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甲虫魔王の異世界征服録  作者: 黒沢 竜
第4章  魔王国の統治者
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第67話  問題点


 屋敷に入ったゼブルはレテノールに案内されて応接室へやって来た。そこは以前バアルとして屋敷を訪れた時に招かれた部屋で、ゼブルは軽い懐かしさを感じながら来客用の長椅子に腰を下ろす。

 ティリアはゼブルが座る長椅子の後ろで静かに待機する。

 以前、冒険者リーテとして屋敷に戻った時は冒険者バアルを演じるゼブルの仲間という設定だったため、主と同じ椅子に座っていた。

 ただ今回は魔王補佐官として訪れているので、座ることなく待機しているのだ。

 レテノールはゼブルが座ると向かいの長椅子に腰を下ろす。以前と違ってゼブルと向かい合くことに慣れているのか、レテノールは落ち着いた様子でゼブルを見ている。


「よくお越しくださいました、魔王様。心から歓迎いたします」

「そういうのはいい。もっと楽にしろ」

「あ、ハイ。ありがとうございます」


 堅苦しさを指摘されたレテノールは軽く頭を下げる。レテノールは改めて目の前にいる甲虫の魔王は人間らしいと感じた。


「早速だが、トリュポスの現状を聞かせてくれ」

「ハイ……まず住民たちですが、建国を宣言したばかりの時と比べると落ち着いてきたようですが、やはりまだ不安に思っているようです」

「理由は魔王である俺に対して恐怖心を抱いているからか?」

「ええ、二百年前に現れた魔王がこの大陸に住む人間たちを苦しめたため、魔王様も同じようなことをするのでは考え、安心できずにいるのだと思います」


 二百年前の魔王が人間の心に恐怖心を植え付けたことで、魔王を名乗る自分も同じように見られているとゼブルは改めて実感し、不安を取り除くには骨が折れるかもしれないと考える。

 同時に人間たちに恐怖心を植え付けた二百年前の魔王に対して苛立ちを感じるのだった。


「住民たちの不安を取り除くためにも、まずは俺が信用できると分かってもらう必要があるな」

「ハイ。それには魔王様が二百年前に現れた魔王と違うことを住民たちに理解させるのが一番かと思っています」

「とは言ってもな、俺は二百年前に現れた魔王のことを詳しく知らない。……二百年前の魔王はどんな奴だったんだ?」


 異世界に来てから何度も二百年前の魔王のことを聞いていたゼブルだったが、性格や二百年前に何をしたのかは何も分かっていない。ゼブルはこの機会に二百年前の魔王について詳しく教えてもらうことにした。

 レテノールは難しそうな顔をしながら軽く俯き、しばらくすると顔を上げてゼブルを見つめる。


「二百年前のことなので私も詳しくは知りませんが、言い伝えでは非常に冷酷な存在だったそうです。逆らう存在は勿論、自分に忠誠を誓った者たちでも気に入らなかったり、望んだ働きを見せなかったら容赦なく始末していたとか……」


 人間を容赦なく傷つけ、力で支配しようとしていたと聞いたゼブルは二百年前の魔王が後先考えずに行動する単純な存在だと知る。

 力で他人を従わせるのは簡単だが、相手は本当の意味で従うことはない。そのようなやり方をすれば人間たちが魔王を忌み嫌い、恐怖心を抱くのは当然だ。

 本当の意味で他人を従わせるのなら、力だけでなく頭も使う必要がある。

 ゼブルはファブール魔王国の民たちが恐怖や不安を感じることなく自分に忠誠を誓うようにするためにも、魔王が力や恐怖で物事を解決しない存在だと分からせなくてはならないと考えるのだった。


「恐怖支配では本当の意味で人々を従わせることができないことを二百年前の魔王は知らなかったのでしょう。あるいは知っていたが、本当の意味に従わせる気は無かったのか……どちらにせよ、二百年前の魔王が力と恐怖で世界を征服しようとしていたのは確かです」

「魔王らしいやり方だが、あまりにも単純で馬鹿げてるな。これじゃあ人間たちが魔王を嫌い、警戒するのも無理はないな」

「……いかがなさいますか?」


 レテノールが問いかけると、ゼブルは目を薄っすらと黄色く光らせながらレテノールを見つめる。


「方針は変わらない。野蛮なやり方はせずに住民たちを認めさせ、俺が二百年前の魔王と違うことを証明する。ついでに魔王がただ力で全てを解決するだけの存在じゃないって教えてやる」


 元々恐怖や力で無理矢理従わせるようなやり方をするつもりはないため、平和的なやり方でトリュポスの住民たちの信用を得るという方法はゼブルにとって都合がよかった。

 以前の魔王とは違うと理解してもらうためにも、暴力や恐怖に頼らないやり方で住民たちの信用を得てやるとゼブルは改めて決意する。


「住民たちの信用を得るのでしたら、彼らが今以上に暮らしやすい環境にするのが一番良いでしょう。トリュポスの現状を少しでも良い方向に変えれば、住民たちの不安も消えると思います」

「成る程な。……トリュポスの現状で何か問題になっている点はあるのか?」

「ええ、幾つか……」


 レテノールはどこか困ったような表情を浮かべ、それを見たゼブルとティリアは解決が難しい問題なのかと疑問を抱く。


「まず、トリュポスを守る衛兵たちについてですが、これは不安というよりは不満と言った方がいいかもしれません」

「ほぉ? 何に対して不満を抱いてるんだ?」

「現在の衛兵としての職務内容です」


 仕事の内容に不満を抱いていると聞かされたゼブルは意外に思う。

 現在のトリュポスはゼブルが派遣した強力な昆虫族モンスターやそれ以外の種族のモンスターが警備しているため、治安は以前と比べて格段に良くなっている。

 治安が良くなったことで、元々トリュポスにいた衛兵たちの負担も減り、衛兵の仕事はかなり楽になったはずだとゼブルは考えていた。にもかかわらず、衛兵たちが現状に不満があると知ってゼブルは少し驚いていた。


「今の職務に不満を抱いてるって、まさか更に楽な内容にしろとか言ってるのか?」

「い、いえ、まったく逆なのです」

「逆?」

「ハイ。モンスターたちが警備や都市内の巡回を行ったことで治安は良くなったのですが、それが原因で衛兵たちは警備や巡回をすることができなくなり、衛兵の仕事にやりがいを感じなくなってきている、という意見が出てきているそうなのです」


 レテノールの話を聞いたゼブルは納得した反応を見せる。

 衛兵たちにとっては自分たちがいる都市とそこの治安を守ることはある意味で最も重要な仕事と言える。負担を減らすための行動を取ったことで、逆に不満を買ってしまったと知ったゼブルは考えが行き届いていなかったと知って反省するのだった。


「他に衛兵たちが抱えている不満などはあるのか?」

「いえ、職務内容以外で不満は聞いておりません。ただ、モンスターたちに対する警戒心は多少はあるようです。……ですが、それは時間が経てば無くなると思いますので、問題は無いでしょう」

「なら、一番の問題は警備や都市の巡回ができないことに対する不満か」


 衛兵もトリュポスの住民であるため、ゼブルは衛兵たちが不満や不安を感じているのならそれを解決するつもりでいた。

 ゼブルは軽く俯きながら考え込み、しばらくすると顔を上げてレテノールを見た。


「衛兵たちが警備や巡回ができないことに不満を抱いているのなら、連中の望みどおり、また警備と巡回の仕事をやらされてやればいい」

「よろしいのですか?」


 以前と同じ状態にするとゼブルの口から出たことで、レテノールは意外そうな表情を浮かべる。


「ああ。……ただ、衛兵たちに警備を任せるからと言って、モンスターたちの配置を変えるつもりはない。モンスターたちを配置したことで治安が良くなったのに、わざわざ以前と同じ状態にする必要は無いからな」

「では……」

「衛兵たちにはモンスターたちと共に警備、都市内の巡回をしてもらう」


 昆虫族モンスターと衛兵たちを同じ職務に就かせると聞いたレテノールは軽く目を見開く。

 ティリアは予想していたのか、ゼブルを見ながら「やっぱり」と言いたそうに小さく笑っていた。


「衛兵たちはモンスターたちと違ってトリュポスの構造や入り組んだ道とかに詳しいだろうからな。モンスターたちが細かく警備、巡回できるよう指揮を執ってもらう」

「成る程、それなら現在の治安を維持しながら衛兵たちにも警備の仕事を回すことができますな」


 状況を悪くすることなく衛兵たちの不満を解消することができる案を聞いてレテノールは納得する。

 衛兵たちを警備や巡回に回せばトリュポスの入口の門番や書類整理と言った雑務に回す人員が減ってしまうだろう。

 だが、ゼブルの目的はトリュポスの住民たちの不安を取り除き、自分が二百年前の魔王と違うことを証明することだ。衛兵の不満を取り除くために別の仕事に回す人員が多少減ったとしても、大きな問題にはならないとゼブルは考えている。

 そもそも全ての衛兵を警備に回すわけではないので、余程の悪い状況にならない限りは人手不足にはならないはずだ。


「では、衛兵たちには以前と同じように、警備と都市内の巡回を行うよう指示を出しておきます」


 ゼブルはレテノールを見ながら頷いて「頼む」と目で伝える。

 とりあえずトリュポスの問題を一つ解決できたため、これで住民たちが少しは自分を信用してくれればいいなとゼブルは思っていた。


「他に何か問題になっていそうな点はあるか?」

「そうですね……冒険者ギルドにも少しばかり問題が生じております」

「冒険者ギルドか……」


 冒険者バアルとして活動しているゼブルにとって無関係とは言えない組織に名が耳に入り、ゼブルはレテノールを見ながら呟く。

 ティリアもゼブルと同じ立場であるため、どのような問題が起きているのか気になっていた。


「冒険者たちも依頼を受けて衛兵と同じように都市内の見回りをしたり、誤って都市に侵入したモンスターの討伐、依頼主の護衛を行います。ですが、モンスターたちが配備されたことで治安が良くなり、討伐や護衛関係の仕事が少なくなってしまったのです」


 昆虫族モンスターを配備した影響が冒険者ギルドにも出ていると聞き、ゼブルは小さく声を漏らす。

 冒険者も衛兵と同じでトリュポス内で起きている問題や事件を解決したりするため、治安が良くなれば依頼が減るのは当たり前だ。


「現在、冒険者ギルドに入っているのは薬草採取、周辺に出現する下級モンスターの討伐などの依頼が僅かだけだと、ギルドマスターのザルドバックから聞いております。その結果、トリュポスで活動していた冒険者たちは仕事を求めてセプティロン王国などの他国へ向かったそうです」

「と言うことは、今トリュポスには冒険者は殆どいないのか?」

「いえ、まだ多くの冒険者は残っているそうですが、その殆どが他国へ向かうための資金などが無い者たちだそうです。依頼が少ないため、多くの冒険者が生活に苦労しており、受けられる依頼が無い時はトリュポスの外に出てモンスターを討伐し、僅かな報酬を得ているとか……」


 想像以上に冒険者たちが苦しい生活を送っている状況にゼブルは黙り込む。

 冒険者は衛兵や騎士団と比べて自由に活動できるが、衛兵や騎士団と違って得られる収入は決まっていない。多く得られる日もあれば少ない日もあるため、治安が良くなったことで衛兵以上に影響を受けていると言ってもいいだろう。


「今の状態が続けばトリュポスの冒険者は仕事を失うだけでなく、まともな生活を送ることもできなくなってしまいます」

「確かに一日の仕事が決まっている衛兵たちと違って、その日で仕事や稼ぎが決まる冒険者たちにとって今の生活が続くのはかなり辛いだろうな」

「ええ。ですので、冒険者たちが受けられる依頼を増やす。もしくはギルドの規則に反することなく金銭を得られる環境を作ることが良いのではないかと私は思っております」


 冒険者の仕事を増やすことが最も早く、そして確実に解決する策だと話すレテノールを見てゼブルはゆっくり長椅子にもたれかかる。


「冒険者ギルドへの依頼を増やすべきだというのは分かるが、今は未探索の場所や凶暴なモンスターは発見されていない。すぐにギルドに依頼は入る状況を作るのは難しいだろうな」

「やはりそうですか……」


 すぐには現状を変えることはできないと聞かされたレテノールは少し残念そうな顔をする。

 冒険者たちにも生活があるため、彼らのためにも現状を変える策を早く考えなくてはならないとレテノールは俯きながら考え込んだ。


「あのぉ……」


 突然、黙って会話を聞いていたティリアが喋り出し、声を聞いたゼブルとレテノールは同時にティリアの方を向いた。


「どうした、ティリア?」

「その問題って、冒険者たちの仕事が増えれば解決するんですよね?」

「ああ、そうだ」


 返事を聞いたティリアはゼブルを見つめながら真剣な表情を浮かべる。


「でしたら、以前ゼブル様がお造りになったダンジョンを解放し、冒険者たちにそこの調査をさせるというのはどうでしょうか?」


 冒険者たちの仕事を増やすためにダンジョンの解放を提案するティリアにゼブルは反応する。

 確かにゼブルは冒険者の中に勇者の素質がある者がいるか見極めるため、EKTのマジックアイテムを使ってダンジョンを造り、そこに冒険者たちを送り込んだ。そして、エファリア・メルホルトという勇者の素質がある少女を見つけ、それ以降は封鎖して一度も開かずに放置していた。

 ティリアはダンジョンを解放すれば、調査を行った冒険者たちが金銭や価値のあるアイテムを手に入れたり、出現するモンスターを討伐して報酬を得られるようになると考え、冒険者たちの生活を安定させるために解放することを提案したのだ。


「ダンジョンを解放した後に冒険者ギルドに無期限の調査依頼を出せば、冒険者や冒険者ギルドが依頼に困ることも無いと思います」

「……確かにダンジョンを調査させれば冒険者やギルドの問題も解決するだろうな」

「では……」


 自分の提案が承諾されると感じたティリアは思わず微笑みを浮かべる。


「あのダンジョンは解放できない」

「えっ?」


 ゼブルの口から出た提案を却下する言葉にティリアは軽く目を見開く。

 ダンジョンを解放すれば冒険者や冒険者ギルドの問題を全て解決できるため、承諾されると思っていたティリアはゼブルの答えを聞いて少し驚いていた。


「えっと、どうしてでしょうか?」

「お前も知ってのとおり、あのダンジョンはトリュポスにいる冒険者の中から勇者の素質がある者がいるか確かめるために造った物だ。勇者の素質がある者を見つけるため、出現するモンスターは強めの種類を選んで設置している。つまり、あのダンジョンはその辺にある森や洞窟など比べて難易度が高くなっているんだ」


 ティリアにダンジョンの詳しい情報を思い出させるため、ゼブルはダンジョンを造った目的や配置したモンスターの情報を一から説明する。

 ダンジョンの話を聞くティリアは少しずつダンジョンがどのように設定されているのかを思い出し、並の冒険者ではクリアどころか、まともに調査するのも難しいということを再認識した。


「フォリナス伯は今トリュポスにいる冒険者の殆どは他国へ依頼を受けに行くことができない者と言った。それはつまり、資金の少ない低ランクの冒険者ってことになる。違うか、フォリナス伯?」

「い、いえ、そのとおりです」


 冒険者の話を聞いただけでトリュポスにいる冒険者たちの実力を見抜いたゼブルに、レテノールは驚きながらも鋭いと感心する。


「あのダンジョンはDランクからBランクの冒険者でも攻略ができない難易度になっている。低ランクの冒険者に調査を依頼しても死ぬだけだ」

「では、ダンジョンに配置するモンスターのレベルを低めに設定し直してはいかがでしょうか?」

「設定し直すのは簡単だ。だが、Dランク以上の冒険者たちが命を落とすほど危険なダンジョンが、再び出現した時に低ランクの冒険者でも攻略できるほど簡単になっていたら怪しまれる。最悪、あのダンジョンが俺が造ったダンジョンだとバレるかもしれない」


 ダンジョンを創造したのがゼブルだと魔王国の民や冒険者、そして他国に知られればゼブルたちにとって非常に面倒な事態になってしまう。

 折角ここまで順調に事が運んでいるのに立場を悪くするような状況を作るわけにはいかない。ゼブルは自分がダンジョンと繋がっていることを周囲に悟られないようにするためにも、難易度を低くしようとは考えていなかった。

 ティリアはゼブルの話を聞いて、気付かない内にゼブルやファブール魔王国の立場を悪くする状況を作ろうとしていたと知り、自身の浅はかさを恥ずかしく思う。

 魔王であるゼブルの補佐をする立場でありながら、ゼブルにとって都合の悪い提案をするなど、あってはならない行為と言ってもおかしくなかった。


「すみません、ゼブル様。冒険者たちの問題を解決することばかり考えて、ゼブル様の立場が危うくなる可能性を考えていませんでした……」

「いや、いい。お前もトリュポスの問題や住民たちの不安を取り除くために考えてたんだろうからな」


 失敗を責めるどころか、真面目にやっていると評価するゼブルに、ティリアは本当に魔王とは思えないほど優しい方だと心の中で感動するのだった。


「それに、ダンジョンの調査を冒険者ギルドに依頼するっていうのはいい案だと思ってる」

「えっ?」


 ゼブルが再び予想外の発言をしたことで、ティリアは思わず声を漏らした。


「でも、先程低ランクの冒険者にダンジョンの調査は任せられないと……」

「ああ、最初に作ったダンジョンは調査させられない。……だが、新しく造ったダンジョンは別だ」

「新しく造ったダンジョン?」


 再び予想外の言葉を耳にし、ティリアはまばたきをしながら聞き返す。


「最初に造ったダンジョンは開放することも、設定を変えることもできない。だが、新しいダンジョンなら低ランクの冒険者でも調査できる難易度にすることできるし、ギルドに依頼を出す際も二百年前の魔王が遺したダンジョンが新たに発見されたということにすれば問題ない」

「成る程……」

「それに、上手くいけば新たに勇者の素質がある奴や、その仲間になれそうな実力者が見つかるかもしれないからな」


 冒険者の問題を解決し、勇者になれる者を探すことができるようになるため、ダンジョンを造ることはゼブルにはとっては都合のいいことだった。

 ティリアがダンジョンを調査させることを提案した時には最初のダンジョンは使わず、新しく作ったダンジョンを利用しようとゼブルは考えていたのだ。


「ただ、新しく造るダンジョンは難易度を低く、モンスターも弱い種類だけを配置する。弱いモンスターと戦っても勇者になれるだけの強さを持っているか判別し難い。頃合いを見て、新たに難易度の高いダンジョンを造り、そこを調査されて確かめるつもりだ」

「では、しばらくの間は冒険者たちが依頼に困らないようにするためにダンジョンを利用するということですね」

「そう言うことだ。どんなダンジョンを造るかは、魔王城に戻ってから考えるつもりだ」


 トリュポスの問題を解決するための仕事がまた一つ増えてしまったが、書類を確認するよりは遥かに簡単でやる気の出る仕事であるため、ゼブルは不満などは一切感じていなかった。

 ダンジョンに関する話が済むと、ゼブルは黙って自分とティリアの会話を聞いていたレテノールの方を向く。


「フォリナス伯、ダンジョンを設置したら位置や簡単な情報を教える。その後、冒険者ギルドに調査依頼を出せ。依頼する際は前回のダンジョンと同じように、二百年前の魔王が遺したダンジョンかもしれないと伝えるのを忘れるな?」

「かしこまりました」


 指示されたレテノールは頷きながら返事をする。


「だが、ダンジョンだけでは限界がある。薬草採取のような通常の依頼も受けられるようにした方がいいだろう」

「それは分かっているのですが、やはり今の段階では依頼を増やすのは難しいでしょう。薬草を採取できる場所も限られていますので……」


 深刻そうな顔で答えるレテノールを見たゼブルはマジックボックスを開き、丸められた羊皮紙を取り出す。

 ゼブルは羊皮紙を広げると目の前の机の上に置く。それはファブール魔王国の領土となったセプティロン王国の南東部が描かれた地図だった。


「場所が限られていると言ったが、トリュポスの周辺で薬草を採取できる場所は何処だ?」

「採取が可能な場所ですか? そうですね……」


 レテノールは地図を見ながら薬草が自生している場所を思い出す。

 元セプティロン王国南東部の領主だったレテノールは領地だった場所に何があるのかある程度は把握していたため、少し考えれば思い出すことができた。

 しばらくすると、レテノールはトリュポスの北西にある森を指差した。


「トリュポスの近くで数種類、そして多くの薬草を採取できるのは此処ですね。この森にはモンスターは棲みついておらず、狼のような獣しかいないので低ランクの冒険者でも問題無く薬草を採取できます」


 ゼブルはレテノールの説明を聞きながら無言で指されている森を見つめる。その森はゼブルが最初に造ったダンジョンを設置した森で、冒険者たちと共に訪れているため、危険度が低いことは知っていた。


「あと、少し距離がありますが、東にある森でも薬草の採取が可能です。ただこの森は広く、下級の上位モンスターが棲みついているのでEランク以下の冒険者は入らないと言われています」


 レテノールはトリュポスの東側にある森を指差しながら説明する。そこに描かれている森は先程の森と比べて大きく、何の準備もせずに入れば高確率で迷ってしまうと思えるほどの広さだった。

 ゼブルもまだ入ったことのない森なので、機会があれば情報を得るために一度訪れてみようと思っていた。


「トリュポスの近くで薬草が採取できそうな場所は以上です。他の場所は距離があるため、トリュポスで活動する冒険者は訪れません」

「そうか。……因みにこの森はどうなんだ?」


 そう言ってゼブルはトリュポスの西、少し離れた所にある大きな森を指差す。その森は先程説明されたトリュポスの東側にある森よりも広く、都市二つ分の広さはある場所だった。

 レテノールはゼブルが指差す森を見ると、何かに驚いたかのように軽く目を見開く。そして森を見つめながら僅かに表情を曇らせた。


「どうした?」


 表情を変えるレテノールに気付いたゼブルは声をかけた。

 先程まで普通に喋っていたのに突然黙り込んだため、指定した森に何かあるのかとゼブルは予想する。


「……魔王様、申し訳ありませんがこの森については私も詳しくは理解していないのです」

「理解してない?」


 レテノールの答えを聞いたゼブルは予想したとおり、森に何か問題があると悟った。

 二人の会話を聞いていたティリアも気になり、地図を覗き込んでゼブルが指定した森を確認した。するとティリアもレテノールと同じように軽く目を見開く。

 しかしレテノールのように表情を曇らせたりはせず、無言で地図を見続けた。


「実はこの森の詳しい情報は百年ほど前から一切得られなくなっており、今でも分からないことが多いのです」

「百年前から……」


 ティリアやレテノールが生まれる以前から情報を得られていないと聞いたゼブルはどんな場所なのか興味を抱く。

 それと同時に自分の国に未知の場所があっては今後の統治に影響が出るかもしれない考え、ゼブルは森を調べるためにレテノールが知る情報を全て聞き出すことにした。


「アンタが知っている範囲でいい。詳しく聞かせろ」

「あ、ハイ」


 レテノールは地図に視線を向けると静かに口を開いた。


「此処は“ポルザン大森林”と呼ばれる場所で、魔王国内で最も広い森林と言われています。正確な広さは分からず、どんな地形になっているのかなどは分かっていません」

「分かっているのは名前だけなのか?」

「何とも言えません。モンスターが生息し、先程お話しした二つの森では採取できない希少な薬草が自生しているとのことですが、これらは情報を得られなくなった百年前よりも更に昔、当時のトリュポスの住民たちが得たものなので、今でもその情報どおりなのかは不明です」


 情報が一切無いのと同じ状態と知ったゼブルは「ほぉ」と呟く。情報が無い分、森を調べる楽しみが増えるため、好奇心がくすぐられていた。


「情報が得られないと言っていたが、何か情報を手に入れられない理由があるのか?」

「ハイ。……情報を得るために何度か冒険者や騎士団を派遣したのですが、何でも森に入ることができなかったようなのです」

「入ることができない?」


 ゼブルが聞き返すと、レテノールは真剣な表情を浮かべて頷く。


「これも正確な情報ではないのですが……ポルザン大森林には、ダークエルフが暮らしているそうなのです」


 未知の大森林にエルフの近縁種がいると聞いてゼブルは反応した。


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