盗賊団がどのようにして結界を軽々と突破したのか興味が湧き、もしもマジックアイテムを使って突破したのなら手に入れたいと考えていた。
「とにかく、急いで救出部隊を編成し、クローディア戦団たちのアジトに向かわせるのだ。アジトの正確な位置は分かっているのだろう?」
「ハイ、集落から南に4kmほど行った所にあります。現在は警備隊の者たちが様子を窺っているはずです。ただ、戦団の奴らもこちらがアジトを襲撃してくることを予想し、アジトの周りに無数の罠を設置しています。接近するには少々時間が掛かるかと……」
「それでも構わない。何としても捕らえられた者たちを助け出せ。……これ以上、奴らの犠牲になる者を増やしてはならない」
報告に来たダークエルフは表情を曇らせ、ドアンを見ながら「分かりました」と軽く頭を下げる。
ドアンの発言からダークエルフが捕まったのは今回が初めてではなく、既に何人かが捕らえられているようだ。
「族長、救出部隊には私も加わります。私が現場に向かえば、効率よく部隊を動かし、捕らえられた者たちを救出できます」
立ち上がった防衛長が救出部隊に参加することを志願すると、ドアンや周りにいるパイナたちは防衛長に視線を向ける。
「よろしく頼む。お前が指揮を執ってくれれば互角以上に戦えるはずだからな。……ただ、捕らえられた者たちの命と救出を最優先で頼むぞ?」
「勿論です」
救出を任された防衛長は小さな笑みを浮かべながら頷く。
ドアンは防衛長の反応を見ると、視線をゼブルに向けて申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「ゼブル陛下、お聞きになられたように仲間がクローディア戦団という盗賊に捕らえられてしまいました。恐れながら、返答はこの問題が解決した後にさせていただきたいのですが……」
本来なら一国の王、それも魔王を名乗る者との会談を優先させるべきなのだが、仲間が危険な状態に晒されている状況で会談を続けることなどできない。
何よりも問題が未解決の状態では、仲間のことが心配で支配下に入るべきかどうか相談することもできないため、ドアンはしっかり答えを出すためにも、無礼を承知で決断を先延ばしにしてほしいと頼んだ。
防衛長はゼブルがこちらの都合を考えず、早く答えを出すよう要求してくると予想し、目を細くしながらゼブルを見ている。
パイナたちも少しだけ待ってほしいと思いながら不安そうな表情を浮かべていた。
「……クローディア戦団の問題が解決すれば、魔王国民になるか結論を出すんだな?」
「えっ? あ、ハイ……」
「よし」
ゼブルは立ち上がると、ドアンを見つめながら口を動かす。
「ダークエルフの救出、俺も手伝ってやる」
「は?」
予想外の提案をしてきたゼブルにドアンは耳を疑う。勿論、他のダークエルフたちも驚きの表情を浮かべながらゼブルを見ている。
ティリアもゼブルの発言を聞いて軽く目を見開き、意外そうな顔をしていた。
一方でシムスは状況からゼブルがダークエルフたちに手を差し伸べることを予想していたのか、ゼブルを見ながらニッと笑っている。
「ぜ、ゼブル様が共に仲間を救出してくださるのですか?」
「ああ、ついでに大森林に侵入したクローディア戦団とかいう連中も片づけてやる」
「な、なぜ我々に力を貸してくださるのです?」
ゼブルの考えていることが分からないドアンは驚きながら尋ねた。
「理由は三つある。一つは魔王国の民になるかもしれないダークエルフを盗賊如きに好き勝手にされるのが嫌だから。二つ目は俺が統治する国で問題を起こすクローディア戦団が気に入らないから」
右手の人差し指と中指を順番に立てながら、ゼブルはダークエルフたちに協力する理由を語る。
「そして三つ目は、クローディア戦団がどうやって大森林に侵入したかを確かめるためだ」
「結界を突破した理由を調べるため、ということですか?」
ドアンが尋ねると、薬指を立てるゼブルは小さく頷いた。
「大森林に張られている結界は二百年前の勇者でも破ることができないものなんだろう? そんな結界をたかが盗賊如きか突破したなんて普通では考えられない。恐らく、何らかのマジックアイテムや技術を使用して突破したんだろう」
「確かにその可能性は十分あると思います。力で破壊することができない以上、特殊なアイテムや強力な魔法などを使うしか方法はありませんから……」
「まぁ、俺は普通に破壊して侵入したけどな」
ゼブルの言葉にドアンや他のダークエルフたちは複雑そうな表情を浮かべる。
未だにゼブルが力で結界を破ったことを完全に信じることはできていないが、室内にいるダークエルフの中には、もしかすると本当かもしれないと感じ始める者もいた。
「く、クローディア戦団の団員を確認した直後、結界に異常が無いか調べましたが、結界は張られ続けていました。つまり、クローディア戦団は結界を破らずに通過するための手段を持っている可能性があるということです。連中が持っているかもしれないマジックアイテムもそのような効力があるのではと私たちは考えております」
「俺もだ。連中がどんなアイテムを使って結界を突破したのかとても気になっている。だから、クローディア戦団を片づける際にそのアイテムを手に入れようと思っている」
「そのアイテムを手に入れることが、我々に手を貸してくださる理由の一つ、ということですね?」
「そうだ」
返事を聞いたドアンは納得したような反応を見せる。
「普通は俺の力が必要かどうか、アンタたちの意見を聞いてから決めるべきだが、クローディア戦団は魔王国の領内で問題を起こしている。魔王国の統治者として何もせずに見物しているつもりは無い。つまり、アンタたちが俺の協力を拒んだとしても、俺は勝手にダークエルフたちの救出に参加するということだ」
「それは逆に言えば、こちらが協力を要請せずとも、力をお貸しくださるというわけですね?」
ドアンの確認にゼブルは無言で頷く。
「……分かりました。よろしくお願いいたします」
「ぞ、族長?」
ゼブルと共に仲間の救出することを決断したドアンに防衛長は目を見開く。
真意が分からず、魔王を名乗る者と共に戦うのはある意味でとても危険なことだと防衛長は感じているため、迷うことなくゼブルに協力を要請したドアンに驚いていた。
ドアンは防衛長の反応を見て、納得できていないことを察すると真剣な表情を浮かべながら防衛長を見る。
「ゼブル陛下は正式な魔王国の民でない我々のために力を貸すと仰られている。しかも条件などを一切付けずにだ。それなら共に戦うことを拒む理由は無いだろう」
「それはそうですが……」
仲間のために協力してくれるのは防衛長にとっても願っても無いことだ。
だが、相手は魔王を名乗り、自分たちの都合のいいように話を進めている。そのため、何か裏があるのではと不安を感じていた。
「それに捕らえられた仲間を助けるためには少しでも力が必要だ。ゼブル陛下や配下のモンスターたちの力があれば、仲間たちを助けられる確率が高くなる」
仲間を助けられる確率を少しでも上げるためにも、ゼブルたちの協力は必要だと語るドアンを見て、防衛長は僅かに表情を歪めながら黙り込む。
防衛長も仲間を無事に助けることを第一に考えているため、ゼブルたちの力を借りれば仲間たちを助けられる確率が上がるというドアンの考えを否定することができなかった。
「私はクノモダ族の族長として仲間を守る義務がある。捕らわれた仲間を助けるためにも、ゼブル陛下の力が必要だと考えているのだ」
「……分かりました。族長の意見に従います」
何を言ってもドアンは考え方を変えないと感じた防衛長はとうとう折れ、ゼブルの力を借りることを受け入れる。
パイナたちも現状ではゼブルの力を借りるべきだと考えているのか、反対することなくドアンを見ていた。
ドアンは周囲を見回し、パイナたちがゼブルの力を借りることに納得しているのを確認するとゼブルの方を向いた。
「ゼブル陛下、改めてお願いいたします。捕らわれた仲間たちを救出するため、そしてクローディア戦団をこの森林から追い出すために力をお貸しください」
「安心しろ、必ず奴らを片付け、捕まったダークエルフたちも救出してやる」
自信に満ちた口調で約束するゼブルは薄っすらと目を黄色く光らせた。
(それにしても、会談中に敵襲の報告とは……以前も同じようなことがあったな……)
過去に似たような経験をしたゼブルは、ドアンたちを見ながら心の中で呟くのだった。




