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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第4章  魔王国の統治者
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第73話  信用と警戒


 目の前にある場所がダークエルフの集落だと知ったゼブルは視線を動かして集落を見回す。

 EKTの世界にいた時に森の中に造られたエルフの村や集落を何度か訪れたことがあり、NPCのエルフたちが木に囲まれた場所でツリーハウスを作って暮らしている光景を目にした。

 異世界のダークエルフも同じように生活しているのを見て、予想したとおりだとゼブルは感じている。

 ただ、EKTの世界と違って現実の集落には生活感があるため、MMORPGとは雰囲気が違うことにゼブルは興味をそそられた。

 ティリアも初めて見るダークエルフの集落に感動したのか、目を見開きながら集落を見ていた。


「想像していたよりもデカい集落だな。これなら二百人いても問題無く暮らせる」


 ダークエルフの人数に合った規模の集落を見ながらゼブルは呟く。

 集落の大きさや状態から、ダークエルフたちの自給自足や独立して生きていく技術が優れていると悟ったゼブルはその技術と知識は色々なことに役立つはずだと感じ、より配下に置きたいという意思を強くする。


「木の枝の上に家が建てられていますけど、あれには何か意味があるのでしょうか?」


 遠くにあるツリーハウスを見つめるティリアはゼブルに尋ねる。

 トリュポスや周辺の都市では見ることができないため、ティリアには初めて目にするツリーハウスが不思議に思えたのだろう。


「意味は色々ある。枝の上に家を建てることで自然を身近に感じようとしているのか、あるいはモンスターや猛獣に襲われないようにするためだろうな」

「成る程、そう言うことですか」


 ツリーハウスが利点を聞かされたティリアは納得の反応を見せる。


「……魔王様って、エルフの集落について詳しいんですね」


 会話を聞いていたグアーバが意外そうな表情を浮かべながらゼブルに声をかける。

 少し前までゼブルを怖がっていたが、今ではゼブルは恐ろしい存在ではないと考え、自分から声をかけられるようになっていた。


「エルフの集落と言うか、森や森林に詳しいと言った方がいいな。これでも昔は自然保護官だったからな」

「え?」


 聞いたことの無い単語にグアーバは不思議そうな顔をしながらまばたきをする。

 ゼブルはグアーバの反応を見て、うっかり現実リアルの世界の言葉を口にしてしまったことに気付き、心の中で「しまった」と後悔する。

 

「あ~いや、気にするな。つまらないことだ」


 詳しく聞かれる前にゼブルが強引に話を終わらせると、グアーバはゼブルを見上げながら小首を傾げる。

 ティリアも自然保護官と言う言葉を初めて聞いて、グアーバと同じように不思議そうな顔をしている。

 ただ、ゼブルが別世界から来た魔王であることから、以前いたEKTの世界に関係している何かだと予想し、グアーバや近くにいるダークエルフたちに知られないようゼブルに詳しく聞いたりはしなかった。


「では、このまま族長の下へご案内しますので、ついて来てください」


 レイシはゼブルに声をかけると部下のダークエルフたちと共に集落へ入った。

 ゼブルもティリアとグアーバと共にレイシたちの後をついて行く。これから会うダークエルフの代表はどんな人物なのか、ゼブルは予想しながらダークエルフの集落に足を踏み入れる。

 ゼブルたちが集落の入口前にある広場に入った瞬間、複数の視線を感じ取ったゼブルとティリアは反応する。

 二人が視線に気づいた直後、先頭を歩いていたレイシとダークエルフたちがゆっくりと足を止る。

 レイシたちにそれにつられるようにゼブルとティリア、グアーバも立ち止まった。

 ゼブルたちの視線の先には七人のダークエルフが横一列に並んで立っており、全員が鋭い目でゼブルたちを見ている。いや、正確にはゼブルとティリアを見ていると言った方がいいだろう。

 七人の内、真ん中には身長165cmほどで二十代前半ぐらいの美しい女ダークエルフが立っており、銀色のポニーテールに濃い黄色の目をしている。

 濃緑色の長袖、茶色の半ズボンを姿で濃い茶色のロングブーツを履いて黒いマントを羽織っており、レイシと同じ濃い茶色のレザーアーマーを装備し、腰には剣を差していた。

 他のダークエルフたちはレイシに同行していた者たちと同じ装備をしており、左手で弓を握り、右手は腰の矢筒に掛けていつでも矢を抜けるようにしている。


(あのダークエルフたち、状況から考えて集落を守る部隊か何かか。……やっぱ、俺とティリアを警戒してるみたいだな)


 報告は受けて自分たちが来ることが分かっていても、ポルザン大森林の外から来た者が自分たちの集落に来るのだから警戒するのは当たり前だとゼブルは納得する。

 しかもその部外者の一人は魔王を名乗っているのだから、警戒しない方がおかしいと言えるだろう。


「……グアーバ君、あの人たちは誰ですか?」


 ティリアは自分たちを睨むダークエルフたちの正体が気になり、小声でグアーバに尋ねる。


「集落を防衛や危険なモンスターの討伐をする部隊です。真ん中にいるのは僕の姉様」

「えっ、グアーバ君のお姉さんですか?」


 驚いたティリアは正面にいるダークエルフたちの方を向き、真ん中に立っているポニーテールの女ダークエルフを見つめた。

 姉である女ダークエルフはティリアに気付くと、弟に近づいていることが気に入らないのか、目を僅かに細くしてジッと睨む。

 睨まれていることに気付いたティリアは予想以上に警戒されていると感じ、思わず目を見開いた。

 ゼブルとティリアが広場にいたダークエルフたちを見ていると、レイシが歩き出して姉のダークエルフの前まで移動する。


「姉上、お待たせしました」

「……あれが例の魔王を名乗る昆虫の異形なのか?」

「ハイ。魔王を名乗り、更にファブール魔王国の統治者を名乗るゼブル・ファブール陛下です」


 レイシは振り返り、離れた所で自分や姉を見ているゼブルとその隣に立つティリアを見る。

 姉のダークエルフはゼブルを見ると小さく舌打ちをし、レイシの長い耳を摘まんで強く引っ張った。


「痛たたたっ!?」

「報告に来た者の話では、あの魔王を自称する異形は結界を破って大森林に侵入し、自分の国とダークエルフの今後について話し合うと言ったそうじゃないか?」

「は、ハイ。そのとおりです……」


 小声で話しかけてきた姉を見て、レイシも同じように小声で返事をする。


「本当に話し合うのかどうかも分からないのに集落へ連れてくるなんて、お前は何を考えているんだ」


 ゼブルの目的や危険ではないことをハッキリさせず、軽々しく集落へ連れて来たことを愚かだと考える姉のダークエルフはレイシを叱責する。

 レイシは自分を睨む姉を見ながら複雑そうな表情を浮かべる。

 確かに真意が分からない上に魔王を名乗る存在を連れて来るという、仲間を危険に晒すような行動を取ったのだから姉が怒るのも当然だ。しかも自分は警備隊の隊長であり、族長の息子でもあるのだから人一倍警戒しなくてはならない。責任ある立場としてはあまりにも不用心と言えるだろう。


「し、しかし、ゼブル陛下は私たちに危害を加えたりする気は無いと仰っています。彼の様子から、嘘をついているようには見えないかと……」

「それが本当だと言う根拠は無いだろう。集落へ案内せず、父上か私を呼びに行くという方法もあったはずだ」

「そうは言いますが、彼は自国とダークエルフの今後を話し合いたいと仰いました。ちゃんとした会談の場を作らず、室外で話し合うというのは失礼ではないでしょうか?」


 危険な可能性があるとはいえ、モンスターが徘徊する外で話し合いをさせることこそ大問題だと考えるレイシは、引っ張られる耳の痛みに耐えながら語る。


「それにあの方はグアーバの恩人でもあります。弟を救ってくださったのですから、自分たちが暮らしている場所でお礼をするのが家族としての義務だと私は思っています」

「グアーバか……」


 姉のダークエルフはゼブルの方を向き、ゼブルの近くにいるグアーバを見ると手招きして自分の方に来るよう目で伝えた。

 グアーバは姉を見ると僅かに暗い表情を浮かべながら姉の方へ走り出す。今回の件で姉に叱れると予想して小さな不安を感じているようだ。

 姉とレイシの下までやって来たグアーバはゆっくり顔を上げ、不機嫌そうにしている姉を見上げる。


「えっと……何でしょうか、姉様……」


 グアーバが恐る恐る話しかけると、姉のダークエルフは呆れたような表情を浮かべながら溜め息をつく。


「グアーバ、面倒なことをしてくれたな。お前が一人で集落の外に出た結果、あの魔王を名乗る異形を集落へ連れて来ることになったんだぞ」

「ご、ごめんなさい……」


 自分の過ちを認めるグアーバは俯きながら謝罪する。ただ、この謝罪はゼブルを連れて来たことに対するものではなく、勝手に集落を出たことに対する謝罪だ。


「友達の女の子が怪我をしちゃったから、傷に効く薬草を採ってこようと思って……」

「薬草なら集落にあるだろう。わざわざ採りに行かなくても集落にある物を使えばよかったんだ」

「でも、最近は“あの人たち”のことで薬草が少なくなってるって皆が言ってたから、使ったらダメかなって……」


 グアーバの言葉を聞いた姉のダークエルフは反応して軽く目を見開く。

 どうして集落にある薬草を使わず、わざわざ外に薬草を採りに行ったのかを知った姉のダークエルフは再び溜め息をつき、摘まんでいたレイシの耳を解放する。

 耳を放してもらったレイシは若干痛そうな顔をしながら摘ままれていた部分を擦った。


「……外に出た理由は分かった。だが、これからは危険な行動はせず、遠慮なく集落にある物を使うようにしろ」

「は、ハイ」


 グアーバが返事をすると、姉のダークエルフは続けてレイシの方を向く。


「レイシ、お前もグアーバや他の者が集落の外に出ようとしているの見かけたら、集落の外に出ないよう止めろ。今は特に外に出るのが危険だからな」

「す、すみません、姉上」


 姉に注意され、レイシも耳を擦りながら謝罪する。

 グアーバとレイシが反省しているのを見た姉のダークエルフは再び目を鋭くし、遠くで自分たちのやり取りを見ているゼブルに視線を向ける。

 まだゼブルが危険ではないと確信できていないため、姉のダークエルフは警戒心を強くし、ゆっくりとゼブルの方へ歩いて行く。

 姉がゼブルに近づくのを見たグアーバとレイシも、姉とゼブルが問題無く会話できるようフォローしようと考え、姉の後をついて行った。

 姉のダークエルフはゼブルの前にやって来ると鋭い表情を浮かべたままゼブルを見つめ、軽く頭を下げた。


「お初にお目にかかります、魔王ゼブル殿。私はクノモダ族族長の娘にして、レイシとグアーバの姉、集落の防衛隊長を務めるアセーラ・トロカールと申します」

「ゼブル・ファブールだ。よろしくな」


 既に知っているだろうが、相手が名乗ったのだから自分も名乗るべきだと、ゼブルは改めて自己紹介をし、そっと右手を出して握手を求める。

 アセーラはゼブルの右手を見て何をしようとしているのか気付くと、周囲に気付かれないくらい僅かに目元を動かす。警戒している相手と握手を交わすことに対し、アセーラは少し不快な気分になっていた。

 本当なら魔王を名乗り、ポルザン大森林に侵入した他種族と握手などしたくは無い。だが族長の娘として、同族であり弟であるグアーバを救ってくれた恩人に失礼な態度を取るわけにはいかないと考え、渋々ゼブルと握手を交わした。

 握手を交わすとゼブルとアセーラはゆっくりと手を下ろして目の前にいる相手を見つめる。

 アセーラは握手をした右手を強く握り、早く手を洗うか、ハンカチか何かで拭いたいと心の中で思っていた。


「……まず、グアーバを救ってくださったことを心から感謝いたします」

「気にするな。そこまで感謝されることをやったつもりは無い」


 ゼブルの返事を聞いたアセーラは僅かに目を細くする。魔王を名乗る者がなぜ人間のように謙遜するのだと、ゼブルを見ながらそう感じていた。


「聞くところによると、ゼブル殿は我々ダークエルフとファブール魔王国の今後について、族長である父と話がしたいとのことですが……いったいどのようなお話をなさるのでしょうか?」

「それは族長である親父さんと会った時に詳しく話す。とりあえず、親父さんの所へ案内してくれ」

「……申し訳ありませんが、現状ではそれは無理です」


 アセーラが低めの声で拒否すると、グアーバとレイシは驚きの反応を見せる。

 ティリアも案内を断ったアセーラを見て軽く目を見開いた。


「おかしいな。集落に着いたら親父さんに会わせると聞いたんだが?」

「それは弟が勝手に決めたことです。族長である父はまだ話し合いをすることを受け入れていません」

「あ、姉上……」


 グアーバの恩人であり、一国の統治者であるゼブルに無礼な発言をするアセーラにレイシは困惑の表情を浮かべる。


「ね、姉様、魔王様は僕を助けてくれたんです。だからそのお礼に、父様と話し合えるようにするべきじゃ……」

「お前は黙っていろ」


 アセーラはゼブルを見つめながら、横から口を挟むグアーバを黙らせる。

 低い声を出す姉に軽い恐怖を感じたのか、グアーバは言い返せずに黙り込む。


「グアーバを救ってくださったことには本当に感謝しています。……ですが、正直に申しますと私は……いえ、集落にいるダークエルフたちは貴方がたが危険な存在かもしれないと考えています」


 ゼブルは自分の正体を知っていながら、恐れることなく本心を語るアセーラを見て興味のありそうな反応を見せる。

 普通なら家族を救ってくれた存在、それも一国の王に失礼な発言をするなどあり得ないと考えるだろう。

 しかし、ダークエルフの立場や過去に他種族から受けた仕打ち、そして相手が魔王を名乗る異形であれば警戒するの当然の無いことだ。

 ゼブルがアセーラの態度は仕方の無いと考える一方で、レイシとグアーバは魔王を名乗るゼブルに対してとんでもない言葉を口にするアセーラを見ながら固まっていた。

 ただ、固まっているのはレイシとグアーバだけで、アセーラと共にゼブルとティリアを迎えたダークエルフたちは全員、アセーラと同じように警戒の眼差しをゼブルとティリアに向けている。


「魔王がどれだけ恐ろしい存在なのかは、二百年前に現れた魔王の情報から理解しています。そのため、魔王を名乗る貴方が私たちにとって危険ではないと確信しない限り、安心できないのです」


 魔王がこの世界で非常に危険な存在として見られているのだから警戒するというアセーラの考えに、ゼブルは筋は通っていると感じた。


「ですので、貴方が危険でないと分かるまで、族長である父に会わせることはできず、これ以上集落に入らせるわけにはいきません」

「なら、どうすれば俺が危険でないと信じてくれるんだ?」

「貴方が我々に敵意が無いことを証明してくだされば……」


 アセーラの要求を聞いたゼブルは持っている剣を肩に掛けながら困ったような素振りを見せる。


「証明しろって言うが、具体的に何をすればいいんだ。武装を解除すればいいのか?」

「いえ、貴方が魔王を名乗るほどの実力を持っているのなら、今持っている武器を取り上げたとしても意味は無い。つまり、貴方が危険でないと証明できないということです」

「それは、俺が何をしてもアンタは信用しないってことか?」

「……」


 ゼブルの問いにアセーラは何も言わずに黙り込み、それを見たゼブルは図星だと直感する。


(この女は俺が何をしようが俺が危険でないと信じるつもりは無い。初めから俺を族長に会わせる気なんてなく、何かしらの理由を付けて帰らせようとしてるってことか)


 狙いを悟ったゼブルは、アセーラが見た目と違って策略的な性格だと感じる。

 隣で会話を聞いていたティリアも今のままでは族長に会うのは難しく、ダークエルフたちの関係が悪くなるかもしれないと不安に思いながらアセーラを見ていた。


「姉上、流石に今のは失礼すぎるのではないでしょうか? 本当にゼブル陛下に敵意があるのなら、集落に着いた直後に私たちに襲い掛かってくるはずです」


 これ以上、失礼な発言を見過ごせないと感じたのか、レイシはアセーラを止める。

 レイシもゼブルのことを完全に信用しているわけではないが、アセーラほど警戒しているつもりもないため、父に会わせて話を聞くぐらいはするべきだと考えていた。


「陛下は此処に来るまでの間、私やグアーバたちに危害を加えたりはしませんでした。それは、陛下が私たちダークエルフに敵意を持たないという証明になるのではないでしょうか?」

「僕もそう思います。魔王様は姉様が思っているほど怖くはありません」


 レイシに続き、先程までアセーラを怖がっていたグアーバも説得しようと声をかける。異形とは言え、自分の命の恩人であり、知識を授けてくれたゼブルをこれ以上疑われるのはグアーバとしては耐えられないことだった。

 アセーラはグアーバとレイシを見ると、呆れ顔で溜め息をつき、目を鋭くしてから二人を睨みつける。


「お前たちは族長の血を引く者として自覚が無さすぎる。少しでも危険があると感じれば、仲間のために不安を取り除いて安全を確実にする。それが族長の血を引く者としての義務ではないのか」

「そうだとしても、姉上の疑い方は少々やりすぎです」


 鋭い表情を浮かべるアセーラと困り顔をするレイシはそれぞれ自分の言い分を語る。

 族長の子供たちが言い合いを始めたことで周囲の空気が張り詰め、他のダークエルフたちの顔にも僅かに緊張が走る。

 ゼブルは仮にも客人である自分を前に対立する姉弟たちを見ながら呆れる。

 隣にいるティリアは自分とゼブルが原因で言い合いをするアセーラとレイシを見て申し訳なく思ったのか、困ったような表情を浮かべていた。


「二人とも、そこまでだ」


 突如男の声が響き、アセーラとレイシは同時に目を見開いて声が聞こえた方を向く。

 グアーバや他のダークエルフたちも一斉に反応し、アセーラとレイシにつられるように同じ方角を見た。

 視線の先には緑や茶色が入った黄土色のローブを着たダークエルフが、剣を装備した四人の若いダークエルフを従えて歩いてくる姿があった。

 ローブを着たダークエルフは三十代前半ぐらいで身長は170cm強。肩に掛かりそうなくらいの長さの銀髪、黄色の目を持ち、周りのダークエルフとは違う雰囲気を漂わせている。


「客人の前で見っともない姿を見せるんじゃない」

『父上!』


 三十代のダークエルフを見て、アセーラとレイシは同時に声を発する。現れたダークエルフこそ、ポルザン大森林で暮らすダークエルフ、クノモダ族の族長であり、アセーラたちの父親だった。

 見た目から、アセーラたちの父親としては若すぎるように思えるが、長寿のダークエルフなら見た目と違って何百年も生きているため、三十代の見た目で三人の子を持っていてもおかしくはない。

 アセーラとレイシは族長である父の方を向き、グアーバも驚きながら父を見つめる。

 周りにいるダークエルフたちも全員が族長の方を向いて姿勢を正した。

 族長はゆっくり歩きながら子供たちに近づく。そして、歩きながら集落へ訪れたゼブルを見つめる。

 ゼブルのことはレイシの指示を受けて報告にやって来たダークエルフから話を聞いていたため、族長はゼブルを見て驚きの反応を見せてたりはしなかった。

 やがて、アセーラたちの前までやって来た族長は静かに立ち止まり、目を僅かに鋭くしてアセーラを見つめる。


「話は聞いていた。……アセーラ、ゼブル陛下を集落へ招き入れろ」

「ち、父上?」


 父の口から予想外の言葉が出て、アセーラは耳を疑う。

 逆にレイシとグアーバはゼブルが集落に入ることを、族長である父が認めたことで意外そうな顔をしていた。


「なぜですか、父上。ゼブル殿が私たちダークエルフにとって危険でないと確信していないのに、集落へ招き入れるなど……」

「確かにゼブル陛下は魔王を名乗っておられる。だが、それ以前にグアーバを救ってくれた恩人だ。その恩人を必要以上に疑うのは、レイシの言うとおり失礼と言えるだろう」

「私もそれは分かっています。ですが、いくら家族を救ってくれた存在でも、危険な可能性が少しでもあれば、それを取り除かなければ集落にいる他の者たちを不安がらせることになります」


 族長の娘として多くの仲間を守る義務があると語るアセーラを見た族長は、静かに息を吐いてからそっとアセーラの肩に手を置いた。


「アセーラ、お前が真面目な性格で仲間たちを守りたい気持ちが強いのは分かっている。だが、仲間を守るためだからと言って、相手を一切信用しないというのは問題だ。それでは私たちダークエルフを見下していた他種族と同じではないのか?」

「そ、それは……」


 族長の言葉にアセーラは僅かに複雑そうな表情を浮かべる。

 確かに信用しないのは、ある意味で相手を侮辱する行為と同じと言えるため、ダークエルフを罵ってきた他種族と同じことをしていると言える。

 自分がゼブルを必要以上に疑ったことで、ダークエルフを毛嫌いしてきた者たちと似た行動を取っていたと気付き、アセーラは俯きながら黙り込んだ。


「お前の考え方が全て間違っているとは言わない。今は“奴ら”のこともあるし、必要以上に他種族を警戒するのも不思議ではない。しかし、それでもグアーバを救ってくださったゼブル陛下たちは信用するべきだと私は思っている」

「……ハイ」


 仲間を守りたいという気持ちも大事だが、相手を信用することを忘れてはならないと教えられたアセーラは族長の顔を見ながら小さく頷く。

 アセーラが納得したのを見た族長は、次にレイシとグアーバの方を向いた。


「お前たちも、恩人を信用するという気持ちは間違っていないが、アセーラたちの許可も得ず、勝手に集落や仲間の下へ案内したりするのはどうかと思う。今後は気を付けるようにしろ」

「は、ハイ」

「ごめんなさい」


 レイシとグアーバも自分たちの間違いを指摘され、頭を下げて謝罪する。

 族長が会話に参加したことで緊迫した空気が僅かに和み、ダークエルフたちの顔からも少しだけ緊張が消えた。

 アセーラたちとの会話が終わった族長はゼブルの方を向き、アセーラたちの間を通ってゼブルの前まで移動する。

 ゼブルは目の前までやって来たダークエルフの族長を無言で見つめる。明らかにアセーラたちとは雰囲気が違っており、ダークエルフたちをまとめ上げる素質があると感じていた。

 

「ご挨拶が遅れました。私がこのクノモダ族の族長を務めるドアン・トロカールと申します」

「俺はゼブル・ファブール。ファブール魔王国を統率する魔王だ」


 ゼブルがアセーラの時と同じように右手を出して握手を求めると、族長のドアンも右手を出して握手を交わす。アセーラと違ってドアンは握手を交わす際、ゼブルに対する抵抗や不快感などは一切顔に出さなかった。

 挨拶が済むとドアンは右手を下ろし、真剣な表情を浮かべながらゼブルに頭を下げた。


「此度は息子のグアーバを救っていただき、心から感謝いたします。そして、娘のアセーラが無礼な発言をしたことをお詫びいたします」

「構わない。状況やダークエルフたちの事情を考えれば仕方がないことだ」

「陛下のお心遣いに感謝いたします」


 そう言って再び頭を下げるドアンを、ゼブルは黙って見つめる。

 ゼブルはこの時、ダークエルフと話し合いができずに帰されるという最悪の結界にならずに済んだことに心から安心しており、心の中でアセーラを説得してくれたドアンに感謝していた。


「さて、今日俺たちが此処に来たのは、アンタたちダークエルフを探し出し、魔王国とダークエルフの今後について話し合いをするためだ」

「ハイ、そのことは知らせに来た部下から聞いて理解しております。ただ、内容に関しては詳しく聞かされていないのですが……」


 どんな話をするのか分かっていないドアンは若干不安そうな口調で語る。

 周りにいる他のダークエルフたちも、どのような内容か気になるのか無言でゼブルを見ている。

 ゼブルはドアンやダークエルフたちの反応を見ると、面白いと感じたのか小さく笑った。


「心配するな。アンタたちダークエルフにとっては悪くない話だ」


 自分たちが損をするような話ではないと聞いたグアーバやダークエルフの数人は、興味のありそうな反応を見せる。

 だが、残りのダークエルフたちやアセーラは何か裏があるのではと予想し、疑うような顔をしていた。

 ドアンもゼブルが何を考えているのか気になっているような表情を浮かべている。

 もう少し詳しく聞いてみようかと考えたが、まだ会談が始まってもいないに詳しい説明を求めるのは見っともないため、会談が始まるまで我慢することにした。


「では、これから話し合いの場へご案内いたします。……ただ、突然陛下から話し合いをしたと言う知らせを受けたため、会場の準備がまだ整っておりません。申し訳ありませんが、少々お待ちいただけますか?」

「勿論だ。こっちが突然押し掛けたわけだからな」


 ダークエルフたちの都合を考えずに来たのだから、自分たちには待つ義務があると考えているゼブルは嫌そうな反応などは見せずに承諾する。

 ドアンはゼブルの冷静で相手の立場を考えて言動する姿を見て、魔王らしくないと感じたのか、意外そうな顔をしていた。


「あの、ゼブル様。ダークエルフの集落が見つかり、会談が行われることが決まったわけですから、シムス様に連絡を入れた方がよろしいのではないでしょうか?」

「そうだな。アイツらもずっと大森林の外で待機しているだろうし、現状を伝えてこっちへ呼ぶか」


 ティリアの提案を承諾したゼブルは左手を側頭部に当てて連絡コンタクトを発動する体勢を取る。

 ここまで一度も連絡を入れて無かったため、ゼブルはダークエルフと接触したことや集落を見つけたことを早くシムスに伝えてやろうと思っていた。


「ゼブル陛下、どうかされましたか?」


 ゼブルが連絡コンタクトを発動しようとした時、ゼブルを見ていたドアンが不思議そうにしながら声をかけてきた。

 ドアンを見たゼブルは、これから行われる話し合いの内容をシムスに聞かせるため、シムスや同行させたモンスターを集落に来させることを族長のドアンに伝えるべきだと考えた。


「ドアン族長、これから俺の配下のモンスターたちを呼び出す」

「えっ、モンスター?」


 突然予想外の言葉を口にしたゼブルにドアンは思わず聞き返す。

 周りにいたアセーラたちもゼブルの言葉を聞いて驚きの表情を浮かべる。


「アンタたちダークエルフを探すために同行させたモンスターたちだ。今は大森林の外で待機しているんだが、いつまでも待機させるわけにはいかないんで、此処に呼ぶことにしたんだ」


 魔王の配下のモンスターが自分たちの集落へやって来ると聞き、ドアンは緊迫した表情を浮かべる。

 もしゼブルが本心ではダークエルフに危害を加える気があり、そのモンスターたちに自分たちを襲わせるつもりなのではという考えが頭をよぎり、ドアンは汗を流しながらゼブルを見つめた。


「安心しろ、お前たちを襲ったりはしない」


 ドアンの反応を見て、何を考えているのか察したゼブルは安心させるためにモンスターに危険は無いことを伝える。

 自分の考えていることを読まれたドアンは軽く目を見開いて一瞬驚きの反応を見せる。それと同時にゼブルが本当に自分たちを襲わせる気が無いのかもしれないと感じ始めた。

 もし本当に襲う意思があるなら、わざわざモンスターを集落へ呼ぶことを教えず、秘かに呼び出した方が襲撃しやすい。それをしない点からゼブルがモンスターたちに集落を襲撃させる可能性はとても低いとドアンは予想する。


「奴らが来るまで少し時間が掛かる。話し合いはアイツらが来てから始めてくれ」

「わ、分かりました。こちらもその間に準備を済ませておきます」


 そう言うとドアンは近くにいたダークエルフたちに急いで会談場所の準備をするよう指示を出す。

 指示を受けたダークエルフたちは返事をすると素早く集落の奥へ走っていった。

 残っていたアセーラもレイシたちに集落にいる他のダークエルフたちにゼブルのことを知らせてくるよう伝え、レイシたちも急いで集落の奥へと向かうのだった。

 ドアンたちが動くのを見たゼブルは隣にいるティリアにも聞こえないくらい小さな声を出して笑い、連絡コンタクトを発動した。


「シムス、俺だ。遅れて悪かったな。実は今から……」


 ゼブルはシムスに連絡を入れると、現状とポルザン大森林に入ってから何があったのかを詳しく説明し始めた。


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