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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第4章  魔王国の統治者
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第74話  合流


 集落の入口前にある広場の空気は僅かに張り詰めている。理由は勿論、ゼブルとティリアの存在だ。

 ゼブルとティリアはシムスとモンスターたちの到着、そしてクノモダ族の族長であるドアンとの話し合いの準備が整うのを広場で待っている。

 連絡コンタクトでシムスに連絡を入れた際にゼブルはダークエルフと接触し、集落を発見したこと、ドアンが話し合いに応じてくれたことを伝えた。そしてシムスにもドアンとの話し合いに参加してもらうため、モンスターと共に集落へ来るよう指示したのだ。


「シムス様たち、無事に集落に到着できるでしょうか……」


 集落の外を見ながらティリアは心配そうな表情を浮かべる。

 自分とゼブルですら、ポルザン大森林のどの辺りに集落があるのか正確に分かっていないのに、今まで大森林の外にいたシムスやモンスターたちが迷わずに辿り着けるのかとティリアは心配していた。


「心配するな。シムスがいれば必ず此処まで来る。多少時間はかかるかもしれないがな」

「どうやって集落まで来るのですか? ゼブル様は連絡コンタクトで話していた時、集落の位置や目印になりそうな物のことは何も話していませんでしたよ?」


 手掛かりなどを一切話していないのに、シムスたちがどうやって集落に辿り着くのか分からないティリアは不思議に思う。

 同行させたモンスターの中にはセイレーンやアルケニーロードと言った偵察を得意とするモンスターがいたが、広大なポルザン大森林の中から短時間で集落を見つけるのは簡単ではない。

 ティリアは状況から、短時間で集落に辿り着くのは難しいのではと考えていた。


「そう言えば、お前にはシムスの能力について詳しく話してなかったな。……いい機会だから、シムスのことを少し教えてやるよ」


 突然シムスのことを話そうとすゼブルを見て、ティリアはまばたきをする。

 ただ、現状からシムスたちが迷わずに集落に辿り着ける理由に関係があると予想し、ティリアは黙ってゼブルの話を聞くことにした。


「シムスは魔狼ガルムって言う上級の獣族モンスターを使って作られた眷属だ。ガルムは獣族モンスターの中でも五本の指に入るほど強力な存在で、前の世界ではレベル100の魔王でも苦戦するほどだ」


 シムスがゼブルたち魔王でも苦戦するモンスターを基に作られたと聞いたティリアは軽く目を見開く。

 魔将軍たちの実力から、全員が上級モンスターを使って作られたことは分かっていたが、予想していた以上に強力なモンスターを使っていたと知って内心驚いていた。


「ガルムは複数の強力な技術スキルや魔法を使うことが可能で、シムスもその内の幾つかを習得している。その中でも“霊狼れいろう召喚”という技術スキルはかなり使える」

「霊狼召喚?」

補助技術サポートスキルの一つで霊狼っていうレベル80代のモンスターを召喚する。霊狼は周辺の探索や護衛、敵の追撃などに使うことができるんだ」

「ガルム自身が強力なのに、更にレベル80代の仲間まで召喚できるなんて、確かに強力なモンスターと言えますね……」


 ティリア自身はガルムと言うモンスターを見たことは無い。だが、ゼブルや魔将軍、これまで見てきたEKTの世界のモンスターの強さ。そして今ゼブルから聞かされた情報から、非常に優れたモンスターだということは分かる。

 ガルムのようなこの世界の人間では敵わないようなモンスターがEKTの世界には多く存在するのだと知ったティリアは、EKTの世界が自分が想像している以上に生きるのが難しく、厳しい世界なのだと改めて理解した。


「シムスも霊狼召喚を使うことが可能で、物や敵を探す際にはその霊狼たちに探させている。連絡コンタクトで連絡を入れた時、霊狼に俺とお前の匂いを追わせるよう言っておいた」

「つまり、集落にいる私たちの匂いを霊狼たちに追わせれば、正確な位置が分からなくてもシムス様たちは此処に辿り着くというわけですか?」

「ああ。霊狼は敵の捜索なんかにも使えるからな」


 能力を上手く使えば、例え情報が少なくても目的地に辿り着くことができると聞いたティリアは、心配する必要は無いと感じて少しだけ気持ちを楽にする。

 機会があれば、様々なことに使える霊狼と言うモンスターを実際に見てみたい。そう思いながらティリアは集落の外を眺め、シムスたちが来るのを待った。


「……あの二人、さっきから何を話してるんだ?」

「分からん。遠くにいる上に聞き取り難い大きさの声で喋ってるからな」


 ゼブルとティリアから離れた場所では、防衛隊に所属しているダークエルフが数人おり、ゼブルとティリアを見張りながら会話をしていた。

 魔王ゼブルとその仲間であるティリアを完全に信用していないダークエルフたちは、二人が少しでも妙な行動を取ればすぐに阻止できるよう剣や弓矢を握っている。

 ただ、どういうわけかダークエルフたちはゼブルとティリアが何かを仕出かしても止められない気がしており、心の中では問題を起こさないでほしいと祈っていた。


「あの二人、本当に俺たちに危害を加える気は無いと思うか?」

「正直、信じられないな。本気か遊びかは知らないが、魔王を名乗るような輩が平和的なやり方をするとは思えない。族長やアセーラ様たちを油断させるためにテキトーなことを言っている可能性が高い」

「お前もそう思うか。……実は俺も信用してねぇんだ」


 問題を起こさず、さっさと集落から出て行ってほしい。ダークエルたちは心の底からそう思いながら、ゼブルとティリアに気付かれないよう、二人に疑いの眼差しを向ける。

 ダークエルフたちがゼブルとティリアを警戒していると、集落の奥から会談場所の準備をしに行っていたドアンがやって来る。

 ドアンに気付いたダークエルフたちが姿勢を正すと、ドアンは右手を上げて「そのままでいい」と合図を送った。


「どうだ? ゼブル陛下の様子は?」

「今のところは妙な動きは見せていません。先程族長にお話しした配下のモンスターたちを待っているようです」

「そうか。……会談場所の準備は整った。ゼブル陛下のモンスターたちが到着したら、私が陛下を案内をする。お前たちは本来の任務に戻れ」


 ゼブルたちが移動した後のことを指示されたダークエルフたちは声を揃えて返事をする。

 魔王を見張るためとは言え、集落を守る立場にある自分たちがいつまでも持ち場を離れるわけにはいかないため、ダークエルフたちは言われたとおり、持ち場に戻るつもりでいた。

 ドアンたちが今後のことについて話をしていると、集落の入口の方から無数の音が聞こえ、音を聞いたドアンたちは一斉の入口の方を向く。その直後、ドアンと広場にいたダークエルフたちは目を大きく見開く。

 入口の前には、濃い茶色のウェアウルフのようなモンスターが四体、大勢の二足歩行をする薄茶色の体の昆虫族モンスターと蜘蛛の下半身に人間の女の上半身を持つモンスターたちが隊列を組んで立っていた。

 その後ろには大きな角を持った鹿のようなモンスターと鼻の部分に反りの入った角を生やす灰色の体のモンスターが待機している。

 更に隊列を組むモンスターたちの上空では白い翼を生やした人間の女のようなモンスターたちが飛んでおり、全て入口前の広場を見つめていた。


「な、何だあのモンスターたちは!?」

「い、いつの間に入口前まで来ていたんだ!」


 入口から少し目を離していた間に大量のモンスターが近づいていたことを知り、ダークエルフたちは驚愕しながら持っている武器を構えて戦闘態勢に入る。


「待てっ! 皆、落ち着くんだ」


 緊迫した表情を浮かべるダークエルフたちをドアンは力の入った声で制止する。

 ドアンもダークエルフたちのように驚いていたが、状況からすぐに一つの可能性が頭をよぎって平常心を取り戻した。


「あれは恐らく、ゼブル陛下が仰っていた配下のモンスターたちだろう」

「あ、あれがですか?」

「うむ、可能性は非常に高い。その証拠にゼブル陛下と側近であるティリア殿は落ち着いた様子でモンスターたちを見ている」


 ドアンの言葉を聞いたダークエルフたちは遠くにいるゼブルとティリアに視線を向ける。

 確かにドアンの言うとおり、ゼブルとティリアは驚いたりせずにモンスターたちを見ていた。それどころか、二人は警戒することなくモンスターたちの方へ近づいて行くのが見える。

 モンスターに近づくゼブルとティリアを見た瞬間、ダークエルフたちは現れたモンスターたちが魔王ゼブルの配下だと確信した。

 ドアンとダークエルフたちが見つめる中、ゼブルとティリアは集落の外に出て隊列を組むモンスターたちの前までやって来る。

 ハウンドスイーパーやアサルトホッパー、アルケニーロードたちは一斉にゼブルとティリアに視線を向け、飛んでいたセイレーンたちも二人の着地して姿勢を正す。

 ゼブルたちが乗ってきた鹿のモンスターとサイのようなモンスターたちも後列で待機していた。

 この時、サイのようなモンスターはアサルトホッパーたちを運ぶ際に引いてきた荷車は外している。荷車を引いたままだと足下が不安定で木の多い森林内を移動するのが困難なため、ポルザン大森林の入口前で外してきたのだ。

 因みに荷車自体は安物であるため、盗まれたり破壊されてもゼブルにとって大きな損失にはならなかった。

 モンスターたちがゼブルとティリアに注目すると、隊列を組むモンスターたちの間をシムスが通り、ゼブルとティリアの前までやって来た。


「遅くなってすまねぇな、大将」

「いや、全然遅くないぞ。初めて来た森林でこれだけ早く目的地に来れるなんて、大したもんだ」

「へっ、そう言ってくれると助かるぜ」


 時間が掛かったとは思っておらず、寧ろ早く合流できたと語るゼブルと見てシムスは小さく笑う。

 ゼブルとシムスが向かい合って話していると、隊列を組んで待機しているモンスターたちの頭上を何かが通過し、ゼブルたちの近くに下り立つ。

 ティリアは突然何かが現れたことに驚きながら、現れたものの正体を確かめた。

 目の前にいたのは体高1.8mで体長が3m強、琥珀色の目をした二匹の狼だった。ただ、普通の狼と違って体毛は水色で、薄っすらと青白い炎のようなものを纏っている。


「あの、もしかしてこの狼たちが霊狼ですか?」

「おっ? ティリア、霊狼を知ってんのか?」

「あ、ハイ。シムス様がいらっしゃるまでの間にゼブル様からお聞きしました」


 ティリアが霊狼を知っていることで、シムスは一から説明する手間が省けたと感じながらティリアを見つめる。


「それにしても、思っていたよりも小さいんですね。レベル80代と聞いたので、てっきりもっと大きいのかと思いました」


 大きさが想像してたのと違っていたため、ティリアは目の前で大人しくしている霊狼たちを見ながら意外そうな表情を浮かべた。


「レベルが高いからって図体もデカいとは限らねぇよ。体が小さくても高レベルのモンスターはいくらでもいる。ダイナとかな」


 シムスが笑いながら語ると、ティリアはシムスの方を向いて「確かに」と納得したような反応を見せる。

 アリスの友人であるダイナも見た目は仔猫だが、実際はレベル80の獣族モンスターだ。それを考えるとレベル80代の霊狼が大型のモンスターでなくてもおかしくはない。

 シムスは霊狼たちの方を向いて指を鳴らした。指を鳴らした直後、二匹の霊狼は炎が消えるかのように静かに消滅する。

 霊狼たちの役目はシムスとモンスターたちをゼブルとティリアがいる場所へ案内することなので、その役目を終えた以上、いつまでも残しておく必要は無い。

 何よりもこの世界の人間では倒せない高レベルのモンスターを残しておけば色々と面倒なことになりかねないため、消しておく必要があった。

 霊狼が消滅すると、シムスは前を向き、ゼブルの後ろにあるダークエルフの集落を見て真剣な表情を浮かべる。


「……大将、此処が例のダークエルフの集落か?」

「ああ。人口は約二百人ほどで想像していたよりは少なかったが、それなりの技術と知識を持った連中だ」


 ゼブルの説明を聞いたシムスは「ほぉ」と意外そうな反応を見せる。

 シムスはゼブルと同じようにもっと多くのダークエルフがいると予想していたため、二百人は若干少ないと感じていた。


「この集落にいるダークエルフたちを支配下に置くことができれば、ダークエルフと言う人材だけでなく、連中が持つ技術や知識が手に入り、魔王国は更に国家として力をつけることができるってわけか」

「それだけじゃない。このポルザン大森林を自由に出入りできるようにもなり、冒険者や冒険者ギルドの問題を解決することもできる。何としても彼らを支配下に置かなくてはならない」


 目的のために必ずダークエルフたちを支配下に置き、ファブール魔王国の民になることを受け入れさせると話すゼブルを見て、ティリアとシムスも真剣な顔を浮かべた。

 ゼブルたちがダークエルフを配下にすることについて話していると、遠くで様子を窺っていたドアンが護衛と思われるダークエルフを数人連れたゼブルたちに近づいてくる。


「ゼブル陛下、こちらにいるのが陛下の配下のモンスターたちですか?」


 ドアンは目の前にいるウェアウルフのような亜人と大勢のモンスターたちを見ながらゼブルに尋ねる。

 モンスターはどれも見たことの無い種類であるため、未知のモンスターを目にしたドアンやダークエルフたちは僅かに驚きの反応を見せながら警戒していた。


「そのとおりだ。俺の配下の中でも強力なモンスターたちばかりだ」


 ゼブルはハウンドスイーパーたちを紹介すると、次に目の前にいるシムスに視線を向ける。


「こっちは魔王国の将軍の一人でシムス・エリュズイル。森林での活動が得意なため、今回同行してもらった」


 紹介されたシムスは一歩前に出ると、ニッと笑みを浮かべながらゼブルに声を掛けたダークエルフを見た。


「魔将軍のシムスだ。よろしく頼むぜ」

「よ、よろしく……クノモダ族の族長、ドアン・トロカールと申します」

「へぇ、族長さんだったのか。にしては随分と若いな」


 笑いながら友人と話すかのように接するシムスにドアンはどこかやり難そうな顔をする。どうやらドアンはシムスのような性格をしている者が苦手のようだ。

 一方で周りのダークエルフたちは、自分たちの族長に軽々しく接するシムスが気に入らないのか、無言でシムスを睨んでいた。


「それはそうと、準備はできたのか?」

「あっ、ハイ。先程準備が整いました」


 声をかけらえたドアンはハッとした後、ゼブルの方を向いて頷いた。

 大量のモンスターを見て驚き、会談のことが頭から消えていたが、ゼブルに言われてこれからやるべきことを思い出したようだ。


「なら、早速の会談場所へ案内してくれ」

「分かりました。……ところで、モンスターたちはどうなさるのでしょうか?」


 視線だけを動かし、待機しているモンスターたちを見るドアンは若干不安そうにしながら尋ねる。

 ゼブルが集落に入ることは既に集落にいるダークエルフたちに伝わっているため、ゼブルを見ても混乱することは無いとドアンは予想していた。

 だが、大量のモンスターが入ることは伝えていないため、モンスターたちは見ればダークエルフたちは驚いて大騒ぎになる可能性が高い。

 ドアンは騒ぎにならないよう、モンスターを集落に入れることは避けたいと考えていた。


「勿論、同行させる。コイツらは大森林の調査隊であると同時に俺の護衛でもあるからな」

「……恐れながら申し上げますが、これだけのモンスターが大量に集落に入れば、事情を知らないダークエルフたちは間違いなく混乱します。できれば、モンスターたちはこの場で待機させ、ゼブル陛下と側近の方々だけでお越しいただきたいのですが……」


 族長として、ダークエルフたちを不安にさせるような事態にはしたくないドアンはモンスターを残すようゼブルに頼んだ。

 ゼブルは黙ってドアンを見ると、静かに口を動かす。


「ドアン族長、アンタが俺の立場だったらどうする? 集落にいる者たちを混乱させたくないから、護衛を残せと言われたらそうするのか?」

「えっ? そ、それは……」


 問いかけにすぐに答えられないドアンはゼブルから目を逸らしながら小さく俯く。


「……言い方を変えよう。アンタは未知の場所、危険な可能性がある場所に護衛無しで入れ、と言われて納得できるか?」


 ゼブルの言葉を聞いたドアンは俯いたまま目を見開く。自分がゼブルに言った言葉は、まさにたった今ゼブルが言ったとおりの意味だった。

 集落にいる者たちを安心させるためにモンスターを同行させないでほしい、と言うのはゼブルからしてみれば「こっちの都合のために護衛を付けるな」と言われているようなものだ。

 ドアンはゼブルの言いたいことを理解し、改めて自分がゼブルの立場だったら納得できるか考える。

 これから足を踏み入れる場所が危険でないと言い切れないのに、相手の都合で自身を守る護衛を置いていけと言われて納得できるのか。

 納得できるはずがない。

 仲間のためとは言え、自分たちの都合だけを考えて発言していたと気付いたドアンは自身の言動を情けなく思う。


「……申し訳ありませんでした。仲間たちを不安にさせたくないとは言え、自身の都合だけを考えた発言をしてしまうとは……」


 自身の過ちに認めるドアンは深く頭を下げてゼブルに謝罪する。

 近くにいた護衛のダークエルフたちは謝罪するドアンを目を見開いていた。

 一族の代表である族長が頭を下げるなどあってはならないことだが、ゼブルとドアンの会話を聞いて、ダークエルフたちも相手の都合を考えずに頼んでいたことに気付いたため、ドアンの謝罪を止めたり、否定したりしなかった。


「分かってくれればそれでいい。……改めて確認するが、モンスターたちを集落へ入れて構わないな?」

「勿論です」


 顔を上げるドアンを見ながらゼブルは「よし」と言いたそうに軽く頷く。

 ゼブルの実力を考えれば、例えダークエルフの集落がどんな場所か分からなくても、護衛を付ける必要は無いだろう。だが、ダークエルフから見くびられないようにするため、ゼブルは護衛が不要でも護衛を付けさせる状況を作り、自分は甘くないことをアピールする必要があった。

 ティリアとシムスもこれから支配下に置くダークエルフの要求を全て聞いていたら軽んじられる可能性が出てくると考えていたため、ゼブルが護衛を同行させる状況を作ったことは間違っていないと思っていた。


「では、ご案内しますので、私の後をついて来てください」


 そう言うとドアンはゼブルたちに背を向けて集落の奥へ歩き出す。

 護衛のダークエルフたちもゼブルたちを見ながら振り返り、ドアンの後をついて行った。

 ゼブルは先に行くドアンたちの後ろ姿を見ながら、どのような集落なのだと想像しながら歩いて行く。

 ティリアも興味をそそられながらゼブルと共に集落の奥へ進み、シムスは振り向いて待機しているモンスターたちに「ついて来い」と手招きをしてから移動する。

 モンスターたちはシムスの指示を受けた直後、隊列を崩すことなく一定の速度を保ちながら集落へ入っていく。


――――――


 ドアンに案内され、ゼブルたちは集落の奥にやって来る。途中で幾つもの小屋や畑、大樹の枝に建てられているツリーハウスを見かけ、ツリーハウスからは別の大樹のツリーハウスにつり橋が掛けられていた。

 他にも集落の外から流れている小さな川などもあり、広い森林の中にある集落としては生活しやすそうな場所だった。

 集落の至る所には住人であるダークエルフたちの姿があり、全員がゼブルや同行するティリアたちに対する不安や恐怖を露わにしている。中には小屋やツリーハウスに逃げ込んだり、屋内から覗き込んでいるダークエルフもいた。

 ゼブルは歩きながらダークエルフたちの反応を見て、予想どおり自分たちを警戒していると実感する。

 ダークエルフたちと友好的な関係を築くためにも、支配下に置いた後に魔王国民やそれ以外の者たちと問題無く繋がりを持てるよう手を打つ必要がある。そう考えながらゼブルは会談場所へ向かうのだった。

 ダークエルフたちの視線を感じながら、ゼブルたちは集落の中央付近にある大樹の前までやって来る。

 大樹の枝には周囲の建物より一回り大きなツリーハウスがあり、地上にはツリーハウスまで続く木製の坂道が作られていた。

 坂道の前には十人のダークエルフが待機しており、その中にはドアンの子供であるアセーラ、レイシ、グアーバの姿もある。

 アセーラたちは歩いてくるゼブルを無言で見ていたが、その後ろにいる大量のモンスターたちを見た瞬間に驚きの表情を浮かべた。


「出迎えご苦労だったな、アセーラ」


 先頭を歩いていたドアンはアセーラの前まで来ると声をかける。

 ドアンの声を聞いたアセーラはフッと反応し、目を見開きながらドアンを見つめた。


「ち、父上、あのモンスターたちは……」

「ゼブル陛下の配下のモンスターたちだ。話し合いの準備をする前に陛下が話していただろう」

「それは知っています。どうしてモンスターが集落の中にいるのかと聞いているのですか?」


 多くのダークエルフがいる場所に魔王の配下であるモンスターを入れるなどあり得ない。そう考えているアセーラは僅かに力の入った声を出しながらドアンに尋ねる。

 レイシや他のダークエルフたちも驚きと不安が一緒になったような顔でドアンを見ており、理由を説明してほしいと目で訴えていた。

 ドアンは予想どおりの反応を見せたアセーラたちを見て、静かに息を吐いてから静かに口を開く。


「彼らはゼブル陛下の護衛だ。陛下にとって我々の集落は未知の場所、何の情報も無い場所に護衛も付けずに入ることなどできないだろう」

「護衛が重要だと言うことは私も理解しています。ですが……」


 現状から護衛が必要なことは分かっている。だが、それでも大量のモンスターを自分たちの集落に入れることには納得できないアセーラは僅かに不満そうな顔をしていた。


「アセーラ、お前がゼブル陛下と同じ立場で、未知の場所に入れと言われた時に僅かな仲間だけを連れていけと言われたら、納得できるか?」


 ドアンは自分がゼブルに言われたことをそのままアセーラに問いかける。

 質問されたアセーラは一瞬反応し、ドアンが何を言いたいのか察した。そして言い返すことができなくなったアセーラは僅かに顔をしかめて黙り込む。

 アセーラを見て渋々納得したと悟ったドアンは周りにいるレイシたちの方を向く。

 レイシたちもドアンとアセーラの会話を聞いていたので、モンスターが集落に入ってきている理由を理解していた。そのため、これ以上異議を上げても意味は無いと感じ、何を言わずに口を閉じている。

 全員が納得したのを見たドアンは振り返り、待機していたゼブルたちの方を向く。


「ゼブル陛下、こちらが話し合いの会場です。既に集落の各責任者たちは全員集まっています」


 ドアンの言葉を聞いたゼブルは目の前のツリーハウスを見つめる。


「話し合いはすぐに始められるのか?」

「ハイ、準備は整っておりますので、陛下が会場にお着きになられたらいつでも」


 ゼブルはドアンの返事を聞き、ダークエルフたちは仕事が速いと感心する。

 これなら何の問題も無く話し合うことができると感じながら、ゼブルは後ろで待機しているティリアたちの方を向いた。


「ティリア、シムス、お前たちも一緒に来い。念のためにお前たちも話を聞いておけ」

「分かりました」

「了解だ」


 直接会談に参加しないとしても、ファブール魔王国の今後に関わる重要なことを話し合うのだから、幹部である自分たちも聞いておくべきだと考えるティリアとシムスは、不満などは見せずに頷く。


「あと、護衛としてハウンドスイーパーたちも同行させる。残りは待機させろ」


 会場に僅かな護衛しか同行させないというゼブルの言葉にドアンは反応する。

 未知の場所に護衛を連れて行かずに足を踏み入れることはできないと言っていたのに、ゼブルが少ない護衛しか連れて行かないと聞いてドアンは少し驚いていた。


「あ、あの、ゼブル陛下。護衛は全て連れて行かずに待機させるのですか?」

「ああ、流石にコイツら全員を会場に入れるわけにはいかないからな」

「しかし、陛下は……」

「確かに危険かもしれない場所に護衛無しでは入れないと言った。だが、近くで待機していれば何か起きてもすぐにモンスターたちを動かせる。それに少しとは言え、護衛は同行させるんだから問題無い」


 目の前にいなくても、素早く指示を出せる場所に待機させておけば護衛として動かせるという説明を聞いたドアンは一理あると感じ、ゼブルがそれでいいのならこれ以上自分が何も言うべきではないと考えた。

 ただ、本心では護衛でも大量のモンスターを会場に入れると、会談に参加する他の者たちが混乱するため、ドアンは護衛を外で待機させてくれてよかったと思っていた。


「では、会場へご案内します。……あと、会談にはアセーラとレイシも参加させたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、別に構わない」


 族長の子供ならダークエルフたちの今後に関わる話し合いを聞かせた方がいいとゼブルは判断し、アセーラとレイシの参加を認める。

 会談への参加を許可されたレイシは小さく笑い、ゼブルに軽く頭を下げて感謝の意を伝える。

 アセーラは長女の自分が参加するのは当然だと思っているのか、何の反応も見せずに黙ってゼブルを見ていた。

 レイシの隣ではグアーバがムスッとしながら俯いている。実はグアーバもアセーラとレイシのように会談に参加することを志願していたのだ。

 だが、いくら族長の息子でも幼いグアーバが参加しても意味は無いとドアンやアセーラに反対され、会談への参加を許してはもらえなかった。


「それでは、参りましょう」


 ドアンはアセーラとレイシ、護衛のダークエルフを二人連れて目の前にある木製の坂道を上がり、大樹の枝に建てられているツリーハウスへ向かう。

 ゼブルもティリアとシムス、四体のハウンドスイーパーを連れてドアンたちの後をついて行く。

 坂道の前ではグアーバと五人ダークエルフ、ゼブルが連れてきたアサルトホッパーたちだけが残った。

 目の前で大人しくしているモンスターたちをグアーバたちは少し緊張しながら見つめる。


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