第69話 出立
太陽に照らされる魔王城の正門前にはポルザン大森林に向かうためにシムスが用意した部隊が隊列を組んでいる。部隊の前にはシムスが立っており、待機しているモンスターたちを見ていた。
用意された三十体のモンスターの内、五体は移動用のモンスターで残る二十五体はゼブルたちの護衛、偵察などを行うモンスターたちだ。
移動用のモンスターは二種類おり、三体は体高が1.4mほどで体長が1.8m前後、黒い体毛と大きく平たい角を生やしたは鹿のようなモンスターで手綱と鞍がついている。ゼブルとティリア、シムスが乗るモンスターだ。
他の二体は体高が約2m、体長が4mほどで灰色の体に鼻の部分から反りの入った一本角を生やしたサイのようなモンスターで大きめの荷車を付けている。こっちは同行するモンスターたちが移動の際に使うモンスターで荷車にモンスターたちが乗ることになっていた。
魔王城からポルザン大森林まではそれなりに距離がある。いくらモンスターでも徒歩で移動するのは厳しいため、モンスターたちが乗る荷車が用意されたのだ。
移動用のモンスター以外は全て小型のモンスターで、半分以上が昆虫族モンスターだった。
二十五体の内、四体は人型で身長160cm強、黄色い目で濃い茶色の体毛を生やしたウェアウルフのような外見で銀色のハーフアーマーと短剣を二本装備している。
他には赤い服を着た黒い長髪に茶色の目、白い肌をした美女の上半身、紅の蜘蛛の下半身を持った昆虫族モンスターが六体。
身長165cmほどで薄い茶色の体に長めの触角、大きな赤い二つ目を持ち、腕の部分から鎌状の脚を二本生やした人型の昆虫族モンスターが十体。
そして金髪で青い目、白いワンピースのような服装で鳥の足と白い鳥の翼を持つ美女のモンスターが五体いる。
ウェアウルフのようなモンスターはハウンドスイーパーと呼ばれるシムス直轄の上級モンスターでレベルは70から75。高い近接戦闘能力を持ち、主にシムスの護衛、援護を役目としている。
長髪で蜘蛛の下半身を持っているのはアルケニーロードと言うレベル50前後の中級モンスター。蜘蛛の下半身を持っていることから移動速度は速く、木の枝や高い所に楽々と上がれる。更に戦闘能力も高いため、森などの偵察には打ってつけの存在だった。
薄い茶色の昆虫族モンスターは今回同行するモンスターの中で戦闘を担当することになる中級モンスターのアサルトホッパー。レベルは40から43の間で中級モンスターの中では弱い方だが、異世界では十分強者と言える存在だ。更に周囲の風景に溶け込む擬態能力もあり、敵が油断しているところを攻撃することもできる。
そして白い翼を持つ美女のモンスターはセイレーン。今回の部隊に編成されたモンスターの中で唯一の下級モンスターでレベルは30から35だが、異世界では英雄級の実力者がようやく倒せるほどの力を持っている。回復系の魔法を使うことができ、戦闘では後方支援として使われることが多い。今回はゼブルたちの身の回りの世話、負傷した仲間を治療するために部隊に編成された。
モンスター以外にも、食料や物資などが入った木箱が幾つかあり、全てサイのようなモンスターが引く荷車に積まれている。
シムスは待機するモンスターたちを見つめ、部隊として問題は無いと確信しているのかニッと誇らしげな笑みを浮かべていた。
「準備は整ってるか?」
背後から声が聞こえ、シムスは笑みを消して振り返る。視線の先にはティリアを付き従えながら歩いて来るゼブルの姿があった。
「おう、バッチリだ。大森林に行って帰ってくるまでの間に何が起きても対処できるぜ」
再び笑みを浮かべるシムスは自分の編成した部隊が完璧であることを伝える。
ゼブルはシムスの隣にやって来ると用意された部隊を見る。待機するモンスターの数や種類を確認したゼブルは小さく頷く。
「流石はシムス、お前に任せて正解だった」
「へへっ、褒めても何も出ねぇぜ。大将」
笑いながら冗談交じりの返事をするシムスを見て、ゼブルも小さく笑う。
普段飄々としているシムスも職務や任務中は真面目になり、与えた仕事を全うするため、ゼブルにとってシムスは眷属であり、頼れる兄弟のような存在だった。
シムスとの話を終えたゼブルは近くでモンスターたちを見ているティリアの方を向いた。
「ティリア、ポルザン大森林までの道案内は任せる。俺たちよりもお前の方が詳しいだろうからな」
「分かりました」
返事をしたティリアを見たゼブルはポルザン大森林がある方角を向く。
ファブール魔王国の統治者として自身の国のことを何も知らないのはある意味で問題なため、大森林に着くまでの間、何処に何があるのかしっかり覚えるつもりでいた。
「因みに、ポルザン大森林までの最短ルートは分かるか?」
「あ、ハイ。少々お待ちください」
ティリアは懐から丸められた地図を取り出してゼブルの前で広げる。
「短時間で大森林に到着するには、まずトリュポスへ向かう道を通ります。途中で分かれ道がありますので、トリュポスに続く道とは違う道を通り、真っすぐ北西に向かって移動するのが一番早く辿り着けるかと……」
「確かにそれなら早く到着するかもしれないな。……最短ルートでどのくらいの時間が掛かる?」
「詳しくは分かりませんが、休息を入れるとなると、到着は夜中になると思います」
周囲が暗くなった頃に到着すると聞いてゼブルは低い声を漏らしながら考え込む。
休息を取りながら移動して夜に到着するということは、休息を取らずに移動すればもっと早く着くということになる。
急いでいるのなら、できるだけ休息を取らずに移動するべきだろうが、今回は急ぎの用ではないため、ゼブルは休息を取りながら移動するつもりでいた。
そもそもゼブルは部下や移動に使うモンスターたちに休息を取らせずに移動させる気など無いし、そこまで厳しくするつもりもない。
「別に早く着かないとダメだという訳じゃないんだ。暗くなったら適当な場所で一泊すればいい」
「分かりました」
急ぐ必要は無いと言われ、ティリアは少しだけ気持ちが楽になる。ただ、急いでないからと言って遠回りをするつもりはない。最短距離を選び、できるだけ早く到着できるように案内するつもりでいた。
「大将、そろそろ出発しようぜ」
「そうだな。急いでないからと言って、出発に時間を掛けるわけにもいかない」
ゼブルは一歩前に出て、隊列を組んでいるモンスターたちを見つめながら目を薄っすらと黄色く光らせる。
「これより、俺たちは魔王国西部にあるポルザン大森林へ向かう。そこには結界が張られ、ダークエルフが隠れ住んでいるという噂がある」
集まっているモンスターたちを見ながらゼブルはポルザン大森林に向かう目的を語り始める。
モンスターたちは自分たちの主人あり、ファブール魔王国の統治者であるゼブルに注目しながら黙って説明を聞いていた。
「大森林を探索し、ダークエルフの情報が真実であれば、魔王国の支配下に置く。それが今回の目的だ。ダークエルフを手に入れるため、そして魔王国の発展のため、全力で役目を全うしろ!」
ゼブルの言葉にモンスターたちは一斉に声や鳴き声を上げて返事をする。
モンスターである彼らにとって、ゼブルの役に立つことこそが最高の喜びであり、忠誠の証でもある。自身の忠誠心を証明するため、モンスターたちは持てる力全てを使い、目的を達成するつもりでいた。
それからモンスターたちは一部を除いて荷車に乗り込み、出立の準備に済ませる。
ゼブル、ティリア、シムスは鹿のモンスターに乗ると手綱で指示を出し、ポルザン大森林に向かって移動させる。
サイのようなモンスターたちも荷車を引きながら先に出立したゼブルたちの後に続く。
――――――
魔王城を出立したゼブルたちはティリアに案内されながらポルザン大森林へ向かう。
先頭にはゼブルとティリア、シムスがおり、その後ろをモンスターたちを運ぶサイに似たモンスターたちが続く。
数m上空にはセイレーンたちが翼を広げながら飛んでおり、ゼブルたちが進む先や周囲を見回していた。
正門前で説明されたとおり、途中まではトリュポスに続く道を進み、分かれ道までやって来るとトリュポスに続く道とは違う道を選んで先へ進む。
しばらくの間はちゃんとした道があったのだが、途中から道が無くなり、広い平原の中を進んでポルザン大森林がある北西へ向かことになった。
平原を抜けた後は湿地帯や荒野の近くを通り、少しずつ目的地へ近づいていく。
出発してから二時間が経過した頃、ゼブルたちは大きな川の前で止まり、休息を取りながら現在地の確認を行う。
此処に来るまでの間、何度も移動用のモンスターたちを休ませるために休息を取ったが、今のところ時間的には問題は無く、順調に進めていた。
ゼブルたちが乗っていた鹿のモンスターとモンスターたちを運んでいたサイに似たモンスターは川の水を飲んで喉を潤す。
他のモンスターたちは周囲を見張り、怪しい人影や野生のモンスターなどがいないか警戒していた。その中でゼブルはティリア、シムスと共に地図を見ながら現在地を確かめている。
「今のところ、問題無く移動できてるな」
「そうですね。現在地はこの辺りだと思います」
ティリアは地図を見ながら自分たちがいると思われる場所を指差す。
現在地を確認したゼブルは顔を上げて周囲を見回した。
近くには森や高台のような目だった場所は無く、目印になりそうな物も大きな川以外は何もない。今後、今いる場所を訪れる際に迷子にならないよう、ゼブルは目の前の光景をしっかりと目に焼き付けるのだった。
「このペースで行きゃあ、暗くなる頃には大森林の近くには辿り着くんじゃねぇのか?」
「ええ。ここまで盗賊や野生のモンスターなどとも遭遇してませんし、時間を浪費するような事態にならなけば予定どおりに進めると思います」
「ハハハッ、モンスターはともかく、盗賊が俺らを襲おうなんてあり得ねぇよ」
シムスは笑いながら周りにいるモンスターたちを見回す。
同行しているモンスターは全て並の人間では倒せないほどの強さを持っており、不気味な雰囲気を漂わせている。
少しでも戦いの経験を持つ者なら、そんなモンスターを目の当たりにすれば危険だと瞬時に理解し、襲おうなんて思わないはずだ。
特に同じモンスターであれば本能で近寄ってはならないと感じ取り、自分から関わろうとはしないだろう。
「襲撃される可能性が低いなら、無駄な体力を使うことも無いということになる。全力で大森林の調査をするためにも、このまま大森林に辿り着きたいものだ」
仮にモンスターや盗賊に遭遇しても負けることは無いが、体力の消耗は避けられない。
効率よくポルザン大森林を調べ、ダークエルフを見つけるためにもゼブルはこのまま野生のモンスターや盗賊に遭遇することなく大森林に着きたいと考えていた。
「……ゼブル様、ずっと気になっていたのですが、大森林に着いたら結界はどうされるのですか?」
複雑そうな表情を浮かべながら、ティリアはゼブルにポルザン大森林を囲む結果について尋ねる。
「お父様の話では外部の人が侵入できないよう、百年前から大森林全体を囲むように結界が張られているのですよね? 百年以上も張られ続けている強力な結界をどのように解除されるのですか?」
ティリアはトリュポスでレテノールからポルザン大森林の結界の話を聞かされた時から、ゼブルがどのように結界を解除して大森林に侵入するのか気になっていた。
ゼブルが強大な力を持っている魔王であることはティリアもよく分かっている。だが、そんなゼブルでも百年間破られることなく張られていた結界を解除するのは難しいのではと感じ、ゼブルに直接聞いてみることにしたのだ。
「心配するな、結界を解除する魔法やマジックアイテムならある。それらを使えば問題無く解除できるはずだ」
「そうですか……」
結界を解除できると語るゼブルを見てティリアは安心する。内心ではゼブルでも結界を破ることはできないのでは、と小さな不安を抱いていた。
だが、ゼブルが焦りや動揺を一切見せず、解除できると断言したことで心の中の不安が綺麗に消え、問題無く調査できると確信する。
「と言うか、大将ならわざわざ魔法やマジックアイテムを使わなくても、自分の力だけで結界を破れるんじゃねぇのか?」
シムスが笑いながらゼブルに語り掛けると、それを聞いたティリアは反応し、目を軽く見開きながらシムスを見た。
「まぁ、結界に種類によっては殴って壊せるかもしれないな」
ゼブルの返事を聞いたシムスはニッと笑いながら「だろう?」と言いたそうな顔でゼブルを見つめる。
「あ、あの、結界を殴って壊すって、どういうことですか?」
言葉の意味がいまいち理解できないティリアはまばたきをしながら尋ねた。
「そのまんまの意味だ。結界は種類によっては普通の攻撃でも簡単に破壊できる」
「えっ? そ、そうなのですか?」
通常攻撃で破壊できると言われ、ティリアは目を見開いて驚く。
反応を見たゼブルは、ティリアが結界のことをよく理解していないと察し、今後のために分かりやすく説明することにした。
「結界には様々な種類が存在し、結界の強さによって妨害できる敵や防げる攻撃の種類などが変わってくるんだ」
「結界の強さ、ですか?」
小首を傾げながら理解できない顔をするティリアを見て、ゼブルはもう少し分かりやすく説明しなくてはならないと悟り、こめかみ部分を指で掻きながらどう説明すればいいか考える。
「例えば、ある結界が張られているとしよう。その結界は中級魔法で作られたもので、レベル50以下の敵の侵入や攻撃を防ぐことが可能だ。更にレベル50以下の敵では破ることも解除することもできない」
ゼブルが分かりやすいように説明すると、ティリアは少しずつ理解できるようになったのか、興味のありそうな表情を浮かべながらゼブルの説明を聞く。
「ただし、レベル50以下の敵には効果はある結界も、それ以上のレベルの敵には殆ど意味は無い。レベル51から60までの敵なら完全に止めることはできなくても、しばらく足止めするぐらいはできる。だが、更に上のレベルの敵は足止めもできない。敵のレベルによっては一撃で簡単に破られちまう」
「つまり、結界と同等の強さの敵には効果がありますが、それ以上の敵には役に立たないと……」
「EKTの世界ではそうだった。この世界でも同じなのかはまだ分からないが、この世界はEKTの平行世界だからな。同じ可能性はあるだろう」
敵の強さによっては通用しないことがあると聞かされ、ティリアは結界も万能ではないと知る。同時に高レベルのゼブルならポルザン大森林の森に張られた結界も簡単に破れる可能性があると知った。
「大森林に張られた結界もゼブル様の攻撃なら破ることが可能なのですか?」
「まだ分からない。直接結界を調べてみねぇとな」
全ては結界を確かめてから。そう聞かされたティリアは、もしゼブルでも破れない結界だっがらどうするのだろうと、真剣な表情を浮かべながらゼブルを見つめた。
「もし大森林に張られている結界が俺でも破ることができないものなら、それは上級三等以上の魔法、あるいはそれと同等の効力を持ったマジックアイテムで張られたということになる。もし、上級三等以上の魔法が使える魔導士がいるのなら、それはレベル70以上の可能性が高い」
「えっ? レベル70と言うことは、二百年前に現れた魔王よりも強いということですか?」
「ああ。ただ70と言うのは一番低いレベルだ。もしかするとレベル80以上の魔導士がいるかもしれない」
数値を聞かされたティリアは目を大きく見開いて驚いた表情を浮かべる。
レベル70以上というのは、異世界では神竜や神獣など神に近い存在の強さとして見られている。そんな強大な力を持つ生物など、神話の中の世界にしか存在しないと殆どの者が考えており、誰も本気でこの世にいるとは思っていなかった。
そもそも、それほどの力を持つ存在がいるのなら、二百年前に魔王が現れた際、勇者に力を貸したり、勇者の代わりに魔王と戦っていたはずだ。
しかし魔王を討伐したのは勇者とその仲間で、神に近い存在は協力するどころか、現れもしなかったと歴史書などに記録されている。故に神に近い力を持つ存在などいないと多くの者が考えるようになった。
だが中には神に近い存在は実在し、何処か人目の付かない場所や人間では辿り着けない場所で秘かに暮らしているかもしれないと考える者もいる。
神に近い存在は、自分の立場上、大陸に暮らす者たちに手を貸すことができず、見守ることしかできないため、魔王が現れた際にも何もしかなかったのだと存在を信じる者たちは周囲に語り、今でも大陸中で神に近い存在を信じる者たちは自分の考えを広めようとしている。
勿論、神に近い存在を信じない者たちはまともに取り合わず、陰で妄想を抱く変人だなどと言って馬鹿にしたりしていた。
ティリアも少し前までは神話の世界にしか存在しない生物など、この世にはいないだろうと思っていた。だが、ゼブルと出会ったことでこの世界にも神に近い存在がいるかもしれないと考えるようになったのだ。
「……ゼブル様、お父様と話した時には高レベルのダークエルフがいるかもしれないと仰いましたが、ゼブル様ご自身はレベル70を超える存在がいると思っていらっしゃるのですか?」
「どちらかと言えば、いるかもしれないと思っている。フォリナス伯から聞いた話や、ダークエルフの寿命の長さを考えると奇跡的にレベル70以上の力を得たダークエルフがいてもおかしくないからな」
「もし、そのダークエルフが私たちに対して敵意を抱いていたら、どうされます?」
正確な強さは分からないが、場合によってはゼブルにとって脅威になりかねないため、ティリアは不安そうにしながら尋ねる。
「別にどうもしないさ。敵意があるなら相手になるだけだし、協力者になる意思があるなら仲間にするだけだ」
慌てたり、焦るようなそぶりを見せることなく、ゼブルは落ち着いた態度で答える。
もし敵意を抱いているのなら、自身の使命を果たすために勇者の仲間になるよう上手く誘導し、いつか勇者と戦う時が来た際にはその魔導士と戦うつもりでいる。例えダークエルフの中に高レベルの存在がいたとしても、それはゼブルにとって何の問題にもならなかった。
万が一高レベルのダークエルフが勇者の仲間になる意思が無く、すぐに自分と戦おうとしているのなら、その場で倒すつもりでいる。
倒してしまえば勇者の仲間を増やすことはできなくなるが、異世界の高レベルの敵との戦闘経験を得ることができるため、損するだけの結果にはならない。
ティリアはゼブルの返事を聞き、少し意外に思うような表情を浮かべる。
ゼブルにとっては例えレベル70越えの敵が現れたとしても大きな脅威にはならず、都合の悪い存在にもならないのだとティリアは理解するのだった。
「とにかく、結界がどんなものなのか、レベル70を超えるダークエルフがいるのかは大森林に着いて調べてみないと分からない。今は深く考えず、大森林に向かうことだけ考えればいい」
「そう、ですね……」
情報が少なく、今の段階では何も分からないのだから難しく考える必要は無い。ティリアはそう自分に言い聞かせながら納得するのだった。
それからシムスたちは現在地や方角を確認し、目的地に到着するまでの時間を計算する。予想外の事態になった際の対処法なども確認し、効率よく移動できるよう計画を立てた。
やがて確認が済むと、ゼブルはシムスに視線を向ける。
「よし、そろそろ出発する。他の奴らに準備をするよう伝えろ」
「了解だ」
返事をしたシムスは周囲を警戒しているモンスターたちに指示を出す。
命令を聞いたモンスターたちは一斉にサイのモンスターが引く荷車に乗り込み、セイレーンたちも一斉に飛び上がる。
モンスターたちの移動準備が整うとゼブルとティリア、シムスは鹿のモンスターに乗り、ポルザン大森林に向かって移動を再開した。
ゼブルたちが動くとセイレーンやサイのようなモンスターたちもゼブルたちの後に続いて動き出す。
――――――
見通しの良い大きな平原。高台や林などは無い静かな場所にゼブルたちの姿はあった。
既に空が茜色に染まり、辺りは徐々に薄暗くなってきているため、ゼブルたちは今いる平原で一泊することにした。
目的地のポルザン大森林には、あと一時間ほど移動すれば到着するのだが、あと十分も経てば完全に暗闇に包まれてしまう。
視界が悪い状態で移動すれば、方向を間違えて進んでしまう可能性があるため、問題無く目的地に辿り着くためにも、日が昇ってから移動を再開することにしたのだ。
「既に暗くなり始めている。急いでモンスターたちに荷物を下ろさせろ」
「分かった」
暗くなるまで殆ど時間がないため、シムズは日が完全に沈む前に終わらせようと、少し離れた所で待機しているモンスターたちの方へ走る。
シムスが走っていくのを見届けたゼブルは目の前に広場を見つめる。そこには木や岩など、邪魔になりそうな物は何一つ無い場所だった。
ゼブルの隣ではティリアが同じように目の前の広場を見ていた。
「とりあえず、此処の野営地を作って休むとしよう。これだけの広さなら全員が入れるくらい、デカいのが作れるはずだ」
「野営地を?」
休む場所を作ろうとするゼブルを見ながら、ティリアはある疑問について考える。
転移魔法が使えるのにどうして野営地を作って一泊するのか、理由が分からないティリアはゼブルを見ながら不思議に思っていた。
「あの、ゼブル様。出立する時から気になっていたのですが、どうして野外で一泊なさるのですか?」
問いかけられたゼブルは、チラッとティリアに視線を向ける。
「わざわざ危険な外で野営するよりは、転移魔法で魔王城にお戻りになった方がよろしいのではないでしょうか?」
「確かに安全性や過ごしやすさを考えるなら、魔王城に戻った方がいいだろう。だが、それだと同行させたモンスターたちも一緒に転移させないといけない。俺が使える転移魔法では一度に全員を転移させることはできない。だから何度も魔王城と平原を往復する必要がある。それだと時間が掛かるし、MPも多く使うことになる」
「成る程」
時間を無駄にせず、早くポルザン大森林に到着するために野営するのだと知ったティリアは一理あると感じたのか、ゼブルの説明を聞いて納得の反応を見せる。
「それに最近は外で夜を過ごすことも無かったし、たまにはいいと思ってな」
「そ、そうですか……」
今後の行動に支障が出るような事態にならないのなら、主人のやりたいようにやらせるべきだと感じたティリアはそれ以上何も言わなかった。
ティリアが納得するとゼブルは広場の方を向き、アイテムボックスを開いて小さな四角い緑の水晶を取り出す。そして、手にした水晶を広場に向けて軽く放り投げた。
投げられた水晶は緑色に光りながら消滅する。その直後、広場の中に緑色の大きな魔法陣が展開され、複数の見張り台とテント、それらを囲む木製の城壁に正門がせり上がるように出現した。
やがて光と魔法陣は消え、広場には大きな野営地だけが残る。
「これが、私たちが使う野営地ですか?」
ティリアは目の前の野営地を見ながらゼブルに尋ねる。
以前ゼブルがマジックアイテムで魔王城を造った際にも似たような光景を目の当たりにしたため、野営地が出現したのを見ても驚くことは無かった。
「そうだ。“拠点作成石”を使って造った簡単な野営地だ」
「簡単、ですか……」
目の前にある野営地は何処かの国の軍が使う物よりも大きく、頑丈な造りであるため、大したこと無さそうに語るゼブルにティリアは思わず苦笑いを浮かべた。
「コイツはマジックアイテムで造れる拠点の中では防衛力は低い。だが、それでもゴブリンやオークのような下級モンスターに突破されることはない」
「そうなんですね。……因みにこの野営地は使用した後はどうなさいますか? やはり、誰かに利用されないよう完全に破壊されるのですか?」
「普段ならそうするんだが、この辺りを調査する際に拠点があれば色々と都合がいい。破壊せずに残しておくつもりだ」
今いる平原やその周辺についてゼブルは殆ど把握していない。今後ファブール魔王国を統治するためにも、この辺りのことを調べて情報などを手に入れる必要があるため、ゼブルは野営地を破壊せずに再利用するつもりでいたのだ。
ゼブルがティリアと野営地について話していると、モンスターたちに指示を出しに向かっていたシムスが戻って来た。
「大将、荷物は全部下ろしたぜ。このまま野営地の中に運んじまうか?」
「ああ。重要な物資は一ヵ所に集め、アサルトホッパーたちに見張らせておけ。それと念のためにセイレーンたちに周辺に異常が無いか確認させろ」
「分かった。夜襲の警戒はどうする?」
「俺が雑兵生成で作った下級モンスターたちにやらせる。指揮は夜の活動が得意なアルケニーロードたちに執らせればいい」
「了解だ」
返事をしたシムスはモンスターたちに指示を出すため、再びモンスターたちの下へ向かう。
シムスに指示されたモンスターたちは物資を野営地に運び、セイレーンたちは飛び上がって空から平原に問題が無いか調べるのだった。
物資を運び終え、全てのモンスターが野営地に入ると残ったゼブル、ティリア、シムスの三人はポルザン大森林がある方角を確認する。
「明日には大森林に到着するわけだが、果たしてダークエルフはいるのかねぇ」
「さあな。フォリナス伯はいるかもしれないと言っていたが、それも百年前の情報だからな」
「あまり期待できねぇってことか」
シムスは腕を組み、ダークエルフがいなかったという最悪の結果にはならないでほしいと願うのだった。
「よし、明日の予定について確認する。二人とも中に入れ」
「ハイ」
「おう」
ゼブルはティリアとシムスが返事をすると野営地の入口のである正門に向かって歩き出し、二人もゼブルの後を追って野営地に向かう。
三人が野営地に入ると正門はゆっくりと閉じた。




