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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第4章  魔王国の統治者
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第68話  謎多き闇妖精


「ダークエルフだと?」

「ええ、ポルザン大森林はそのダークエルフたちの縄張りとなっており、外部の者が森林には入れないよう何かしらの仕掛けを施しているのでは言う話です」


 レテノールの話を聞いたゼブルは興味のありそうな反応を見せる。

 ダークエルフが原因でポルザン大森林に入れない可能性があると聞いた時は意外に思ったが、それ以上に自国の領内にダークエルフがいることに関心を抱いていた。

 異世界に来てから一度もエルフやその近縁族と遭遇していないため、機会があれば接触してどんな種族なのか直接確かめたいと思っていたのだ。

 

「ダークエルフが何か仕掛けたと言ったが、詳しく分かっているのか?」

「大森林に向かった者が持ち帰った話では、見えない壁が邪魔をして大森林に入ることができなかったとのことです。別の場所から入ろうとしても同じように見えない壁に行く手を阻まれたとか……」

「結界か……」

「ハイ。恐らく絶対にポルザン大森林には入れないよう、大森林を囲むように張っているのだと思います」


 見えない壁が原因で入れないと聞いた瞬間、ゼブルは結界や障壁のような物が原因だと確信していた。

 EKTの世界にいた時に似たような話を聞いたり、ゼブル自身が結界による妨害を受けた経験があるため、結界が張られていること自体には驚いていない。

 しかし、広大なポルザン大森林全体を覆うほど巨大な結界が張られていると聞いた時は少し驚いていた。

 大都市や広い場所を全て囲むほどの結界は中級以下の魔法では絶対に張れない。それが可能なのは上級二等魔法の一つである“不可侵の聖域ヒルダー・サンクチュアリ”やそれに似た効力を持つ同等の魔法ぐらいだ。


「その結界について何か分かったことはあるのか?」

「申し訳ありません。魔王国が建国される以前にもトリュポスにいた魔導士の冒険者や魔法を研究する者たちに調べさせたのですが、有力な情報は得られなかったようです」

「……最後にその結界を調べた、つまりポルザン大森林へ行ったのはいつ頃だ?」

「ゼブル様と初めてお会いした日の数日前です」


 レテノールがティリアのことでゼブルと会談する少し前に結界を調べたこと、そしてその時も結界が張られていたことを知ったゼブルは意外に思う。

 百年近く経過しても張られ続けていることから結界が強力なもので、結界を張った存在も優秀な魔導士である可能性は更に高くなった。


「最後にポルザン大森林の結界を調べた日も有力な情報は一切得られず、私はこれ以上結界を調べても何も得られず、結界を解除することもできないと判断しました。それ以降、大森林には誰も近づいていません」

「まぁ、この世界の魔法技術や調べた魔導士たちの実力を考えれば、無理だろうな」


 ここまで聞いた話から、ポルザン大森林に張られている結界が優れたものであるのは間違いない。並の魔導士では解除は勿論、分析するのも難しいだろう。

 ゼブルもそれを理解しているため、レテノールたちが解除できなくてもおかしくないと考えていた。


「お父様、お聞きしたいことがあるのですが……」

「何だ?」


 声をかけらえたレテノールはティリアに視線を向ける。


「ポルザン大森林を囲む結界はダークエルフが張ったかもしれないと仰いましたが、もし本当にダークエルフが結界を張ったとしたら、彼らはなぜ私たちが侵入できないようにしたのでしょうか?」

「なんだ、お前は知らなかったのか?」


 少し意外そうな表情を浮かべるレテノールはゼブルがいることからいい機会だと感じ、ティリアの質問に答えることにした。


「ダークエルフは通常のエルフと比べ、人間や他の亜人と関わることを避けている種族なのだ。一部の地域ではダークエルフは呪われたエルフ、闇の染まった存在などと呼ばれ、蔑まれていた。中にはダークエルフを奴隷や娼婦として売買する国もある」


 国によってダークエルフの価値観が違い、家畜と同等の扱いをされていると聞かされたティリアは軽く目を見開く。

 ティリアはゼブルの協力者になる以前に他種族に関してはそれなりに学んでいた。しかし全ての種族のことを理解しているわけではないため、ダークエルフが周囲からどのように見られていると知って驚いたのだ。


「勿論、全ての国がダークエルフを蔑んできたわけではない。しかし、長年ダークエルフを見下してきた連中や国が存在するのも事実だ。その結果、ダークエルフたちも人間や他種族を警戒、軽蔑するようになり、関わりを持たずに自分たちの力だけで生きていくことを決めたそうだ」

「……自分たちの身を守るため、そして人間たちと関わりを持たないようにするために結界を張った、ということですか?」

「もし、今でもポルザン大森林にダークエルフが住んでおり、彼らが結界を張ったのだとしたらな」


 話を聞いたティリアは納得し、難しそうな顔をしながら小さく俯く。

 何も悪い事をしていないのに、ダークエルフというだけで周囲から冷たい目で見られたり、酷い扱いをされれば他種族と関わることを避けようとするのは当たり前だ。

 もし結界を張ったのがダークエルフだとしたら、それは防衛本能によるものだと言えるため、ティリアはダークエルフが結界を張ったとしてもその行動を否定するつもりはなかった。

 ゼブルもレテノールの話を聞き、ポルザン大森林を囲む結界がダークエルフである可能性が高くなってきたと感じている。ただ、この時ゼブルの頭の中には一つ気になることがあった。


「フォリナス伯、二百年前に現れた魔王を倒した勇者の仲間にエルフはいたのか?」

「え? ええ、賢者と呼ばれたエルフの魔導士がいたそうです。魔王を討伐した後はパーティーを解散し、故郷へ戻ったそうですが、それ以降は行方が分からず、一部の者たちからは死んだのではと言われています」

「その賢者の職業クラスや使える魔法の位は分かるか?」


 突然勇者の仲間のことを詳しく聞いてくるゼブルにレテノールはまばたきをする。

 賢者とポルザン大森林の件が何か関係しているのかと疑問を抱くが、ゼブルが何を考えているのか全く分からないため、とりあえず質問に答えることにした。


「えっと……職業クラスについては分かりませんが、使用していた魔法は中級一等魔法が最高だったそうです」

「そうか……」


 勇者の仲間でも中級一等魔法しか修得できなかったと知ったゼブルは軽く俯きながら考え込む。

 今持っている情報から、ゼブルはポルザン大森林の結界は上級魔法で張られたものかもしれないと考えている。勿論、魔法ではなくマジックアイテムなどで張られた可能性もあるが、現状では魔法の可能性が高い。

 異世界の魔法に関する技術や知識、そして魔法を修得するために必要な職業クラスなどから、ゼブルはポルザン大森林にいるダークエルフの中に上級魔法を使えるほどの魔導士がいるかもしれないと推測する。

 ただ、レテノールから聞いた情報を考えると、幾つか辻褄つじつまが合わない点がある。

 上級魔法を使うとなると、その魔導士は最低でもレベル70ということになる。それは二百年前に異世界に現れた魔王以上の強さということだ。

 これまで得た異世界人の強さの基準から考え、二百年前の魔王を倒した勇者とその仲間のレベルは40から50であることが分かった。そしてそれがこの世界の人間や亜人が到達できるレベルの限界だ。

 異世界人が辿り着ける強さを考えると、魔王以上のレベルを持つ魔導士がいるというのは考え難い。

 ただ、人間よりも寿命が長く、魔力の高いエルフが何十年も時間を掛けて自身を鍛え続ければ、奇跡的に魔王を越えるレベルに到達する可能性もある。

 ゼブルは結界を張ったのがその奇跡的に生まれた魔王以上のレベルを持ったダークエルフかもしれないと考えていた。


「もしかすると、ポルザン大森林に住むダークエルフの中に二百年前に魔王を倒した勇者やその仲間を越える力を持った存在がいるかもしれないな」

「えっ、勇者や賢者たちを越える存在が?」


 ゼブルの驚きの発言にレテノールは目を見開く。

 二百年前の勇者とその仲間たちは常人では得られない力を手にした存在で、それを超える存在となると魔王ぐらいしかいない。

 魔王と同等かそれ以上の潜在能力を持つ存在がダークエルフの中、それもファブール魔王国の領地にいるかもしれないとい言われたのだから、レテノールが驚くのは当然だ。

 ティリアもレテノールと同じように目を見開いてゼブルを見ている。ただ、ティリアは二百年前の魔王を越える強さを持ったゼブルの協力者となり、自身もレベル80となっているため、勇者を越える存在が近くにいるかもしれないと聞かされてもレテノールほど驚かなかった。


「ま、魔王様、本当に勇者を越える存在がポルザン大森林にいるのですか?」

「あくまでも俺の予想だ。だが、強力な結界が張られてる以上、それができる魔導士がいる可能性もゼロではない」


 異世界の強さの基準を考えると可能性は低いが、ゼブルは少しでも可能性があるのなら、それを忘れずに行動するつもりでいる。

 もっともゼブルにとっては大きな力を持つ者が存在するのは願っても無いことだ。

 ダークエルフの中に勇者を越える力を持った魔導士がいれば、その魔導士をエファリアに次ぐ勇者候補、もしくは勇者になる者の仲間とし、自分と戦う運命に導くつもりでいた。


「まぁ何であれ、一度このポルザン大森林には行く必要があるな」


 ゼブルは地図に描かれているポルザン大森林を指差し、直接確かめに向かうことをティリアとレテノールに伝えるかのように語る。


「ま、魔王様自ら大森林へ行かれるのですか?」

「ああ。今でも結界が張られているのなら、それを解除して自由に入れるようにする。そうすれば薬草採取が可能になり、冒険者たちの仕事も増えるだろう」

「解除……多くの冒険者や魔法を研究する者たちが解除できなかったものを、魔王様は解除できると?」

「勿論だ」


 小さく笑いながら語るゼブルをレテノールは無言で見つめる。

 戦闘能力が高いだけでなく、強力な結界を解除する術も持っていると知ったレテノールはゼブルには不可能なことなど無いのかもしれないと感じていた。


「あの、ゼブル様。もしポルザン大森林に結界が張られ、それを張ったのがダークエルフだとしたら、それを強制的に解除するのはマズいのではないでしょうか?」


 ティリアが少し不安そうな表情を浮かべながら声をかけると、ゼブルはチラッとティリアの方を向いた。


「もし、お父様が仰ったようにダークエルフが大森林の外にいる人たちと関わるのを避けるために結界を張っていたとしたら、それを解除して大森林に入ればダークエルフを敵に回すことになるかもしれませんよ?」

「分かってる。だが、ポルザン大森林が魔王国内にある以上、そこで暮らしているダークエルフたちは魔王国民ということになる。俺は国を治める者としてダークエルフたちに俺が統治者であること分からせなくてはいけない」

「つまり、冒険者の仕事を増やすと同時にダークエルフを支配下に置くためにポルザン大森林へ行くということですか」

「勿論、力づくで従わせるつもりはない。ダークエルフたちが自分の意思で俺の支配下に入るよう取引をするつもりでいる」


 薬草を採取できるようにすると言っていたが、本当はダークエルフたちを正式な魔王国の民にすることが目的でポルザン大森林に行くのだと知り、ティリアは若干呆れたような顔をしながらゼブルを見つめる。


「色んなやり方で説得し、それでも支配下に入るのが嫌だというのなら諦めるさ。ただ、冒険者たちがポルザン大森林で薬草やそれ以外の物を採取できるようにはするつもりだ」

「ゼブル様としてはダークエルフと採取場所、その両方を手に入れたいと思っておられるのでしょう?」

「まあな」


 笑いながら認めるゼブルを見て、ティリアは「欲張りな方だ」と心の中で思うのだった。

 噂どおりポルザン大森林にダークエルフが暮らしているのなら、ゼブルはファブール魔王国の民としてダークエルフたちを管理しようと思っていた。もしダークエルフが大森林で暮らしているのなら、できるだけ友好的な関係を築きたいと考えている。

 勿論、ファブール魔王国の統治者、そして魔王としてダークエルフたちに舐められないように接するつもりだ。


「フォリナス伯、他にポルザン大森林に関して知っていることはあるか?」

「いえ、申し訳ありませんがこれ以上は……」

「そうか」


 情報が無いと知ったゼブルは残念に思いながら呟く。長年ポルザン大森林に入ることしかできていないため、役立つ情報が得られていないのは仕方のないことだ。

 ゼブルはダークエルフが存在するのか、ポルザン大森林の状態がどうなっているのか知るためにも、自分の目で確かめるしかないと考えている。


「とにかく、俺はポルザン大森林へ向かい、結界や大森林の現状を確かめる。大森林への出入りと薬草採取が可能になったら連絡する。アンタはさっき話したことを衛兵やギルドの関係者たちに伝えてくれ」

「分かりました」


 衛兵の不満や冒険者の問題を少しでも早く解決するため、レテノールはゼブルと話し合ったことを再確認してから衛兵の管理者やギルドマスターに正確に伝えることにした。


「魔王様、他に何かご確認なさることはございますか?」

「そうだな……確認ではないんだが、重要な話がある」

「重要な話?」


 今までと僅かに雰囲気が変わったゼブルにレテノールは少し緊張しながら尋ねる。

 ティリアもゼブルの様子を見て不思議そうな反応を見せる。レテノールに重要な話をすることを聞かされていなかったため、何の話をするのか気になっていた。


「これはアンタやアンタの奥さんたちの今後に大きく関わる話だ」


 低めの声を出すゼブルにレテノールは静かに息を呑む。

 ティリアも緊張しているのか、眉一つ動かさずにゼブルとレテノールの会話を見守る。

 レテノールとティリアが見つめる中、ゼブルは静かに内容を語り始めた。


――――――


 魔王城の玉座の間にはトリュポスの訪問を終えて帰って来たゼブルとティリア、そして召集を受けた魔将軍たちの姿があった。

 ゼブルは壇上の玉座に座りながら少し離れた場所で横一列に並びながら立っている魔将軍を見つめている。

 玉座の右隣にはティリアが姿勢を正しながら立っており、同じように魔将軍たちを見ていた。


「……というわけで、俺は明日ポルザン大森林へ向かい、結界を解除すると同時にダークエルフが存在しているかを確認してくる。もし今でもダークエルフが森林で暮らしているのなら、配下に置くつもりだ」

「ダークエルフか、仲間にできりゃあ、色々使えるかもしれねぇな」


 ダークエルフが優れた種族だと理解しているシムスは笑みを浮かべる。シムスの態度から、ダークエルフを配下に置くことに賛成のようだ。

 他の魔将軍たちもダークエルフを仲間にすることに不満を抱いていないのか、嫌な顔をせずにゼブルを見ている。

 ダークエルフは通常のエルフと違って魔法関係のステータスは低めだが、それ以外のステータス、特に物理戦闘に関するステータスが高い。そのため、接近戦闘では他のエルフよりも優れており、多くのダークエルフは職業クラスを修める際には戦士系の職業クラスを選んでいる。

 ただ、魔法に関するステータスが低くいと言っても、エルフ以外の亜人と比べると高い方だ。だからダークエルフの中には戦士ではなく、魔導士系の職業クラスを選ぶ者も少なくない。

 EKTでも職業クラスが戦士職ではなく、魔法職になっているダークエルフのNPCも少なくなかったため、どちらの職業クラスでも使える存在として見られていた。


「それでボス、ダークエルフがいたとして、どうやって連中を仲間に引き入れるんだ?」

「魔王様のことだから、力づくで言うことを聞かせるなんてことはしないんでしょう?」


 セミラミスに続いてアリスが尋ねると、ゼブルはアリスを見ながら小さく頷いた。


「勿論だ。まずはダークエルフたちの性格や考え方、何を望んでいるかを確認する。その後に奴らが気に入りそうな条件を出して配下にするつもりだ。当然、こっちが損をしないような条件でな」


 自分たちが得をする条件で話を進めるのが取引の基本だ。ゼブルは最低限のリスクでダークエルフたちを配下に入れるつもりでいた。

 もしダークエルフたちが一方的に得をするような取引をしてしまえば、配下に入った後も下に見られる可能性がある。魔王が他人、それも自分よりも弱い存在から下に見られることはあってはならない。

 ゼブルはダークエルフが傲慢な態度を取ったり、自分たちだけが得をするような条件を出してきた場合は、少々乱暴な手段を取り、強引にダークエルフたちを黙らせるつもりでいる。


「魔王様、結界を解除して大森林に入ると仰いましたが、結界は全てを終えた後、どうされるのです? やはり冒険者たちが薬草を採取できるよう張り直さずにそのまま放置なさいますか?」


 テオフォルスがポルザン大森林の件が片付いた後のことを尋ねると、ゼブルはテオフォルスを見ながら小さく頷く。


「そうだな。俺の配下になるのなら魔王国の民と関わりを持ってもらう必要がある。そのためにも結界は張らず、冒険者たちが自由に大森林に出入りできるようにしておく」

「ダークエルフたちが素直に受け入れるとは思えませんが……」

「まぁ、ダークエルフが過去にどんな扱いをされたかを考えれば当然だろうな」


 蔑まれた、傷つけられた側は例え何年経ってもその苦しみや悔しさ、怒りを忘れることはない。過去の仕打ちからダークエルフが他種族と関わりを持つ、それも他人の支配下に入ることに納得する可能性はとても低いとゼブルも分かっていた。

 しかし、ゼブルは世界征服という魔王の使命を果たすためにもダークエルフは非常に役に立つ存在だと考えているため、何がなんでも仲間に引き入れるつもりでいる。

 そもそもゼブルは別の世界からやって来た存在であるため、異世界でダークエルフが酷い扱いを受けた被害者だとしても、それを理由に配下にしない、などという甘い考え方をする気は無かった。


「とりあえず、まずは幾つか条件を出してダークエルフたちを説得する。それで配下になること、魔王国の民になることを拒むのなら別の方法を試してみるさ」


 ゼブルとしては何の問題も無くダークエルフたちを配下に置きたいと思っているが、何でも都合よく事が運ぶとは限らない。説得が失敗した時のことを計算し、より成功率の高い方法を考えておく必要があった。

 ただ、ポルザン大森林にダークエルフがいるという情報は遥か昔のものであるため、今でも大森林にダークエルフがいるとは断言できない。説得するにしても、まずは大森林でダークエルフを見つけなくてはならなかった。


「ゼブル様、ポルザン大森林に向かう際に随行する部隊はどうされますか?」


 隣で控えていたティリアは同行する者についてゼブルに尋ねる。

 ゼブルは今回初めてポルザン大森林へ向かうため、大森林やその周辺については何も分かってない。情報を手に入れたり、予想外の事態になった際にすぐ対処できるよう、大森林での護衛や情報収集を得意とする存在を同行させる必要がある。

 現地人であるティリアはゼブルと比べて多少は情報を持っているが、実際にポルザン大森林へ行ったことは無いため、情報収集などではあまり役には立たない。ティリア自身もそのことは自覚していた。

 問題が起きた時に素早く対処するためにも、森林地帯での活動に適した存在を連れて行かなくてはならないのだ。


「同行させる者は既に決めてある。まず、魔王補佐官であるティリア、お前だ」


 自分が選ばれると分かっていたのか、ティリアは驚いたりすることなく無言でゼブルを見つめる。


「次に大森林に入ることから、森での行動や探索を得意とするシムスを同行させる」

「俺をか?」

「ああ、お前がいれば効率よく森の中を移動することができるからな」


 ゼブルから指名された理由を聞いたシムスは納得の表情を浮かべる。


「あとは護衛として中級のモンスターを二十五体。移動用のモンスターを五体ほど同行させる。……シムス、部隊の編成はお前に任せる。大森林の中でも問題無く活動できる部隊を用意しろ」

「分かった」

「出発は明日の正午だ。それまでに準備を済ませろよ?」

「ああ、任せておけ」


 シムスは額に右手の人差し指と中指を持ってきて、前に出すポーズを取りながら返事をした。


「ボス、あたしらはどうすればいい?」


 未知の森林に向かい、ダークエルフを配下に置きに行くことから面白くなりそうだと感じたのか、セミラミスは笑いながらゼブルに声をかける。

 その目には自分も連れていけ、というセミラミスの本心が宿っていた。


「お前たちは引き続き、魔将軍として与えられた任務を続行しろ。魔王国を安定させるためにやることは沢山あるんだからな」

「ハッ!」


 指示されたテオフォルスは軽く頭を下げながら返事をし、その隣ではアリスが微笑みながら頷く。

 一方で連れて行ってもらえると思っていたセミラミスはゼブルの指示を聞いて目を逸らし、つまらなそうな顔をしていた。

 セミラミスの反応に気付いたティリアは思わず苦笑いを浮かべる。

 魔将軍で唯一ゼブルと同行することになったシムスはセミラミスを見ながら呆れたような顔をしていた。


「ところで魔王様、そのポルザン大森林って所には凄い結界が張られてるんでしょう? その結果ってやっぱりダークエルフたちが張ったの?」


 アリスが結界を張った存在について尋ねると、それを聞いた魔将軍たちは一斉にゼブルに視線を向ける。


「今は何とも言えないな。ただ、現状とフォリナス伯から聞いた話から考えると、その可能性はある」


 ダークエルフが結界を張ったのだとしたら、そのダークエルフはこれまで遭遇した者たちと比べれレベルが高く、優れた魔導士の可能性がある。

 アリスや他の魔将軍たちは異世界に来て初めて強者と言ってもいい存在に遭遇するかもしれないと感じ、全員が真剣な表情を浮かべていた。


「大森林に着いたら、まず結界がダークエルフによって張られたものなのか、はたまなマジックアイテムで張られたものなのか調べるつもりだ。もし結界がEKTの世界には存在しない異世界の技術で作られたものだったら手に入れておきたい」


 ゼブルたちは異世界に転移してから、異世界にしか存在しない魔法やマジックアイテムなどはまだ一つも手に入れていない。

 それらを手に入れれば、EKTの世界では実行できなかったことが可能になるかもしれないため、異世界にしか存在しない物の情報が少しでもあるのなら、徹底的に知らべて手に入れるべきだとゼブルや魔将軍たちは考えていた。


「テオフォルス、確か今は情報収集のため、隷属たちを近くの国に派遣してあるんだったな?」

「ハイ。魔王様のご指示どおり、まずは魔王国の周辺、セプティロン王国以外の国家に密偵となる隷属たちを派遣し、情報を集めております」

「ソイツらに国や国民の情報だけでなく、異世界にしか存在しないアイテムなどの情報も集めるよう伝えておけ。もしかすると他国が独占している技術とかの情報が得られるかもしれないからな」

「承知しました」


 ゼブルが魔王としての使命を果たすため、大陸に存在するであろう異世界のマジックアイテムや魔法の情報を全力で集めなくてはならない。そう思いながらテオフォルスは頭を下げた。

 テオフォルスが返事をするとゼブルは魔将軍たちを視線を向ける。


「今回の計画が上手くいけば、トリュポスで発生している問題は解決し、魔王国の発展にも繋がる。俺が使命を全うするためにも魔王国は今以上に発展し、他国よりも優れていることを証明する必要がある。各自、この国の発展と強化のため、今後も全力を尽くせ」

『ハッ!』


 ゼブルの命令にティリアや魔将軍たちは声を揃えて返事をする。


「以上だ。各自、職務に戻れ」


 ポルザン大森林に関する報告が終わると、魔将軍たちは玉座の間から出ていく。

 ティリアもゼブルに一礼してから魔王補佐官としての仕事に戻るため、静かに退室した。

 一人残ったゼブルは、玉座に座ったまま天井を見上げる。


(ダークエルフ……大森林にいてくれるといいんだけどなぁ)


 異世界に来てから一度も亜人に遭遇したことのないゼブルは、心の中でポルザン大森林にダークエルフがいることを祈るのだった。


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