第112話 使節団
魔王城の執務室でゼブルは椅子に深く腰掛けている。視線の先にはティリアが書類を持って立っており、机を挟んだ状態でゼブルの方を向いていた。
ダーバイア公国で勇者候補であるエファリアの仲間が見つけ、ファブール魔王国へ戻ってからゼブルは溜まっていた職務を熟していった。今もティリアから魔王国や周辺国家の現状を聞かされていたところだ。
「以上がセプティロン王国との貿易状況です。王国側は提示金額に不満を見せることなく取引に応じていますし、こちらが求めている物資も問題無く用意しています」
「物資や取引については問題無さそうだな。……物流についてはどうなってるんだ?」
「ハイ、以前と変わらず、物資を運ぶ荷馬車は王国軍の護衛を受けながら魔王国に輸送することになっています。……ただ、最近は王国領内でよく盗賊の出現するようになり、遭遇した際は交戦するため、輸送に時間が掛かってしまうことがあるそうです」
「ほぉ、魔王国に送られる物資を襲おうとする馬鹿がいるのか」
盗賊が物資を強奪しようとしていると聞いたゼブルは小さく鼻で笑う。
魔王である自分の情報は既に大陸中に広まっているはずなのに、魔王国へ送られる物資を狙うと聞いたゼブルは襲撃する盗賊たちを愚かに思っていた。
ファブール魔王国へ送られる物資だと知らずに襲っているのか、それとも知っていて襲撃するのか、どちらにせよゼブルにとっては気に入らないことだ。
「ゼブル様、盗賊を討伐するための部隊を派遣しますか?」
多少とは言え、ファブール魔王国に影響が出るかもしれないと考えるティリアは盗賊への対策を練るか尋ねた。
「いや、盗賊がセプティロンの領内に出現する以上、魔王国は手が出せん。セプティロンには盗賊を問題無く撃退できるよう護衛の戦力を増し、問題無く輸送できるようにしてもらうしかない」
「分かりました、王国側には物流について改善するよう伝えておきます」
指示を受けたティリアは真面目な表情を浮かべる。
いくら属国とは言え、他国の問題にいきなり首を突っ込むのは色んな意味で問題ある。セプティロン王国だけで解決できることなら、彼らで何とかするべきだし、何でも魔王国が力を貸してしまったら、セプティロン王国は国として成長もしない。
ティリアはゼブルがセプティロン王国のために敢えて何もせずにいるのだと考え、属国のことを良く思っているのだと微笑みを浮かべるのだった。
「あと、ダーバイア公国とは問題無く停戦状態が続いていますが、近いうちに投降を要求する会談を行うとのことです」
「ダーバイアか……そう言えば、エファリアたちはどうなった?」
エファリアや彼女の仲間になったカイルとファリスがどうなったのか気になり、ゼブルはティリアに尋ねる。
ダーバイア公国の計画から既に一ヶ月が経過しており、ゼブルは今日までエファリアたちの情報を一切聞いていない。
エファリアたちと再会したヴァリンにはまだ魔王国の諜報員がいるため、ゼブルは何かエファリアたちに関する情報を得ているかもしれないと考えていた。
「ヴァリンにいる諜報員が得た情報によると、私たちがエファリアさんたちと別れてから数日後に彼女たちはヴァリンを発ったそうです」
ティリアは手元の書類に目をやり、書かれてあるエファリアの情報を話す。
既にエファリアたちがヴァリンにいないことを聞き、ゼブルは「ほぉ」と意外そうな反応を見せる。
「エファリアさんたちは新たにAランクチーム“セイヴィア”を結成し、二百年前の魔王に関する情報やダンジョンを探すためにダーバイア公国の他の都市へ向かったようです」
「情報はともかく、ダンジョンは無理だろうな。今までのダンジョンは全部俺が造った物だし、既に作ってあるのは見つからないように隠してある。いくら探しても見つかりはしない」
エファリアたちの行動が無意味だと語るゼブルを見て、ティリアは思わず苦笑いを浮かべるのだった。
「エファリアさんたちは、ダンジョンが見つからなかったらどうされるのでしょうか?」
「今までどおり、依頼を受けながらSランクを目指すだろうな。んで、Sランクになったらイルテ聖王国へ行き、Sランクしか見られない二百年前の魔王のことが記された書物とかを読むんだろう」
「書物を読むことで、エファリアさんは勇者として強くなるでしょうか?」
「さぁな……ただ、魔王の情報を手に入れて、勇者として大切な意志や覚悟を得ることができるかもしれない」
レベルや力は冒険者バアルとしてサポートすれば高めることはできる。だが、それだけでは本当の意味で勇者になることはできない。
真の勇者になるためには、力だけでなく心も強くする必要がある。ゼブルはエファリアが勇者に相応しい強い精神と意志を自分で見つけることを願っていた。
もっとも現時点のエファリアは勇者になろうと言う意志を持っていない。ゼブルは近いうちにバアルとしてでなく、魔王としてエファリアに直接接触し、彼女が自分から勇者になろうという意志を持たせるつもりでいた。
「それでは、私たちは今後も冒険者バアル、リーテとしてエファリアさんが強くなるよう陰ながら支えればよろしいのですね?」
「ああ。この世界のモンスターやダンジョンだけでは、アイツは絶対に俺と戦えるほど強く離れない。EKTのモンスターやアイテムを使って鍛える必要がある。俺と同等のレベルになるまではサポートするつもりだ」
「分かりました」
冒険者としての活動方針を聞かされたティリアは軽く頭を下げる。
今のエファリアのレベルを考えると、ゼブルと戦えるほど強くなるにはまだ時間は掛かるだろうが、確実に強くなるとティリアは確信していた。
ゼブルとエファリアが戦う日もそんなに遠くは無い。ティリアはゼブルを見ながそう思うのだった。
「ダーバイアのことで他に何か情報は入っているか?」
「いいえ。相変わらず、大公派と反対派が衝突してることぐらいしか……」
セプティロン王国の次に関わりの大きいダーバイア公国からは何も得られないと聞き、ゼブルは椅子にもたれながらつまらなそうな反応を見せる。
別に期待していたわけではないが、ゼブルとしては世界征服を果たすためにも他国の使えそうな情報は一つでも多く手に入れたかった。
「セプティロンとダーバイア以外の国はどうなっている? 何か動きを見せたり、使えそうな情報は得られたか?」
「有力と言えるかどうか分かりませんが……一つお伝えしなくてはならないことがあります」
真剣な表情を浮かべながら語るティリアにゼブルは軽く反応する。
「先程、トリュポスへ状況確認へ向かった時にトリュポスにキュレースト王国の使節団が来ているとお父様から聞かされました」
「キュレースト王国……魔王国の南にある国か」
異世界に転移してから一度も接触したことが無い国の人間がトリュポスにいると聞かされてゼブルは意外に思う。
ただ、使節団であることから、何か重要な理由があって魔王国を訪れたのではと予想し、使節団に少しだけ興味が湧いていた。
「で、そのキュレースト王国の使節団がこの国に何の用なんだ?」
「私も詳しくは分かりませんが、お父様から聞いた話では使節団の方々は魔王国に救援要請のために来られたそうで、そのことでゼブル様への謁見を求めておられると」
使節団が会いたがっていると聞いたゼブルは軽く俯きながら黙り込む。
救援要請と言う単語を聞いたゼブルは争いが関わっている可能性が高いと考え、内容によってはファブール魔王国が大きな利益を得られるチャンスかもしれないと目を薄っすらと黄色く光らせる。
「使節団にはどんな奴らがいるんだ?」
「代表者はキュレースト王国女王の弟君であるボルトス・ゲオ・インサリア公爵殿です。あと、第一王女であるシャイア・テル・インサリア殿下もご一緒だとか……」
「女王の弟と王女が揃ってやって来たって言うのか?」
キュレースト王国でも身分の高い者が二人も来ていることから、何としても救援を得たいという意志があるとゼブルは悟った。そして、救援を求める理由がとても重要なことに違いないと感じ取る。
「使節団は早く俺に会いたがっているのか?」
「ええ、一秒でも早く会いたがっているとお父様は仰っていました」
「一秒でも早くか……普通は前もって親書とかを送って約束を取り付けてから会うもんなんだけどな」
連絡などもせず、いきなりやって来て一国の王に謁見を求めると言う、常識の無い行動を取る使節団にゼブルは鼻で笑う。
ティリアはゼブルの発言を聞いて使節団に気分を悪くしているのではと感じたが、その態度から機嫌を悪くしてはおらず、大胆な行動を取る使節団を面白く思っているのだと知った。
「いいだろう、会ってやる」
「えっ、よろしいのですか?」
「ああ。なぜ、いきなりやって来て謁見を求めているのか興味があるし、上手くすれば魔王国が大きな利益を得られるかもしれないからな」
使節団に会うことを決めたゼブルを見て、ティリアはゼブルに気付かれないように小さく苦笑いを浮かべる。この時のティリアはゼブルが謁見を受け入れた理由が興味や魔王国の利益以外に、執務から逃げるためだと気付いていた。
執務をやらないために他国からの使節団を利用しようとするゼブルの考え方にティリアは呆れながらも感心していた。
「それで、使節団の方々にはいつお会いになられますか?」
「明日だ」
「あ、明日ですか?」
ティリアが目を見開きながら聞き返すとゼブルは軽く頷いた。
「ティリア、お前はこの後すぐにトリュポスへ行き、明日謁見することをフォリナス伯に伝えてこい」
「わ、分かりました。因みに謁見は魔王城でされますか?」
「いや、使節団にはトリュポスで会う。協力者でないの者を招いて魔王城の情報を他国へ広めたくないからな」
魔王城はゼブルや配下の者たちにとって最も重要な拠点であり、ファブール魔王国の中心と言える場所だ。そんな重要な場所に友好的な関係になれるかどうか分からない者を招き入れ、情報を他国に知られることは絶対に避けなくてはならない。
ゼブルの説明を聞いてティリアも謁見をトリュポスで行うことに納得した。万が一、魔王城の情報がファブール魔王国を良く思わない国に伝われば、魔王国の弱点になる可能性だってある。
ティリアもゼブルの配下としても魔王城の情報が他国へ広まることを望んではいなかった。
「では、謁見は私の実家で行うと言うことはいかがでしょう? 理由を話せばお父様も納得して準備をしてくださるはずです」
「そうだな。他の場所だと色々と面倒なことになりそうだ」
ゼブルもティリアの実家は重要な会談などを行うのに最も適した場所であると分かっているため、フォリナス家の屋敷で使節団に会うことを了承した。
「では、トリュポスに向かった時にお父様にお話ししておきます」
「頼んだ。俺はその間に明日トリュポスに同行させる奴を決めておく」
「ハイ」
ティリアは一礼すると静かに執務室を後にした。
「さ~て、誰を連れて行くか……まぁ、会談となればやっぱりアイツが適任だよな」
一人になったゼブルは立ち上がり、ティリアが立っていた場所に移動すると、机に寄り掛かりながら左手の人差し指を存在しない耳に当てて連絡を発動させる。
「テオフォルス、聞こえるか?」
(魔王様、どうかなさいましたか?)
連絡に応答したテオフォルスの声が頭の中に響く。
関わりを持たなかったキュレースト王国の使節団と会うため、ゼブルは予想外の事態に備えて頭の回転の速いテオフォルスを同行させようと考えていたのだ。
「重要な話がある。すぐに俺の執務室へ来い。今やってる仕事を中断しても構わねぇ」
(畏まりました。すぐに向かいます)
返事を聞いたゼブルは連絡を解除し、腕を組んでテオフォルスが来るのを待つ。その直後、執務室の扉をノックする音が室内に響く。
「入れ」
入室を許可すると、扉が開いて真紅の髪を揺らすテオフォルスが入ってくる。
テオフォルスは扉を静かに閉めるとゼブルの前まで移動し、軽く頭を下げた。
「お待たせしました、魔王様。どのような御用でしょうか?」
「ああ、実はな……」
ゼブルはテオフォルスを見つめ、ティリアと話した内容を一つずつ説明していった。
――――――
翌日、ゼブルはティリアとテオフォルスと共に馬車で使節団が待つトリュポスへ向かう。
トリュポスに到着し、開門を求めると門番たちはすんなりと通してくれた。
昨日、レテノールにトリュポスを訪れることを伝えており、そのことがトリュポスの兵士たちに伝わっていたため、問題無く都市に入ることができたのだ。
トリュポスに入った馬車は街道に入り、ティリアの実家であるフォリナス家の屋敷がある中央区ヘ向かう。
街道にいたトリュポスの住民、街中を巡回する配下の昆虫族モンスターたちはゼブルが乗る馬車を見ると一斉に街道の両端へ移動する。
住民たちはその場に跪き、昆虫族モンスターたちも馬車の方を向きながら頭を下げたり、姿勢を正したりしていた。
門番の兵士たちと同じように住民たちもゼブルが訪れることを聞かされていたため、ゼブルが乗る馬車を見ても驚いたり、慌てたりすることは無かった。
以前トリュポスを訪れた時と比べると住民たちの表情にはゼブルに対する恐怖や警戒心は見られず、全員が穏やかな表情を浮かべている。
トリュポスが魔王国の中心都市となってから数ヶ月の間に住民たちもゼブルが二百年前の魔王と違い、力や恐怖で支配するような存在ではないことを知り、一国の統治者として受け入れたようだ。
住民たちが跪く中、ゼブルたちが乗る馬車は街道を抜けて中央区へ入り、人気の無い道を進んで目的であるフォリナス家の屋敷に辿り着いた。
敷地内に入り、屋敷の入口前で馬車が停まると、ゼブルたちは静かに馬車から降りる。
玄関の前ではレテノールと妻のアナクシアが立っており、屋敷を訪れたゼブルたちを出迎える。二人の後ろでは数人の使用人が姿勢を正しながら横に並んで待機していた。
「魔王様、お待ちしておりました」
「出迎えご苦労。今回は突然なのに会談の場を設けてくれて感謝するぞ」
「いえ、魔王様のご要望であれば、いかなる状況でもご用意いたします」
軽く首を横に振りながら答えるレテノールを見て、ゼブルはとても優秀な協力者だと感じて小さく笑う。
協力者になったばかりの頃はゼブルを警戒していたレテノールたちだったが、今ではゼブルに恐れることなく、ゼブルやファブール魔王国のために忠実に命令に従うようになっていた。
「それで、キュレースト王国の使節団はもう来ているのか?」
「ハイ、一階の応接室で待っておられます」
「そうか。じゃあ、早速案内してくれ」
「畏まりました」
レテノールが後ろで待機している使用人たちの方を向くと、使用人たちは玄関の扉を開ける。
扉が開くとレテノールはゼブルたちを案内するために先に屋敷へ入り、ゼブルたちもその後に続いた。
エントランスを通過して廊下を進み、屋敷の奥まで移動したゼブルたちは一つの部屋の前で立ち止まった。
部屋の中からは小さな物音と誰かが小声で喋っているのが聞こえ、ゼブルたちは部屋の中にキュレースト王国の使節団がいるのではと予想する。
「少々こちらでお待ちください」
レテノールはゼブルたちを廊下で待つよう伝えると扉を軽くノックし、室内から返事が聞こえるとレテノールは一人で部屋に入っていく。
扉が閉まると中からゼブルが来たことを誰かに話すレテノールに声が聞こえてくる。ゼブルたちはレテノールの言葉や室内にいる者たちの声から、室内にいるのが使節団だと確信するのだった。
しばらくすると、扉の方に近づいてくる足音が聞こえ、その直後に扉が開いてレテノールが顔を出す。
「お待たせいたしました。どうぞ、お入りください」
レテノールは扉を全開させ、ゼブルたちを部屋へ招き入れる。
ゼブルがティリアとテオフォルスを連れて中に入ると、広い応接室の中央にある長方形の机の近くで使節団である十人の人間が姿勢を正して自分を見つめる姿があった。
十人の中で濃い青の貴族服を着た四十代半ばで茶色の短髪で髭を生やした男、紺色の長袖とスカート姿で二十代前半で金色の髪をした女は机の前で立っている。残りの八人は青いラインの入った銀色の鎧を着た騎士で二人の後ろで並んでいた。
使節団はゼブルの姿を見て一瞬驚きの表情を浮かべるが、一国の王の姿を見て驚くのは失礼だと感じたのか、すぐに表情を和らげてゼブルを見つめた。
ゼブルはティリアとテオフォルス、そしてレテノールを連れて使節団の方へ歩いて行き、机を挟む形で使節団と向かい合う。
「皆様、こちらがファブール魔王国の統治者にして私たちの支配者、魔王ゼブル・ファブール陛下であらせられます」
「使節団の諸君、遠い所をよく来たな」
ゼブルが薄っすらと目を黄色く光らせながら声を掛けると、茶髪の男がゼブルに頭を下げる。
「お初にお目にかかります、魔王陛下。私はキュレースト王国の公爵にして使節団の代表を務めるボルトス・ゲオ・インサリアと申します」
「ほぉ、アンタがキュレースト王国の女王の弟か」
事前に使節団に女王の弟がいると聞かされていたゼブルは驚いたりすることなくボルトスを見る。
「アンタが女王の弟と言うことは、隣にいるのはキュレーストの第一王女か?」
ゼブルがボルトスの隣に立つ金髪の女を見ながら尋ねると、ボルトスもつられるように金髪の女の方を向く。
「そのとおりです。キュレースト王国第一王女で、私の姪であるシャイア・テル・インサリアです」
「お会いできて光栄です、魔王陛下」
紹介されたシャイアは目を閉じながら軽く頭を下げて挨拶をする。だが、握られている手は僅かに震えており、ゼブルに対する恐怖心や不安が感じられた。
シャイアの手を見たゼブルは自分を恐れていることを悟る。しかし、自分の外見で周囲から恐れられ、警戒されることは慣れているので一切気に留めなかった。
「まぁ、とりあえず座ってくれ」
椅子に座ることを許可すると、ボルトスとシャイアはゆっくりと椅子に腰かける。後ろにいる騎士たちは座ることなく、隊列を崩さずにゼブルたちを見つめていた。
ボルトスとシャイアが座りと、ゼブルも近くの椅子に座ってボルトスたちと向かい合う。ティリアとテオフォルスもそれぞれゼブルの左右の椅子に腰を下ろす。
レテノールは今回の会談に直接参加するわけではないからか、椅子に座ることなくゼブルたちの後方で待機している。
「改めまして、今回は我々との会談を受けていただき、誠にありがとうございます。突然来訪したにもかかわらず、早急に会談の場を作っていただいたこと、心から感謝を……」
「あ~そういうのはいいから、さっさと本題に入るぞ」
感謝の言葉を聞かずに話を進めようとするゼブルを見て、ボルトスとシャイアは少し驚いたような顔をする。てっきり「感謝して当然だ」などと言ってくるとかと思っていたが、そんなことは一切無く会談を行おうとするゼブルを見て二人は意外に思っていた。
だが、すぐに本題に入ってくれるのはボルトスたちにとっては都合が良かったため、気持ちを切り替えて会談に集中するのだった。
「聞いた話では救援を求めに来たそうだが、なぜ救援を求めているのか詳しく聞かせてくれるか?」
ゼブルが問いかけるとボルトスは軽く反応してゼブルを見た。わざわざ遠い所から他国に救援を要請しに来たのだから、理由を知りたがるのは当然だとボルトスは納得する。
ファブール魔王国に力を貸してもらうためにも、理由を細かく説明するべきだとボルトスは考えながらゼブルを見つめる。
「……現在、我がキュレースト王国では内戦が起きており、私が指揮する解放軍と敵軍で争っております」
キュレースト王国が内戦が起きていると聞いてゼブルとテオフォルスは意外そうな反応を見せ、ティリアは少し驚いたような反応を見せた。
「解放軍は西部、敵軍は東部に領土を持ち、王国の中部で戦っている状態です。開戦直後は戦況を維持できていたのですが、二ヶ月ほど前からこちらが少しずつ押される状態となっていったのです」
「……押されている理由は敵との戦力差か?」
「そのとおりです。敵軍の方が若干勝っており、我々は何度も後退させられることとなりました。既に解放軍の拠点の幾つかは敵軍に奪われてしまっています」
軽く俯きながら悔しそうに語るボルトスをゼブルは腕を組みながら見つめる。
この時のゼブルはここまでの会話から、ボルトスが何か重要なことを隠していると感じていた。
「複数の拠点を奪ったことで敵軍は更に勢いづき、王国中部の半分以上を手に入れました。今は何とか敵軍を食い止めていますが、このままでは防衛線を突破されるのも時間の問題です」
ボルトスは顔を上げると、真剣な表情を浮かべながらゼブルを見た。
「魔王陛下、内戦に勝利するため、我々に魔王国の軍をお貸しいただけないでしょか?」
理由を説明したボルトスは改めて救援を要請する。敵より戦力が劣っている今の状態では押し返すことは不可能だと分かっているボルトスは共に戦う仲間のため、そして勝利するために何としても魔王国軍の助力を得なければならないと考えていた。
ゼブルは必死な顔で頼み込むボルトスをしばらく見ると、ゆっくりと口を動かした。
「返事をする前にハッキリさせておきたいことがある」
「何でしょう?」
「アンタはさっきから相手のことを“敵軍”と言っているが、その敵はどんな奴らなんだ? 戦力を貸すにしても、敵のことが何も分からないんじゃあ、どうすることもできないぞ」
敵が何者なんか知りたがっているゼブルを見て、ボルトスは目を見開く。
ボルトスだけでなく、シャイアや後ろで控えている騎士たちも驚いたり、表情を曇らせたりしていた。
ゼブルはボルトスたちの反応を見て、予想どおり自分たちの知らないことを何か隠していると確信し、目を黄色く光らせながらボルトスを見る。
「お前たちの言う敵軍とは、いったい何者なんだ?」
若干低い声で尋ねるゼブルに迫力を感じたボルトスは黙り込む。しばらくするとボルトスは観念したかのような反応を見せ、気持ちを落ち着かせるかのように静かに息を吐く。
「……敵は私の姉、つまり女王が率いる“王国軍”なのです」
「何?」
敵の正体を聞いたゼブルは思わず聞き返す。
隣にいたティリアは目を見開き、テオフォルスは無言でボルトスを見つめていた。




